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第14章 情報大臣就任編

第195話 見習い秘書官と七拍子の歌姫

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 リンドバーグ男爵家の四男アルヴィンは、大臣秘書官見習いとして勤務を開始した。
 今日から1ヶ月間、大臣公邸に住み込みで勤務することになった。

 シュテリオンベルグ伯爵は、アルヴィンに次の課題を与えた。
 ◎大臣公邸の日常業務を執事のピオーネから教わり、ピオーネが居なくても全ての業務がこなせるようになること。
 ◎公爵に面会の申込みがあった場合は、執事のピオーネ同席の上、面会者から用件を聞き、それを要約して面会の要否を判断した上で、公爵に報告すること。
 課題は2つだけだったが、アルヴィンはどちらもかなり高いハードルだと感じていた。

 大臣公邸には、毎日数件の面会申し込みがある。
 その内容を全て聞き取り、伯爵が面談すべきか判断しなければならないのだ。
 来客の取次は秘書官としては、当然の日常業務である。
 この程度のことが満足にできなければ、秘書官として採用されることはないだろう。

 今日最初の面会者は、ダリウス・アークトゥルスと娘のヘレナであった。
 ダリウスの肩書はアークトゥルス商会当主となっていた。確か、王都で最大規模を誇る商会だったはずだ。

 アルヴィンは、執事のピオーネと共にアークトゥルス商会の当主と面会した。
 ピオーネは同席するだけで、応対はアルヴィンが行うことになっていた。

 応接室に現れたダリウス・アークトゥルスは、身長2メートルを優に超える、赤毛赤髭の巨漢だった。
 娘のヘレナ(19歳)は、父親に似て身長180cmを超える長身だったが、見事なボディラインを誇る容姿端麗な美女だった。
 2人とも、見上げる程の巨躯きょくで、アルヴィンは迫力に気圧けおされそうだったが、それをおくびにも出さず冷静に対応した。

「アークトゥルス商会ご当主のダリウス様とご息女のヘレナ様でございますね。
 私は大臣秘書官を努めますリンドバーグ、こちらは執事のピオーネでございます」
 そう挨拶するとダリウスは、露骨に嫌な顔をした。

「ふん、執事と秘書官か、今日は伯爵閣下は居られぬのか?」
 大商家の当主か何か知らないが、随分と人を見下した言い草である。

「はい、伯爵閣下は本日、不在でございます。
 ご要件が御座いますれば、私がお話を伺い伯爵閣下に取り次ぐ手筈となっております」

「はっ、秘書官風情ふぜいに儂の話が解るものか」

「それは困りましたなぁ。
 ご用件を伺えないとなると、お引取り願うしか御座いませんが…」

「ぶ、無礼な、儂を誰だと思っておる。
 王都最大の商家アークトゥルス商会の当主であるぞ。
 儂は商務大臣のバモス伯爵とも懇意にしておるのだ」

「これは、たいへんご無礼申し上げました。
 それでは、恐れ入りますが、ご用件をお話いただけますでしょうか?」

「仕方ない、用件を話すから、伯爵閣下にしかと伝えよ」
 ダリウスは渋々、用件を語り始めた。

 話を要約すると、このような内容であった。
 ◎アークトゥルス商会は、シュテリオンベルグ伯爵と親密な関係を築きたいと考えている。
 ◎飛行船の都市間定期航路の貨物枠優遇、業務提携・資本提携等でバレンシア商会に対し、多方面で便宜を図っているが、アークトゥルス商会にも、同様に便宜を図って欲しい。
 ◎シュテリオンベルグ伯爵領で行っている、リゾート開発共同企業体にアークトゥルス商会も参加させて欲しい。
 ◎上記の見返りとして、我が自慢の娘ヘレナを側室として差し上げたい。

 アルヴィンは話を聞き、伯爵に面会の要否をどう伝えるべきか判断に迷った。
 アークトゥルス商会は王都最大の商会であり、懇意にすることで伯爵にもメリットが有るように思えるが、要望が多い割には見返りが『娘を側室に出す』のみなので、内容が独りよがりで魅力度に欠けると思うのだ。

 自分の娘がいくら可愛いか分からないが、伯爵が条件を飲み、あの大女を側室するとは、到底思えないのである。

 ダリウスが手土産として持参した菓子折りはズシリと重く、開けて見ると中に金貨100枚(1千万円)が入っていた。
 しかし、現金の授受は法に触れると丁重に断り、持ち帰ってもらった。
 所謂贈賄ぞうわいに当たる行為であるが、ダリウスが懇意にしていると言う商務大臣のバモス伯爵は、を受け取ったのであろうか?

 アルヴィンはアークトゥルス父娘が帰った後、用件を要約し「面会不要」の判断を下し、公邸面会報告書を伯爵に送信した。

 しかし、アークトゥルス商会への面会拒否の通知を考えると気が重かった。
 きっと理由を聞かれ、難癖を付けられるに決まっているからである。
 それらの嫌な役目を含めた全てが『大臣秘書官』の仕事なのだ。
 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 アクアスター・プロダクションで採用した第1期研修生の研修開始から1ヶ月が経過した。
 サクラとリオナ、リーファが考えた課題(筋力トレーニング、エクササイズ、ボイストレーニング、ダンストレーニング、コミュニケーション能力向上訓練など)を毎日8時間こなしているのだ。

 トレーニングには、その道のプロ5名を専属トレーナーして採用しており、バックアップ体制は万全である。
 これらのトレーニングを通して、それぞれの適性を見極め、デビューへの道筋を付けていくのだ。

 そんな研修生の中で、飛び抜けた歌唱力を持つアイリスと言う名の少女がいると、サクラが教えてくれた。
 オレはサクラに案内され、アイリスのボイス・トレーニングを見学したが、その歌唱力は圧巻であった。

 抜群のリズム感、正確な音程、圧倒的な声量、豊かな表現力と文句なしの歌唱力に加え、聞く者を癒やす透明感のある声質こえしつ、4オクターブを超える音域を持つ天性のボーカリストであった。

 15歳のアイリスは、物心付いた頃から唄が好きで、自ら作詞作曲するシンガーソングライターであり、ギターの弾き語りも得意なのだ。
 細身の割には美しく理想的なボディライン、美脚モデルのような綺麗な脚、背中までの金色のポニーテールが良く似合う超絶美少女なのである。

 サクラに言わせれば七拍子揃った逸材だそうだ。
 因みに七拍子とは、リズム感、音程、声量、表現力、声質こえしつ、音域、容姿だそうだ

「カイト様、彼女をヴォーカリストとして売り出そうと思うのですが、どう思います?」とサクラが聞いた。

「絶対売れると思うよ。
 彼女のフルネームは何て言うの?」

「アイリス・リーンですけど…」

「いいね!、アイリス・リーンって言う名前もピュアな感じがして……
 あれ?…、リーンって?」

「アイリスはステラさんの従姉妹いとこなんです」

「えぇ~、そうなんだ」
 と言うことは、軍務大臣リーン伯爵の姪御めいごさんと言う事か。

 サクラの話では、アイリスはリーン伯爵の弟の娘で、小さい頃から唄が上手な美少女として評判だったそうだ。
 アイリスはダンスの才能はさほど無いが、人並み外れた歌唱力でASR39のようなグループの中では浮いてしまうので、ソロシンガーとしてデビューさせようと考えているそうだ。
 金の卵が一人見つかり、アクアスター・プロダクションの未来に明るい光が差してきた。
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