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第15章 アプロンティア王国編

第196話 アプロンティア王国への旅

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 早朝のまぶしい光の中、飛行船『空飛ぶクジラ号Ⅱ』は、アクアスター・リゾートを離陸した。
 オレたちはソランスター国王のめいにより、アプロンティア王国への旅に出発したのだ。

 この旅の主目的は、第1王女フローラのアプロンティア王国王太子との婚礼にアリエス王女、ジェスティーナ王女と共に出席することだ。
 そのついでに、婚礼出席のためアプロンティア王国を訪れる近隣諸国の使節団と友好を深め、人脈を広めることである。
 そして、友好国と飛行船の定期航路開設の交渉を行い、あわよくばソランスター王国に観光客を呼び込もうと目論んでいるのだ。

 アプロンティア王国とソランスター王国は、軍事同盟を組む友好国で、今回の王太子と第1王女の婚礼により、信頼関係をより強固にしようと言う意図があり、言うなれば政略結婚なのである。

 オレとジェスティーナは国王から信書を託されており、アプロンティア王国滞在中に各国の代表団とも会談する予定だ。

 当初は、オレとジェスティーナ王女の2人でアプロンティア王国を訪問する予定であったが、その話を聞いたアリエス王女が、自分も同行したいと国王に直談判して、ようやく許可が下りたのだ。

 花嫁となるフローラは、既に2週間前に飛行船でアプロンティア王国へ旅立っていた。
 総勢50名にも及ぶ侍女と護衛たちを引き連れ、アプロンティア王宮へ入り、今頃は婚礼に備えて忙しく準備している頃であろう。

 今回の旅に同行するのは2人の王女の他、秘書のサクラとソフィア、護衛6名(ステラ、セレスティーナ、リリアーナ、フェリン、アンジェリーナ、レイフェリア)とソニアを含めたメイド6名である。

 それにフローラの結婚披露宴で生演奏を披露するため、天才ボーカリストのアイリスと癒しのピアニストのレイチェルもメンバーに入っているのだ。
 今回は総勢19名のソランスター王国使節団である。
 
 ここでアプロンティア王国の概要について少し触れておこう。
 アプロンティア王国は、ソランスター王国よりも1.8倍広い国土を持ち、人口は約800万人である。
 国土の7割が高原と山岳地帯を占め、地下資源が豊富で古くから鉱業が盛んであり、特筆すべきは貴金属や宝石の産出量が多く、その事により国も裕福なのだ。

 共通の祖先を持ち、民族的にはソランスター王国とほぼ同じと言われている。
 東側をソランスター王国、北側は山脈を挟み敵対関係にあるゴラン帝国と、西側はフォマロート王国と接しているのだ。

 アプロンティア王国の王都クリスタリアまでは、最短ルートで約2100kmあり、『空飛ぶイルカ号Ⅱ』の最高速度450kmで最短ルートを飛んでも4時間は掛かるのだ。

 オレの眼下には、普段見たことのない景色が広がっていた。
 国境の大河を越えると、その先はアプロンティア王国である。
 更に平原を進んでいくと、遥か彼方に高原と険しい山々が見えてきた。

 飛行船『空飛ぶイルカ号Ⅱ』は、アプロンティア王国の王都クリスタリアの上空に到達すると徐々に高度を下げ、オレたちの滞在先となる迎賓館の前庭に着陸した。

 ハッチ開閉ボタンを押すと自動的にハッチが開き、格納されていたタラップが伸び地上に接地した。
 オレがタラップを降り、地上に降り立つと、待ち構えていたように10名ほどの人々が姿を現した。

「アプロンティア王国へようこそ御出下おいでくださいました」
「お初にお目にかかります、私は外務大臣のライゼンでございます」
 そう言ってオレたちを出迎えたのは、アプロンティア王国外務大臣のライゼン子爵であった。

「お世話になります、こちらこそ宜しくお願いします。
 私は、この使節団の代表を務めますカイト・シュテリオンベルグ伯爵、そしてこちらがアリエス王女、その隣がジェスティーナ王女です」

 アリエスとジェスティーナはライゼン子爵に向かって軽く会釈した。

「流石はフローラ王女の妹君いもうとぎみ、お2人とも実にお美しいですなぁ。
 まるで、花の女神が舞い降りたような美しさでございます」とライゼン子爵は王女たちの美しさを褒め称えた。

「まあ、お上手ですこと…」
 王女たち2人は、この手のお世辞には慣れたものである。

「しかし、シュテリオンベルグ伯爵も罪なお方ですなぁ。
 このようにお美しい姫君ひめぎみお二人とご婚約されているのですからなぁ」と言ってライゼン子爵は笑った。

「そうなんですよ、私も未だに信じられないくらいです」と言ってオレもライゼン子爵に話を合わせた。

「何か秘訣があれば、お教え願いたいものです」とライゼン子爵は冗談交じりに小声で言った。

「それでは、今回のご滞在中のお世話をさせていただきます迎賓館長のカルロスとメイド長のエルザをご紹介します」と言ってライゼンは2人を紹介した。

「私は、ここで一旦失礼致しますが、後ほど歓迎のうたげでお目にかかりましょう」
 そう言うと彼は一礼して、去って行った。
 ライゼン子爵は温和で、人当たりの良さそうな男だ。

「長旅でお疲れでしょうから、早速お部屋へご案内いたします」
 そう言って館長のカルロスは、メイド長のエルザと一緒にオレたちを館内へ案内した。

 迎賓館は白大理石の外壁に緑青色りょくせいしょくの屋根を持つ、3階建ての豪奢ごうしゃな建物であった。
 その館内は天井、壁、床に至るまで、白大理石に金色こんじきと赤の装飾が鮮やかな、ぜいの限りを尽くした作りであった。

 アーチ状の高い天井を持つ長い廊下を進むと、オレたちが宿泊する客室へ到着した。
 その部屋は800平米を超えるスイート・ルームで専用の中庭を囲むように5つの寝室と広いリビング・ダイニング、メイドと護衛用の専用室がそれぞれ3つ付いていた。

 オレたち一行は国賓として、この迎賓館に5日ほど滞在する予定だ。
 フローラの婚礼の儀に参列するため、他にも8カ国の王族がこの迎賓館に泊まると聞いていた。

 飛行船の船室から下ろした荷物をメイドたちが運んで来た。
 今回は結婚式に出席するのでドレスなど女性陣の衣装がとても多いのだ。

 オレがソファで休んでいるとジェスティーナとアリエスが両隣に座った。
「カイト、お疲れ様」とジェスティーナがオレを労ってくれた。

「ありがとう、肩でも揉んでくれるの?」

「そうね、私達のお願いを聞いてくれたら、揉んであげるわよ」と意味ありげな言葉を口にした。

「お願い?」
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