神様に加護2人分貰いました

琳太

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SS置き場

5巻発売記念SS ウォルローフ邸のとある日

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「なんじゃ、二人揃って」

 ウォルローフは改まって「話がしたい」と言ってきたザナル夫婦を書斎に呼んだ。
 ちゃんとした食事のおかげで二人は顔色もよく、身体に丸みもついてきた。
 
 ここにきてすでに一月がたった。
 ダダン一家とニージェ一家は若い連中が冒険者になるといい、親たちはそれぞれ仕事を探してヴァンカに移った。

 フブキが多くの荷物を回収してくれたし、オーク討伐の資金を置いていったからな。

 犬獣族のザナル一家と兎獣族のネッサ一家鼬獣族のグド一家が使用人として残ってくれた。
 メイミーは「これで畑仕事に専念できますわ」と、早々に家事をクルサに押し付──いや、クルサをメイド長(仮)に据えた。

「もう、いい年なんじゃから隠居でも良いんじゃがなあ」と呟くウォルローフをローニやミルが苦笑しながら、聞こえないふりをした。



「その、私たち夫婦に、以前はなかった《神の慈悲》と《恩恵》というスキルが増えてたんです」

 不安そうにしながらザナル夫婦はお互いの顔を見て、決意したように切り出した。

「《神の慈悲》じゃと!」
「「はい」」

 神よりの賜り物は《加護》の他に《寵愛》《祝福》《慈悲》の四種類が今まで発見されている。
 その効果は高い方から《寵愛》《加護》《祝福》《慈悲》とされているが、なんにせよ比較できるほどの例がないため、推測の域を出ない。

「もともとなかったんです」
「マルクは、いつの頃か、気がついたら《祝福》を持っていましたが、私たちも村の他のものも〝神様のお目に留まる〟ようなことはしてこなかったのです。逃亡生活の間は祈ることさえ忘れてましたし」

 東側の元ヴァレンシ獣王国の多くの民は、フェスカに追われ、苦しめられかえって神を呪いたくなるような目に遭ってきた。


 いろいろなことが落ち着いた頃、仕事をどうするか話し合った時、マルクが打ち明けてくれた。
 マルクは《アドミラネス神の祝福》を授かっていた。

 アドミラネス神とは原書には〝この世界を管理する〟地位にあるとされている神だ。
 文献によれば始神と同一神であるとされているものもあるが、別の文献では異なる神とされているものもある。

 アドミラネス神は四神とは全く別の神なので、四神教の原書では多くは語られていない。
 失われた神とされているが、こうして《祝福》を授けられたものが存在することは、神は世界を見守ってくださっているのだと感じることができる。

「だからマルクは日光草を手に入れられたんじゃな。あれは加護持ちしか入れん場所に生えておる。祝福持ちでも入れるということか。いや、加護と祝福では進める場所が異なるかもしれん。よし、今から森に行くぞ! マルク!」

 そう言ってウォルローフはマルクをつれ塔の森に突進しようとして、皆に止められたのは今では笑い話の種にされている。




「何か、きっかけのようなものはなかったか? 神託とまでは言わんが、お声が聞こえたとか、お姿を拝見したとか……」

 二人は記憶を探るように考え込む。やがてザナルが口を開いた。

「フブキさんの、あの不思議な〝魔法の繭〟のせいではないかと……」

 続けてミルも話す。

「直接確認してはないのですが、グドも似たようなことをしていたので」

 ザナル夫婦は《祝福》の他に魔法スキルを手に入れたのだ。
 魔法に適性の低い獣族は、魔法を持つものが少ない。二人はこの歳になるまで魔法スキルを持っていなかった。

「私は《風魔法》でミルは《水魔法》です。昨日畑仕事をするグドが《地魔法》らしきものを使ってました」
「なんと! グド、グドをここに呼んでくれ」
「は、はい」

 ザナルが部屋を急ぎで出て行った。

 ウォルローフは今し方、聞いた内容に興奮を押さえきれず、書斎をグルグル歩き回るのだった。
 待つことしばし、ザナルがグドを伴って戻ってきた。

「お呼びで、旦那様」
「おお、待っていたぞ。聞きたいことがあるんじゃ!」

 その後三人はレニアが食事の時間を知らせに行っても終わらず、困ったクルサがメイミーに頼んで話を終わらせてもらうまで続いた。
 そしてその日からしばらく、ウォルローフは昼は三人とマルクを加え、森に出かける日が続いたそうだ。



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マルクが森でフブキたちと会えたのは《祝福》持ちだったからです。
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