【R18】異世界リゾートライフ～女運が最悪だったオレがチートスキルで理想のハーレムを作りあげる～

第５章 ふたたび王都へ

第４７話 初めての空の旅

『空飛ぶイルカ号』が到着してすぐに試験飛行はしたが、６００ｋｍもの長距離を飛ぶのは初めてだ。

　操縦と言っても方向と速度をセットし、自動操縦オートパイロットにすれば、あとは特にすることはない。

　ソニアに指示して船体後方のギャレーでお茶を入れてもらい、眼下の砂浜に波が打ち寄せるキレイな海岸線を眺めながら寛くつろいだ。
　自動操縦オートパイロットは、気流の影響も自動で修正してくれるので、揺れもほとんどなく、ゆっくりとお茶を呑むくらいは全く問題なさそうだ。

　この飛行船の優秀なところは、一度飛んだ地域を自動で測量して３Ｄマップを作成する自動マッピングシステムが搭載されている点だ。
　また飛行した空域の気象情報を自動で収集解析し、データベース化して安全かつ最短な航路を計算してくれる自動航法システムも装備されており、安全な飛行が可能となっている。

　遥か下には街道が延々と続いている。
　下から見ている旅人の目には、この飛行船はどのように映っているのだろう。
「ねえ、アスナ、この飛行船って下から旅人が見たら、イルカが空飛んでるって大騒ぎになってるんだろうね」

「そりゃ、そうよ、今頃みんな大騒ぎしているわよ。
　今からでもステルスモードにした方がいいんじゃない？」

「う～ん、もう手遅れかも知れないな。
　いずれは定期運行するからバレるだろうし、王都が近くなるまで、このままで飛行するよ」

「でも、王都上空でこのまま飛行すると、大騒ぎになるわよ」

「確かにね、それよりバレンシア邸の着陸の方が問題かな。
　うまく着陸できるといいけど。
　もし上手く着陸できたとしても、突然こんなデカい船が現れたら、アスナのお父上がビックリして腰抜かすんじゃないかな」

「大丈夫よ、それくらいで動じる人じゃないから」
　アスナは父の図太さを疑っていないようだ。

　離陸して既に３０分が経ち、左手には海、右手には表高１８００ｍを越えるミラバス山の雄姿が見える。
　中央付近に火口があり、見ようによっては富士山に似ていなくもない。
　ミラバス山を過ぎて暫くすると、針路をやや右寄りに変えて直線で一路王都を目指す。

　幾つもの街を通り過ぎ、あと１時間ほどで王都と言うところで『ステルスモード』をオンにする。
　外部から見ると船体は透明となり、飛行音も聞こえなくなる。

　更にそこから４０分ほど飛ぶと、遠くに王都の街並みが見えてきた。
　王都の中心部には、王宮の幾つもの巨大な建物と尖塔がその威容を誇っている。

　バレンシア邸は、王都の中心部から少し南にある。
　そこまでは目視で飛行しなければならない。

「あそこある赤い屋根に白い壁、あれが我が家です」
　アスナが指さして教えてくれた。

　飛行船で一度、周囲を通り過ぎ、マッピングシステムに登録させる。
　それから、もう一度バレンシア邸まで戻り、上空で飛行船を静止させ、地図で着陸地点をポイントし、着陸ボタンを押す。

「みんな着陸するよ、あとは船の着陸システム頼みだ。
　どこにも衝突しないように祈ってくれ」

『空飛ぶイルカ号』は静かに下降を開始した。
　着陸時は下降にジェットエンジンは使わず、反重力発生装置の調整で下降し、風の影響による誤差をジェットエンジンの微噴射で調整している。

　ジェットエンジンの微噴射の影響で、中庭パティオは砂塵が少し舞い上がったが、飛行船はポイントした着陸地点に寸分の狂いもなく着陸した。
　バレンシア邸の中庭パティオに咲く自慢の花々は何とか被害を免れた。

　ステルスモードをオフにしてハッチ開閉ボタンを押すと自動でハッチが開き、タラップが地上に接地した。

　一番先にアスナが降りていくと、当主のリカール・バレンシアが中庭パティオにちょうど姿を現した。

「パパ、ただいま戻りました」
　アスナは、何事もなかったかのように父に挨拶する。

　その様子を見たアスナの父は少なからず驚いていた。
「何か気配がすると思ったら、お前か…
　これは一体何の騒ぎだ？」

　オレもタラップを降りて挨拶する。
「ご当主様、お久しぶりです」
　オレに続いてステラとメイドたちも次々とタラップを降りた。

　オレの姿を見てリカール・バレンシアは納得したようだ
「なるほど、また貴方でしたか、心臓に悪いから、もうこういうのは止やめて下さいな」
　バレンシア家当主は呆れ顔で言った。

「申し訳ありません、アスナさんが、ご当主様は多少のことでは驚かないと言ったので、失礼を承知で中庭パティオを着陸場所として使わせていただきました」

「こんな船が家うち以外に着陸したら王都は大騒ぎよ」
　アスナが当然と言うような顔をして言う。

「分かったから、とにかく中へお入り。
　ハヤミ様もお連れの方々も、どうぞ中でお休み下さい」

　バレンシア商会の広い応接室に行くと、リカール・バレンシアは使用人にオレのメイドたちを含む全員分の席を用意させた。
「どうぞ、お掛け下さい」
　そう言うとリカール・バレンシアは深く溜息を付いた。

「嵐のように突然押しかけて申し訳ありません」とオレが詫びる。

「いやいや、それはもう良いのです。
　それで、また今日はどうなされましたか？
　まさか、アスナを送って来ただけではあるますまい」

　さすがはバレンシア家当主である。
　きっと何かあったと察しているのだ。

「何から話せば良いのか迷いますが、順を追ってご説明しましょう」
　オレはこれまでの経緯をリカール・バレンシアに説明した。
　王都から自分の領地に帰る途中に、盗賊団に襲撃されているジェスティーナ王女を救出したこと。
　その際に王国兵が王女を守るため殺され、女性たちは捕虜として捉えられたこと。
　オレはすぐに国境守備隊を呼びに行かせ、王国兵と合同作戦の末、捕虜を救出し、盗賊団をほぼ壊滅状態に追い込んだこと。
　捕らえられた盗賊団の残党は王都へ連行され、現在取り調べを受けていること。
　ジェスティーナ王女が帰国して、一連の出来事を国王に報告し、国王がオレたち３人に礼を言いたいと使者を使わせたこと。
　それが今回王都を訪問した理由であると説明した。

「何と、それはそれは大変でしたなあ。
　さすれば、国王陛下から直々じきじきに褒賞ほうしょうをいただけると言うことですな。
　しかもアスナまで」

「私は、傍そばに居ただけだから、もし褒賞を賜っても辞退しようと思っているけど、陛下直々のお招きなので、謁見を断る訳にはいかないのよ」

「なるほどな…、ところでハヤミ様のご領地で商売に繋がる物は何か見つかったのか？」

「ええ、色々あったと言うか、あり過ぎて逆に大変なの」
　今度はアスナが商売に繋がるネタを父親に説明した。
　オレの領地で採れる農畜産物のうち、余剰となる分をリストアップしてあること。
　その他に湖で釣れる虹鱒の燻製や、ワイン、ウィスキー、日本酒、焼酎などの酒類、チーズ、バターなどの乳製品、ハム、ソーセージなどの畜産加工品を一定量取引可能であることを報告した。
　そして使っていない客室を利用した滞在型リゾート計画を検討しており、課題である交通問題解決のため女神に協力を求め、飛行船を購入したこと。
　通信手段としてパソコンとスマホ、ネットワーク環境も手に入れ、リゾート運営のための会社を２人が共同出資して設立したことを説明した。

「確かに色々あり過ぎて頭が付いて行かんな。
　会社を設立したって言うけど誰が出資したんだ？」

「それは私の個人資産から出すから、パパは口出ししないでね。
　でも、バレンシア商会の利益にも繋がる話だから協力はお願いね」

「ずいぶん都合のいい話だが、まあ、お前がそう言うんなら、やってみるがいい」

「それで今夜は、カイトを我が家へ泊めてあげて欲しいの」

「そうか、それじゃ、人数分の部屋を用意して上げなさい。
　ハヤミ様、皆さんも遠慮なく我が家にお泊まり下さい。
　ところで、明日は何時に王宮に行かれる予定なのです？」

「使者の話では、午前１１時に来て欲しいとのことでした」

「という事は昼前だから、昼食をご一緒するのですかな」
　なるほど、それでこの時間に呼んだのか。

　その夜は、バレンシア家で夕食をご馳走になった。
　王都の名物料理や珍しい美食の数々が並んだ。

　その席でリカール・バレンシアは上機嫌でオレにこう言った。
「ハヤミ様、アスナが一方ならぬお世話になったようですな…
　当家とは、今後とも末永いお付き合いを宜しくお願いします」

　リカール・バレンシアが言った「一方ならぬ」とは、どういう意味なのか分からなかったが、よくよく考えてその意味が分かった。
　恐らくオレとアスナが馴れ馴れしく話すのを見て、これは男の女の関係になったなと感づいたのだろう。
　バレンシア商会当主、恐るべしである。