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第14章 情報大臣就任編

第193話 大臣公邸の面会者

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 3日間の休暇を終え、オレは王都の情報大臣公邸へと向かった。
 今日はオレに面会を求めていた約20組の客と面談する日なのである。

 言うまでもなく、異空間転移スキル『ゲート』を使って、ノータイムで移動した。
 まるで隣の部屋へ行くような感覚で、何百キロも離れた別の都市へ移動できるゲートは、実に便利だ。
 万が一、他の場所へ移動する必要が生じた場合に備え、異空間収納には、常に『空飛ぶイルカ号Ⅱ』を収納している。

 大臣公邸の執務室に入ると、執事のピオーネが迎えに来た。
「ご主人さま、最初のお客様が応接室でお待ちです」

「分かった、すぐに行く」
 オレは応接室に入ると、1組当り10~15分程度で、次々と面会をこなした。

 面会者の目的は、大きく分けて以下の4つに分類できた。
 ◎下級貴族の非嫡出子が仕官目当てで自らを売り込むパターン
 ◎同じく航空公社など関連企業へ働き口を求めて売り込むパターン
 ◎商人や下級貴族が自分の娘や孫娘をオレの妾にねじ込もうとするパターン
 ◎商人がオレに取り入って商売上優位な待遇を得ようとするパターン

 中には、オレに媚び諂こびへつらい、美辞麗句を並べ立ててなかなか本題に入らない客もいた。
 だが、 そんな客に限ってろくな用件ではない。
 そこで10分ほど喋らせてから、ピオーネに合図して強制的に退室させた。

 面会の大半は、箸にも棒にもかからない案件であったが、オレの興味を引いた者が数名いた。

 一人目はリンドバーグ男爵家の4男と言う20歳の男であった。
 優男やさおとこであるが、真剣な眼差しの奥に知性と教養が感じられた。
「此度は、伯爵閣下のご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます。
 私はアルヴィン・リンドバーグと申します。
 本日は、私を伯爵閣下にお召し抱え頂きたく、お願いに参上致しました」

 無駄な言葉は、一切しゃべらず、最初から直球勝負である。

「ほほう、何故なにゆえ、貴殿を召し抱えねばならぬのだ?」

「はい、それは伯爵が損をされるからです」

「これは面白いことを言う。
 何故オレが損をするのだ?」

「はい、それは私をお召し抱えいただければ、伯爵閣下のお力となり、閣下がこれまで以上にご活躍できるからでございます」

「貴殿は随分と自信家のようだな」

「はい、周りからそのように言われます」

「何故、オレが損をするのか、具体的に申してみよ」

 彼は自分を雇うことが、どれほど有益なことか理路整然と語り始めた。
 伯爵であり、領主であり、企業経営者であり、公営企業のトップであり、情報大臣であるオレには、圧倒的にブレーンが足りないと言うのだ。
 自分が手となり足となり、或いは耳となり目となり、補佐する十分な才覚があるから、ここで雇わなれば一生後悔することになる、との言うのであった。

 確かに最近のオレは、とても多忙である。
 そしてアルヴィンの言う通り、仕事を任せられるブレーンが足りない。
 この男の言うことが本当で、才覚ある男であれば、ここで雇わなければ損をするのは確かにオレだ。

「よし、その言葉、本当かどうか見極めてやる。
 来週から、見習いとしてここで働きなさい」

「本当ですか、ありがとうございます」

「もし1ヶ月の間に才能が無いと判断すれば、契約更新は無いぞ」

「このチャンスを活かすため、精一杯、働かせていただきます」

「詳しい事は、執事のピオーネに言っておくから、明日にでもまた来なさい」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 次にオレの興味を引いたのは、エイントワース男爵家の3女であった。
「伯爵閣下、本日は面会のお時間をいただき光栄に存じます」
 そうオレに挨拶したのは、エイントワーク男爵家の当主、トレバー・エイントワースと3女のレイチェル(16歳)であった。

 面談の目的は、娘のレイチェルをオレのめかけにして欲しいとの申し出であった。
 レイチェルは、ポニーテールがよく似合い、笑顔が可愛い、癒し系の美少女であった。
 オレがポニーテール好きと言うのは、王都でも知られているのだろうか?

 しかし、ただ単に妾にと言われても、一生食わせる義務が生じるのだから、簡単な話ではない。

 レイチェルはオレ好みの美少女で、スタイルも良く、無碍に断るのは、勿体ない気がする。
 何か特技でもあれば別だが、夜のお努めだけのために、妾にするわけにはいかないのだ。

「レイチェル、何か、特技はあるのかい?」

「はい、4歳の頃からピアノを習っておりまして、今でも毎日弾いてます」と緊張した面持ちで答えた。

「ほ~、そうか…
 それじゃ、あれで何か弾いてご覧」
 オレは応接室の隅にあるグランドピアノを指さした。
 公邸備え付けの備品であるが、調律は欠かしていないとピオーネから聞いていた。

 オレの突然の言葉にレイチェルは戸惑っていたが、意を決し、ピアノの前に座るとオレが初めて聴く曲を弾き始めた。
 それは、聴いている者を安らかな気持ちにさせる癒やしの音色であった。
 ピアノと向き合うレイチェルは、オレと話していた時とは別人のような優しい表情で魅力的に見えた。
 彼女は根っからのピアノ好きなのだろう。
 素人のオレが聴いても、レイチェルがかなりの腕前であることは推測できた。

 これほどの腕前なら、リゾートで食事の合間のBGM演奏や、歌手の伴奏も出来るはずだ。

 7分ほどのレイチェルの演奏が終わると、オレは立ち上がって拍手した。
「いいね、君の腕前は、かなりのものだ。
 暫くは、リゾートの専属ピアニストとして勤務してもらうと言う条件付きなら、オレの所に来てもらってもいいよ」

「ありがとうございます。
 娘を宜しくお願いします」
 エイントワース男爵は深々と頭を下げた。

 話がまとまり、妾候補のピアニスト1名を採用することとなった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 もう一人はベルム・ストランド伯爵であった。
 彼は王都フローリアの市長であるが、所領はオレの4分の1にも満たない小領の領主である。

「シュテリオンベルグ伯爵、お久しぶりです」

「ストランド伯爵、ご無沙汰しております」

「陛下が襲撃された晩餐会以来ですなぁ」

「そうですね、あの時は色々と大変でした」

「事件も解決したことですし、ひとまず安心ですな」
 本当は安心ではないのだが、ストランド伯爵は知らないようなので黙っていた。

「いつの間にか、伯爵になったと思ったら、今度は大臣になられて、飛ぶ鳥を落とす勢いとは、貴方の為にあるような言葉ですなぁ」と言って笑った。

「いえいえ、ただ運が良かっただけです。
 ところで今日は何のご用ですか?」

「実はフローリア・フェスティバルのことで、お願いが有って参りました」
 市長の話では、7月に開かれるフローリアフェスティバルのメインイベントとして『花の女神のパレード』が行われるが、今年も3人の王女に参加願いたいと言うのである。

 それでアリエスとジェスティーナの婚約者フィアンセであるオレの承諾を得に来たと言うことなのだ。
「本人たちは、何と言っていましたか?」

「はい、伯爵の許可が降りれば、参加しても良いと内諾は頂いております」

「そうですか、それでは私もOKです。
 実は、私もあのパレードを楽しみにしているのです」

「そうなんですか、ありがとうございます。
 実はもう一つお願いがあるのですが…」

 市長のお願いとは『花の女神のパレード』に、リオナ、トリン、マリンのASR39のメインメンバーとリーファたちのSDTにもパレードに出て欲しいとのことであった。

 今年はソランスター王国建国120周年記念で、国王の許可も得ており、例年より盛大に行うので、その催しに花を添えて欲しいと言うのだ。

 なるほど、そういう事なら、このチャンスに乗らない手はないだろう。
 オレは全面的に協力することを市長に伝えた。
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