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第7章 旅の計画

第75話 空飛ぶシャチ号

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 オレはアスナとサクラを連れて、到着したばかりの飛行船を見に行った。
 飛行船ポートには『空飛ぶイルカ号』と新たに到着した『空飛ぶシャチ号』の2隻が並んで停泊していた。
 シャチ型の船体色は黒に近い深い群青色、イルカ型はそれよりも少し青っぽい黒と言った感じだ。
「こうして見るとシャチ型の方は、かなり大きいわね」とアスナが感想を述べる。

「そうだね、『空飛ぶシャチ号』は全長24m、全幅16m、全高8mだから『空飛ぶイルカ号』に比べると2周りは大きいかな」

 早速、新しい飛行船に乗って見る。
 ハッチに触れるとキーレスエントリーでロックが解除してハッチが開き、タラップが自動で展開する。
 タラップの手すりに掴まりながら6段登ると、そこはもう船の中である。
 船内に入ると真新しい塗装の匂いがした。

 中は『空飛ぶイルカ号』よりもずっと広い。
 船内には座席が左右2席ずつ、シートと同じ高さに大きめの窓がある。
 前後のシートピッチは1mほどで足元も余裕があり、手すりを含めたシート幅は約80cmと広い。
 左右に回転したり、リクライニングも可能でフライト中もゆったりと過ごせそうだ。

 上半分が透明の壁で仕切られた船体最前部のコックピットに行ってみる。
 最前列は3席あり、大きな窓から外が見渡せる。

 操縦に関しては『空飛ぶイルカ号』とほぼ同じだ。
 操作卓コンソールには、ホログラフィ技術を使った40インチくらいの横長で透明なヘッドアップディスプレイと、電源スイッチと操縦桿の他には離陸、着陸、ドア開閉、ステルスモード、自動運転ボタン、非常ボタンがあるのみ。
 今回は、乗客の安全を考えて、あらゆる攻撃を2時間無効化できると言う『自動防御システム』を追加しているので不測の事態が生じても安心だ。

 あとは『空飛ぶイルカ号』の地図データや過去の気象情報などの飛行データをコピーすれば、王都へ行くにも困らないだろう。

 どうせ飛行船を飛ばすならと言うことで試験飛行を兼ねた『飛行船操作説明会』を行うことになり、サクラにメイド長のステラと執事長のローレンの他、OJT中の社員16名を呼んでもらった。
 オレが旅に出て不在の間も飛行船が使えるようにアクアスター・リゾートの主要メンバーと社員たちに飛行船の操作を覚えて貰う必要があるからだ。
 オレは2回に分けて飛行船の操船方法をコックピットで説明した。

 説明した内容は下記の通りだ。
 1.全員のシートベルト装着を確認
 2.メインスイッチを入れる
 →自動診断システムが初期システムチェックを実行(この間約5秒)
 →ヘッドアップディスプレイに気象情報と周囲の地図が3Dで表示される
 3.ドア開閉ボタンを押す
 →自動でタラップが格納され、ドアが閉まる
 4.離陸ボタンを押す
 →ジェットエンジンが起動し、下向きの噴射を開始
 →地上30mまでゆっくりと上昇(秒速1m)
 →その後、地上3000mまで急速上昇(秒速20m)
 →離陸後3分で順航行度3000mに到達すると電動ジェットエンジンを一時停止
 →エンジンが自動で90度回転し、水平飛行に移行
 5.手動操縦の場合
  操縦桿を下げると上昇、上げると下降、右に回すと右旋回、左に回すと左旋回
  速度は操縦桿の右に付いているスロットルレバーの上げ下げで調整
  速度は時速0kmから最高時速300kmまで無段階で調整可能
  反重力発生装置があるので0kmでも空中に浮いていられる
 6.自動操縦の場合
  設定した高度、速度で保ち、自動操縦が解除されるまで飛行する
  但し、進行方向に障害物や気象異常を感知した場合は自動で迂回ルートを飛行する
 7.全自動操縦の場合
  下記の場所には離陸から着陸まで全自動で飛行が可能
  ①ディスプレイに表示される過去の着陸履歴から指定した場所
  ②飛行船ポートのビーコンの信号がある場所
  この設定は手動操縦、自動操縦中でも切替可能、また途中解除も可能
 8.着陸ボタン(手動操縦時)
 →マップから着陸ターゲットを設定するか着陸場所の自動選択を行うと、その場所へ向けて全自動で着陸
 9.ドア開閉ボタンを押す
 →格納されていたタラップが自動で展開され、ドアが開く
 10.非常ボタン(非常時のみ有効)
 →緊急時や故障時に押すと補助推力を起動し自動的に安全な場所まで移動し着陸する
 11.船内の重力について
  人工重力発生装置で地上と同じ重力が保たれる
  船内を歩いたり船尾にあるギャレーやトイレも普通に使える
 12.ギャレー及び男女共用トイレ
  水平飛行時のみ利用可、上昇及び下降時には利用不可

「操船自体は自動化されて簡単だけど、知識として知っておくべき事が色々とある。
 それを簡易マニュアルにまとめておいたから、最低限これは暗記しておくように」
 オレは全員にマニュアルを渡した。

「さすがはカイトね、教え方が上手だわ」とアスナからお褒めの言葉をいただいた。

「それじゃあ、実際に飛行船を飛ばしてみよう。
 飛行船を飛ばしてみたい人」と言うと全員が手を挙げた。

「みんな積極的でいいね、それじゃあ最初は、え~っと、そこの君」
 オレが指名したのはアンナ・トワロードと言う王立大学のインターン生だった。
 肩までのシルバーブロンドのポニーテールに、知的で真っ直ぐな瞳をオレに向けて、熱心に話を聞いていたのが気に入ったのだ。

 アンナは自分が最初に選ばれたことを素直に喜んでいた。
「カイトさま、ご指導よろしくお願いします」と言ってオレに挨拶した。

「はい、よろしくね、それじゃここに座って」と主操縦席に座らせた。
 オレがアンナの右隣に座り、アスナが左隣に座る。
「それじゃアンナ、最初は何をすればいいのかな?」

「はい、カイトさま、シートベルトの確認です」とアンナが答えた。

「その通り、全員がシートベルトを装着しないと離陸できないシステムになってるから、必ず確認するんだよ」

「皆さ~ん、シートベルトを締めて下さ~い」とアンナが大声で言う。

「ここにマイクがあるから、これを使ってもいいよ」

「あ、そうなんですね、ありがとうございます」

「全員シートベルト締めました」とサクラが教えてくれる。

「それじゃ、あとは任せたよ」

「はい、分かりました」
 そう言うとアンナはメインスイッチをオンにして、フライトシステムを起動させた。
 自動診断システムがシステムチェックを行い、ヘッドアップディスプレイに3Dで気象情報と周囲の地図が表示された。

「ハッチ閉めます」
 アンナはそう言ってハッチ開閉ボタンを押すと自動でタラップが格納され、ハッチが閉まった。

「離陸します」
 緊張した面持おももちでアンナが離陸ボタンを押す。
 ジェットエンジンが起動し、下向きの噴射を開始。
 飛行船は地上30mまでゆっくりと上昇、その後地上3000mまで急速上昇した。
 離陸後3分で巡航高度3000mに到達し、電動ジェットエンジンを一時停止すると、エンジンが自動的に90度回転し、水平飛行に移行した。

 アンナは操縦桿横のスロットルレバーをゆっくりと奥に倒し速度を上げていった。
 ほどなく最高速度の300kmに到達した。

「アンナ、好きなように飛んでいいんだよ」

「はい、それじゃあ湖の上空を一周して海まで行きますね」と教えてくれた。

 アンナの表情は真剣そのものだ。

 飛行船『空飛ぶシャチ号』は最高速度で湖の上空を旋回し、そのまま海岸線を目指す。
 やはり『空飛ぶイルカ号』に比べて最高時速50kmの差は大きいなとオレは思った。
 この速度なら王都まで1時間55分で行ける計算だ。
 今までよりも片道20分短縮できるので、ゲストを送迎する際の飛行スケジュールも楽になるだろう。

 その後、サクラと相談して王都までの飛行スケジュールを下記のように変更した。
 10:30 リゾートチェックアウト
 10:45 飛行船出発
 12:40 王都到着
 ※この間に船内清掃、ギャレーのコンテナ積替え
 13:15 王都出発
 15:10 リゾート到着、チェックイン

 この日から2日に分けて社員たちの飛行訓練が行われ、全員1人1回離陸から着陸まで合計20回の飛行訓練が行われた。

 オレはその日の午後、アスナとサクラ、ステラとローレンの4人を集めて、オレが旅に出ている間の2週間のことを指示した。
 未だにトラウマを抱え、夜一人で眠れないサクラは、オレが不在の間アスナが一緒に寝てくれることになり、これで一安心だ。

 その日の午後、オレは1人で『空飛ぶイルカ号』に乗って王都へ向かった。
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