神様に加護2人分貰いました

琳太

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SS置き場

2巻発売記念SS

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いつもとちょっと違う書き方してみました。
記念SSです。
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 それはまだ、少女が恋を自覚する、ずっとずっと前の頃の出来事だった。



 十年前ごろから始まった土地開発は、建て売り一戸建ての家を次々と建築していった。
 新しく作られる住宅街には、公園を作る決まりがあるのだろう。
 砂場、ブランコ、動物を模った乗り物などがまばらに配置されたそこは、近隣に住む子供達の、それなりの遊び場になっていた。

 今日も小さな公園で、小さな影たちが跳ね回る。
 その時間は、たまたま。そう、たまたま大人たちがいなかった。
 砂場に小さな悲鳴が上がる。

「やあっ」

「なんだよ、変な色~」

「茶色い頭はふりょうだってばあちゃん言ってたぞ」

 うずくまる少女の、明るい色の髪を引っ張ったり、頭をこずいたりする、2人のいじめっ子の男の子。

「いたい、やめてよう」

「「ふりょう、ふりょう」」

 いじめっ子その1とその2は、昔の西部劇なんて、みたことがないだろうに。昔の映画に出てくる、真実とは異なる誇張表現されたインディアンのように、少女の周りを、はやしたてながら回る。

「ふぇ……」

 うずくまったまま、少女は小さく泣き声を漏らす。それが面白いことのように囃し立てるいじめっ子その1とその2。

「やめろ、オマエら!」

 突如、大きな声で呼びかけられ、いじめっ子その1とその2が、びくりとびあがる。
 まあ、女の子もその大きな声に、より身を縮めてしまったのは予想外の事だ。

「なんだよ、オマエ」

 またも、往年のドラマのようなセリフをはく、いじめっ子その1。

「じゃますんなよ」

 そして追従するその2。

「オレはフブキだ!」

 ふむ、フブキ少年はその辺りの定番はご存じなかったようで、しっかり名のってしまったようだ。
 フブキと名乗った男の子は、なぜか腰に手を、当て胸をそらし、偉そうであった。

「女の子はいじめちゃダメなんだぞ?」

 そしてなぜか疑問系のフブキ少年。

「ふりょうは悪いやつだから、いじめてもいいんだよ」

 謎の理由で、こちらも胸をはるいじめっ子その1。

「悪いやつって言う方が悪いやつだ」

 だが、フブキ少年も謎の理由だった。まあ全員幼稚園児だし。

「なんだよ、おまえもふりょうの仲間かよ」

「俺はふりょうじゃない、正義のヒーロー戦隊の味方だ」

 彼は正義の味方、もしくはヒーロー、いやヒーロー戦隊と言いたかったのかもしれない。うん、きっとそう。

「よし、悪いやつはこうしてやる。やれ!ブラックサスケ隊員!」

 ズビシッと、右手でいじめっ子その1を指差すフブキ少年。そしてフブキ少年の後ろで、おとなしくおすわりしていたが、のそりと立ち上がる。

 彼──サスケはまるで『何を言ってるのかな、君は。私が何をやるんですか? やるわけがないでしょう』と、言わんばかりの視線をフブキ少年に向ける。

「どうした、サスケ隊員?」

 ブラックはどこにいったのでしょう?
 抜けてしまった名前のブラックが示す通り、全身を覆う黒い体毛(あ、額から鼻の周りにかけてと、襟と足先は真っ白です)なサスケ隊員は、その前脚を一歩前に進める。
 ゆっくりのっそりなサスケ隊員を見て、いじめっ子その1とその2は後退る。

 サスケ隊員は、ちらりとフブキ少年をみて『もう、あとでママに叱られても私は知りませんよ』と、言いたそうだが、犬なので当然喋れない。

「サスケ?」

 動かないサスケ隊員のリードを、首輪近くで握りしめるフブキ少年。
 もう一度フブキを見て、いじめっ子の方を向くとサスケは一声吠えた。

「ワンッ」

「「わーっ、助けてままぁ」」

 幼稚園児にとって、ボーダーコリーは巨大に見えたかもしれない。サスケの一声で、いじめっ子その1とその2は走り去った。
 だけど少女も耳を抑えて縮こまる。ほら、さっきより涙目だよ。

「よくやった、サスケ隊員、ほらもう大丈夫だぞ」

 フブキ少年は、縮こまる少女の手を取って、立ち上がらそうと引っ張った。

「「あっ」」

 勢いよく引っ張った方も、引っ張られた方も、バランスを崩して倒れかかる。
 そこに、さっと滑り込む黒い影……いや、サスケである。

『危なっかしいですね。男の子なんですからしっかりしなさい』と、言わんばかりに、鼻ズラをフブキ少年に押し付けるサスケであった。

「よくやったサスケ隊員、褒めてやるぞ。大丈夫か、ユキネ?」

 フブキ少年は立ち上がり、少女ユキネも立ち上がる。

「うん、ありがとう。サスケちゃんもありがとう。サスケちゃん、本当に飛びかかるの?」

 その言葉に、心外だと言うようにユキネの方を向くサスケであった。

「サスケはそんなことしないぞ、オレの子分だからな」

 またも胸を張るフブキ少年。
 いや、やれって言いましたよね、あなた。

 それに『私の方が、お兄さんなんですが?』とサスケが思ったかどうかは定かではない。

「さわっていいかな? いいかな?」

 ついさっきまでべそをかいていた少女は、大きなもふもふを見て瞳をキラキラさせる。
 少女ユキネの母は、もふもふ好きなのにペットが飼えない。
 なぜなら犬の毛アレルギーだから。せっかく戸建て住宅に引っ越したのに!もふもふを愛でられない!もふもふがかえない!と悔し涙を流しているのだった。
 幸い、少女ユキネは母の体質を受け継がなかった。
 フブキ少年は、サスケをじっとみる。
 サスケもフブキをじっと見る。

『仕方ありません、ちょっとだけですよ』、とでも言いたげに、サスケはユキネの肩に頭を載せる。

「わー、サスケちゃんふかふか~」

 ままがブラッシングしてくれてますからね。さあ、存分にわたしのモフモフを堪能しなさい、と思っているかもしれない。喋れないのでわからないが。
 正面からサスケに抱きつく少女ユキネ。そのふかふかな体毛を撫でまくる。
 しばらくもふもふを堪能した少女ユキネとサスケをみる。

「じゃあ帰るぞ、ほら」

 フブキ少年に差し出された手を、しっかり握りしめる少女ユキネ。
 差し出された手は、うんちバッグをぶら下げている手とは反対の手である。左腕にうんちバッグをぶら下げ、手首にリードを巻きつけ、あけた右手をユキネとつなぎ、歩き出す。

「ユキネはすぐに泣くからな」

「な、泣いてないもん」

「あいつらがいじめてきたら、オレにいうんだぞ。サスケ隊員と出動するからな」

『一人で助けに行くんじゃないんですか、フブキはもう』と言いたいところだが、サスケは犬なので沈黙をまもる。

「サスケがいればじゅうにんばりき」

『それを言うなら十人力です、人ではなくて犬ですけども』と突っ込みを入れたかったかどうかはわからない。
 右手はユキネ、左手にサスケのリードをしっかり握るフブキ少年。
 彼はユキネを救い出せたことで、意気揚々と歩く。

 彼はまだ知らない。後日犬をけしかけたと、いじめっ子その1の母親が家にやってくることを。そのことで目を釣り上げた母親に叱られることを。
 そして泣きながら逃げ込んできたフブキ少年に、犬小屋を半分占領されたサスケが迷惑そうにしつつも、ペロリペロリと涙を舐めとってくれることを。

 そんな情けない姿を、ユキネは見ずに済んだ。
 少女ユキネの記憶には、いじめっ子から、颯爽と助けだしてくれた、フブキ少年の姿が、美化120パーセント増しで残されている。







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 とらのあなさん用にと書いたんですが、購入特典SSが4ページから2ページに減り、3000文字が1300文字になったので文字数オーバーになりました。
 ちなみに2巻購入特典SSはルーナの家族のお話を新たに書きました。よかったら買ってください(宣伝)
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