神様に加護2人分貰いました

琳太

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3巻

3-1

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 第一章 湖の街ブルス



 俺の名前は天坂あまさか風舞輝ふぶき、十七歳の高校二年生だ。
 ある日、幼馴染おさななじみ笹橋雪音ささはしゆきねとその友人の牧野奏多まきのかなたと、クラスメートの竹中勇真たけなかゆうまの四人で異世界に召喚された。
 だが、俺は勇真に魔法陣から突き落とされ、気がつけば一人見知らぬ森に立っていた。
 俺が落ちたのは、エバーナ大陸のど真ん中にある、ベルーガの森。そこはケモ耳の獣族が暮らし、多くのモンスターが生息する危険な場所だった。そこで俺は、ブラックウルフのジライヤとフォレストマンキーのツナデを従魔にし、モンスターに襲われていたところを助けた豹獣族の少女ルーナとともに旅をすることになった。
 雪音を探すために人族が多く住む、隣のラシアナ大陸を目指す。
 旅の資金を稼ぐべく、冒険者となって依頼をこなしていたが、ベルーガの森でキラーグリズリーというモンスターに遭遇そうぐうした。ルーナがそのキラーグリズリーの攻撃から俺をかばって致命傷を負ってしまう。俺はどうにかして助けようと、地球の〝神〟――この世界から見れば〝異世界神〟になるのだが――にもらった力で《メディカルポッド》という新たなスキルを作り出し、そのポッドに入れることで、彼女の一命を取り留めることに成功する。
 しかし、七日間経って、やっと《メディカルポッド》から出てきたルーナは、なぜか五歳くらいの幼女になっていた。
 俺のスキルの効果なのか、幼女化だけでなく俺の眷属にもなっていたルーナ。そんな彼女を連れて、進化でダークシャドウウルフになったジライヤと、ロングテイルマンキーになったツナデと一緒に旅を続けることにした。
 人族が治めるテルテナ国の、東端にあるミスルの街でルーナの装備を整えたので、ミスルの街から南西にあるエレインという港街を目指している。エレインからラシアナ大陸へ渡ることができるのだ。
 道中、卵から孵化ふかしたコッコトリスというモンスターのひなに親認定されてしまう、なんてハプニングにも見舞われる。さすがに『まま』と呼ばれては見捨てることもできず、ひなにはオロチマルと名付けて従魔にした。
 そして今、ミスルとエレインの中間にあるブルスという湖に隣接する街にたどり着いた。
〝神〟にもらった《加護》の、ややチート気味……いやもう完全にチートだな、そんな力のおかげでなんとかここまでやってこれた。
 また、この世界には《スキル》や《魔法》、そして《ステータス》が存在する――


 名前・フブキ=アマサカ 年齢・17歳 種族・異世界人
 レベル・19 職業・テイマー、冒険者、救命者
 H P 31459000/31459000
(26214400+5242880+1040+520+160)
 M P 31458840/31458840
(26214400+5242880+620+780+160)
 STR(筋 力)2932(1720+344+476+272+120)
 DEF(防御力)3148(1900+380+476+272+120)
 VIT(生命力)3302(1900+380+558+344+120)
 DEX(器用さ)2660(1540+308+372+364+76)
 AGI(敏捷性)2396(1260+252+476+312+96)
 MND(精神力)3180(1900+380+372+408+120)
 INT(知 力)2078(1220+244+270+272+72)
 LUK(幸 運)1218(720+144+166+136+52)

【加護スキル】《アイテムボックス(時間停止)LV2》《パラメーター加算LV2》
【称号スキル】《言語理解LV5》《取得経験値補正LV2》《使用MP減少LV2》《スキル習得難易度低下LVMAX》《取得経験値シェアLVMAX》《従魔パラメーター加算LV2》《生命スキル補正LVMAX》《眷属招集LVMAX》
【職業スキル】《従魔契約LV3》《意思疎通LV3》
【生命スキル】《メディカルポッドLV1》《回復術LV4》《治療術LV2》《蘇生術LV0》
【補助スキル】《アクティブマップLV5》《鑑定LV8》《気配察知LV2》《気配隠蔽LV3》《追跡者の眼LV2》《縮地LV3》《分身LV1》
【技工スキル】《細工LV2》《家事LV3》《解体LV5》《錬金術LV4》
【武術スキル】《槍術LV3》《棒術LV1》《格闘術LV2》《短剣術LV1》《双剣術LV1》《長剣術LV4》《盾術LV1》
【魔法スキル】《属性魔法LV7》《氷魔法LV6》《雷魔法LV5》《木魔法LV4》《魔力操作LV5》《魔法構築LV5》《魔力感知LV3》
【耐性スキル】《状態異常耐性LV1》《物理耐性LV1》
【ユニークスキル】《ナビゲーターLV3》《コピーLV4》《ギフトLV1》
【加護】《異世界神の加護×2》
【称号】《異世界より召喚されし者》《落とされた者》《ジライヤの主》《ツナデの主》《生命の天秤を揺らす者》《眷属を従える者》《オロチマルの主》

 俺のステータスは、ちょっと数値がおかしいかもしれない。


         ◇ ◇ ◇


「おっきいね」

 ルーナが街を見た感想を述べた。
 ブルスは湖畔こはんに造られた街だ。湿気しっけを含んだ風がほおでる。
 湖の中の小島にも建物が建っており、島と湖岸を橋で繋いでいた。湖岸側の一部を除き、高さ五メートルほどの石壁が街を囲んでいる。
 目前に見える門は、ミスルの西門と同じくらい大きい。門から出てくる馬車は何台もあるが、反対に入る方は並んでる様子がなく、今入っていった荷馬車一台のみのようだった。

「止まれ、身分証を提示しろ」

 槍を持った兵士二人が行く手をふさぎ、別の兵士が身分証の提示を求めてきた。俺はルーナのポーターカードを預かり、自分のギルドカードと一緒に渡す。

「冒険者と……その子供はポーターか。なら入街税は免除だが、従魔が〝ダークシャドウウルフ〟と〝リトルマンキー〟か。……頭の上のはなんだ?」

 兵士はカードの記載とジライヤたちを見比べて、最後に頭の上のオロチマルを指差した。しまった。だんだんオロチマルの重みに慣れてしまって、頭の上に乗せたままだった。あわてて頭の上からおろして抱える。

「道中で卵からかえったコッコトリスなんだが、なついてしまったんで従魔にしようかと……」
「そりゃあ残念だったな。コッコトリスは、卵は美味うまいが肉はそうでもないんだよな」
「ぴぴぃ」

 門兵の言葉で食べられると思ったのか、オロチマルの足が腕に食い込んだ。優しくでて落ち着かせる。

「大丈夫、食べたりしないよ」
『ほんと、フブキまま、ボク食べない?』
「お、スマンスマン。おびえさせたか。登録のない従魔の入街税は千テナだ。冒険者ギルドで登録を済ませたら半額返金されるから、納税証明書を中央省に持っていけ」

 門兵に千テナを渡すと、刻印の押された木札を渡された。これが納税証明書か。
 ミスルでルーナの入国税が五百テナだったのに、従魔の入街税は倍の金額だ。手続きをすれば半額返ってくるとはいえ、モンスターの方が高いのか?

「ようこそ、湖の街ブルスへ」

 門をふさいでいた兵士が後ろに下がり、道を開けてくれた。俺たちは街に足を進める。湖の街か、ここからは湖は見えないな。

「あ、冒険者ギルドってどこにあるか教えてもらえるかな?」

 颯爽さっそうと歩き出そうとしたが、行き先がわからなかった。まらないなあ。


「まずは冒険者ギルドかな」

 俺たちがたった今通った門は、街の北門になるようだ。北門から続く大きな通りを南に行くと、商業区がある。商業区の東側が貴族区と領主邸になる。ちょうど商業区と貴族区の間に中央省というお役所があるそうだ。
 冒険者ギルドは中央省の手前の通りを少し西に行ったところにあると、門にいた兵士に教えてもらった。
 大きな通りを南に向かって歩いていると、街並みの間から東側にちらほら湖が見える。あっちには湖岸港と市場があるそうだ。
 魚かあ。そういえば異世界こっちにきてからサーケマースくらいしか食べてないよな。

『あれは、海とちゃうん?』

 ツナデは湖を見るのも初めてか。

「うん、湖って言って池の大きいやつ。海はもっと大きくってしょっぱい」

 あれ? そういえばこっちの海って、塩分を含んでるのかな。

『イエス、マスター。この世界の海の塩分濃度は平均三パーセントです』

 ナビゲーターが教えてくれた。やっぱりしょっぱいのか、でも地球よりちょっとだけ薄いのかな。授業で習ったのはもう少し濃かったような気がする。
 ツナデは興味津々しんしんといった感じで、ジライヤの上で身体を伸ばして湖の方を見ている。お風呂はあんまり好きじゃないのにな。
 そうこうしてる間に、中央省らしい大きな建物が見えてきたので、右に曲がり、西に向かう通りに入る。
 しばらく歩くと、剣と槍が交差した看板が見えた。

「手続きと素材の売却を済ませてくるから、ルーナたちは外で待っててくれ」

 従魔登録のため、いつの間にか眠っていたオロチマルを抱えたまま中に入る。
 ここのギルドハウスも大きいな。たくさんのカウンターと大きな依頼票ボード。たむろする冒険者。ムル村やミスルの街より人族の割合が多い。ちらほらとドワーフもいるが、獣族は四割くらいか。ムル村は七割獣族っぽかったし、職員も獣族が多かった。ここはカウンターの向こうにいる職員も人族が多い。
 左側に大きい買取カウンターがあり、外から荷車で運び込めるように、別の広い出入り口が横に設置されていた。
 うん? 今買取カウンターにいる剣士風の人が、カバンからサイズの合わない大きさの皮を取り出したぞ。あれはマジックバッグというやつか。

『イエス、マスター。〈空間拡張〉と〈重量軽減〉を〈付与〉されたマジックバッグは、《空間魔法》《重力魔法》《錬金術》の三つのスキル保持者によって作成されたものと、〝ダンジョン〟からの発掘品とが存在します。このブルスとクエンの中間地に〝ダンジョン〟があるようです』

 出たよダンジョン! 雪音たちを探す旅じゃなかったら行ってみたいところだが、今回はあきらめるか。クエンは王都に向かう途中にあるって言ってた街か。
 ここに来て初めてマジックバッグを見たけど、職員も驚いてない。だったら、ショルダーバッグから出す振りして《アイテムボックス》から出してもいいよな。フォレストアナコンダの肉が大量にあるんだが、湖を眺めていたせいで、街に入る前に大八車出しておくの忘れたんだよ。
 とりあえず買取カウンターに並ぶか。
 時間が昼前だし、混んではいないのでさほど待たずに順番が来た。

「売却する素材は? そのコッコトリスのひなか? 肉はうまくないぞ」
「あ、いや、こいつは従魔で納品素材じゃないから」

 あぶねえ! オロチマルを抱えていたら納品物扱いされた。起きていたら騒ぎ出すところだよ。
 いぶかしげにこちらを見るひげモジャのおっさん職員の前で、オロチマルをカウンターに載せるわけにもいかず、足の間にそっと挟んだ。そしてショルダーバッグの中にわざとらしく両手を突っ込む。手を出す瞬間に《アイテムボックス》から取り出せばマジックバッグに見えるだろう。

「えっと、グレーファングの皮五匹分と、フォレストアナコンダの皮と……」

 フォレストアナコンダの肉は、大きい麻袋四つに分けて入れてあるが、長持ながもちに入らないので《アイテムボックス》の数を占領している。とりあえず一袋でいいか。

「アナコンダの肉」
「フォレストアナコンダの肉!?」

 俺の言葉にかぶせるように、ひげのおっさん職員が身を乗り出して声を上げた。
 む、一度に出しすぎたか? だが、ひげのおっさん職員はハッと周りを見回し、ゴホンとせきをする。

「ああ、マジックバッグ持ちでもないとあの肉を持ち帰るのは大変だ。しかしフォレストアナコンダの肉は久々だよなあ。アレは酒に合うんだよ」

 じゅるりとよだれを垂らしそうな顔で言うひげのおっさん。

「バーカス! 酒盛りのことばっかり考えてないで仕事しな」

 隣の職員から叱咤しったの声が飛んできた。なんだ、このおっさんの好物だったのか。

「これだけか? このサイズの皮の持ち主なら、肉はもっと取れただろ」

 出せ出せという雰囲気ふんいきだったので、あと二袋並べてやった。一袋五十キロくらいあるんだぜ? でも、ひげのおっさん職員の瞳はキラキラしてる。そんなに好きなのか……

「査定に少し時間がかかる、まあ四半刻くらいか」

 四半刻は一刻が二時間で、その四分の一……三十分ってことか。この後、オロチマルの登録をして、入街税の返金手続きもある。用事を済ませてる間に終わるな。
 ひげのおっさん職員から木札を受け取ると、オロチマルを抱え直し、今度は受付カウンターへ並びに行った。
 ルーナのポーターカードはあらかじめ預かってあるから、一緒に討伐分の処理もしてもらおう。

「従魔が増えたので登録してほしいんだが……」

 忘れずにツナデの種族も変更しておこう。
 カードの討伐数は、俺とルーナの分を合わせて【ホーンラビット3・グレーファング3・フォレストアナコンダ1・オーク3】だ。
 ホーンラビットのような脅威度が低く食肉に適したモンスターは納品しない限り依頼としてカウントされない。もちろん、指名の依頼があれば別だが、そういったことはほとんどないらしい。
 オーク三匹で六百テナ、グレーファング三匹で六百テナ。これらはギルドの討伐依頼で倒した場合、七級相当のモンスターだ。そして、フォレストアナコンダは五級で千テナだった。さすがDランクモンスター。

「売却する素材はありますか」
「先に買取カウンターに持っていった。今査定中だ」

 預かっている木札を見せる。

「では討伐分を処理しますね」

 二千二百テナとカードを受け取り、カードの記載に間違いがないか確認する。


 名前/フブキ
 年齢/17
 種族/人族
 級/6
 職業/テイマー
 パーティーメンバー/ルーナ(ポーター)
 従魔/ジライヤ(ダークシャドウウルフ)
    ツナデ(ロングテイルマンキー)
    オロチマル(コッコトリス)
 賞罰/なし

【達成依頼】

  十級・0/0/0
  九級・7/2/0
  八級・0/9/0
  七級・1/11/0
 ○六級・2/2/0
  五級・0/1/0
  四級・0/1/0

【討伐】

 ――――


 ついでに職員に、持ち込み食材を調理してくれる食堂がないか聞いてみた。

「食材は何ですか?」
「フォレストアナコンダだ」
「でしたら、前の通りを北に行ったところに『レヴィアタンの鱗亭』という宿があります、あそこは魚や蛇などの料理が美味おいしいですよ。中級冒険者がよく利用する宿でもあります」

 湖の街で魚料理が不味まずかったら最悪だよな。中級冒険者ってことは、値段はそこそこするってことかな。まあ、中級なら『ミスリルの剣亭』より安いかも。そこで宿も取って、フォレストアナコンダを調理してもらおうかな。
 さっきから抱えているオロチマルが目を覚ましたようで、ジタバタし出した。頭の上に乗りたいのだろうが、こんな人の多いところではあきらめてくれ。
 買取の代金は昼ごはんの後に取りに来ればいいだろう。俺たちはギルドハウスを出て『レヴィアタンの鱗亭』を目指した。


         ◇ ◇ ◇


「ふん、ふん、ふ~ん」

 鼻歌を歌いながら、麻袋を載せた台車を解体場に運び込むバーカス。手の空いている同僚に皮の査定を任せ、自分ははかりまで肉を運ぶ。
 麻袋を開けて中をのぞくと、たっぷりフォレストアナコンダの肉が入っていた。かたまりを一つ取り出し状態を確認する。

「おお! 新鮮でしかも血抜きもきっちりされてる。あいつなかなかいい腕してるじゃねえか」

 次々と中身を取り出し、はかりに載せていく。買取素材で、商業ギルドから買取優先指示が出ていないものは、ギルド職員なら優先で一部買取ができる。冒険者ギルドで働くメリットだ。

「こんなにありゃあ、十キラトは問題なく俺も買い取れそうだ。今晩はこいつのあぶり焼きで一杯、く~、まだ昼前ってのがつらいなあ」

 バーカスは、楽しげに二つ目の袋の中身も載せていく。

「む、百キラト目一杯か。それじゃあ分けて量るとするか」

 バーカスの使ったはかりは、最大計量が百キラトのものだった。

「おい、ロッソ、こいつを頼む」

 バーカスは見習いのロッソを呼び、量り終えたフォレストアナコンダの肉を、十キラトずつに小分けにするよう指示を出した。
 そして自分は、二つ目の袋の中身をホイホイと載せていく。三つ目の袋を開けたところで、肉に伸ばした手が止まる。

「……ちょっと待て。フォレストアナコンダの肉を見て浮かれすぎた。あいつのマジックバッグにこれ全部入ったのか? どんだけ容量あるんだよ」

 一番出回っているマジックバッグは、王都にいる名の知られた王宮魔術師が作成したものだ。容量が〇・五マルト×〇・五マルト×〇・五マルトほど。せいぜいこの麻袋一つ分だろう。
 ダンジョン産はピンキリだが、容量の大きいものは超レアで、ほとんど世間に出回ってない。持っているのは、上級貴族か王族御用達商会くらいなもの。比較的出回ってるものでも、一マルト×一マルト×〇・五マルトだ。無理をしたらこの麻袋三つなんとか入らなくもない。
 だがあの冒険者は、肉の前にグレーファングの皮やフォレストアナコンダの皮も出したし、あのカバン以外荷物を持ってなさそうだった。食料やら、野営道具やら冒険者に必須の荷物はどうしていたのか。

「……他の仲間に預けて、売却する素材だけ詰めたのかも。そうだ、きっとそうしたんだ」

 違和感を無理やり納得させ、目の前の好物を量る作業に戻るバーカス。今夜の酒盛りが頭の中をめぐるに任せると、マジックバッグのことなどどうでもいいことで、すぐに忘れた。
 彼はドワーフの血を引くせいか、めっぽう酒好きであった。


         ◇ ◇ ◇


 ギルド職員に教えてもらった宿『レヴィアタンの鱗亭』は、大通りを湖岸側に少し入ったところにあったので、ちょっとわかりにくかった。
 隠れたお宿なのか、なんてらちもないことを考える。
 冒険者御用達宿によく見かけるタイプで、一階は食堂を兼ねている。そろそろ昼どきでもあり、ちらほらと客が扉を開けて中に入っていった。

「ジライヤとツナデはちょっと待っててくれ。オロチマルもな」

 入り口の横で、ジライヤの頭の上にオロチマルを乗せると、ツナデが尻尾しっぽでオロチマルを押さえてくれた。そのすきにルーナと二人、扉を開けて中に入る。
 ドアを開けると『カランカラン』と音が鳴る。ドアにかねをつけているのか。昔親父に連れられて行った近所の喫茶店も、ドアにカウベルをぶら下げてたよな。最近はセンサーでピンポンと鳴る方が多いが、俺はカウベルの音が好きだ。

「はーい、いらっしゃいませ。お食事ですか、お泊まりですか?」

 奥から出てきたのは、ルーナより少し大きい女の子。七、八歳くらいだろうか? 猫耳をピクピクさせながら現れた。

「宿泊なんだが、従魔を部屋に連れていってもいいかな?」

 この宿の娘だろう猫耳少女は、ルーナを見て俺を見て、またルーナを見てにっこり笑う。

「従魔はなんですか」
「外で待たせてるんだが、ダークシャドウウルフとロングテイルマンキー、コッコトリスだ」

 猫耳少女は外に出て三人の姿を確認する。

「うみゃっ、みゃあ、にゃあ、きゃわいいっ」

 変な声が聞こえる。可愛かわいいって誰のことだ? ツナデか?
 戻ってきた猫耳少女は、さっきよりもさらに口角を上げた笑顔を俺に向ける。

「すごく綺麗きれいにしてますねえ。いいですよ、お部屋に入れても。あ、床にふんはさせないでくださいね。二人部屋でしたら、お一人素泊まりで四百テナ、朝夕食事付きで五百テナですよ。大きな部屋がいいなら五百テナ追加で家具付き部屋もご用意できます」
「風呂付きの部屋ってあるかな?」
「宿にお風呂はありません。冒険者ギルドの近くに大衆浴場があるので、お風呂はそっちでお願いします」

 大衆浴場か。俺一人なら入れるけど、みんなは無理だな。他の方法を考えるか。


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