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第6章 リゾートの開業準備

第69話 王女ジェスティーナとの婚約

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王女ティーナを嫁にせんか?」と言う国王の言葉にオレの思考は停止した。

 直前まで、王国の一大事だ、戦争になるかも知れんなどと、深刻な話をしていたのに、その直後に全く違う話をされると流石のオレも頭が追い付かない。

 恐らくこれは、国王が最初から考えていたシナリオに違いない。
王女ティーナをデルファイに嫁に出すのは、めじゃ…
 むしろ先に奴らの悪事が露見して良かったかも知れぬ」などと独り言のようにつぶやいている。

 そして、オレの顔を正面から見てこう話すのだ。
「カイト殿は王女ティーナが、この国の民から『美の女神』と呼ばれておるのを知っておろう…
 見ての通り、王女ティーナは王国一の器量良し、王国内は元より他国の王侯貴族からも嫁に欲しいと引く手数多ひくてあまたの自慢の娘だ。
 その娘をカイト殿の嫁にと申しておるのだ、悪い話では無かろう」

「陛下、とても有難いお話ですが、私のような浅学非才せんがくひさいな者が、王女殿下を妻としても宜しいのでしょうか」

「何を申すか、カイト殿には王女ティーナを救ってもらった恩義もあるし、儂の暗殺を阻止してくれた大きな借りもあるのだ。
 王女ティーナを嫁にするだけでは足りぬくらいじゃ。
 それに、儂もカイト殿が娘婿となってくれれば、どんなに心強いことか」

 恐らく国王には、女神の加護を受けたオレを身内として味方に付ければ、損はしないだろうと言う、したたかな計算があるようだ。

 オレにとっては願っても無い話だ。
 美女の誉れ高い王女ジェスティーナを娶るなど、宝籤に当たるよりも稀有な事であるが、本人はそれを承知しているのだろうか。

 オレの心を見透かしたかのように国王はこう言った。
「この話は王女ティーナにも伝えて、本人から同意を得ておることだ。
 それにカイト殿と接する王女ティーナの表情や話し方を見れば、惚れておるのは一目瞭然だし、カイト殿も満更では無さそうに見えるがのう。
 何もこの場で返事をせよとは言わぬ、少し時間を与えるから考えてくれぬか」

「陛下、畏まりました、ご意向に沿い前向きに検討させていただきます」
 オレは国王からの提案を受けようとは思ってはいるが、ジェスティーナと直接話してから返事をしようと思ったのだ。

王女ティーナを嫁にやったからと言ってカイト殿を縛ろうと思っておらん」
「もし、他に想い人が居れば遠慮はいらん、側室に迎えても良いのだぞ」
 そう言って国王は豪快に笑った。

「それと婚約が成立しても、すぐに嫁にと言う訳にではない。
 カイト殿には、まずこの国で儂が爵位を授けられる位の実績を挙げて貰わねばならぬ。
 そうでないと王国の威信に関わるでのう。
 あとはカイト殿が日々弛ひびたゆまぬ努力を続けることじゃ」
 国王は満足そうに微笑んだ。

 その夜、オレはジェスティーナを自室に招いた。
「陛下から聞いたと思うが、オレとの婚約に同意したと言う話を聞いた。
 それは君が本心から望んでいることなのか、確認したかったんだ」

「前に申し上げた言葉に偽りはありません。
 わたしは、カイト様に初めてお会いした時から、貴方のとりこです」

 美の化身のようなジェスティーナに、そこまで言われれば男冥利に尽きると言うものだ。
 オレもジェスティーナをめとることが、自らの望みであることを伝えた。

 次の日、オレとジェスティーナは2人揃って国王の前で婚約の同意を奏上そうじょうしたのである。

 その翌日、オレとジェスティーナ王女の婚約が王宮関係者に内々に発表された。
 国内への公式な発表は、時期を見て行われることとなった。

 国王暗殺未遂事件の後遺症もあり、未だにジェスティーナの王宮外への外出は禁止されており、オレと会うのは王宮内に限定された。
 アクアスターリゾートのプレオープンまで1ヶ月余りとなり、オレは開業準備のためジェスティーナとは暫くは会えない日々が続きそうだ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 一方、褒賞の一部として国王に認めて貰ったソランスター王国内全土への立入、通行、滞在の許可がようやく降りた。
 ソランスター王国は、王室直轄領と王国から管理を委任されている王侯貴族の所領に分類される。
 オレが王国全土を通行、滞在すると言う通達が行き渡るまで時間がかかり、そして全ての直轄領と領地から応諾の返答が王宮に戻ってくるまでに、更に時間がかかったのである

 これでソランスター王国内全土への旅が可能となったわけである。
 実際に旅に出るには、まだ決めなければならないことが3つある。
 ①国内の旅に精通したコンシェルジュ(旅行案内人)の選定
 ②旅行中に帯同させる腕利きの護衛の選定
 ③旅行先のルートと期間の設定
 ①と②は王室で適当な者を選定してくれることになっている。
 ③はコンシェルジュが決まらないと決められない。
 と言う事で、この件の全権を国王から委任されているアルテオン公爵に『旅行案内人』と『腕利きの護衛』の選定を急いでもらうことにした。

 平和そのものだったソランスター王国内の動きがにわかに慌ただしくなってきた。
 各方面の国境守備隊には、合計8000名の兵が増強され、国境には出入国制限が課せられた。
 特にデルファィ公国からの出入りには、厳しい審査が行われることとなった。
 更に王都や王宮の警備も大幅に増強され、王国軍が王都内を巡回する姿を頻繁に見かけるようになった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 それから2週間は忙しく経過した。
 王都の支店候補地にある古い建物を解体した。
 更地になった土地で、バレンシア・リゾートサービス本社兼アクアスター・リゾート王都支店の建設が始まった。

 オレが異世界通販サイトで検索していたら、ユニット式の店舗キットを見つけ、割と組み合わせの自由度も高く、建築施工込で発注できることが分かった。
 しかも飛行船ポートと同じメーカーの商品で、店舗と飛行船ポートは連結可能と分かり両方発注して、設置工事も依頼したのだ。

 工事は5日で完了し、2階建ての店舗と飛行船ステーションが完成した。
 完成した店舗には什器備品など必要なものが搬入され、業務が行えるようになった。

 その3日後、アクアスター・リゾート社員として新規採用した社員16名を飛行船に乗せて王都を飛び立った。
 飛行船の定員は18名なので、オレとサクラ、メイド4名が乗ると定員オーバーになると思われた。
 しかし、補助席を出せば22名まで搭乗可能であることが分かった。
 その場合、荷物室に搭載可能な重量が減るが、荷物が少ないので問題無かった。

 初めて飛行船に乗る社員たちにとっては一大イベントであり、船内は大騒ぎだった。
 飛行船が落ちはしないかと心配する者や、窓外そうがいの景色が綺麗だとずっと見とれている者。
 イルカの形をした船体がカワイイだとか、飛行船の装備やエンジンなど見慣れない装置に感心する者など様々であった。
 飛行船は、この日も最短ルートを飛行し、2時間15分でアクアスター・リゾートに到着した。

 社員達はタラップから地上へ降り立ち、自分が働くリゾートを初めて目にして、口々に感想を語っていた。
 リゾート内を社員達に案内する役目はソニアに任せて、オレはサクラと建設中の従業員宿舎を見に行った。

 従業員宿舎は、王都支店の店舗と同じメーカーで、ユニットタイプの部屋を玩具おもちゃのブロックのように組み合わせて建てる方式だ。
 まず真ん中に約70平米の共用リビングダイニングを設置した。
 その周囲にシャワー・トイレ付の24平米(約14畳)の1ルームを12部屋組み付ける方式で屋根もはめ込み式だ。

 敷地内の少し離れた場所に同じレイアウトの男性専用棟と女性専用棟を建設する予定だ。
 あと2日で完成する予定だが、外観を見ただけでは、ユニット住宅とは思えない上々の仕上がりだ。

 従業員宿舎が完成するまで、社員達はホテルの客室に宿泊し、実際のゲストがどのような部屋に泊まるのか体験してもらう予定だ。
 その間は男女別に仕切った森の露天風呂は入り放題、食事もゲスト用の食事が提供され、アクティビティである釣りやカヌー体験、飛行船の湖上遊覧飛行も実際に体験して貰う予定だ。
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