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第6章 リゾートの開業準備

第64話 飛行船ステーションキット

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 注文していた『飛行船ステーションキットM』が朝一で到着した。
 いつもの異世界宅配便の配達員が来て、どこに設置しますかと聞いた。
 オレは配達員を設置場所へ案内し、飛行船は施工の邪魔になるので、一時的に湖畔のたいらな場所へ移動させた。

 今回は組立設置サービス込で購入したので、全てお任せだ。
 場所を指定すると、配達員と一緒に来た作業員4名が2組に別れ、1組は周辺の整地、もう1組はキットの組立を始めた。
 飛行船ステーションキットは、プレハブのように工場で製作した部材を現地で組み立てる方式で、短時間で施工が行えるのだ。

 作業員達は慣れた手付きで組み立て始めた。
 基礎を打って土台に固定し、完成するまで3時間ほど掛かるそうだ。
 ヘリポートみたいな感じで、中央に着陸ターゲットがあり、飛行船の航法システムに登録すると、このポートに埋め込まれたビーコンの信号を頼りに全自動で飛ぶのだ。

 飛行船ステーションは、所定の位置に停泊させると船体を全自動で洗浄することが可能だ。
 フレキシブルアームが船体の形状に合わせて移動伸縮し、洗剤と温水で高圧洗浄後に温風で乾燥させるシステムである。

 船内のギャレーに搭載するコンテナは、カートリッジ式になっており、使用済みのコンテナを船体下部から取り出し、補充済のコンテナに交換することで大幅に手間を削減することができる。
 ちなみにギャレーとは、飛行船内で食べ物や飲み物を用意する簡易キッチンのことである。

 反重力発生装置のパワーユニットで使用するエナジウム鉱石カートリッジは、船体の専用扉から脱着可能となっており、飛行船ポートの格納スペースから取り出し、すぐに交換することが可能だ。

 船内清掃は、清掃員の手で行う必要があるが、専用の清掃キットも付属しており、15分程度で完了することができる。

 異世界宅配便の配達員は、黙って作業員たちの仕事を見守っている。
 恐らく飛行船ポートの設置完了まで帰れないのだろう。
 
 オレは異世界宅配便の配達員を、お茶に誘ってみた。
「あの~、もし宜しければ、お茶でも如何ですか?」

「ありがとうございます、それじゃあお言葉に甘えて」
 サクラが先導し、配達員をラウンジに案内した。

「こんな辺鄙なところまで、配達していただきありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。
 いつも異世界宅配便をご利用いただき、ありがとうございます。
 申し遅れました…、私はこの地区の配送業務を担当しております『パルム・シントラ』と申します」
 そう言って自己紹介し、名刺をくれた。
 パルム・シントラは、ぱっと見では20代後半に見えた。

「いつも配達が早くて助かります」

「お客様に迅速かつ確実にお届けするのが私どもの使命ですから…
 それに、サボるとフィリア様に叱られますから」
 と言ってパルム・シントラは頭を掻いた。

 ラウンジ担当のメイドが、お茶とクッキーを出してくれた。

「この仕事、色々なところに行くから大変じゃないですか?」とオレが聞いてみる。

「そうですね、私が担当しているのは、この世界を含む4つのパラレルワールドなんですが、中には魔獣がウヨウヨしている場所もあって、倒しながら行かないとならないので、けっこう大変です」

「へ~、そうなんですね…
 でも1人で危険じゃないんですか?」

「ええ、特に危険なところは、護衛を同行させるんですが、今人手不足でして…
 1人で対処できる所は、なるべく自力で行くようにしてます」

 パルム・シントラは、オレが聞きもしないことをペラペラと喋ってくれた。
 異世界宅配便PCSは、女神フィリアが設立した180のパラレルワールドで配送サービスを行う会社で、配達員360人、護衛120人、施工員180人、事務員100人で構成されている。

 今は人手不足の影響で仕事はかなりハードなようだ。
 ちなみに社長は女神フィリアで、人使いが荒いとパルム・シントラが愚痴っていた。
「あ、今言ったことはフィリア様には、内緒でお願いします」とオレにペコペコ頭を下げた。

「ところで、注文した場所以外でも配達は可能なんですか?」

「はい、どこでもお届けできますよ。
 ただし、受取人が指定されてて確実に受け取っていただけることが条件ですが、それ以外は特に厳しい条件は無かった筈です。
 商品発注時にお届け先の入力欄があるので、そこで指定すると良いですよ」

「分かりました、今度お願いすると思いますので、宜しくお願いします」
 それからオレと配達員は小一時間ほど話した。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 王都のアスナからスマホに着信があり、ビデオ通話で話した。
 王立大学に出した求人の件で連絡があり、就職担当のエリナ・フューリーの話では、25名の応募があったとのことだ。
 8名の募集に対して3倍以上の応募なのだから、上々ではなかろうか。
 来週、バレンシア商会で採用試験を行うので、オレに同席して欲しいそうだ。
 更にバレンシア商会の使用人の中から6名の管理職候補を選抜したので、オレが面接することとなった。
 それとリゾート運営会社王都支店の候補地を数カ所選定したので、現地を見て決めて欲しいそうだ。

 アスナには、こちらで専属秘書を1名採用したこと、館に飛行船ステーションを設置したこと、王都支店の場所が決まったら同じ飛行船ステーションを設置すること、今日2本目の温泉が出て、森の湯が使えるようになることを話した。
 あとはカフェ・バレンシアの目玉メニューに考えているアイスクリームのレシピをメールで送ったこと、アイスクリームを作るには冷凍庫と発電装置が必要で、王都に行く時に異世界ネットショッピングで買って持って行くと話した。
 アスナからは「カイトがいないと寂しい、早く会いたいわ」などと嬉しい言葉を貰って少しニヤついた。
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