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第11章 新領地経営編

第123話 領都シュテリオンベルグへの凱旋

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 セントレーニアでの一連の懸案事項に目処を付け、オレたち一行は新領都シュテリオンベルグ(旧サンドベリア)へと向かった。

 一度でいいから乗ってみたかったと言う領主代行のブリストール子爵も同乗し、飛行船『空飛ぶイルカ号』は、セントレーニアから領都上空へ向かって飛行し、僅か20分ほどで着陸予定地である港湾地区の上空に到達した。

 この街に来るのは、あの忌まわしきエレーゼ伯爵と対峙たいじして以来のことだが、その後住民たちが、どうなっているのか、ずっと気がかりだった。

 『空飛ぶイルカ号』がゆっくりと降下し始めると、飛行船の船影を見つけたのか、どこからともなく人が集まり始めた。

 いったい何事かと思えるほど、市内のあちこちから続々と人が出て来て、飛行船の方へ向かって駆けていたが、よく見ると、みんな笑顔で手を振り、オレたちを歓迎していると分かった。

 後で聞いた話だが、セントレーニアとサンドベリアが合併して新たにシュテリオンベルグ伯爵領が出来た事、その領主としてオレが着任したと言う話は、オレがセントレーニアに到着した翌日にはサンドベリアの街に伝わっていた。
 そして、新領主は次にサンドベリアへ来るのだと言うまことしやかな噂が流れ、住民たちは、その時を密かに待ち構えていたのだ。
 図らずしも住民たちの予想通り、オレは旧サンドベリアの街にやって来て噂は現実となった訳だ。

 『空飛ぶイルカ号』が静かに着地し、タラップが下りオレたちが地上に降り立つ準備が整った頃には、辺り一帯を埋め尽くすほどの人が集まっていた。
 その数は優に5千人を超えていただろう。

 飛行船のハッチを開けると、予想もしなかった地鳴りのような歓声が上がった。
 住民たちに、これだけ歓迎される理由があるだろうかとオレは思い返してみた。

 悪徳領主エレーゼ前伯爵の悪政を暴き、それをセントレーニア総督府に通告し、一致協力してエレーぜ伯爵を捕縛、飛行船で王都に連行し、法に従い王国が適正な処罰を下したのであるが、旧サンドベリアの住民にとって、オレは永年の仇敵を退治してくれた英雄として映っているのだろう。

 行いが評価され、暖かく迎えられるのに悪い気はしないが、流石にここまでとなると気恥ずかしく思える。
 そしてこの歓声をどうやって収めれば良いのか、オレには見当もつかなかった。

 オレが外に出るのを躊躇ためらっていると「私にお任せください」と後ろから声がした。
 振り向くと、それは連絡担当官のヴァレンスだった。
 首を縦に振り、ここは自分に任せろと言わんばかりの自信に満ちた表情だ。

 そして、飛行船のタラップに片足を掛けると驚くほどの大声でこう言った。
「みんな~、出迎えありがとうぉ~!」
 ヴァレンスがそう言うと一同は待ち構えていたように割れんばかりの拍手と歓声で答えた。

 ヴァレンスは歓声が静まるのを待ってから言葉を続けた。
「みんな~、よく聞いてくれ~。
 君たちが待ち望んでいた英雄が凱旋した~」
 ヴァレンスがそう言うと、観衆は更にヒートアップし、地鳴りのような拍手と歓声が鳴り響いた。

 そして歓声が止むまで、またしばらく待ってからヴァレンスが続けた。
「それでは紹介しよう。
 この地を圧政から解放した英雄であり、そして新たな領主でもある、その名は~
 カイト・シュテリオンベルグ伯爵ぅ~!!」

 あれ、ヴァレンスって、こんなキャラだっけ?
 適切な言葉を選び、民衆を引き付け扇動アジテートする才能があったとは、新たな発見である。
 オレはタラップの最上段に立ち、観衆に向かって両手を上げた。
 するとまたしても拍手と歓声が鳴り響いた。

 いつの間にか地上には護衛が配置され、辺りを警戒していた。
 今回は、ブリストール執政長官が自分の護衛として精鋭部隊36名を先に陸路でこの街へ送っており、オレたちの護衛4名と合わせて40名の護衛がいるのだ。

 ヴァレンスの勧めに従い、オレは手を振りながら、ゆっくりとタラップを降りていった。
 オレが地上に降り、前方へ向かって歩き始めると、出エジプト記しゅつえじぷときで預言者モーゼが海を割り、そこに道が出現したように一直線の道が開けた。

 オレたち一行は、前後左右を護衛の女戦士に守られ、大歓声の中、領民に手を振り答えながら市内中心部へと進んだ。

 図らずしも凱旋パレードのような状態となり、まるで自分がロックスターにでもなったかのような気分であるが、悪い気はしなかった。

 市内中心部まで道の両側に人が続き、最大限の歓迎を受けたオレたち一行は、今日の滞在先である唄うクジラ亭にチェックインした。
 ホテルのオーナーが待ち構えていて、わざわざオレたちに挨拶してくれた。
 オレたちは、それぞれ割り当てられた部屋に入り、夕食の時間まで思い思いに過ごした。

 唄うクジラ亭は比較的大きな宿だが、高級宿ではない普通の宿だ。
 ただ他の宿と違うのはフロントの横を抜けると奥にはステージがある広いパブとなっていることだ。
 オレが何故この宿を選んだか、賢明な読者は既にお分かりだろう。

 夕食の時間となり、1階のパブに下りオレたち一行は、ステージに近い席に陣取った。
 この店のテーブル数は25卓、席数は100席くらいだろうか、パブとしては大きな方だ。

「わたし、ショーパブなんて、初めて」
 そう言ってジェスティーナが目を輝かせる。
 それはそうだろう、王族には縁の無い一般庶民の憩いの場なのだから。

『唄うクジラ亭』は港町らしく魚介料理が中心だが、肉料理もあり、メニューの種類は豊富だ。
 ヒラメのムニエル、ホタテのカルパッチョ、若鶏の半身揚げ、海鮮サラダ、海老とキノコのアヒージョ、魚介のピリ辛スープ、マルゲリータピッツァなどを注文した。
 
 王室ではお目にかかれないようなメニューは、ジェスティーナにとっては新鮮だったようで、ショーが始まるまで存分に食事を楽しんだ。
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