11 / 15
最弱勇者とマナーとシェイミー
しおりを挟む
シェイミーは思った。
マナーちゃん…思ったより強い…
◇
訓練とは名ばかりの、シェイミーの斬撃がマナーの頬をかする。
少し湿ったカタナ。しかし、本来赤く染まるはずのカタナはその刀身の淡い銀色を保っていた。
最初は避けることも叶わなかったマナーはたったの数時間でさシェイミーの斬撃を読みきっていた。
俺の目から見ると分かる。マナーはレベルは上がっていた。少し前とは大違いなほど。
しかし少しレベル上がったとしてもシェイミーには到底及ばず、そのステータスも貧弱な物であった。確かに、マナーの素早さは高い。俺なんかよりもずっと潜在能力があるんじゃないかと思う。
しかしそれでもシェイミーのほうが遥かに強かったし、素早さもマナーより数倍高い。
しかしマナーはその斬撃を見事に避けて見せたのだ。一度や二度じゃない。
おそらくマナーはこの数時間でシェイミーの斬撃の起動や、その癖を読んだのだろう。俺や他の人にはきっとできない頭脳戦がマナーの強さを物語っていた。
「マナーちゃんすごいね…」
シェイミーも若干呆然としていた。
それを見たとき、俺は悟った。
あぁ…わかったぞ…この世界…マナーが主人公なんだ……
性懲りもなくそんなことを考えていた俺だが、それでも全く悪い気分はしなかった。今の俺の中ではマナーが一番大切なんだ。素直にそう思えた俺は嬉しかった。マナーは俺の家族だ。まだ出会って3日位しかたってないけど。
素晴らしい才能を持ってるマナー。経験したことの無いことをそつなくこなせるマナー。
俺はこの瞬間心に決めた。マナーを誰よりも強い素晴らしい勇者にしよう。無表情な顔を表現豊かにして、誰よりも高い感受性を持った優しい子に育てよう。
もともと一度終わった人生だ。どうしてこうなったかは知らないが、運良く二度目の人生を手に入れることが出来た。一回目で失敗してきたこと、自分勝手に生きてきた人生をやり直そう。運良く出会った小さな子供を立派に育てて見せよう。魔王だって倒してやる。
俺が人生で初めてできた目標だ。
「な、なにブツブツ言ってるんですか……」
シェイミーが怪訝な目で俺を見てきた。
きっと今の俺はうずくまってマナーどうとか目標がどうとか言ってる変態に見えるのだろう。
「マナーすげぇぞー!」
「最強?」
「あぁ!お前なら最強になれるぞ!」
「わーい!」
そう言ったとき、シェイミーの声が聞こえた。
「__一悶着あったとはいえ、ほぼ初対面の年下に負けるわけには行けませんね」
その瞬間シェイミーのポニーテールが赤く燃え上がった。
身体中から空気を震撼させるほどの熱気が上がる。
おぉ……俺の体力が減ってく減ってく。
「少し本気で行きます」
その時、俺に向けられた攻撃じゃないと知っていても走馬灯が見えた。
これは……現世の記憶……現世?
「あ、現世に帰るって目標あったわ」
マナーどうしよ……連れていこうかな……日本。
◇
「……大丈夫でしょうかマナーちゃん」
大人げないことをしてしまいました……
このままでは一本取られてしまいそうだったのでつい本気で応戦してしまいした……
あれはお父さんが私に教えてくれた奥義。極力加減はしましたが本来人間にする技ではありません。
ごめんなさいお父さん。
「あ……マナーちゃん大丈夫?」
真っ黒に焦げた服を見ながらマナーちゃんは呆然としていました。
「……痛い……うぇぇ……うえぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「ま、また泣かせちゃた……」
こうなってしまってはこれから数時間は鳴き始める。
カグラさんに頼もうと思ったけれど何か朝から感傷に浸って清々しい顔で目標がどうのとか人生がどうのとか言っちゃってるし、どうしたものか……
いろいろマナーちゃんを宥める方法考えてみたけど、私にはこれしか思い付かなかった。
「マナーちゃん。一旦訓練休憩してなんか美味しいもの食べにいこうか」
「…………や!カグラと行く!」
「えぇぇ……私もつれてってよ……」
マナーちゃんと仲良くなるにはまだまだ時間がいりそうです。
◇
事態は水面下で動き始める。
大きな闇がアルティカーナに進行を始めた。
巨大な剣を持った魔物は叫んだ。
「これから!アルティカーナに向かって進撃を開始する!やり残したことはないか!」
化け物は聞いた。巨大な軍勢の応答が空気を震撼させる。
「それでは行くぞ!今こそ人間達に復讐をするときだ!」
この世界《自由な世界》では、主に強国として五つの国が君臨している。それらの国は他の国を束ね、大陸を支配していた。
しかし、そのなかに何一つとして、魔物の束ねる国は存在しなかった。
その昔、世界を支配していた大国、ベルシードは魔物の国であった。
高い知能に、凄まじい身体能力。一部は特殊な力まで持ち合わせていた。
そう、この世界はもともと魔物の支配していた世界だったのだ。
人間達はその強力な力を持った魔物達に怯え、その大半は奴隷として扱われていた。
人間待遇ではない重労働のせいでその数は日に日に減っていった。
しかし人間は諦めなかった。
いつ死ぬかもわからない極限の世界の中で、人間達はある強力な大魔法を発明した。
その魔法は、形成を逆転するのには十分な力があった。
そして、人間達はその大魔法を使用し、魔物達を駆逐していった。
そうして、世界は人間達が支配する《自由な世界》となった。
◇
シェイミーが宿と言い張る要塞に泊まって、一日目の朝がたっていた。
昨日と同じ、少し狭いコンクリートの部屋で俺は考え事をしている。
_______いやいやいや、何転生して四日目にして自分に見切りつけてんだよ。諦めんの早いだろ。
「このままじゃずっと幼女の紐じゃねぇか」
「?カグラ、どうしたの」
やべぇよ。幼女マナーに心配されちまってるよ。異世界転生で幼女を守るのは最強の勇者様しかいねぇだろうが。
くそ、何だかんだ言って俺の読んだネット小説ではみんな強かったぞこん畜生。
何で俺だけこんな弱いんだよ!
大体なんだこれは。まずこの世界に来た時点でおかしいんだよ。
神様もなんも出て来ねぇじゃねぇか。神様の失敗で転生した訳じゃねぇのかよ。
つかだったら俺は神様の失敗とか関係なしに運命で軽トラに轢き殺されたのかよ。
かわいそすぎるだろ。店出た瞬間ドーンとかかわいそすぎるだろ。
死んで転生だったら赤ちゃんからだろ。そうじゃなかったらパソコンに吸い込まれたりするだろ!
しかし、俺は今こうして生きている。それは紛れもない事実だ。
「ああああああ!!ここはどこだ!この世界はなんだ!俺は一体どこにいったんだ!」
「カカカカグラ!?どうしたの!?」
「カグラさんがおかしくなった……?え、衛生兵ー!」
「うおおおおお!何で俺はスライムより弱いんだあぁぁぁぁあ!うおおおおお!!」
「カグラアァァァァァア!!」
「グハァ!?マ、マナー……俺は、一体……」
「うえぇぇぇぇぇぇぇ……」
マナーの涙混じりの叫び声(物理)に俺は正気を取り戻した。マナーはいつも無表情だった顔を悲しみに染めている。
いかん、冷静になれ、俺。めっちゃ腹痛い肋骨折れたかも。
そうだ。冷静に考えればわかるはずだ。
いいか、俺は軽トラに轢き殺された。
でも俺はその時何か買ったものがあるだろう。そうだ。《自由な世界》をプレイするための専用ソフトだ。
俺は転生した時、《自由な世界》にはいってしまった。って自分で考察してただろう。
きっとこの世界が《自由な世界》なのは間違いないだろう。メニューのシステムも存在する町や国も《自由な世界》にそっくりだ。
だが、一つだけ《自由な世界》とは違った所があった。
マナーのいた町だ。
あんな町、俺はゲームの中で見たことはない。
主人公が迷いこんだ世界で元の世界に戻りためにはどうすればいい?
そう、その世界の謎を解くことだ。もしくは、元凶を倒したり、最初っから異世界から現世に帰る為にすることが指定されていたりするかもしれない。
恐らく俺は前者なのだろう。
この世界の謎……そもそも《自由な世界》が俺にとってただのゲームだったときから謎なのだ。
大きすぎる大陸。多すぎる武器やクエスト。
そんな世界の謎を解き明かすには……痛い、痛い、頭突き食らった所に頭を押し付けないで。
「びえぇぇぇぇぇぇえ……かぐらぁ…かぐらぁ……」
「マナー…」
マナーの泣き声で思考が止まった。
いつだってマナーが最優先だ。抱きついてくれるのはすっげぇ嬉しいけどいつも身長的に頭突きする形になるからマナーが泣いてるんだったら先ずはマナーを泣き止ませないと俺の身が持たん。
「カグラさん……何があったか知らないですけど、マナーちゃんを泣かしてしまうのは止めてください。まぁ、私が言うのも何ですけどね」
「す、すいませんシェイミーさん……」
シェイミーの威圧が俺の体力を減らす。最強の人間の子供は威圧で体力を減らすのか……
あぁダブルアタックはやばい。俺の体力が減る速度が約二倍に!
__もう残り9しか残ってねぇじゃねぇか!やべぇ!死ぬ!
「マナー、悪い…いきなり怒鳴ったりして………だからもうちょっと優しくな?」
「かぐらぁ……」
少し落ち着いてきたのか、抱き締める力が弱くなり余裕が出来た俺はマナーの頭を優しく撫でた。
風呂に入って綺麗になった金色の髪の毛は鮮やかに光を反射して美しく輝く。
ちなみにマナーは夜9時に寝た。夜になると眠たくなるとかマナー大好き。
「ごめんマナー。ごめんな」
「うぅ……ぐすっ」
俺を抱き締める力が強くなる。また死ぬほど痛くなってきたが、ぐっと堪えて抱き締め返した。
小さいマナーは抱き締めやすい。
と、こんなことをしているとシェイミーが変な表情で俺たちを見てきた。
「はぁ、本当に二人は会って四日しかたってないんでしょうか……」
「「たってない」」
「……そうですか」
シェイミーはまた何か変な表情になって俺たちを見てきた。
何かおかしいこと言っただろうか。ふむ……
「じゃあマナー、これから一緒に美味しい物でも食べに行こうか」
「うん!」
「う~ん……」
何だか釈然としないシェイミーの表情を横目に見て俺はラッキーエンジェルを装備し直しながら外に出ていった。
◇
二人が訓練所から出ていった後も、シェイミーは釈然としない表情をしていた。
「う~ん……」
実際にはなんも考えていない。ただ、どこか納得できないのだろう。
出会って四日しかたっていない二人の絆に嫉妬でも称賛でもない何かがあるようだ。
「まぁ、いっか……そんなことより」
シェイミーの顔が途端に真剣な表情になる。
それにあわせるかのように大きな警報が鳴り響いた。
すると、奥の方から顔に大きな傷をおった軍人がシェイミーに向かって歩いてきた。
「シェイミー様」
「はい。わかっています。命知らずがこの要塞に攻め込みに来たようですね」
「今は大将が不在ですがどうしましょう」
「何のために副将がいるんですか?貴方が命令すれば良いじゃないですか」
皮肉混じりにシェイミーは言う。
マナー達といるときとは全く違う軍人の顔に場の空気が引き締まる。
「わかりました。大将が到着するまで持ちこたえて見せましょう」
「そうですか。では、私も行きますか」
「え、シェイミー様もお出になるのですか?」
「大将の娘ですから。一人だけ要請の中で避難するなんて父の流儀に反します」
「で、ですが······」
「大丈夫です。私だって伊達に訓練してきてませんよ。それに、私はこの要塞の強さをよく知っています。私が出ずとも勝てるでしょう」
「しかし、敵の戦力などまだ良くわかっていません。わかっているのは敵が魔物ということくらいですし……大将がどこにいるかもまだわかっていないんですよ!」
「あれ、きいていなかったんですか?私は父の仕事でここにきたんですよ」
「そ、それが、どうしたんですか?」
「父が来れば、必ず形成は変わります。私が父の仕事の関係でここにやって来たのなら、少なくともこの都市の中に父は居るので、要塞で戦いなんかが始まったら嫌でも気付いて応援に来てくれるでしょう」
「そうだったんですか。部下からはシェイミー様がいらっしゃったとしか聞いておりませんでした」
「私はそれよりも父がちゃんと応援に駆けつけてくれるかが心配ですよ」
「それもそうですね」
「じゃあ、私は民間人を一時避難させておきますので、必要になったら呼んでください」
男は感嘆する。流石は最強の人間の娘といったところか。おおよそまだ成人にもなっていないはずの少女の動きはすでに軍人だった。これから起こる戦いについての推測。恐らくこの少女にはずっと先の未来が見えているのだろう。
男はこれから何処までも成長していく天才にある種の恐怖を覚えながら指令室に入っていった。
マナーちゃん…思ったより強い…
◇
訓練とは名ばかりの、シェイミーの斬撃がマナーの頬をかする。
少し湿ったカタナ。しかし、本来赤く染まるはずのカタナはその刀身の淡い銀色を保っていた。
最初は避けることも叶わなかったマナーはたったの数時間でさシェイミーの斬撃を読みきっていた。
俺の目から見ると分かる。マナーはレベルは上がっていた。少し前とは大違いなほど。
しかし少しレベル上がったとしてもシェイミーには到底及ばず、そのステータスも貧弱な物であった。確かに、マナーの素早さは高い。俺なんかよりもずっと潜在能力があるんじゃないかと思う。
しかしそれでもシェイミーのほうが遥かに強かったし、素早さもマナーより数倍高い。
しかしマナーはその斬撃を見事に避けて見せたのだ。一度や二度じゃない。
おそらくマナーはこの数時間でシェイミーの斬撃の起動や、その癖を読んだのだろう。俺や他の人にはきっとできない頭脳戦がマナーの強さを物語っていた。
「マナーちゃんすごいね…」
シェイミーも若干呆然としていた。
それを見たとき、俺は悟った。
あぁ…わかったぞ…この世界…マナーが主人公なんだ……
性懲りもなくそんなことを考えていた俺だが、それでも全く悪い気分はしなかった。今の俺の中ではマナーが一番大切なんだ。素直にそう思えた俺は嬉しかった。マナーは俺の家族だ。まだ出会って3日位しかたってないけど。
素晴らしい才能を持ってるマナー。経験したことの無いことをそつなくこなせるマナー。
俺はこの瞬間心に決めた。マナーを誰よりも強い素晴らしい勇者にしよう。無表情な顔を表現豊かにして、誰よりも高い感受性を持った優しい子に育てよう。
もともと一度終わった人生だ。どうしてこうなったかは知らないが、運良く二度目の人生を手に入れることが出来た。一回目で失敗してきたこと、自分勝手に生きてきた人生をやり直そう。運良く出会った小さな子供を立派に育てて見せよう。魔王だって倒してやる。
俺が人生で初めてできた目標だ。
「な、なにブツブツ言ってるんですか……」
シェイミーが怪訝な目で俺を見てきた。
きっと今の俺はうずくまってマナーどうとか目標がどうとか言ってる変態に見えるのだろう。
「マナーすげぇぞー!」
「最強?」
「あぁ!お前なら最強になれるぞ!」
「わーい!」
そう言ったとき、シェイミーの声が聞こえた。
「__一悶着あったとはいえ、ほぼ初対面の年下に負けるわけには行けませんね」
その瞬間シェイミーのポニーテールが赤く燃え上がった。
身体中から空気を震撼させるほどの熱気が上がる。
おぉ……俺の体力が減ってく減ってく。
「少し本気で行きます」
その時、俺に向けられた攻撃じゃないと知っていても走馬灯が見えた。
これは……現世の記憶……現世?
「あ、現世に帰るって目標あったわ」
マナーどうしよ……連れていこうかな……日本。
◇
「……大丈夫でしょうかマナーちゃん」
大人げないことをしてしまいました……
このままでは一本取られてしまいそうだったのでつい本気で応戦してしまいした……
あれはお父さんが私に教えてくれた奥義。極力加減はしましたが本来人間にする技ではありません。
ごめんなさいお父さん。
「あ……マナーちゃん大丈夫?」
真っ黒に焦げた服を見ながらマナーちゃんは呆然としていました。
「……痛い……うぇぇ……うえぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「ま、また泣かせちゃた……」
こうなってしまってはこれから数時間は鳴き始める。
カグラさんに頼もうと思ったけれど何か朝から感傷に浸って清々しい顔で目標がどうのとか人生がどうのとか言っちゃってるし、どうしたものか……
いろいろマナーちゃんを宥める方法考えてみたけど、私にはこれしか思い付かなかった。
「マナーちゃん。一旦訓練休憩してなんか美味しいもの食べにいこうか」
「…………や!カグラと行く!」
「えぇぇ……私もつれてってよ……」
マナーちゃんと仲良くなるにはまだまだ時間がいりそうです。
◇
事態は水面下で動き始める。
大きな闇がアルティカーナに進行を始めた。
巨大な剣を持った魔物は叫んだ。
「これから!アルティカーナに向かって進撃を開始する!やり残したことはないか!」
化け物は聞いた。巨大な軍勢の応答が空気を震撼させる。
「それでは行くぞ!今こそ人間達に復讐をするときだ!」
この世界《自由な世界》では、主に強国として五つの国が君臨している。それらの国は他の国を束ね、大陸を支配していた。
しかし、そのなかに何一つとして、魔物の束ねる国は存在しなかった。
その昔、世界を支配していた大国、ベルシードは魔物の国であった。
高い知能に、凄まじい身体能力。一部は特殊な力まで持ち合わせていた。
そう、この世界はもともと魔物の支配していた世界だったのだ。
人間達はその強力な力を持った魔物達に怯え、その大半は奴隷として扱われていた。
人間待遇ではない重労働のせいでその数は日に日に減っていった。
しかし人間は諦めなかった。
いつ死ぬかもわからない極限の世界の中で、人間達はある強力な大魔法を発明した。
その魔法は、形成を逆転するのには十分な力があった。
そして、人間達はその大魔法を使用し、魔物達を駆逐していった。
そうして、世界は人間達が支配する《自由な世界》となった。
◇
シェイミーが宿と言い張る要塞に泊まって、一日目の朝がたっていた。
昨日と同じ、少し狭いコンクリートの部屋で俺は考え事をしている。
_______いやいやいや、何転生して四日目にして自分に見切りつけてんだよ。諦めんの早いだろ。
「このままじゃずっと幼女の紐じゃねぇか」
「?カグラ、どうしたの」
やべぇよ。幼女マナーに心配されちまってるよ。異世界転生で幼女を守るのは最強の勇者様しかいねぇだろうが。
くそ、何だかんだ言って俺の読んだネット小説ではみんな強かったぞこん畜生。
何で俺だけこんな弱いんだよ!
大体なんだこれは。まずこの世界に来た時点でおかしいんだよ。
神様もなんも出て来ねぇじゃねぇか。神様の失敗で転生した訳じゃねぇのかよ。
つかだったら俺は神様の失敗とか関係なしに運命で軽トラに轢き殺されたのかよ。
かわいそすぎるだろ。店出た瞬間ドーンとかかわいそすぎるだろ。
死んで転生だったら赤ちゃんからだろ。そうじゃなかったらパソコンに吸い込まれたりするだろ!
しかし、俺は今こうして生きている。それは紛れもない事実だ。
「ああああああ!!ここはどこだ!この世界はなんだ!俺は一体どこにいったんだ!」
「カカカカグラ!?どうしたの!?」
「カグラさんがおかしくなった……?え、衛生兵ー!」
「うおおおおお!何で俺はスライムより弱いんだあぁぁぁぁあ!うおおおおお!!」
「カグラアァァァァァア!!」
「グハァ!?マ、マナー……俺は、一体……」
「うえぇぇぇぇぇぇぇ……」
マナーの涙混じりの叫び声(物理)に俺は正気を取り戻した。マナーはいつも無表情だった顔を悲しみに染めている。
いかん、冷静になれ、俺。めっちゃ腹痛い肋骨折れたかも。
そうだ。冷静に考えればわかるはずだ。
いいか、俺は軽トラに轢き殺された。
でも俺はその時何か買ったものがあるだろう。そうだ。《自由な世界》をプレイするための専用ソフトだ。
俺は転生した時、《自由な世界》にはいってしまった。って自分で考察してただろう。
きっとこの世界が《自由な世界》なのは間違いないだろう。メニューのシステムも存在する町や国も《自由な世界》にそっくりだ。
だが、一つだけ《自由な世界》とは違った所があった。
マナーのいた町だ。
あんな町、俺はゲームの中で見たことはない。
主人公が迷いこんだ世界で元の世界に戻りためにはどうすればいい?
そう、その世界の謎を解くことだ。もしくは、元凶を倒したり、最初っから異世界から現世に帰る為にすることが指定されていたりするかもしれない。
恐らく俺は前者なのだろう。
この世界の謎……そもそも《自由な世界》が俺にとってただのゲームだったときから謎なのだ。
大きすぎる大陸。多すぎる武器やクエスト。
そんな世界の謎を解き明かすには……痛い、痛い、頭突き食らった所に頭を押し付けないで。
「びえぇぇぇぇぇぇえ……かぐらぁ…かぐらぁ……」
「マナー…」
マナーの泣き声で思考が止まった。
いつだってマナーが最優先だ。抱きついてくれるのはすっげぇ嬉しいけどいつも身長的に頭突きする形になるからマナーが泣いてるんだったら先ずはマナーを泣き止ませないと俺の身が持たん。
「カグラさん……何があったか知らないですけど、マナーちゃんを泣かしてしまうのは止めてください。まぁ、私が言うのも何ですけどね」
「す、すいませんシェイミーさん……」
シェイミーの威圧が俺の体力を減らす。最強の人間の子供は威圧で体力を減らすのか……
あぁダブルアタックはやばい。俺の体力が減る速度が約二倍に!
__もう残り9しか残ってねぇじゃねぇか!やべぇ!死ぬ!
「マナー、悪い…いきなり怒鳴ったりして………だからもうちょっと優しくな?」
「かぐらぁ……」
少し落ち着いてきたのか、抱き締める力が弱くなり余裕が出来た俺はマナーの頭を優しく撫でた。
風呂に入って綺麗になった金色の髪の毛は鮮やかに光を反射して美しく輝く。
ちなみにマナーは夜9時に寝た。夜になると眠たくなるとかマナー大好き。
「ごめんマナー。ごめんな」
「うぅ……ぐすっ」
俺を抱き締める力が強くなる。また死ぬほど痛くなってきたが、ぐっと堪えて抱き締め返した。
小さいマナーは抱き締めやすい。
と、こんなことをしているとシェイミーが変な表情で俺たちを見てきた。
「はぁ、本当に二人は会って四日しかたってないんでしょうか……」
「「たってない」」
「……そうですか」
シェイミーはまた何か変な表情になって俺たちを見てきた。
何かおかしいこと言っただろうか。ふむ……
「じゃあマナー、これから一緒に美味しい物でも食べに行こうか」
「うん!」
「う~ん……」
何だか釈然としないシェイミーの表情を横目に見て俺はラッキーエンジェルを装備し直しながら外に出ていった。
◇
二人が訓練所から出ていった後も、シェイミーは釈然としない表情をしていた。
「う~ん……」
実際にはなんも考えていない。ただ、どこか納得できないのだろう。
出会って四日しかたっていない二人の絆に嫉妬でも称賛でもない何かがあるようだ。
「まぁ、いっか……そんなことより」
シェイミーの顔が途端に真剣な表情になる。
それにあわせるかのように大きな警報が鳴り響いた。
すると、奥の方から顔に大きな傷をおった軍人がシェイミーに向かって歩いてきた。
「シェイミー様」
「はい。わかっています。命知らずがこの要塞に攻め込みに来たようですね」
「今は大将が不在ですがどうしましょう」
「何のために副将がいるんですか?貴方が命令すれば良いじゃないですか」
皮肉混じりにシェイミーは言う。
マナー達といるときとは全く違う軍人の顔に場の空気が引き締まる。
「わかりました。大将が到着するまで持ちこたえて見せましょう」
「そうですか。では、私も行きますか」
「え、シェイミー様もお出になるのですか?」
「大将の娘ですから。一人だけ要請の中で避難するなんて父の流儀に反します」
「で、ですが······」
「大丈夫です。私だって伊達に訓練してきてませんよ。それに、私はこの要塞の強さをよく知っています。私が出ずとも勝てるでしょう」
「しかし、敵の戦力などまだ良くわかっていません。わかっているのは敵が魔物ということくらいですし……大将がどこにいるかもまだわかっていないんですよ!」
「あれ、きいていなかったんですか?私は父の仕事でここにきたんですよ」
「そ、それが、どうしたんですか?」
「父が来れば、必ず形成は変わります。私が父の仕事の関係でここにやって来たのなら、少なくともこの都市の中に父は居るので、要塞で戦いなんかが始まったら嫌でも気付いて応援に来てくれるでしょう」
「そうだったんですか。部下からはシェイミー様がいらっしゃったとしか聞いておりませんでした」
「私はそれよりも父がちゃんと応援に駆けつけてくれるかが心配ですよ」
「それもそうですね」
「じゃあ、私は民間人を一時避難させておきますので、必要になったら呼んでください」
男は感嘆する。流石は最強の人間の娘といったところか。おおよそまだ成人にもなっていないはずの少女の動きはすでに軍人だった。これから起こる戦いについての推測。恐らくこの少女にはずっと先の未来が見えているのだろう。
男はこれから何処までも成長していく天才にある種の恐怖を覚えながら指令室に入っていった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
超越者となったおっさんはマイペースに異世界を散策する
神尾優
ファンタジー
山田博(やまだひろし)42歳、独身は年齢制限十代の筈の勇者召喚に何故か選出され、そこで神様曰く大当たりのチートスキル【超越者】を引き当てる。他の勇者を大きく上回る力を手に入れた山田博は勇者の使命そっちのけで異世界の散策を始める。
他の作品の合間にノープランで書いている作品なのでストックが無くなった後は不規則投稿となります。1話の文字数はプロローグを除いて1000文字程です。
英雄転生~今世こそのんびり旅?~
ぽぽねこ
ファンタジー
魔王の手によって蝕まれていた世界を救いだした“英雄”は“魔王”との戦いで相討ちに終わってしまう。
だが更なる高みの『異界』に行く為に力を振り絞って己の身に〈転生〉の魔法を掛けて息絶えた。
数百年が経ったある日“英雄”は田舎で暮らす家庭に生まれる。
世界の変化に驚きつつ、前世では出来なかった自由な旅をしたいと夢を見る。
だが元英雄だけあり力がそのままどころか更に規格外の力が宿っていた。
魔法学園でもその力に注目を置かれ、現代の“英雄”の父親にも幼いにも関わらず勝利してしまう程に。
彼は元“英雄”だと果たしてバレずに旅を満喫できるのだろうか……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
不定期更新になるかもしれませんが、お気に入りにして頂けると嬉しいです。
コメントもお待ちしています。
作者の都合により更新できる時間がなかったので打ちきりになります。ごめんなさい。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です
途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。
ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。
前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。
ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——
一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——
ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。
色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから!
※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください
※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる