VR花子さんの怪

マイきぃ

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第一部 VR花子さんの怪

第十三話 奇跡の出会いの話

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 三日月マリモの話が始まった。

「ええと、怖い話とかじゃないですけど……しばらく前、友人とVRメタバースにログインしました。
 場所は小さな学校というワールドです。ワールド内にある小さな校舎裏にトイレがあります。その近くで友人と話をしていました。

 3時間ぐらい話し込んだあと、友人は先にログアウトしました。続いて私もログアウトしようとメニュー画面を開いたその時でした。突然黒髪で制服姿の女性アバターがトイレから出てきたのです。彼女は黒い目でこちらを見ると、すぐ校舎の反対側へと向かって歩き出しました。まさか、今のはVR花子さん!?

 一瞬、彼女の姿を見てそう思いました。もちろん、噂で容姿や出現場所を聞いていましたので、可能性はありました。けれど冷静に考えてみれば、それは噂です。まだそうと決まったわけではありません。VR花子さんの姿を模しただけのアバターかもしれません。

 私はちょっと不安になりました。3時間もの間、友人との話を立ち聞きされていたことになります。私と友人以外誰もいない場所だと思っていたので、プライベートな話もしています。他人に聞かれたくない話もしていました……主に友人の話が……迂闊でした。

 もし友人の恥ずかしい話が広まって、それが私のせいにされたらたまったものじゃありません。一応誰に聞かれたかだけでも確認しようとすぐにワールド内のアバターリストを参照しました……が、私以外だれもいません。けれども、アバターは確実にいます。
 まさか、今のは本物のVR花子さんなのでしょうか……。調べているうちにVR花子さんは校舎の角を曲がり、視界から消えました。

 私はすぐに追いかけました。そして校舎の角を曲がります。けれどもそこにはVR花子さんの姿はありません。そのかわり、ちょっと先にポータルゲートが設置されていました。指定してある行先は夜桜のワールド……この先にVR花子さんがいるかもしれない……そう思った私は即座にポータルゲートに飛び込みました。

 心地の良い川の流れる音。奇麗な月明かり。花を散らしながら咲き乱れる桜。そこは、まるで夜の桃源郷でした。けれども今回は夜桜を見に来たわけではありません。目的のVR花子さんを見つけようと私はワールド内をうろうろしました。案外広いワールドなのでなかなか見つかりません。もちろん、ワールド内のアバターリストにも存在は確認できません。やはり本物のVR花子さんだったのかな……と、東屋で休憩しながらあきらめムードで途方に暮れていました。

 その時です。背中にクリオネに似た大きな氷の剣を背負っている黒服の剣士が私のいる東屋に近づいてきました。その剣士は側まで来ると私にVR花子さんのことを聞いてきました。どうやら話を聞くと、私と同じようにVR花子さんを追ってここへ来たようです。
 ……で、その剣士なのですが……名前をチェックして驚きました。名前が昔、幼馴染につけたあだ名だったからです。それで、聞いてみたら案の定、幼馴染本人だったのでびっくりです。

 その後私は幼馴染とリアルで会う約束をし、一週間後に久しぶりの再会を果たしました。その後いろいろあって彼と付き合うことになりました。うれしい限りです。
 きっとVR花子さんは私たち二人にこの素敵な出会いをくれたのかもしれません。本当に感謝しています。以上です!」

 三日月マリモの話が終わり、住職が挨拶をする。

「三日月マリモさん、ありがとうございましたぁ! それでは今の話についての視聴者コメントを見てみたいと思います」


……
……
VR花子さんとはいったい……
VR花子マッチングシステム。
どうも、私があだ名の人、クリオネムロです。
ご本人登場!?
ごちそうさまでした。
リア充爆ぜろ!
……
……


 なんだか最後はのろけ話だった気がするが……と、検証してみることにする。VR花子さんが人と人を引き合わせる事例は結構あるらしい。引き合わされた二人は今回のような恋人だけじゃなく、仕事のパートナー、親友等、と様々だ。しかも高確率でよい出会いとなっている。VR花子マッチングシステムといっても過言ではない。

 けれど、もしこれがVR花子さんの仕業だとすれば……VR花子さんはどこから個人情報を得ているのだろうか。今回は幼馴染だ。よほどピンポイントに人物を選定しなければこうはならない。霊体なので本人に干渉できるといえばそれまでだが、もしネットの中から個人情報を得ているのだとすれば、それはそれですごいことだ。


 コメントが流れ終え、住職と三日月マリモが会話する。

「VR花子さんが素敵な出会いをくれたのですねぇ……素晴らしい!」
「本当です! VR花子さんは、まるで天使です!」
「それではろうそくの火をお願いしまぁす」

 三日月マリモは住職にそういわれるとろうそくを吹く動作をする。
 最後のろうそくの火が消えた。光源を失った部屋は真っ暗になる。それと同時に嵐が止み、静けさが訪れた。

 住職は懐中電灯で顔を照らし、怪しげな表情で語り始める。

「さあ、全てのろうそくが消えてしまいましたぁ。百物語の言い伝えはいろいろありますが、ろうそくの火が全て消えると話の中に出てきた誰かを呼び寄せるものもあると聞きまぁす。果たして、呼び寄せてしまうことが本当にあるのでしょうかぁ! もちろん今回は、VR花子さんの話を徹底的にしていまぁす。もしかすると、今日、この場で、あの、本物の、VR花子さんが、来るかもしれませぇ~ん!」

 住職は意気揚々と語った。果たして、本当にVR花子さんは現れるのだろうか……。
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