上 下
101 / 374
第9章 王都への帰還

第99話 王都への帰還

しおりを挟む
 翌朝、目が覚めると、既にリーファはオレの部屋から消えていた。
 朝の爽やかな日差しの中、オレは総督府の食堂へと向かった。

 クラリスとステラ、エミリアは既に朝食をとっていた。
 オレが席に近づくとクラリスが口を開いた。
「お早うございま~す。
 カイトさまぁ、昨夜は眠れましたか~?」

「ああ、よく眠れたよ」

「え~、そうなんですかぁ?
 私たちぃ、隣の部屋のHな声がうるさくて~、眠れなかったんですけどぉ」
 そう言って、オレの顔を下からじっと覗き込んだ。
 これは完全に当て付けだろう。

「え、そうか?、そんな声聞こえなかったけどなぁ」とオレはとぼけた。

「も~、カイトさまったら~、とぼけても、分かってるんですからね~」と言ってクラリスが怒っている。
「そう言う時は~、私たちも誘って下さいよ~」
 クラリスがそう言うとステラもエミリアも何故か怒っているように見えた。
 でも、さすがにそれは総督府の客室では無理なことだ。

 その時、リーファとソフィアが食堂に入ってきた。

「皆さん、お早うございます」とソフィアが明るく挨拶した。
「お早うございま~す」
 リーファは何事もなかったようにみんなに挨拶した。

 オレが食事を終え、部屋に戻ろうとすると総督の副官ヴァレンスが現れた。
「エレーゼ伯爵を乗せた護送馬車が到着し、王都移送の準備が整いました。
 総督から伯爵護送の任を私とレガート隊長、他兵8名が命ぜられましたので、王都まで飛行船に同乗しても宜しいでしょうか?」

 なるほど、護送となると王国兵の同行が必要ということか。
 しかし、席が空いているので問題はない。

「いいですよ、護送中に何かあれば私ひとりで対処できないし、むしろ助かります」

「ハヤミ様、ありがとうございます」
「私どもは、エレーゼ伯爵の処分が決まるまで王都に滞在し、囚人の監視と尋問に立ち会う予定です」

「なるほど、それじゃ暫くは王都暮らしですね」

「はい、王都滞在は初めてのなので、少し緊張しています。
 ところで何時頃、出発されますか?」

「そうですね、リーファをサンドベリアに送らなきゃならないので、10時頃には出発したいと思ってます」

かしこまりました。
 総督にその旨伝えて、準備致します」
 副官のヴァレンスは総督の執務室へ向かった。

 やがて10時となり、出発の時間となった。
 オレたちは総督府の庭に停泊していた飛行船『空飛ぶイルカ号』に乗り込んだ。

 エレーゼ伯爵は、荷室に乗せる予定だったが、檻に入れて運ぶと、その間の排泄等衛生面の心配があり、結局異空間収納に入れて運ぶことになった。
 異空間収納では、中に入れている間は時間が停止するので何かと好都合なのだ。
 さすがに人間は入れたことはないが、説明書《マニュアル》には、大丈夫だと書いていたので、問題ないだろう。

 飛行船の荷室には、副官ヴァレンスや護送兵が王都に長期滞在する間の荷物を収納した。
 オレは全員の乗船を確認し、見送りに来たブリストール総督に挨拶した。
「総督、この度は色々とお世話になりました」

「何を申される、お世話になったのは私どもの方です。
 ハヤミ殿がいなかったら、伯爵の悪事は暴けなかった訳ですからなぁ」と総督は顎髭あごひげを撫で、感慨深げに言った。

「いえいえ、総督のご英断のお陰でリーファも救出できましたから。
 多分、また近い内にこちらへ来ることになると思いますが、その節は宜しくお願いします」

「分かりました、その時は歓待致しますので、ぜひお立ち寄り下さい」
 そう言うと総督はにこやかに笑った。

 オレは全員のシートベルトを確認し、電源スイッチを入れ、ハッチ開閉ボタンを押すとタラップが格納され、ハッチが閉まった。

 コンソールのヘッドアップディスプレイには、現在の気象情報と周辺の地図が3Dで表示されている。
 離陸ボタンを押すとジェットエンジンが起動し、下向きの噴射を開始した。

 船体がふわりと浮かび上がると総督に手を振り、オレたちはセントレーニアに別れを告げた。
 飛行船は地上30mまでゆっくりと浮上すると上昇速度を加速し、一気に地上3000mまで上昇した。

 水平飛行に移り、オレたちは一路サンドベリアを目指した。
 そこから約20分飛行してサンドベリア郊外の目立たない場所でリーファを下ろした。
 別れ際、リーファがオレの耳元で、こう囁いた。
「あたしとしたくなったら、またサンドベリアにおいで…
 あんたなら何時いつでもOKだよ。
 なんせ体の相性抜群にいいからね」
 そう言うと、ウィンクして見せた。
 飛行船を降りると明るく手を振り、見えなくなるまでオレたちを見送ってくれた。

 飛行船は高度3000mまで上昇すると、最高速度で王都を目指した。
 サンドベリアから王都までは約1200km、5時間弱の旅だ。
 天候は概ね良好、初めての王都行きが、空の旅となったソフィアや副官のヴァレンス、護送のため同乗したレガート隊長他兵8名は、物珍しそうに地上の風景を眺めていた。

 午後3時半『空飛ぶイルカ号』は王都上空へ到達し、そのまま王室中央庭園に着陸した。

 ジェスティーナには、昨夜電話して今日帰ることを伝えていたので、地上に降りると同時にジェスティーナが駆け寄り、人目もはばからず、オレに抱きついた。

「カイトさま、お帰りなさい」と可愛い笑顔でオレを出迎えてくれた。

「ただいま、ジェスティーナ」オレも王女を久しぶりに見て相変わらず美しいなと思った。

「どうしたの、私の顔になんか付いてる?」

「いや、相変わらずキレイだなと思ってね」

「も~、そう言うことは二人きりの時に言って欲しいな」とジェスティーナが照れた。

「あの~、ハヤミ様、お取り込み中、申し訳無いですが、他の者が降りられないので、通路を空けていただけませんか?」と申し訳無さそうにヴァレンスが言った。

「あ、これは失礼」
 そう言って、オレが通路を空けると飛行船に乗ってきた同乗者達が降りてきた。

 オレは異空間収納からエレーゼ伯爵の檻を取り出して王国兵に引き渡した。
 伯爵は横になっていたが、様子を見る限りは呼吸しているので寝ているだけのようだ。
 王国兵はエレーゼ伯爵が入れられた檻を台車に載せ、運んでいった。
 恐らく、王宮の地下牢に入れるのだろう。

 ステラとクラリスがシェスティーナに帰還の挨拶をした。
「ジェステーナ王女殿下、クラリス・ファンジェ、案内人の任を全う致しましてございます」
 とクラリスが普段聞いたことのないようなかしこまった挨拶をした。

「王女殿下、ステラ・リーン、護衛の任を無事全う致しましてございます」
 ステラも普段の含羞はにかんだ様子は、全く感じさせずかしこまって挨拶した。

「クラリス、ステラ、二人ともご苦労さま、今夜は王宮の客間を取ってありますから、そこで休むと良いでしょう」

「は、有難きお言葉、かたじけなく存じます」と二人は声を揃え、臣下の礼を取った。
 こんなに普通に話せるのに、普段は何故あのような話し方なのか、オレは疑問に思った。

 最後にエミリアとソフィアがタラップを降りてきた。
 先にソフィアがジェスティーナ王女に挨拶する。

「王女殿下、お初にお目にかかります、わたくしはソフィア・エレーゼと申します。
 この度は、兄の悪行の数々、大変申し訳なく、お詫びのしようもございません」

「いえいえ、貴女あなたのことは、カイト様から聞いています。
 貴女も被害者なのですから、詫びる必要などありません。
 むしろ心を鬼にして、身内の罪を明らかにするのですから、卑屈になる必要などありませんよ」
 そう言ってジェスティーナ王女はソフィアを元気づけた。

 最後に挨拶したのはエミリアだった。
「王女殿下、お初にお目にかかります、わたくしはエミリアと申します。
 私はカイト様に不遇な環境からお救いいただき、その上働く場所までお世話いただき、とても感謝しております」

「エミリアさん、あなたが幼少の頃から苦労された事は、聞いています。
 これからは、その恩に報いるつもりで、カイト様の力になって下さいね」
 ジェスティーナは、流石さすがは一国の王女と思わせる思いりのある言葉をエミリアに掛けた。

 ソフィアは、兄の悪事の証言と、1ヶ月間の監禁による体力低下と精神面のケアが必要と診断され、王宮内に客間を与えられ、王都に暫く滞在することになった。
 一方、エミリアはオレがアクアスター・リゾートへ戻るまでの数日間、王宮内の客間に滞在し、クラリス達の案内で王都見物に出かける予定だ。

 二人が王都に滞在している間は、ステラとクラリスが身辺警護を兼ね、面倒を見てくれることとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

処理中です...