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第3章 王女ジェスティーナの救出

第36話 戦勝の宴

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 ルイス・エルスタインは朝から緊張していた。
 この館のあるじから盗賊団討伐の戦勝の宴に招待されたからだ。

 ソランスター王国のしがない男爵家の4男として生まれ、家督の相続などはなから諦めていた。
 しかし生まれ持った頑健な体と幼い頃から鍛えた剣の腕に加え、たゆまぬ努力が実を結び、若くして東北方面国境守備隊長と言う名誉ある地位を手に入れたのだ。
 国王陛下から250人の国境守備隊を預かる重要な任務を任されたのは、何ものにも代えがたく、身に余る光栄であると思っていた。

 そこに降って湧いたかのような王女殿下襲撃の報、最初は半信半疑だったが、数日前、王女殿下が隣国訪問のため出国したのを思い出した。
 これは一大事、国境守備どころではないと、ほぼ全ての国境守備兵を独断で王女殿下救出のために派遣したのだ。
 幸い、王女殿下は、勇敢な男とその仲間に救われ、安全な場所で保護されていると聞いた。
 その報に一安心したが現場に着いてみると、王室の紋が入った白い馬車は横転し、泥まみれ。
 王女を守るべく勇敢に戦った王国兵の亡骸なきがらは、そのまま放置され無残な状態だった。

 その後、女神フィリアの加護を受けたカイトと言う男の秘策により、捕虜の女性兵士、女官の他、周辺村落の女性たちを無傷で救出し、盗賊団をほぼ壊滅状態に追い込むことが出来た。

 自分はただ与えられた任務を全うしただけであるが、恐れ多くも王女殿下が出席する宴に自分が同席して良いのだろうかと未だに考えあぐねていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 盗賊団討伐の翌日、オレは戦勝の宴をメインダイニングで開催した。
 最初に現れたのは軍服に身を包んだルイス・エルスタインであった。
 彼は着席しても、なお緊張している様子だ。

 遅れてジェスティーナ王女殿下とアスナ・バレンシア、ステラ・リーンの3人がメインダニングに現れた。
 イブニングドレス姿で現れた3人の女性は、それぞれ違った美しさがあり、思わず見とれてしまうほどであった。

 S級冒険者のステラ・リーンは、いつもの勇ましいアーマードレスではなく、スカイブルーのイブニングドレス姿で、清楚で気品漂う正に伯爵令嬢といった感じの装いだった。
 腰までの長い金色の美しい髪、サファイアブルーの瞳、見とれてしまうほど美しい顔立ちで大人びてはいるが、まだ実は17歳なのである。
 これで男嫌いでなければとオレは思った。

 アスナ・バレンシアは、淡いピンクのイブニングドレスに身を包み、背中までのブラウンカラーの髪、理知的に輝く大きな黒い瞳で笑顔が魅力的だ。
 バレンシア家の長女であり、18歳と言う若さながら、バレンシア商会副当主を努める才媛で、父親譲りの商才と冷静さに加え、人を魅了する力を持っている。
 こうして着飾ったアスナも中々に魅力的だとオレは思った。

 ジェスティーナ王女は純白のイブニングドレスの胸元に真紅の薔薇をあしらい、艶やかでサラサラな腰までの金色の髪を束ね、ハイポジションのポニーテールにしていた。
 気品の中に知性を感じさせるエメラルドブルーの瞳、16歳という若さに加え、細身ながら均整の取れたスタイルで、その顔立ちは可憐で愛らしく、ひと目見ただけで、思わず息を飲むほどの超絶美少女なのである。

 彼女はソランスター国民から『美の女神』と呼ばれているとルイスが教えてくれた。
 王女のポーニーテール姿はポニーテールフェチのオレには眼福の極みだ。

「さあ、どうぞこちらへ」
 オレは3人の美女をエスコートし、席へ案内した。

 その途中、ルイス・エルスタインは王女の前にひざまずき、臣下の礼をとった。
此度こたびは、図らしずも王女殿下と同席の栄誉を賜り、身に余る光栄に存じます」

 ジェスティーナ王女は苦笑しながらルイスに言った。
「ここは王国ではありませんから、儀礼的なことは省略しても良いのです。
 それに、あなたも功労者なのですから、堂々と胸を張って居れば宜しいのですよ」
 そうは言われたものの、王女と同じテーブルに座り、ルイス・エルスタインは相変わらず緊張したままだった。

 他の4つのテーブルには、今回の作戦に参加した20人ほどの将校が座り、オレたちのいるメインテーブルを注視していた。
 一般の兵士たちには、仮設テントの中で酒と料理が振る舞われている頃だろう。

 全員が席に着いたところで、オレが立ち上がった。
「皆さん、私はこの館の主、ハヤミ・カイトと申します。
 本日はジェスティーナ王女殿下並びに捕虜となった方々の救出と盗賊団討伐の戦勝を祝い、皆さんをねぎらう会ですから、存分にお楽しみ下さい」

「乾杯の前に、今回の戦闘で勇敢に戦い、惜しくも戦死された方々の為に黙祷したいと思います」
 オレの合図で出席者一堂は立ち上がり、神妙な面持ちで戦死者に1分間の黙祷を捧げた。

「それでは、乾杯したいと思いますので皆様グラスをお持ち下さい」
 オレの言葉に出席者はグラスを持った。
「ジェスティーナ王女殿下と従者の方々の無事救出、並びに盗賊団討伐の戦勝を祝ってカンパーイ!」
 オレの発声に出席者全員が、カンパーイと唱和し、周りの人達とグラスを合わせた。
 グラスを置くと会場には、万雷の拍手が鳴り響いた。

 乾杯のセレモニーが終わると、ソニアが合図し、メイドたちが料理を運んできた。
 前菜、次にスープ、魚料理、肉料理などが次々と運ばれて来た。
「今日は、この領地で採れる野菜や肉、魚を使ったオリジナル料理をお楽しみ下さい」
 その料理を見て女性たちは『美味しそう』と目を輝かせている。

「今回の討伐作戦は予想以上に上手うまく行きましたね」
 ルイスの緊張をほぐそうと、オレが声をかけた。

「はい、予想以上の効果で私も驚いております。
 兵の損耗も少なく、盗賊を一網打尽にできて言うことなしです。
 特にハヤミ様が思いついた煙幕作戦は上手く行きました」

「あ~、あれですか、あれは思いつきと言うか、ちょっとした閃きです」
 オレは照れながら言った。

「あの作戦はハヤミ様がお考えになったのですか?」
 ジェスティーナ王女が興味深げに聞いた。

「あ~、あれは女神のアイテムの中に『煙幕弾』と言うのがあったので、それと朝に陸地から海へと向かって吹く『朝風』と言う現象を組み合わせれば、効果的だと思ったんです」

「なるほど、そういう自然現象をご存知だったのですね」
 ジェスティーナ王女は、オレの発想に感心していた。

「カイトさま、素晴らしいアイデアです」
 アスナも追随して褒めちぎった。

「今回の作戦に点数を付ければ、100点満点で95点は付けられますね」とルイスは上機嫌で答えた。

「それにしても、王女殿下は王国外であるあの場所に何故いらっしゃったんですか?」
 オレがジェスティーナ王女に疑問を聞いてみた。

「私はあの日、国王陛下の命によりデルファイ公国へ赴く途中で、思いもよらず盗賊団に襲われたのです」
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