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第10章 レイクリゾートの開業

第112話 リゾートのプレオープン(2)

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 プレオープンの招待客ゲストは、全員が顔見知りという訳ではない。

 アルテオン公爵とオディバ・ブライデ博士、リカール・バレンシアの3人は王宮の晩餐会で顔を合わす間柄で、お互いを良く知っていた。

 またリカール・バレンシアと錬金術師ソラリア・シュヴェリーンも、ポーションの取引で繋がりがある旧知の間柄である。

 踊る銀ねこ亭の女将と亭主は、招待客ゲストの中で、唯一知り合いが居ないのだ。

 アルテオン公爵夫妻は、今回お忍びで来ており、身分が分かるような服装ではないが、それでも高貴な家柄であることは、女将も薄々感じているだろう。

 女将にとって周りは初対面の人ばかりだが、踊る銀ねこ亭では、何かと良くしてもらっているので、リゾート滞在中は何らかのフォローが必要だろう。

 王都を飛び立った飛行船は、高度3000mまで上昇し、水平飛行へと移った。
 飛行船に乗るのが初めての乗客たちは、窓に顔を付けて眼下の景色を楽しんでいた。

 オレの横にいるジェスティーナの右隣には、金髪ツインテールのスーが座り、その隣には公爵家の長女エレナと新米秘書のソフィアが座り、4人で何やら楽しそうに話している。

 オレは昨日ソフィアをスーの専属世話係に任命していた。
 ソフィアは処刑された元エレーゼ伯爵の異母妹であり、地下牢で1ヶ月近くも監禁され、まだ心身ともに回復していないのだ。
 暫くはスーの世話係として、ゆっくり養生してもらおうと思っていた。

 踊る銀ねこ亭の女将は、相変わらずソワソワして不安そうだった。
 船内と言う閉鎖的な空間であるのに加え、周りは初対面の人ばかりで、落ち着かないのだろう。
 亭主の方は、時おり女将の様子を気遣い、心配そうに声を掛けていた。

 オレは心配になり、傍まで行って、声を掛けた。
「女将さん、顔色悪いけど大丈夫かい?」

「カイトさん、勢いで乗っちゃったけどさぁ、この船落ちないだろうねぇ」

 なるほど、心配事はそっちの方か。
「大丈夫だよ、安全装置が付いてるし、絶対に落ちないから安心して」

 その時ちょうど、ソニアたちメイド4人がギャレーで紅茶を煎れて乗客に配り始めた。
 オレはそのカップを一つ受け取り、女将に渡した。
「ほら、これでも飲んで、落ち着いて」

「カイトさん、心配してくれてありがとね。
 でもね、こんなに人が乗ってるのに、空を飛んでるんだよ。
 あたしゃ、不思議でしょうが無いんだよ」

 確かに女将の言うことにも一理ある。
 こんな金属の塊に30名近い人が乗り、それが空に浮かんでいるのだから、普通は考えられないことだ。

 環境に順応する能力には個人差がある。
「空の上で、こんな美味しいお茶がいただけるとは、思いませんでしたわ」
 そう言ったのはアルテオン公爵夫人である。
 既に飛行船に慣れ、空の旅を満喫している様子だった。

「お褒めいただき、ありがとうございます」
 ソニアが公爵夫人に礼を言った。

 一通りティーサービスが行き渡ったところで、今日のツアーガイドを務めるサクラが立ち上がり挨拶を始めた。

「皆さま、空からの眺めをお楽しみ中のところ、少々お時間を頂戴致します。
 本日はお忙しい中、私どもアクアスターリゾートのプレオープンイベントに御参加下さいまして、誠にありがとうございます。
 当飛行船は、時速300kmで森と湖のリゾート、アクアスターを目指し飛行中でございます。
 本日の天候は概ね良好、飛行時間は約1時間45分、午前11時40分頃の到着を予定しております」
 サクラがそうアナウンスすると、一斉に拍手が沸き起こった。

「しばらく飛行致しますと、左手に海抜1888mのミラバス山が見えてまいります。
 その後、右手に海岸線と海が見えてまいりますので、空からの絶景をご堪能くださいませ。

 只今、紅茶とクッキーをお配り致しました。
 お代わりがございますので、ご希望の方はお気軽にお申し付け下さいませ。
 トイレは後方に1箇所ございます。
 御利用の際はスタッフまでお申し付け下さい。
 なお、船内にて、ホテルの事前チェックイン手続きをさせていただきますので、ご協力のほど宜しくお願い致します」

 陽光を浴びた『空飛ぶシャチ号』は順調に飛行を続け、離陸1時間30分後には、遠方に湖が見えてきた。
 リゾートの上空に到達すると降下を開始し、予定通り1時間45分でホテル前の飛行船ポートに静かに着陸した。

 オレがハッチ開閉ボタンを押すと格納されていたタラップが自動で展開され、ドアが開いた。
 最初にサクラとソニアらメイドたちが地上に降り、乗客たちが安全に降りられるようサポートした。
 飛行船ポートからホテルのエントランスまでは、通路の両側に58名のリゾートスタッフ総出で列を作り、招待客ゲストを出迎えた。
 スタッフは、アスナがこの日のためにオーダーした真新しい制服に身を包んでいた。
 メイド達は、黒を基調としたリゾート用のメイド服を着て、男性スタッフも黒を基調とした執事服を着て出迎えた。

 招待客ゲストが全員地上に降り立ったのを見計らい、スタッフ全員が声を揃えて歓迎の挨拶をした。
「いらっしゃいませ~、ようこそアクアスターリゾートへ」
 ソランスター王国の宿には、このようにスタッフが総出で出迎える慣例はなく、招待客ゲストたちは一様に驚いていた。

 出迎えの列の中にはトリンの姿もあり、師匠であるソラリア師を出迎えた。
「師匠、ようこそおいで下さいました」と笑顔で挨拶した。

 招待客ゲストたちは、石畳の道を歩きエントランスを抜けて、そのままラウンジに案内された。
 席に着くとメイド達が用意したウェルカムドリンクが提供された。

 ラウンジからは、様々な色の花が咲き乱れる庭園と、その向こうに見える美しい湖と森が一望でき、招待客ゲストたちは窓辺に駆け寄り、その絶景に感嘆の声を上げていた。

 招待客ゲストたちが落ち着いたところで、主に接客を担当する管理職の一人セレナ・ウェンブリーが、滞在中の食事、露天風呂、アクティビティの利用方法や利用可能時間、売店で土産物と嗜好品を販売していることを説明した。

 またリゾート滞在中はアルコールを含むドリンクは全て無料、アイスクリームは1日3回まで無料、食事も全て無料であるが、大量に残す場合は、ペナルティとして料金を請求することを伝えた。
 そして招待客ゲストたちに客室の鍵を渡され、それぞれの客室係が先導し、自分たちの部屋へ向かった。

 アルテオン公爵夫妻と娘のエレナの客室は、7階のスイート・ルーム702号室で、エミリアが専属客室係バトラーとして付きっきりで世話をすることになっている。
 リカール・バレンシアとアスナの部屋も寝室が2部屋あると言うことで703号室に宿泊してもらうことにした。
 この部屋の専属客室係バトラーには、踊る銀ねこ亭の娘であるマリンが抜擢され、エミリアの指導の元、滞在中バレンシア父娘の世話をすることになっていた。

 702号室は薄いオパールグリーン、703号室は薄いパステルイエローを基調にした落ち着いたデザインで、2つの寝室それぞれにクイーンサイズのベッドが2つ、バルコニー付きのリビングルームとダイニングルーム、ジャグジーバスが1つと普通の浴室が1つ、パウダールーム1つ、トイレが2つで広さは240平米はあるだろう。

 オディバ・ブライデ夫妻には、6階の601号室、ソラリア・シュヴェリーン師には603号室、踊る銀ねこ亭の女将と亭主には605号室と、何れも高層階の部屋が用意されていた。
 恐らく、スタッフが気を利かせて高層階の部屋を割り振りアサインしたのだろう。

 6階の各部屋は、それぞれ内装色は違うが、寝室にはダブルベッドが2つあり、室内は広めで、寝室と同じくらいの広さのバルコニー付きリビングルームと浴室、トイレがある約120平米の部屋である。

 エレベーターに乗る際に招待客ゲストは、この小さな部屋は何?と質問したそうだ。 
 それも当然で、この世界にはエレベーターというモノがなく、フロア間を高速で移動できる乗り物だと分かると誰もが一様に驚いた。

 オレの新しいスタッフたちにも、それぞれ部屋を用意した。
 アーロン・リセットとヴァレンス、レガートの男性3名には3階の部屋を1部屋ずつ、女戦士ヴァルキュリー3人とステラは2人で1部屋、スーとソフィアは同室で5階の部屋を1部屋ずつ割り振りアサインした。

 ジェスティーナにもスイートルームを用意しようかと言ったのだが、『私はカイトと同じ部屋がいい』と言い、断固として拒否したのだ。

 その夜、メインダイニングでウェルカムパーティが開かれた。
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