神様に加護2人分貰いました

琳太

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9巻

9-2

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「二人とも、とりあえず中に入って」
「……」
「……お邪魔します」

 牧野は無言で、雪音はおそるおそる声をかけて入っていった。
 二人は家の中をキョロキョロと見回している。

「男の一人暮らしってわけじゃないからかしら。仲間がいるんだし」
綺麗きれいに片づいてて、風舞輝らしくない」

 いやそうかもしれないけど……うちにはスーパー家政婦――いやスーパー執事かな――なチャチャがおりますゆえ。

「さあさあ、みなさまこちらに。お茶とお菓子をご用意しましたので、お召し上がりください」

 チャチャが示すテーブルの上にはクレープやらクッキーやら、いろいろ並べられていた。

「「いっただきまーす」」

 すでにテーブルについていたルーナとツナデが先に食べはじめた。
 牧野と雪音も恐々と椅子に座る。そして目の前に並んだ、現代日本と遜色そんしょくないスイーツに目がくぎづけになっていた。

「食べて」

 俺が勧めると、二人はカトラリーを手に持ち、ゆっくりとクレープを切り分け口にする。
 ルーナやツナデのように手掴みじゃないんだな。

「甘い」

 牧野が口の中のクレープをみ込むと、小さくつぶやいた。
 クレープを口にした途端、雪音が両目からポロポロと涙をこぼす。泣き出した彼女にあせる。

「どどど、どうした、雪音」
「うう、ぐずっ、おいひい、おいひいよぶぶぎ」

 あわてて雪音の背中をでる。ルーナもツナデも、クレープを食べる手が止まっていた。

「スーレリア王国からの逃亡生活じゃあ、甘味なんてなかなか口にできなかったから」

 牧野が雪音の泣き出した理由を説明した。
 それだけじゃない。甘味はこの世界では高級品だった。チャチャでさえ、俺が教えるまで甘味のレシピはあまり知らなかった。だが、今じゃそんなレシピの数々も魔改造されて、俺が教えたのかどうかわからないくらいの品になっている。
 まあ、砂糖が日本の真っ白な上白糖で、しかも無制限で使えるからっていうのはある。
 俺のつたない説明でチャチャが理解できるのかと思ったけど、《調理》スキルのおかげで、俺自身のレシピの理解力が上がっているようだ。こちらの世界の食材に置き換えるのが難しくても、そこをチャチャはうまく調整してくれて、現代日本ばりの料理を出してくれる。スーパー家精霊ブラウニーありがたや。

「そっか、そうだったか。チャチャ、他のも出して。雪音も牧野も遠慮しないで食べてくれ」

 チャチャは、フルーツゼリーやハチミツたっぷりパンケーキなんかもテーブルに並べていった。
 俺のお願いに「もうすぐ夕食なんですが」と言いつつ、二人の食べっぷりに気をよくしたのか、いろいろ出してくれた。


 仲間の紹介はある程度食べ終わった頃に、お茶を飲みながらすることとなった。

「さて、落ち着いたところで紹介するな。俺と一緒にこの世界に来た、こっちが幼馴染おさななじみの笹橋雪音と、その友人の牧野奏多さん」

 まずは二人をうちのメンバーに紹介する。次はこっち。

「俺が転移してすぐに出会ったのが、ブラックウルフの子供ジライヤ。今はダークフェンリルっていう種族に進化してる。サイズはスキルで変えられるが、本当は象サイズくらい」

 今は出会った頃の子犬サイズで、俺の足元にいる。

「サスケちゃん?」
「もふもふ」

 雪音は昔俺が飼っていた犬のサスケを思い出したのかな。サスケはボーダーコリーで、白と黒のツートンカラーだった。ジライヤはダークフェンリルになってさらに黒さが増しているというか、光を反射しないマットな毛質だ。牧野はその手をわきわきさせないでほしい。

「次がフォレストマンキーの子供ツナデ。今は進化してハヌマーンって種族」

 フォレストマンキー時代、身体が白かったのは特異体だったからだけど、ハヌマーンは白いのが普通の種族だからか〝特異体〟がなくなっている。もしかしたら、特異体でないとハヌマーンには進化できないんだろうか?

「よろしゅう」
「「しゃべった‼」」
「あ、うん。ツナデとジライヤだけじゃなく、オロチマルも言葉は理解している。ただ、声帯とか口の構造の関係で、流暢りゅうちょうしゃべれるのはツナデだけかな」

 その言葉にちょっとドヤ顔になるツナデだった。

「で、こっちがオロチマル。コッコトリスの卵から孵化ふかしたときにインプリンティングしたのか、俺のことを〝まま〟呼びする……」
「それ、ウチらにしか聞こえへんから、言わんかったらわからんのに」

 あ、そうだった。

「まあ、それは置いておいて、進化してクルカンって種族になった。最初はテイマー契約した従魔だったんだけど、いろいろあって今はみんな眷属になってる」

 オロチマルが頭を擦りつけてきたのででてやる。

「どれもすごく高ランクなモンスターみたいね。ていうか、フェンリルって伝説級じゃないのかしら」

 日本のラノベやゲームでは出まくりのフェンリルだから、こっちの知識としてではないものの、そっち系に詳しい牧野は知っているっぽい。

「ギルドの討伐依頼では見たことのない名前だね」

 雪音がそっとジライヤの頭をでる。ジライヤは俺を見て、嫌がらずにでられている。
 確かローエンのギルドマスターに、マーニ=ハティの時点で珍しい的なことを言われたな。ダークフェンリルなんてさらにってとこだろう。

「そして、こっちが家精霊ブラウニーのチャチャ」
「よろしくお願いします」

 ペコリとお辞儀じぎをして挨拶あいさつをするチャチャ。

「ブラウニーって、スコットランドの伝承にある、家事を手伝ってくれるあの?」

 おばあちゃんがノルウェー人でクォーターの雪音だから、スコットランドの伝承とか知っているのか? 俺のは牧野同様、ラノベとゲームの知識だけど。

「それに近いかな。こっちじゃ妖精でなく精霊だ。この家の元になった家にいた家事精霊キッチンブラウニーだったのが、俺と契約して今は執事精霊バトラーブラウニーになってる。家事全般から家の管理までいろいろしてくれるスーパーな精霊です」
「おめにあずかり光栄です。家主様、お茶のおかわりはいかがですか」

 少し照れたチャチャが、誤魔化ごまかすようにお茶を注いで回る。

「どこから突っ込んだらいいのかしら」
「だから家が綺麗きれいなんだね」

 牧野と雪音がなんだかつぶやいている。
 そして最後になったルーナは、俺が口を開く前に自己紹介をした。

「フブキののルーナです。一緒に冒険者をしてます。やっと会えたね」
「ええっと、豹獣族のルーナ。こっちに来て最初に出会ったこの世界の人。いろいろ事情があってですね……」

 そこまで言うと、雪音がジト目でにらんできた。

「天坂くん。〝イエス、ロリータ、ノー、タッチ〟よ。わかっているでしょうね」

 牧野からドス黒いオーラが立ち上る幻が見えた。

「ここここれには、マリアナ海溝より深い訳がありまして」
「ほほう? うかがいましょうか」
「あの、あの牧野さん? 腰の剣に手を伸ばすのはちょっと」
「大丈夫、少々の怪我けがなら雪音が治せるから」

 そんなやりとりをしていると、ジライヤが巨大化して俺の前に。
 ツナデは分体を五体も出して牧野と雪音を囲む。得意の《木魔法》ではないのは家の中だからか。
 オロチマルだけは訳がわかっているのかいないのか、遊びと思っているのか『わーい』と楽しそうな声を上げながら、俺を後ろから翼で包み込むように防御した。
 そしてルーナはいつの間にか、牧野の背後から首元にナイフを当てていた。

「ス、ストーップ、ストップ! これ本気じゃないから、遊びの一種。ルーナ、牧野から離れて」
「そうなの?」

 俺の言葉にルーナがナイフを引く。全員戦闘態勢は解除したものの、牧野に対して警戒したままだ。

「いつの間に……」

 ただ呆然ぼうぜんとする雪音。

「ごめんなさい、少しふざけすぎたみたい。あなたたちにも謝るわ」

 牧野はルーナたちに素直に頭を下げると、椅子に座り直した。

「悪い。みんな俺を守ろうとして……」
「いいえ、こっちこそ申し訳なかったわ。ここは日本じゃないもの。あなたに会えて気がゆるんだってところかしら。それに、天坂君はいい仲間に巡り会えたってわかったわ」

 そう言いながら震える手でカップに手を伸ばす牧野。冷静に見せているが、内心はそうでもないらしい。雪音は俺と牧野の間をどっちに行こうか、でもどっちにも行けずにオロオロしている。
 俺は雪音を落ち着かせようと、笑顔で告げる。

「雪音、大丈夫だから座ろっか」
「あ、うん」

 お互いちょっとバツが悪い感じだったところへ「冷たいものでも召し上がって、気持ちを冷ましてくださいな」と、チャチャが冷えたフルーツシャーベットをみんなの前に置いた。

「ありがとう、チャチャ」
「いえいえ」

 日本人的感覚ではちょっとしたおふざけなんだが、ルーナたちにとっては〝武器に手をかける〟ことは敵対行為なんだろう。唯一オロチマルが遊び感覚だったのは、牧野から敵意も悪意も感じなかったからにちがいない。
 嬉しいけど肝が冷えた。俺は温かいエント茶をもらおうっと。
 そして少し落ち着いたところで「その深い理由って何?」と雪音が聞いてきた。

「ルーナは本来は十六歳で、出会ったときは普通に成人だったというか、子供じゃなかったんだ」
「「えっと……」」

 そんな説明じゃ二人もわかるはずがなく、最初から順に話す。出会ってからのこと、冒険者になってからのこと。そして、ビッグベアとキラーグリズリーとの戦いで、死にかけたルーナのこと。

「うそ……」
「そんなことが」
「俺の《治療魔法》は、その当時はレベルが低くて、到底治せるものじゃなかった」

 俺たちの話を聞きながら、当の本人はというと――

「そうなの?」
「そや、アンタ血まみれやったで」
「フブキ、必死で魔法かけていた」
「あー、最後にはMPきれて気うしのうたしなあ」

 と、当時の状況を知っているジライヤとツナデに説明を受けているものの、やはり以前の記憶は戻っていないようだ。いや、死にかけたショックで忘れているということもあるのかな。

「で、《ナビゲーター》のアドバイスで、治療できるスキルを作ったんだ」
「「スキルを作った⁇」」

 二人は声を揃えて驚く。本当に仲良いよな。

「うん、《スキル習得難易度低下》のおかげで《魔法構築》ってスキルを手に入れて、それで《メディカルポッド》ってスキルを作ったんだ」

 これは、《ナビゲーター》があったからできたスキルでもある。単に《スキル習得難易度低下》や《魔法構築》だけでは取得不可能だった。

「スキルを作ったって、簡単に言うのね、天坂くんは。もう何が何だか」
「すごい、それで治療できたの、風舞輝?」
「いや、出来立てスキルでレベルが低くて」

 あのとき《ナビゲーター》はなんて言ってたか。

「えっと、確か……『残存細胞にて再構成』って言ってたかな。それで不足した下半身の分を補うために身体が再構成された、的な?」
「治療が終わったら子供になっていたと」

 牧野が補足するようにつぶやく。

「……風舞輝、私が死にかけたときは、別の方法でお願い」
「いや、雪音、今はスキルレベルが上がってるから。そういうことはないから、ちゃんと治せるし。部位欠損だって治せるよ」
「「部位欠損……」」

 驚きを通り越してあきれたというか、二の句が継げないという顔で俺を見る二人。

「ねえ、ユッキー」
「なあに、カナちゃん」

 牧野が雪音と向き合って二人で会話をし出した。時々こちらにジト目を向ける。

「天坂くんだけ、違う法則の世界に飛ばされたんじゃないかしら」
「うん、何か状況というか、一人だけおかしい気がする」
「私たちの苦労って何だったのかしら」
「あんなに心配してたの、必要なかった気がする」

 うう、俺だって苦労したよ、したよね。あれ、したっけ?

「お嬢様方、お風呂のご用意ができましたので、さっぱりされてはどうですか?」

 お湯をめていてくれたらしいチャチャが二人に勧めた。

「「お風呂‼」」

 喜ぶと思ったが、なぜかすごい目つきでにらまれているんだが。

「お風呂まで完備……」
「チート、チート野郎がここに」

 雪音と牧野の反応がおかしい。

「国によって習慣は違うけど、エバーナでもテルテナ国には風呂があったし、こっちの人族の国にもお風呂の習慣があったろう?」
「あったけど、あったけど、お風呂付きの宿なんて高くて泊まれなかったわ」

 そういえば、二人とも全体に薄汚れている。依頼を終えた直後だからってだけじゃないのか。

「ちょうど大きめのおけでも買ってお風呂がわりにしようかって、雪音と相談していたところだったのよ」

 あー、俺もそれやったわ。

「チャチャ、二人にお風呂の使い方を教えてあげて」
「はい、ではお嬢様方、こちらにどうぞ」

 二人はチャチャに先導されて、風呂場に向かった。
 それを見送りながら、溶けかけたシャーベットを口に運ぶ。

「なんか、フブキの探しとった人間、大変やったみたいやな」
「疲れている」

 ツナデとジライヤが俺の横にひっついてきた。
 オロチマルはずっと俺の背中にひっついたままだ。

「あーゆう態度とっても、本気じゃないから。特にルーナ、二人に武器向けたりしないように」
「んー、わかった」

 ちょうどチャチャの「洗濯物はこちらに」という説明が聞こえてきた。その少し後に二人の歓喜のさけび声。食べかけのシャーベットを噴き出しそうになった。

『なあに? どうしたの?』

 悲鳴を聞いて、背中にひっついていたオロチマルが顔を上げる。

「ああ、多分あの二人は、お風呂が好きなのにあんまり入れなかったから、喜んでいるんだろう」
「お風呂が好きって、変わってるね」

 ルーナは風呂嫌いだからな。まあ、エバーナ大陸のルーナの出身地、あのあたりの獣族に入浴の習慣がないから仕方ない。
 とにかく、二人ともこの数ヶ月、大変だったみたいだな。装備のせいでわかりにくかったが、やっぱりちょっとせたみたいだし。

「チャチャ、夕食なんだけど……」

 戻ってきたチャチャに夕食のメニューをリクエストする。あれだけスイーツを食べた後でも、きっと喜んでもらえるだろう。


         ◇ ◇ ◇


「本当にお風呂がある……」

 笹橋雪音の隣にいる牧野奏多カナちゃんが、マジマジとお風呂を見つめる。二人でも余裕で入れるお風呂に、私たちが思わず声を上げてしまったのは仕方がないと思う。

「このタオルって、ちょっとサイズ感がおかしいけど、地球のものっぽいよね」

 精霊のチャチャさんが用意してくれたのは、手ぬぐいみたいなものと、パイル地のフェイスタオルと継ぎ目がおかしなバスタオルだった。

「天坂くんが持っていたタオルなんじゃない? 《コピー》スキルで増やせるって言ってたじゃない」
「そっか、そう言ってたね」

 なんだかいろいろ衝撃が大きすぎて、頭が混乱しているみたい。

「とりあえず入りましょ、雪音。お湯はこの魔道具でいくらでも足せるみたい。排水はどうしてるのかしら?」
「保温の魔道具もついててお湯が冷めないって言ってたね」

 お風呂に用意されていた石鹸せっけんは、こちらの世界のもので、日本のやわらかで泡立ちのいいものではなかった。でも、こちらの世界にしては結構いいものみたいで、フローラルな香りがした。スーレリアのお城で使っていたものに近いかな。

「さすがにシャンプーやリンスはないのかしら。これは何?」

 カナちゃんが置かれていた小瓶の蓋を開け、すんとにおいをいだ。途端に顔をしかめる。

「どうしたの?」
「これ、お酢みたい。なんでお風呂にお酢? シンクじゃなくって、浴槽の水垢みずあか取り用かしら」

 カナちゃんが蓋を閉めて元の場所に戻す。それを今度は私が手に取った。何かハーブとかを混ぜているのか、お酢特有のにおいの中にさわやかな香りもする。

「あ、お酢って、リンスにできるって何かで見た気がする」
「リンスに?」
「うん、確か洗面器いっぱいのお湯に大さじ一杯か二杯くらいだったかと」
「とりあえず、試してみましょう」
「うん」


         ◇ ◇ ◇


 二人が入浴を終え出てきたときには一時間以上経っていたが、俺は突っ込まないことにし、ルーナたちにも言い聞かせた。

「ありがとう、とってもさっぱりしたわ」
「うん、風舞輝、ありがとう」

 牧野と雪音は、荷物は《アイテムボックス》に入れてあったので着替えを持っていた。よかったよ。二人が着られそうな服なんて持ってないし。
 あと、ドライヤーの魔道具を買っておいてよかった。
 二人はさっぱりした顔だけど、ちょっと疲れた風にも見える。長湯しすぎ?

「お腹すいたろ、チャチャに頼んで日本食っぽい夕食にしてもらったんだ」
「わあ、すごいご馳走」
「……こ、これは」

 テーブルの上に並べられた料理を見て、素直に喜ぶ雪音に対し、牧野はある一点を凝視ぎょうしして固まっている。

「さあ皆様、温かいうちに召し上がってください」

 チャチャに促されて雪音は席につくが、牧野は固まったままだ。

「牧野?」
「カナちゃん、どうしたの?」
「雪音、あなたどうして……いいえ、天坂くん!」

 牧野が俺に詰め寄ってきた。

「どうして醤油しょうゆがあるの? っていうか、これマグロよね、お刺身よね!」
「あ、ああ、ちゃんとわさびもあるぞ?」
「わさび!」
「へえ、こっちにもお刺身をわさびで食べる風習があるのね」
「ないわよ! 雪音! ちゃんと見て。これは日本の醤油しょうゆで、こっちはチューブ入りのわさびよ」
「あ、本当だあ」

 普通に受け答えしているが、雪音の瞳から光が消えているような。

「雪音? 雪音!」

 牧野も雪音の様子に気がついたようだ。

「〈混乱状態治療キュアコンフュージョン〉〈冷静カーム〉!」

 雪音と興奮ぎみの牧野の二人に魔法をかけた。

「あ……」

 すると、雪音がパシパシと数回まばたきして、俺の方を見た。
 牧野は落ち着いたのか、そっと椅子に座る。

「風舞輝には、聞きたいことも言いたいこともいっぱいあるけど」
「今はお食事をいただきましょう」

 雪音の言葉に続けて牧野が言いつつはしを取る。

「「「「「いただきます」」」」」

 ルーナとツナデも空気を読んだのか、素直に食事前の挨拶あいさつを唱和した。
 こちらの世界でも、団体で食事するときは、大皿でどんと用意されて取り分けて食べるという風習がある。だが、俺自身はチャチャが個別に用意してくれるので、その経験はなかった。
 今回はせっかくだから、二人が好きなものを好きなだけ食べれるように、チャチャには大皿で提供してもらい、取り分け用の小皿を大量に用意してもらった。まあ、大量に小皿はなかったため、さっき俺が《コピー》した。
 こちらの世界には、品によって小皿を取り替える風習がなかったんだよ。金持ちや貴族は知らんけど。

「アジフライ、タルタルが載っているのだけど、こっちの卵は生食していいの?」

 アジフライにはしを伸ばしかけた雪音がこちらを見る。

「卵には《聖魔法》の〈浄化ピュリファイ〉かけてるから、安心して食べていいぞ」
「魔法の使い方、間違ってない?」

 衣はサクッと、中はジューシーなシーマージのフライは、以前俺が作ったものより格段に美味おいしくできていた。和食だと天麩羅てんぷらなんだろうが、こういう方が日本食って感じがするのは俺だけ?

「これって海の魚よね。内陸のこのあたりじゃれないわよね」

 マグロの刺身にちょいちょいとワサビをつけながら、牧野が聞いてきた。

「隣の大陸から船に乗ってこっちに来たときにいろいろ手に入れた」

 オーマーノマグロには、サフェット村の村長の息子にもらったディーコンで作ったつまもつけてある。
 唐揚げを口にした雪音が、目を見張った。

「どうしてカレー粉まで……」

 しっかり咀嚼そしゃくしてみ込んでから、ぼそっとつぶやく。口に頬張ほおばったまましゃべるということをしない雪音だった。

「えっと、神様にもらった野営セット一式や《アイテムボックス》に……イロイロハイッテタヨネ? ソノナカニチョウミリョウトカアリマシテ」

 俺も、アラームターキーのカレー風味唐揚げをみ込んだあと、カタコトになってしまった。途中で気づいたが、それは俺だけなのかも……
 二人のジト目が……

「「入ってない」」
「皆様、おかわりはいかがですか」

 チャチャの言葉に、そっとご飯用の器を差し出す二人。

「ご飯というか、お米はこっちのものなんだね、風舞輝」
「う、うん。さすがに食材まではね。最初はお弁当を持ってたからなんとかなったけど」

 神様に硬いパンと干し肉、干しビタンの非常食を十食分ももらっていたことは内緒にしておこう。うん、その方がいい。

「そっか、そうだよね」
「でも、日本食に近いものが食べられるよう、いろんな食材を購入したな」
「風舞輝が作れそうにないメニューもあるよね」
「そこは、うちには超優秀な家精霊ブラウニーがおりまして」

 その後は、食に関する思い出話を雪音が語り、俺が聞き役に回った。
 牧野は少し目をうるませながら、刺身を中心に醤油しょうゆ味系を頬張ほおばっていた。
 うん、塩胡椒こしょうや唐辛子やハーブは見た。でも、醤油しょうゆ味噌みそもこっちでは見かけなかった。ただ、そっちはヤマトイ国に行けばありそうな気はする。


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