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第6章 リゾートの開業準備

第63話 眠れない夜

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 深夜、サクラがオレの部屋をノックした。
 聞くと後ろから刺される夢を見て、怖くて1人で眠れないのだという。
 よほど怖かったのか、キャミソールに薄手のカーディガンを羽織り、裸足のまま震え、顔は青ざめていた。

 オレはサクラを部屋に入れ、リビングの一角にあるバーカウンターのスツールに掛けさせ、ホットウィスキーを作ってやった。
「あぁ~、美味しい、暖まるし、とっても落ち着きます。
 カイトさま、ありがとうございます」
 サクラの表情を見ると、不安は和らいだように見えた。
 一緒にホットウィスキーを飲みながらサクラの話を聞いた。

「わたし、死ぬ間際の記憶って殆どないんです…
 でも、女神様の話を聞いてから、自分は背後から刺されて死んだんだって想像すると、心臓が締め付けられるように苦しくなるし、身震いするくらい怖いんです」

 サクラがこの世界に転生する際に、女神フィリアが新しい体を与えてくれたが、魂は同じなので前世で受けた心のキズが、まだ癒やされていないのだろう。
「恐らく、心が体に追い付いていないんだろうね」
 自分が刺されて死んだという事実を、心が受け入れられないのだ
 このことは時間を掛けて、少しずつ薄めていくしか、方法が無いのかも知れない。

 夕食の時にサクラは前世に未練はないと言っていたが、そう簡単に割り切れるものではない。

「オレは医者じゃないから偉そうなことは言えないけど、この状態が改善されるには、しばらく時間が掛かるかも知れないね」

「ここにはベッドが2つあるから、今夜はオレの隣で休むといいよ」

「ありがとうございます。
 お言葉に甘えて、隣のベッドをお借りします」
 オレは、部屋に来た時よりもサクラが落ち着いたように見えた。

「それじゃあ、明日も忙しいから寝ようか」

「はい、お休みなさい」
 そう言ってサクラはオレの隣のベッドで寝た。

 灯りを消してベッド下の小さな間接照明だけにした。
 サクラの様子を伺うと、何度も寝返りを打ち、眠れない様子だ。

 しばらくするとサクラがこう言った。
「カイトさま…、あの~…、そちらに行ってもいいですか?」

「えっ…、来てもいいけど、オレも男だし襲っちゃうかも知れないぞ」

「カイトさまがそう思われるのでしたら、どうぞ」
 そう言ってサクラは笑いながらオレのベッドに入ってきた。

 サクラからは、良い匂いがした。
 それはトリンともアスナともジェスティーナとも違う女の匂いだ。
 サクラは、オレを見ながら意味深げに微笑んだ。
 2人の距離は約30センチ、間に障害物はない。

 今、手を伸ばせば届く距離にトップモデルクラスの魅力的な女性がいる。
 知的に輝く瞳、上品で形の良い鼻、魅惑的な唇。
 髪を下ろし、背中までの少し褐色がかった黒髪、胸元には豊かな双丘がオレの目を引きつける。
 サクラは着痩せするタイプだと思った。
 薄着の状態で見ると、プロポーションの良さが際立った。

 1分くらい何も言わず、お互いの目を見つめ合う。
 襲っても良いと言うのは、冗談なのか本気なのか分からない。
 もしかして、女神フィリアから与えられたスキル『魅了』が効き始めているのだろうか。

「カイト様、手を繋いで貰ってもいいですか?
 そうしたら、眠れそうな気がするんです」

 オレは黙って頷き、サクラの手を優しく握り、何も言わず見つめ合った。

 これはまさに据え膳状態であるが、このまま事に及ぶべきでないとオレの理性が警告していた。
 恐怖からオレに助けを求めに来た女性を本能の赴くまま、襲うわけには行かないからだ。

 しかし、心と体は別物だ。
 トリンを抱いてから既に1週間近く経っている。
 オレの若い体は、目の前の魅力的な女性を放おっておけないと訴えていた。

 その内、いつの間にかサクラは目を閉じ、微かな寝息を立て始めた。
 手を握って安心したのか、眠りに落ちたようだ。
 サクラの静かな寝息を聞きながら、オレが悶々として一睡も出来なかったのは言うまでもない。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 まんじりともしない夜が明け、まぶしい朝の光が窓から差し込んできた。
 気が付くと、サクラの姿は既になかった。

 オレは、露天風呂に行き、朝風呂に入った。
 完全に寝不足だが、しばらく露天風呂に浸かっていると眠気が覚めてきた。

 ダイニングに行くと、サクラがスーツ姿で待っていた。
「カイトさま、お早うございます」と爽やかな笑顔で完璧なまでのお辞儀を披露する。

「昨夜はありがとうございました、お陰さまでよく眠れました」
 そして目の下の隈を見て、オレが寝不足である事を理解した。

「申し訳ありません、私だけ眠ってしまって…」

「いや、気にしなくていいよ、眠れなかったのはオレ自身の問題だから…
 さあ、朝ごはんにしようか」

 その日の朝食は、焼きたてのパンにベーコンエッグとソーセージ、トマトサラダにマッシュポテト、オニオンスープ、淹れたてのコーヒーだ。

 今日の予定をサクラと打ち合わせながら、30分ほどで朝食を終えた。
「それじゃあ、今日も一日頑張りますか」

「はい、頑張ります」
 そう言ってオレとサクラは席を立った。
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