13 / 16
第一部 VR花子さんの怪
第十二話 実は人間の魂だった話
しおりを挟む
ファントム・アイの話が始まった。
「今、メタバース界隈で出没しているVR花子さん。彼女は……実は人間の魂だったんだ!」
思わず叫びたくなるような衝撃の事実を告げられた気がする……。
「これは、私たちが使っているメタバースト3Xを世に出した企業メタバース・ワークス内で噂されている話だ。
メタバースト3Xが発売する少し前、メタバース・ワークスの女性研究員が突然姿を消した。その女性研究員についてだが……当初、消えた理由は会社を辞めただけと思われていた。だが、実はそうではないらしい。
メタバース・ワークスは、高性能の疑似量子コンピューターを保有している節があるといわれている。その疑似量子コンピューターを使って人工知能を研究していたのがその女性研究員だ。
女性研究員は個室を与えられ、独自に研究を進めていた。なので、その女性研究員は他の研究員には存在をあまり知られてはいない。研究が順調に進むと、女性研究員は秘密裏に自己人格のアルゴリズム化を並行して進めてしまっていた。それにかまけていた結果、企業が要求する人工知能の作成に失敗。疑似量子コンピューターへのアクセス権限を失い、研究員から一般社員に降格した。
その後、女性研究員は自分の好きな研究を取り上げられたショックで気が狂い、疑似量子コンピュータールームで頭を何度もハードに打ち付けて自殺したそうだ。女性研究員はよほここの研究に執着していたのだろう……自業自得ともいえるが……。
まあ普通、ここまでの出来事があれば世間は大騒ぎになるはずだ。けれども、そうはならなかった。なぜなら──自殺時の監視カメラの映像と、現場にあった死体が消えてしまったからだ。そのせいで嘘や捏造と思われ、ただの噂話にしかならなかったのだ。
それから一週間ほど過ぎた後、疑似量子コンピューターに奇怪な現象が多発するようになった。アクセスすると『ワタシハココニイル』等の不気味なメッセージが度々出るようになったそうだ。ウイルス感染も疑われたが、その形跡も無く原因はわからない。結局、疑似量子コンピュータは廃棄され、今は新しい疑似量子コンピューターを利用しているらしい。けれど、新しい疑似量子コンピューターでもそのメッセージは発生した。
そのおかげで、実は女性研究員の魂がそこに存在して疑似量子コンピューターに何らかの作用を起こしてるのではないか、女性研究員は疑似量子コンピューターに取り込まれてしまったのでは……等、様々な説が蔓延した。
そんなことがあってから、VR花子さんの噂を耳にするようになり、今起こっているVR花子さんの事象は、疑似量子コンピューターから拡散した女性研究員の魂の残滓なのでは……と、私はこういう風に結論付けた。何故VR花子さんとこの話を紐付けたかって……それは、勘としか言いようがない。強いて理由を上げるなら……自殺した女性研究員の名前が……『花子』っていうんだよぉぉぉぉ……以上。
あ……それと、もしメタバースト3Xを使ってVR花子さんを見た人でシステムバージョン3.01まま自動更新されてない方いましたら、ご連絡ください。できればそのメタバースト3Xを貸していただけるとありがたいです。調査目的です……よろしくお願いします」
ファントム・アイの話が終わった。住職が挨拶をする。
「ファントム・アイさん、ありがとうございましたぁ! それでは今の話についての視聴者コメントを見てみたいと思います」
──動画のコメントボード──
……
……
さすがです! ファントム・アイさん!
VR花子さんは量子コンピューターが母体でしたか。
実在の花子が乗り移ったんですね。
VR花子さんの拡散。
ワタシハココニイル
……
……
検証……といっても、新しい情報ばかりだ。このファントム・アイの流す情報はかなり的を射ている事が多く定評がある。けれど、今回の話は無理がありすぎる。
前半の女性研究員のミステリーもそうだが、その話とVR花子さんを無理やりくっつけている気がしてならない。まあ、こじつけは後付けでなんとでもなるが、ファントム・アイがこんな話をするとは思わなかった……非常に残念だ。
ただ、目的があるのだとすれば後半のメタバーストX3のシステムバージョンの話だ。
おそらく、通常使用しているなら今頃システムバージョンは3.03になっているはずだ。メタバースト3Xのシステムバージョンはデフォルトで自動更新。余計な設定をしていなければ、ネットに接続した時にアップデートされる。
なので、システムバージョン3.01を使用している人がいる可能性は間違いなく低い。探すのは非常に難しいだろう。
けれど、その条件をクリアするものを持っている人物がいる。それは……自分だ。
自分はVR花子さんを見た後、新しいメタバーストX3に買い替えた。理由は予備が欲しかったのもあるが、VR花子さんの事象がそれを後押しした次第だ。今は古いメタバースト3Xの使用をためらっているため、その機器でネットにアクセスしていない。新しいのを使っているからね。
なので、VR花子さん発生時のシステムバージョン3.01のメタバースト3Xが保管されているのだ。
ファントム・アイの提示した条件はクリアしている。けれど、迂闊に貸し出すのはやめた方がいいだろう。プライバシーや大事なデータも入っているからね。
コメントが流れ終え、住職とファントム・アイが会話する。
「大変な事実を聞かされた気分です。でも、どうしてこんな話を知っているんですか?」
「身バレしたくないのであまり言いたくはないですが……メタバース・ワークスに繋がりのある企業に属しているとだけ言っておきますよ」
「ありがとうございました。それではろうそくの火をお願いしまぁす」
ファントム・アイは住職にそういわれるとろうそくを吹く動作をする。ろうそくの火がまた一つ消えた。
「今、メタバース界隈で出没しているVR花子さん。彼女は……実は人間の魂だったんだ!」
思わず叫びたくなるような衝撃の事実を告げられた気がする……。
「これは、私たちが使っているメタバースト3Xを世に出した企業メタバース・ワークス内で噂されている話だ。
メタバースト3Xが発売する少し前、メタバース・ワークスの女性研究員が突然姿を消した。その女性研究員についてだが……当初、消えた理由は会社を辞めただけと思われていた。だが、実はそうではないらしい。
メタバース・ワークスは、高性能の疑似量子コンピューターを保有している節があるといわれている。その疑似量子コンピューターを使って人工知能を研究していたのがその女性研究員だ。
女性研究員は個室を与えられ、独自に研究を進めていた。なので、その女性研究員は他の研究員には存在をあまり知られてはいない。研究が順調に進むと、女性研究員は秘密裏に自己人格のアルゴリズム化を並行して進めてしまっていた。それにかまけていた結果、企業が要求する人工知能の作成に失敗。疑似量子コンピューターへのアクセス権限を失い、研究員から一般社員に降格した。
その後、女性研究員は自分の好きな研究を取り上げられたショックで気が狂い、疑似量子コンピュータールームで頭を何度もハードに打ち付けて自殺したそうだ。女性研究員はよほここの研究に執着していたのだろう……自業自得ともいえるが……。
まあ普通、ここまでの出来事があれば世間は大騒ぎになるはずだ。けれども、そうはならなかった。なぜなら──自殺時の監視カメラの映像と、現場にあった死体が消えてしまったからだ。そのせいで嘘や捏造と思われ、ただの噂話にしかならなかったのだ。
それから一週間ほど過ぎた後、疑似量子コンピューターに奇怪な現象が多発するようになった。アクセスすると『ワタシハココニイル』等の不気味なメッセージが度々出るようになったそうだ。ウイルス感染も疑われたが、その形跡も無く原因はわからない。結局、疑似量子コンピュータは廃棄され、今は新しい疑似量子コンピューターを利用しているらしい。けれど、新しい疑似量子コンピューターでもそのメッセージは発生した。
そのおかげで、実は女性研究員の魂がそこに存在して疑似量子コンピューターに何らかの作用を起こしてるのではないか、女性研究員は疑似量子コンピューターに取り込まれてしまったのでは……等、様々な説が蔓延した。
そんなことがあってから、VR花子さんの噂を耳にするようになり、今起こっているVR花子さんの事象は、疑似量子コンピューターから拡散した女性研究員の魂の残滓なのでは……と、私はこういう風に結論付けた。何故VR花子さんとこの話を紐付けたかって……それは、勘としか言いようがない。強いて理由を上げるなら……自殺した女性研究員の名前が……『花子』っていうんだよぉぉぉぉ……以上。
あ……それと、もしメタバースト3Xを使ってVR花子さんを見た人でシステムバージョン3.01まま自動更新されてない方いましたら、ご連絡ください。できればそのメタバースト3Xを貸していただけるとありがたいです。調査目的です……よろしくお願いします」
ファントム・アイの話が終わった。住職が挨拶をする。
「ファントム・アイさん、ありがとうございましたぁ! それでは今の話についての視聴者コメントを見てみたいと思います」
──動画のコメントボード──
……
……
さすがです! ファントム・アイさん!
VR花子さんは量子コンピューターが母体でしたか。
実在の花子が乗り移ったんですね。
VR花子さんの拡散。
ワタシハココニイル
……
……
検証……といっても、新しい情報ばかりだ。このファントム・アイの流す情報はかなり的を射ている事が多く定評がある。けれど、今回の話は無理がありすぎる。
前半の女性研究員のミステリーもそうだが、その話とVR花子さんを無理やりくっつけている気がしてならない。まあ、こじつけは後付けでなんとでもなるが、ファントム・アイがこんな話をするとは思わなかった……非常に残念だ。
ただ、目的があるのだとすれば後半のメタバーストX3のシステムバージョンの話だ。
おそらく、通常使用しているなら今頃システムバージョンは3.03になっているはずだ。メタバースト3Xのシステムバージョンはデフォルトで自動更新。余計な設定をしていなければ、ネットに接続した時にアップデートされる。
なので、システムバージョン3.01を使用している人がいる可能性は間違いなく低い。探すのは非常に難しいだろう。
けれど、その条件をクリアするものを持っている人物がいる。それは……自分だ。
自分はVR花子さんを見た後、新しいメタバーストX3に買い替えた。理由は予備が欲しかったのもあるが、VR花子さんの事象がそれを後押しした次第だ。今は古いメタバースト3Xの使用をためらっているため、その機器でネットにアクセスしていない。新しいのを使っているからね。
なので、VR花子さん発生時のシステムバージョン3.01のメタバースト3Xが保管されているのだ。
ファントム・アイの提示した条件はクリアしている。けれど、迂闊に貸し出すのはやめた方がいいだろう。プライバシーや大事なデータも入っているからね。
コメントが流れ終え、住職とファントム・アイが会話する。
「大変な事実を聞かされた気分です。でも、どうしてこんな話を知っているんですか?」
「身バレしたくないのであまり言いたくはないですが……メタバース・ワークスに繋がりのある企業に属しているとだけ言っておきますよ」
「ありがとうございました。それではろうそくの火をお願いしまぁす」
ファントム・アイは住職にそういわれるとろうそくを吹く動作をする。ろうそくの火がまた一つ消えた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
一人分のエンドロール
三嶋トウカ
ミステリー
ある日俺【野元最乃-のもともの】は、一人の女性が事故死する場面に出くわした。
その女性の名前は【元伊織-はじめいおり-】といい、俺の職場のすぐ近くのカフェで働いている。
人生で一度あるかないか、そんな稀有な状況。
――だと思っていたのに。
俺はこの後、何度も何度も彼女の死を見届けることになってしまった。
「どうやったら、この状況から逃げ出せるのだろう?」
俺は彼女を死から救うために『その一日が終わるまでに必ず死んでしまう彼女』を調べることにした。
彼女のために。
ひいては、俺のためにも。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
彩霞堂
綾瀬 りょう
ミステリー
無くした記憶がたどり着く喫茶店「彩霞堂」。
記憶を無くした一人の少女がたどりつき、店主との会話で消し去りたかった記憶を思い出す。
以前ネットにも出していたことがある作品です。
高校時代に描いて、とても思い入れがあります!!
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
三部作予定なので、そこまで書ききれるよう、頑張りたいです!!!!
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
Strange Days ― 短編・ショートショート集 ―
紗倉亞空生
ミステリー
ミステリがメインのサクッと読める一話完結タイプの短編・ショートショート集です。
ときどき他ジャンルが混ざるかも知れません。
ネタを思いついたら掲載する不定期連載です。
瞳に潜む村
山口テトラ
ミステリー
人口千五百人以下の三角村。
過去に様々な事故、事件が起きた村にはやはり何かしらの祟りという名の呪いは存在するのかも知れない。
この村で起きた奇妙な事件を記憶喪失の青年、桜は遭遇して自分の記憶と対峙するのだった。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる