神様に加護2人分貰いました

琳太

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8巻

8-2

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 セバーニャ王国の西にあるグランザ領の領都グーラは結構大きな街だった。二日かかると言っていたものの、そもそも領内の村だし、朝のうちには到着した。荷物がなければ、早朝に村を出たら夕方には着くんだろう。
 村長さんのおかげで入街税なしで街に入れて、とてもありがたかった。
 おまけに冒険者ギルドで冒険者登録をするとき、ヒューズさんがついてきてくれたから、すんなりできた。
 ただ名前のときに「ユッキー」「カナちゃん」と呼び合っていたせいで、登録するときの偽名をどうするかちょっと悩んだ。
 ヒューズさんたちには「名前が長くて普段は愛称で呼び合っているけだけ」と言い、適当な偽名を口にした。今はとっても後悔している。〝アレユッキールー〟と〝ナーエカナツグ〟という名前は、口に出すたび間違えそうになる。
 というか、カナちゃんのどこぞの武将をもじった名前はなんなの? かぶとに〝愛〟の装飾でもつける気なの?

「ヤマトイ国ってそういう感じだと思ったから。ヤマトイ人ぽい名前だと思われるでしょ」

 自分だけそんな名前にして、私には〝アレユッキールー〟とかつけるの、ひどくないかな。早めに登録し直すことにしよう、そうしよう。
 ここでヒューズさんたちとはお別れ。彼らは護衛終了の手続きを済ませると、それぞれの仲間の待つところに帰っていった。臨時パーティーだったからね。
 まだお昼にもなっていないし、私たちは冒険者ギルドで早速依頼を受けることにした。大きな街のため九級依頼は雑用が多く、街の外に出る依頼が少なかった。
 せっかく街中まちなかを移動するのだからと、依頼だけじゃあなく、古着や中古装備を使った資金かせぎも並行してやっていく。
 さすがに大きな街だけあってお店も多い。自分たちの分も一式揃えることができた。
 二日で八級に上がることができたので、グーラの街を出てニーチェスとの国境を目指して出発した。


「ちょっと拍子抜けするわね」

 二人分の入町税を払って、ニーチェス王国のケセラテという町に入った。
 セバーニャ王国から国境を越えて最初にあったニーチェス王国の町だ。
 冒険者のギルドカードを見せれば入町税は免除されるけど、一人百チルトを払い町に入った。〝アレユッキールー〟と〝ナーエカナツグ〟という名のギルドカードは《アイテムボックス》の中に死蔵することにしたから使っていない。カナちゃんはちょっと残念そうだけど、私は全然残念じゃあない。
 ケセラテの町に入る前に、また姿と職業を変えた。もう何度目の変装かな。
 私の髪は染色が少しぬけてピンク色に、カナちゃんの髪は今紺色こんいろになっている。そういう髪色の人もいるので、紺色こんいろだからって変な目で見られることはない。ただ……

「ねえ、カナちゃん。この髪色じゃなくてもよかったんじゃない?」

 そう言うと、カナちゃんが「チッチッチ」と指を振る。

「私は〝フェブール=アプリル〟よ。フェブって呼んでくれる」

 その名前はネットゲームをしていたときのアバター名らしい。長く使っていたアバター名だから、不意に呼ばれても自分のことだと意識しやすいらしい。
 私は、ゲームは小学生の頃に風舞輝と遊んだことがあるけど、中学に入ってからは遊んでいない。
 カナちゃんの言うゲームは私の遊んでいた携帯型ゲーム機じゃあなくって、パソコンを使ったオンラインゲームだそう。私にはそういう愛着のあるアバター名はなかった。
 カナちゃんが私につけてくれた名前の〝ユーニ=アプリル〟は、ドイツ語の六月である〝ユーニ〟とカナちゃんと同じ〝アプリル〟をくっつけたもの。カナちゃんのフェブールは二月をもじったもので〝アプリル〟は四月。カナちゃんドイツ語習ってないよね。
 私の〝ユッキー〟と〝ユーニ〟はかろうじて〝ユ〟の共通文字があったから、カナちゃんは戸惑いが少なく「ユーニ」と私を呼ぶ。けど〝フェブール〟はどうもじっても〝カナちゃん〟にはならないから、つい「カナちゃん」って呼んでしまう。
 この名前で、ケセラテの町で冒険者登録をした。前回のこともあるので名前をもじった方がいいかとも思いつつ、私たちだとわかる名前は避けた方がいいかもというジレンマもあった。
 セバーニャ王国ではグーラの街まで冒険者登録をしなかったし、今回で三度目の偽名での冒険者登録で、その都度つど職業も変えているから、私たちの足取りを追うのは難しいと思う。
 なんにせよこれで〝アレユッキールー〟と〝ナーエカナツグ〟からさよならできたからいいけどね。
 ケセラテで冒険者登録する際、セバーニャのグランザ領の農村出身の従姉妹で、ダンジョンのあるニーチェス王国へやってきたという設定にした。
 農村出身に名字があるのかってあとで思ったんだけど、冒険者登録するときに出身地の名前とかつけることはよくあるみたい。でもそれじゃあ、グランザ領にアプリル村があるのかって問題が出てくる。ただ、他国の村の名前なんて知れ渡ることはないから大丈夫だった。
 冒険者登録時の職業は、ステータス上の職業と違っていても問題ないみたい。ケセラテではカナちゃんが斥候スカウトで、私は短剣使いで登録をした。
 カナちゃんの斥候職は前にも使ったけど、今回はそれっぽい服装を手に入れたので合わせたみたい。私はあんまり短剣使いには見えないものの、職業をオープンにする冒険者ばかりじゃあないからいいの。
 そういえば、ステータス上の職業も時々変わるんだよね。スーレリア王国で神官様に宗教というか神様関係のことを教えてもらっているときに〝神に認められて変化する〟とか聞いた。でも、あのときは話半分だった。宗教の話って宗派によって捉え方が変わるものだし、都合よく変えられることもあるから。


 名前・ユキネ=ササハシ 年齢・16歳 種族・異世界人
 レベル・28 職業・魔法治癒師マジックヒーラー、修復師、料理人


 スーレリア王国を出たときは〝魔法治癒師マジックヒーラー〟しかなかったのに、途中で〝修復師〟が増えた。これって、お金かせぐために服や装備を回復させまくったからかな。
 職業が増えたときに【職業スキル】が増えて、覚えのない《修復》ってスキルが増えていて何気なにげにレベルが2だった。
 多分〈物質疲労回復〉とか使うときに、この《修復》が作用しているっぽい。
 あと料理教室のせいか、セバーニャを出る頃に〝料理人〟が増えて《調理指導》も増えていた。
 これは、他人に料理を教える能力が上がるみたいな? わかりやすく説明できるスキルみたい。


【加護スキル】《アイテムボックスLV3》《パラメーター加算LV2》
【称号スキル】《言語理解LV3》
【職業スキル】《修復LV2》《調理指導LV1》
【治癒スキル】《回復LV7》《治療LV5》《蘇生LV1》
【補助スキル】《鑑定LV4》《的中LV1》
【技工スキル】《裁縫LV5》《家事LV7》《解体LV3》
【武術スキル】《槍術LV4》《杖術LV3》《短剣術LV3》《弓術LV2》
【魔法スキル】《下位属性魔法LV6》《氷魔法LV4》《雷魔法LV4》《魔力感知LV5》《魔力操作LV5》
【ユニークスキル】《癒しの力LV2》
【加護】《異世界神の加護》
【称号】《異世界より召喚されし者》


 それと、道中弓士ってことで弓を使っていたからか、【補助スキル】に《的中》と【武術スキル】に《弓術》が増えていた。途中で命中率が上がったのはこのスキルのおかげみたい。最初は当たらなくって、ヒューズさんたちがしょっぱい顔してたもの。
 魔法も《四属性》に光と闇属性が統合されて《下位属性》になった。統合されるとレベルが上がりにくい感じがする。
 カナちゃんの方は、職業に斥候が増えていた。だから冒険者ギルドに申請した職業は間違いじゃあない。《気配察知》や《気配隠蔽いんぺい》のスキルを持っているし、いつも私より前に出て警戒してくれているからかな。
 種族レベルが私より上がるのが早くて、30になったら【ユニークスキル】や【加護スキル】のレベルが上がった。
 どうも、使ったら上がるスキルと、種族レベルの上昇に同期して上がるスキルがあるみたい。
 私も種族レベルが30になったら《癒しの力》が上がるのかなって思ってる。
 どうしても戦闘はカナちゃんの方が得意だから、種族レベルの差が開いていく。


 名前・カナタ=マキノ 年齢・17歳 種族・異世界人
 レベル・33 職業・守護者ガーディアン、斥候


 スキルの数もカナちゃんの方が多い。カナちゃんにも【職業スキル】が増えて、斥候らしいスキルが増えていた。【補助スキル】にあった気配関係のスキルが【職業スキル】に移っているのは斥候職になったからかな。《身代わり》は護衛対象への攻撃を代わりに受けるというガーディアンのスキルみたい。


【加護スキル】《アイテムボックスLV4》《パラメーター加算LV3》
【称号スキル】《言語理解LV3》
【職業スキル】《身代わりLV3》《気配察知LV5》《気配隠蔽いんぺいLV4》《罠感知LV2》
【防御スキル】《物理防御LV7》《魔法防御LV5》《隔離LV3》
【補助スキル】《不動LV4》《挑発LV5》《マップLV4》《瞬脚LV2》
【技工スキル】《清掃LV4》《解体LV5》
【武術スキル】《剣術LV6》《槍術LV3》《盾術LV6》《格闘術LV3》《投擲とうてき術LV3》
【魔法スキル】《火魔法LV3》《地魔法LV3》《水魔法LV2》《魔力操作LV2》
【耐性スキル】《物理耐性LV5》《魔法耐性LV4》
【ユニークスキル】《鉄壁の防御LV3》
【加護】《異世界神の加護》
【称号】《異世界より召喚されし者》


 私の魔法スキルが統合されたように、カナちゃんは《短剣術》や《長剣術》が《剣術》スキルに統合されていた。《剣術》はどんな〝剣〟でも扱えるみたい。魔法はあんまり上がってなくって、それでも《水魔法》が増えて「洗い物が楽になった」と喜んでた。喜ぶ場所がそこって……


 ケセラテの冒険者ギルドでは戦闘技術を見るという実技試験っぽいものがあり、それに受かれば九級や八級スタートが可能、というのがありがたかった。また十級から始めないといけないのかと思っていたから。
 私たち二人は試験で八級スタートをもぎ取った。魔法やスキルを極力使わずに頑張がんばったよ。
 ケセラテの町の北西にスクーナという町があり、その近くにダンジョンがあって、それ目当てにケセラテの町へやってくる農村出の冒険者志望者が多いらしい。
 そこのダンジョンは八級以上じゃないと入れないのだけど、スクーナの冒険者ギルドにはダンジョン関係の依頼しかなく、そもそも九級以下の依頼がなかった。
 ダンジョンに行くためには、周辺の町で冒険者登録をして八級まで上げてからスクーナに移動することになる。ここケセラテにはそういう冒険者希望者が集まるので、九級以下の依頼が不足しているそう。低級冒険者ばかりいても邪魔だから、手っ取り早く八級にして送り出したいみたい。もぎ取らなくても、ある程度戦えればそれでオッケーだったのね。スキル使わなくても、種族レベルが上がってて、一緒に試験を受けた人より身体能力が高かったよ。
 ギルドカードを受け取って早速依頼を受けようと思ったものの、このケセラテの冒険者ギルドの依頼ボードには八級の依頼も全然なかった。私たちは八級の二人パーティーだから、一つ上の七級の依頼まで受けることができる。
 このあたりのギルドルールは、国や町によって微妙に違うみたい。場所によっては、パーティーだと二つ上の依頼が受けられるところもあった。
 ちょっと資金かせぎしたかったけど、依頼がないならどうしようもない。他の人も登録だけして移動するみたいだから、私たちも早々にスクーナの町を目指すことにした。
 乗合馬車を使うより、走ったほうが速いのよね。昼にケセラテの町を出て、夕方前にはスクーナの町に着いた。

「しばらくこのスクーナの町を拠点にして、ダンジョンに行きましょう」

 スクーナの町に来てすぐ、カナちゃんが提案してきた。カナちゃんが留まることを提案するのは珍しい。

「ここはダンジョンが近いし、冒険者の入れ替わりも激しいから見つかりにくいと思う」

 スーレリア王国とは間にセバーニャ王国を挟んでいて、ずいぶん離れた。
 周辺国と鎖国をしているスーレリアが、表立って私たちを探すことはない……と思いたい。ただ、場所的にセバーニャへ逃げたことは、間違いなく掴まれている気がする。
 だけどそこからはニーチェス王国だけではなく、北のカヴァネス四侯国やオーラン太守国、中央山脈を越えて中央平原に抜ける道もあるから、多少探されにくいとは思う。
 名前も職業も見た目も(見た目って言っても髪と服くらいだけど)変えてるから。

「ここでダンジョンに潜りながら、情報を集めましょう」
「じゃあ、尋ね人の依頼出してもいいの?」
「でも〝フブキ=アマサカ〟の名前はだめよ。万が一にでもあのバカの目に触れたら、私たちのことがバレてしまう」

 そう言ってカナちゃんは〝ブリザ=パライソ〟の尋ね人依頼を出すと言ってきた。

「〝ブリザ=パライソ〟? なにその変な名前。それ風舞輝のことなの?」

 カナちゃんは〝フェブール=アプリル〟のアバター名を使っていたゲームで、風舞輝と一緒に遊んだことがあるらしい。そのゲームで風舞輝が使っていたアバター名が〝ブリザ=パライソ〟だった。風舞輝って、ネーミングセンスが……

「〝フェブール=アプリル〟の名前で〝ブリザ=パライソ〟の尋ね人依頼を出せば、天坂君は気づくと思うわ」

 ……ってカナちゃんは言うけど、本当に風舞輝は気がつくのかな。
 でも〝ブリザ=パライソ〟って変なアバター名だね。〝風舞輝→吹雪→ブリザード→ブリザ〟ってことなのかな。
 パライソは楽園とか天国の意味のポルトガル語で、ブリザードは英語なんだ。でもブリザードって、どっちかっていうと〝猛吹雪〟か〝暴風雪〟だよね。
 そんなことを考えていたら、カナちゃんはさっさと尋ね人の依頼を出し終わっていた。

「一応、ニーチェス国内の大きめの街に張り出してもらえるようにしたわ。でもここに留まる期限は三週間にしましょう。それだけ待ってもなんの情報もないようなら、西のカーバシデか北のオーランに移動してまた探しましょう」

 三週間か。こっちは週六日だから十八日間。実在する人物じゃないから、情報を持ってくるのは風舞輝本人しかいないはず。
 まさかこの世界に〝ブリザ=パライソ〟って人、実在しないよね?


「これ、納品分の薬草と魔石です」

 カナちゃんが薬草と魔石の入った袋をカウンターに置く。横から私が依頼票を差し出した。そしてそれぞれギルドカードを提示する。
 今回の依頼は、ダンジョン浅層に生えている薬草納品と魔石納品の二つ。他の素材はあとで納品依頼が出ていないか確認する。納品するより買取額の方がよかったりすることがあるので、ってきてから確認することにしている。依頼主が金額設定をするから、依頼と買取で差が出ることがあるんだって。
 必ずしも依頼が低額ではないし、依頼達成数の関係もあるから、こういうのも仕方ないみたい。微妙な金額の場合、どっちを選ぶかはその冒険者次第というわけ。
 この世界にもマジックバッグはあり、大量の荷物を持つことができる冒険者はそういう方法をとるそう。私たちもマジックバッグを持っているふりをしている。

「昨今の異世界ラノベでは定番よ」

 と、カナちゃんはよくわからないことを言うのだけどね。
 私の腰につけたベルトポーチ――使い古された感のある大きめのベルトポーチをそれっぽく見せて、本当は《アイテムボックス》から出している。カナちゃんが持ってることにした方がいいかと思ったのに、斥候職なのでと断られ、私が持っていることになった。
 スーレリアから与えられていたマジックバッグは、追跡できるような魔法がかけられていたからダンジョンの中に置いてきた。売ればいいお金になったかもしれなくても、足がつくことはやめるベきとあきらめた。
 中身は一部入れたままにして、外側を壁に擦りつけボロボロにした上、自分たちの血をなすりつけて、モンスターに襲われたか一度盗まれたっぽく見えるよう偽装した。
 私たちには《アイテムボックス》があるから、マジックバッグはなくても全然問題ない。スキルレベルが上がって、入る数も増えたしね。

「はい、では確認しますのでしばらくお待ちください」

 そのままギルドの中にある食堂へ移動する。

「おねーさん、果実水二つ」

 椅子に座るや否や、カナちゃんが手をあげて給仕のに声をかけた。
 スクーナの町はニーチェス、オーラン、セバーニャの三国にまたがるソロンシュ山脈のふもとにある。
 近くにはなんとダンジョンが三つもあった。
 今回行ったのは、北東に位置するコーカルダンジョン。スクーナの町からは乗合馬車も出ていて、片道一時間ということもあり、この町の冒険者ギルドがそのダンジョンの依頼を取りまとめている。
 コーカルダンジョンに出現するモンスターは、普通の生物ではなく瘴気しょうきから発生すると言われている、死体が残らないタイプだった。
 でも「瘴気しょうきって何?」と尋ねても、大体が「瘴気しょうき瘴気しょうきだよ」と返ってくる。
 いわゆるよくわかっていないってことよね。

「そこは異世界だし、いいんじゃない。不思議生物ってことで。あ、生物じゃないのか」

 なんてカナちゃんは言う。
 私としても、解体の必要がなくっていいんだけどね。でもドロップというか、倒した後に残るのは魔石だけだし経験値も少なめで、モンスターを倒すことにそんなにうまみはない。
 じゃあなんで、みんなコーカルダンジョンに行くのか。
 このコーカルダンジョンの内部は広大で、さまざまな植物が生い茂っている。
 草原とか森とかがあるんだけど、コーカルダンジョンのは外のと違って、薬草だけでなく特殊効果のある植物の宝庫なの。
 しかも、普通の森なら薬草を摘みすぎると、植生地をダメにしてしまったり、成長するまでに月日がかかるのに、このダンジョンの中の薬草は、不思議システムですぐに成長する。
 だから薬草採取の依頼がいっぱいあって、私たちはそれを受けてお金をかせいでいた。

「二つで五十チルトだよ」

 給仕のおばさんが果実水を二つテーブルの上に置いたので、カナちゃんがウエストポーチから小銀貨を一枚取り出して渡す。お金関係は主にカナちゃんが受け渡しをしている。私はなんだかめられやすい見た目で危ないとかなんとか。《アイテムボックス》に入れておけば盗まれることはないのに。

「ユーニ、お願い」
「ん、〈アイス〉」

《氷魔法》の初歩も初歩の氷を作り出す魔法で、アイスキューブを作り出し、二つのカップに落とす。

「魔法のある世界なのに、なんで飲み物を冷やさないのかしら」

 カナちゃんはそう言いながら、果実水が早く冷えるように氷をコップの中でくるくると回す。私も同じようにしてから一口飲んだ。

「うす」

 氷を入れたせいで元々薄い果実水がさらに薄くなった。まあ冒険者ギルドの果実水はどこもこんなものだけど。
 大体はみんなお酒を注文する。カナちゃんも一度だけ興味で注文したことがあった。

「飲めたものじゃないわ」

 そう言ってひとめしただけでやめた。
 この世界、というか今まで通ってきた国では、飲酒に対して年齢制限とかがなかったので、違法ではないよ。アルコール度数が低すぎて水代わりみたいなものなんだね。子供だって飲んでいる。
 私も飲むまではしなくても、料理に使うお酒の味見はしたことある。そもそも美味おいしいと思わないから、わざわざ飲みたいと思わない。
 料理にワインみたいなお酒を使おうと思ったものの、かなりっぱかったの。お酒というかもうビネガーになってるっぽかったな。

「ダンジョン依頼をこなして七級に上がったけど、このまま七級依頼ばかりじゃなくて、そろそろ六級とか五級依頼を受けましょうか」

 八級パーティーだと七級の、七級パーティーだと六級の依頼を受けられる。でも、コーカルダンジョンに慣れるため、浅層で日帰りできる依頼を選んだ結果、七、八級の依頼ばかりになった。依頼料が安いから、そこは薬草の量を多く採取してかせいだ。
 二日続けてダンジョンに行って一日休むというのをしていたので、週四日働いている感じ。一週間が六日って慣れないな。
 一日二つから三つの依頼を受けることですぐ七級に昇級でき、今回は七級依頼を受けていた。
 六級依頼となると、さらに深い層まで行くことになるので、泊まりがけになる。

「そうだね、明日の休日は夜営用の道具見に行こう、カ、あー、フェブ」

 受付のお姉さんと目があったら手を振ってくれた。査定が終わったみたいで、果実水を飲み干して立ち上がる。

「ユーニさん、フェブールさん、薬草の数も質も問題ありません。いい状態でしたので依頼料に色をつけさせていただきました。こちらが依頼金と素材買取金になります。それと連続達成条件を満たされたため、お二人とも六級昇格になります」

 受付嬢から新しくなったギルドカードを受け取ると、銀色になっていた。
 スクーナの冒険者ギルドは窓口が多く、受付担当の職員も多い。たまたま今の受付嬢、シェルッヒさんに当たることが多かった。そのせいか結構親身しんみになってくれる。カナちゃんが出した尋ね人の依頼も彼女を通して確認している。

「女性の二人組でこの早さで昇級されてますから、結構注目されてますよ。変なのが寄ってくることもあります。気をつけてくださいね」

 大きな声では言えないのでと、シェルッヒさんがカウンターに身を乗り出してささやくように注意喚起してくれた。
 まあ、すでに遅いというか「何様俺様」って感じの冒険者が「俺様のパーティーに入れてやろう」とか言ってきて、カナちゃんにのされていた。
 のした後にカナちゃんが「ようやくテンプレイベント」とかつぶやいたけど、ちょっと違うと思うの。
 依頼金は一旦カナちゃんが全部受け取る。小さな巾着袋を腰のポーチから取り出し、全額を入れた。小さな巾着袋はたくさん作ってある。こっちのお金って硬貨しかないんだもん、嵩張かさばるんだよ。

「それと、出されていた〝尋ね人〟の件なんですが」
「何か情報があったんですか?」

 思わず身を乗り出して、カナちゃんに肩を掴まれた。落ち着け、私。

「いえ、いくつかあったんですが、どれもガセネタっぽくって」

 情報は事実かどうかをどうやって調ベるのかと思ってたら、嘘を見抜けるスキルや魔道具があるんだって。

「もう少し情報料を上げませんか」

 カナちゃんと顔を見合わせると、カナちゃんがうなずいた。次から六級の依頼を受けるようにすればお金もかせげるだろう。

「では最低を千チルト、上限を一万チルトにしてもらっていいですか」

 カナちゃんはそう言って、さっき受け取った依頼代金から五千チルトを渡した。上限五千チルト設定だったので、追加の五千チルトを先渡しする必要があった。

「はい、じゃあ依頼票の修正をしておきますね」

 肩を落として冒険者ギルドを出た。

「ユーニ。まだ一週間なんだから。それに、本名出してないし」
「うん、わかってる」

 ぬか喜びしてしまったせいで、余計気分が落ち込んじゃった。

「そんな気分のときは米を食ベるに限るわ」

 カナちゃん、私カナちゃんほど米依存症じゃないんだけど。
 まあ、気分転換にお料理するのもいいかな。人の多い冒険者ギルド前の大通りを、二人並んで宿に向かって歩き出した。


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