神様に加護2人分貰いました

琳太

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5巻

5-3

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 研究資料をできるだけ持ち出すために、資産の半分を犠牲ぎせいにした。教会には〝金〟に執着しゅうちゃくするものが増えていたため、それでなんとかなったのだ。それでも長年の研究のおかげでウォルローフ=ミミテステスの資産は莫大ばくだいであった。
 ウォルローフ=ミミテステスは〝神の奇跡の残物〟がある、ヴァレンシ獣王国の北の端にあるヴァンカへやって来て屋敷を建てた。
 移り住んでしばらく後に、ヴァレンシ獣王国に政変が起きた。王の直系であった獅子獣族の血が途絶えたことで、跡目争いから国を分かつ争いに発展し、力ある領地の領主が周辺の小領地を併合していった。
 結果、ヴァレンシ獣王国はヴァレンシ共和連合として、王を抱かぬ国となる。
 フェスカ神聖王国はヴァレンシ獣王国の混乱に乗じ、断絶の山脈より東側の元ヴァレンシ獣王国の領地を侵略、自国領とした。
 山脈東側の多くの元ヴァレンシ獣王国民は、隷属をいられることになる。
 断絶の山脈には遥か昔、北のドワーフと呼ばれるものたちが作ったといわれる、ヴァレンシ獣王国の東西をつなぐ大トンネルがあった。
 ヴァレンシ獣王国時代はこの大トンネルを使って行き来が行われていた。
 フェスカ神聖王国の支配から逃れた元ヴァレンシ獣王国の民の中にいた、ドワーフや小人族など〝亜人〟と呼ばれたものたちが協力し、この大トンネルを封鎖することにした。フェスカ神聖王国が西に勢力を伸ばさぬように。
 現在ヴァレンシ共和連合とフェスカ神聖王国を繋ぐ道は、断絶の山脈の八合目あたりにある渓谷を通る〝龍のあぎと〟と呼ばれる峠道か、整備されていない山道のみ。
 凶悪なモンスターが跋扈ばっこする断絶の山脈を越えることのできる軍隊はフェスカ神聖王国になく、山脈を迂回うかいするためには、海を行くか南のロモン公国を通らねばならない。
 フェスカ神聖王国内では、『新たにトンネルを作り、亜人どもを調伏ちょうぶくすべき』と唱える派閥と、『手に入れた東側の土地の開拓に専念すべき』と唱える派に分かれて争っていた。
 しかし教皇の代替わりに起こった内部抗争や、人族至上主義に異を唱える周辺諸国の干渉、〝亜人〟のレジスタンスによる抵抗など、諸処の問題に対応することに手間を取られ、西に侵攻するどころではなくなった。
 それが今より四十年ほど前のことであった。
 ウォルローフ=ミミテステスはそんな混乱期より、先んじてフェスカを脱出できたことを神の導きだったと、今も思っている。そして、ヴァンカの街の西に建てた屋敷で、〝みさきの塔〟と〝塔の森〟の研究を始めた。
 ヴァンカの西に位置する〝みさきの塔〟と呼ばれるそれは、実は塔ではなく塩の柱である。
 文献により年代が異なりはっきりしないが、今より六百年から千年の昔に、みさきの端に神が降臨し去った後、神の姿をかたどった塩の像が残されたと伝えられている。
 神の像は長き年月により、形が崩れて、高さは半分になったといわれている。
 不思議なことに、塔の塩が風雨により流されて大地に染み込んでいるはずが、塔の周りには塩害の様子もなく草木が青々と茂り、やがて森になった。
 塩を含む大地には植物が育成しにくいものなのに、森は年々広がっており、ヴァンカの民に森の恵みをもたらしているのだ。
 ウォルローフ=ミミテステスは〝神の塔〟と〝塔の森〟について今も調べ、考察し、研究を重ねているのだった。


         ◇ ◇ ◇


「で、わしは〝神の塔〟と〝塔の森〟について研究しとるんじゃ」

 学者先生――ウォルローフ先生は一息つくと、お茶を飲み干した。
 フェスカの〝人族至上主義〟は大昔からというわけではないのか。
 でも五十年もあれば、国の主義なんて変わるよな。日本だって戦争で負けて、主義主張も生活も変わったし。

「お前さん……フブキと言ったかの」

 呼ばれてウォルローフ先生を見ると、俺やジライヤたちをじっと見ていた。

「フブキ……神の加護、持っちょるだろう?」
「ブフッ」

 あ、吹き出したせいで、お茶が気管に入った。ツナデが俺の背中をトントンたたいてくれる。

『大丈夫か、フブキ?』
「ごほっ、ありがとう、ツナデ」
「あらあらまあまあ」

 メイミーさんがれたテーブルをいてくれた。

「な、なんのことでしょうか」
「ごまかさんでもよい。わしはこう見えて〝神と精霊〟について長年研究しておる。今もみさきの塔と森について研究しておると言ったじゃろう」

 落ち着いてウォルローフ先生を見る。

「この森は、というか、塔の周辺は〝神の力〟――ワシは〝神気の残滓ざんし〟と呼んでるがな。それのせいでモンスターが近づくことができんのじゃ」

 ウォルローフ先生は、今も俺の背をさすってくれているツナデを見、足元に伏せているジライヤと、隣で眠っているオロチマルに視線をやってから、俺に戻る。
 ……それで、こんなところにポツンと壁に囲まれていない家があるのか……
 ああ、モンスターよけの結界のような効果があるんだ。俺はジライヤたちを順に見ていく。
 全くと言っていい、なんの痛痒つうようも忌避感もなく平気に過ごしている。

「テイマーの従魔はブリーダーの従魔と違い〝契約〟により主との〝繋がりパス〟を持つ。以前、ロモン出身のテイマーで加護持ちの冒険者と知り合ってな。そやつの従魔は主についてこの森に入ることができたんじゃ。フブキの従魔たちはこの場所になんら嫌悪を感じてもないようだし。そもそも家精霊を外に連れ歩くなどとおかしなことをしている時点で、加護持ち決定じゃ」

 あ~、なんか最初からバレていたというか、わかっていたようだ。それでもそのことについて今まで何も言わなかったってことは、ウォルローフ先生にとって大きな問題じゃないのかな。
 メイミーさんが新たに注いでくれたお茶をすする。ウォルローフ先生もすする。

「ま、フブキだけバラされるのは不公平かの。わしも加護持ちじゃ。なんの加護かは教えんがな」
「え?」

 ウォルローフ先生はニヤリと悪い顔で笑った。

「ええ~っ?」

 ウォルローフ先生は、何度もみさきの塔まで行っているそうだが、加護持ちでなければ塔までたどり着けないそうだ。
 ここに来た当初、従者の獣族を連れて森に入ったが、いつの間にかはぐれて従者だけが森の外に戻ってしまうという経験をしたことがあったとか。
 加護なしでも森の途中までは入れるらしいが、塔までたどり着けたのは、話に出たテイマー(護衛に雇った冒険者だそうな)だけだったそうだ。そのときにお互い加護持ちであることを知り、加護についても少し研究したらしい。
 少しというのは、加護持ちは基本その加護を秘匿ひとくするため、研究するほどには対象が探せなかったせいだ。

「フブキはこの国というか、ラシアナ大陸の国々について知りたいんじゃったな。加護を持っとるなら、神と精霊についても知っておいた方がいいんじゃろう。ちょっと塔まで行ってみんか?」

 そう言ってウォルローフ先生はまたニヤリと悪い顔で笑った。


 昼食後、ウォルローフ先生に屋敷の裏にある畑に連れていかれた。

「ここには塔の森に生えていた植物、薬草やらハーブやらを植えてみたんじゃが、塔に近い場所に生えている森の固有種の植物は全く育たなかった。森の外側に生えているものや、塔の森以外にも生えている薬草は育ったんじゃ。だが塔の森に生えているものと比べ、大きさやら効能やらは減少、まあ通常通りと言ったところじゃな」

 あれ? 俺たちなんでこんなところでウォルローフ先生の研究結果を聞いてるんだろう?

「わしの資産も残り少なくての。なんとか森の固有種を栽培して金にならんかと考えてみたんじゃが」

 ウォルローフ先生はうねに手をやり、土を一握り掴んで、手の中でこねるようにしながらボロボロとこぼす。何度かくり返してから立ち上がって、パンパンと手についた土を払った。

「わしはいいんじゃが、メイミーがのう、怪我けがを治してもらいに行けと言ったんじゃが、生命魔法の使い手は少なくてなあ。かなり割高なんじゃ」

 フェスカ神聖王国とのいさかいの結果、このあたりに四神教の教会はなくなり、あるのはそれぞれ一柱をあがめる小さな教会のみ。それも、横の繋がりはないようだ。
 獣族は元々魔法適性が低いため、生命魔法の使い手というのは、人族の神官か医者になるようだ。魔法適性の高いエルフはこの辺にはいないのだとか。
 ウォルローフ先生は研究者だけあって《調合》や《錬金術》スキルを持っている。だから材料さえあれば、中級から上級ポーションも作れるそうだ。

「森の奥に行けばよい薬草がわんさと生えとるんじゃが、わし一人じゃ奥まで行くのは無理でのう」

 モンスターはいなくとも、普通の動物はいる。いや、モンスターがいない分、他の森よりも多い。
 中心部には凶暴な動物はいないそうだが、そこに行くまでに熊やら狼やらが出ることもあるという。

「研究ばかりしていたせいで、魔法スキルはからっきし上げておらんのでのう……」

 そう言いながら俺の方を見る。

『マスター。この森は特殊区域のようです。森の浅い位置に畑を作成すれば、森の固有種の栽培も可能です。なお、すでに畑の一部は特殊区域に含まれております』

 ああ、じゃあ畑の位置を少し森側にずらせばいいってことか。
 俺は、畑の森に近い方に歩いていく。特殊区域の境がわかればいいんだが。

『イエス、マスター。この特殊区域は《聖魔法》レベル4で使用できる〈ホーリーサークル〉の効果に酷似しています。マップに〈ホーリーサークル〉の効果範囲を色指定すれば、マップ上に表示可能と思われます』

 マップの指定って、モンスターとか植物とかにしてたけど、そういう使い方もありなのか。よし、じゃあ一時的に〈ホーリーサークル〉の効果範囲を青で表示っと。
 ……マップが森の方に向かって青く塗り変わっていく。境目あたりまで歩くと、先生の方に振り返る。

「先生、このあたりから森方向なら、森と同等の土壌のようですよ」
「なんじゃと!」

 ドテドテと走ってきたウォルローフ先生が、俺の足元の土を握る。

「〈鑑定〉……むむ、本当じゃ。いつの間にここまで。いや、森の効果が広がって……最後にこのあたりの土を鑑定したのはいつじゃったか? 二十年前か?」

 ウォルローフ先生は《鑑定》持ちか? 学者には欲しいスキルだもんな。

「なんじゃ? 《鑑定》ならお前も持っとるだろう。《アイテムボックス》と《鑑定》は、加護持ちなら高確率で習得できる。お前も《鑑定》したんじゃろ?」

 おお、そうなんだ。ということは、ウォルローフ先生も《アイテムボックス》持ちか。

「《アイテムボックス》がなければ、フェスカから色々持ち出すなんて無理じゃったぞ」

 俺の考えを読んだように言うウォルローフ先生。
 俺の荷物って、見た目ショルダーバッグだけだから、見当つけられてたかな。でも冒険者って身軽……ってわけでもないか。野営道具も調理器具も必要なのに持ってないや。

「よし、ルクタ! 畑を……」

 立ち上がり振り向きざま言い放ったウォルローフ先生の言葉は、しりすぼみに途切れた。

「そうじゃった。ルクタはもうおらんのじゃった」

 うつむき加減でポツリとこぼした。

「ルクタはな、メイミーの父親で腕のよい農夫じゃったんじゃ」

 この畑も、ルクタ一家が管理していたそうだ。
 メイミーさんも農作業が専門で、どちらかというと、メイド仕事は不得意なんだそうな。
 土竜獣族は、土を掘り返すのが得意そうだしな。
 農作業か。《土魔法》と《風魔法》があれば耕すのは簡単だと思うんだが。

「先生は、《土魔法》は使えるんですか?」
「んん、エルフほどではないが、小人族はそれなりに魔法にけた種族じゃ。わしも《属性魔法》のスキルは持っておるが、レベルを上げておらんのでな」

 う~ん……戦闘職じゃなければ、種族レベルも戦闘向きのスキルレベルも低いか。
 前に護衛の依頼で一緒になったマーリーさんは、斥候せっこう職だから自分がパーティーで一番レベルが低い、というようなこと言ってたな。

「《風魔法》をまっすぐ放つんじゃなくって、渦巻状に放って土をひっくり返すのはどうですか?」

 そう説明して天地返しを行うため〈スパイラルウインド〉の呪文を唱える。
 地面スレスレに放つことで、畑の土を巻き上げながら、二十メートルほど先の木のさくも吹っ飛ばし、さらに十メートルほど向こうの土まで掘り返した。

「あ……」
「フブキ、さく
『壊したで』

 ルーナとツナデが一目瞭然りょうぜんなことをあえて言葉にする。

「ほ、ほら、どっちみち畑を広げるんだから、さくの位置はずらす予定だし……」

 ツナデとルーナが俺を見る。

「じいーー」
『じとーー』

 う……そんなオノマトペをどこで覚えた! 視線だけでも痛いのに!

「ご、ごめん」

 素直にミスを認めよう。

「はっはっは。もしかして従魔にしかられておるのか? 面白いやつじゃの。畑を森方向にずらすにはさくの位置を変えねばならんが、壊すのはちと困るのう」

 ウォルローフ先生は笑いながら、ちくっと指すことも忘れない。

「じゃあ、先にさく抜いちゃおう」
『ウチもそっち手伝ってくるわ。オロチマル、あんたもおいでや』
『うん、ねーねのお手伝い~』

 ルーナが先に走り出し、ツナデがオロチマルの背に乗ると、ルーナを追いかけさくに向かって走っていく。

『オレ、土掘り返す』

 ジライヤは《風魔法》で耕す方を手伝ってくれるようだ。気を取り直して畑作業を続けよう。
 掘り返した後は、《土魔法》の〈ソイルムーブ〉で土をうねになるよう盛り上げていく。

「ふむ、面白いやり方じゃな。魔法の形状変化はスキルレベル3であれば使用できる。わしのスキルレベルは4じゃから、問題なく使えるな」

 先生は試しにと、俺の作ったうねの横に魔法を放つ。風が渦を巻きながら、さくのあった場所の手前で止まった。

「レベル差のせいじゃろな。だがこれだけできれば問題ないじゃろ」

 続けて〈ソイルムーブ〉を唱えると、若干高低差のあるうねができ上がった。

「……慣れは必要じゃな」
さく抜き終わったよー」

 ルーナが戻って報告してきた。テニスコート二面分ほどもありそうなのに早いな。
 見ると抜いたさくをツナデがつるしばって、それをオロチマルが引っ張って一ヶ所にまとめていた。
 さくのなくなったところを、ジライヤが《風魔法》で掘り返している。時々前脚で掘ってたりもする。掘りすぎるなよ。犬って穴掘り好きだけど、ジライヤも好きそうだ。そういえば、前に穴掘りしようとしたことあったよな?

「おお、あっという間に畑が耕されていくのう。あとはさくか」

 先生は耕し終わった畑を、腰に手を当てて眺める。

さくは俺たちがやりますよ」
「そうか、では頼むとしよう。それが済んだら採取に行くぞ!」
「え?」
「グズグズするでない。とっととさくの設置を終わらせるんじゃ。わしは採取の準備をしてくるからな!」
「あの、ちょっと先生……」

 ウォルローフ先生は、採取の準備のために屋敷に走っていってしまった。
 仕方ない。走り去るウォルローフ先生を見送ってから、抜いたさくを置いてある場所に移動する。
 ちゃっちゃと終わらせるか。

「まずは古いさくに〈強靭〉」

 それなりにもろくなっているところもあるので頑丈がんじょうにしておく。
 次に地面を〈軟化〉でやわらかくしたところにさくを立てて……ハンマーがない。

「ツナデ、ルーナ、ちょっとさくを支えててくれるか?」
「いいよ」
『こっち側支えればええんか』

 そして俺はさくの上に飛び上がる。

「〈ウエイトアップ〉」

 ガシュン! バキバキ……
 ……あ。

「フブキ~」
『変なことせんと、岩かなんかでたたいたほうがええと思うで』
『ツナデに同意』
『まま、まま、踏みつけたらいいの?』

 すみません。体重倍にして踏みつけたら刺さるかなと思いました。自分のステータス失念してました。またさくが壊れました。反省してます……
 そのあとは〈ストーンクリエイト〉でハンマーを作って真面目まじめに打ち込んだ。
 壊したさくは《コピー》で増やして補填する。さくの根元はオロチマルの《石化ブレス》で固めて、さらに〈強靭〉を施せば、ちょっとやそっとじゃ抜けない頑丈がんじょうさくのでき上がりだ。
 作業が終わると、なぜかみんな土まみれだった。
 特にジライヤはところどころ魔法ではなく、前脚で掘っていたので一番汚れていた。あ、《風魔法》でその汚れを吹き飛ばしてる。ウチの従魔マジ器用なのな。

「あらあら、まあまあ。お手伝いをと思いましたが、もう終わってますのね」

 メイミーさんが麦藁帽子むぎわらぼうしに首に手拭てぬぐいを巻いた農婦ルックで現れた。メイドではなく農婦だって言ってたし、畑仕事がしたかったのかな。でも、片手で農具を扱うのは無理だろう。

「ちょっといいですか?」

 俺はメイミーさんの骨折した方の手をとる。
 骨折は怪我けがなのだが、一種の状態異常でもある。痛みを感じると、HPが微量だがけずられるようだ。メイミーさんは怪我けがしたまま仕事をしようとして、無理をしているのだろう。
 骨折は結構重症だと思うので〈中度怪我治療ハイキュア〉より〈重度怪我治療エクストラキュア〉の方がいいだろう。

「俺、治療魔法も使えるんでその手、治しますね。〈エクストラキュア〉〈軽度病気治療キュアディシーズ〉」

 淡い光がメイミーさんを包み消えた。

「どうですか?」
「……あらあら、まあまあ……なんてことでしょう。腰と膝の痛みがなくなりましたわ」

 おっと、結構ぽっちゃり体型なんで、腰と膝にも負担がかかっていたようだ。
 メイミーさんはおそるおそる右手を動かす。

「あらあら、まあまあ……右手の痛みが……動かしても痛くない、というか動かせますわ」

 鑑定すると【状態・疲労(軽度)】になり、骨折が消えていた。メイミーさんが俺の両手をガシッと握る。

「ありがとうございます。これで畑仕事ができますわ」

 メイド仕事じゃなくって畑仕事なんだね。


 なんだか午後からも忙しそうで、ログハウスを出せる場所を探す暇はなさそうだ。《アイテムボックス》も加護もばれてるし、畑の外の森近くにログハウスを出して今日はそこで泊まるか。チャチャも家があった方がいいだろう。
 俺は森に近い場所にログハウスを設置して、チャチャを迎えに行く。
 屋敷の右翼棟にある、勝手口というか使用人用出入口から、中に入る。一応入る前に自分に〈ピュア〉をかけた。肌のベタつきとかも取れるんだよ。清潔さに関してはこれさえあれば問題ないんだが、やはり風呂は綺麗きれいにするだけじゃないからな。風呂は別物だ。

「あ、家主ちゃま」

 ちょうど厨房から、チャチャが自分よりも大きな缶のようなものを持ってふよふよ出てきた。

「どうした、チャチャ?」
「おでかけすると聞いたので、お茶とおやつをご準備ちてまちゅ。この茶葉ちゅかってもいいか、メイミーちゃまにおたずねちようと思って」

 俺はチャチャから缶を受け取り、蓋を開けてみた。途端にふわりとフルーティーな香りと紅茶の香りが広がる。


 =ファナ茶 状態・保存良好、出荷後一ヶ月経過
 ファナの葉と花に萎凋いちょう揉捻じゅうねん発酵はっこう、乾燥の工程を行い、長期保存を可能とした茶葉。ウスラ茶園の茶葉は丁寧に加工されており上質品。お湯を注いで抽出した液体は、透明度の高い琥珀色こはくいろで甘い芳醇ほうじゅんな香気を持ち、微小ながら疲労回復効果がある=


 紅茶のようなものか。ちょっと《コピー》させてもらっておこう。

「メイミーさんには俺から言っておくから、とりあえずこっちのコピー品を使って。それと、森近くに家を出しておいたから」
「わかりまちた」

 チャチャは俺が渡したコピー品を《ポケット》にしまい、お茶缶を持って戻っていった。


 チャチャからおやつセットを受け取り玄関ホールへ行くと、階段を下りてくるウォルローフ先生に出くわした。

「もうさくの設置が終わったか。さすがじゃな、それでは行くぞ」

 言うだけ言ってさっさと外に出て行こうとするウォルローフ先生をあわてて引き止めた。
 こっちの準備はまだです! 


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