VR花子さんの怪

マイきぃ

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第一部 VR花子さんの怪

第十二話 実は人間の魂だった話

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 ファントム・アイの話が始まった。

「今、メタバース界隈で出没しているVR花子さん。彼女は……実は人間の魂だったんだ!」

 思わず叫びたくなるような衝撃の事実を告げられた気がする……。

「これは、私たちが使っているメタバースト3Xを世に出した企業メタバース・ワークス内で噂されている話だ。
 
 メタバースト3Xが発売する少し前、メタバース・ワークスの女性研究員が突然姿を消した。その女性研究員についてだが……当初、消えた理由は会社を辞めただけと思われていた。だが、実はそうではないらしい。

 メタバース・ワークスは、高性能の疑似量子コンピューターを保有している節があるといわれている。その疑似量子コンピューターを使って人工知能を研究していたのがその女性研究員だ。

 女性研究員は個室を与えられ、独自に研究を進めていた。なので、その女性研究員は他の研究員には存在をあまり知られてはいない。研究が順調に進むと、女性研究員は秘密裏に自己人格のアルゴリズム化を並行して進めてしまっていた。それにかまけていた結果、企業が要求する人工知能の作成に失敗。疑似量子コンピューターへのアクセス権限を失い、研究員から一般社員に降格した。

 その後、女性研究員は自分の好きな研究を取り上げられたショックで気が狂い、疑似量子コンピュータールームで頭を何度もハードに打ち付けて自殺したそうだ。女性研究員はよほここの研究に執着していたのだろう……自業自得ともいえるが……。

 まあ普通、ここまでの出来事があれば世間は大騒ぎになるはずだ。けれども、そうはならなかった。なぜなら──自殺時の監視カメラの映像と、現場にあった死体が消えてしまったからだ。そのせいで嘘や捏造と思われ、ただの噂話にしかならなかったのだ。

 それから一週間ほど過ぎた後、疑似量子コンピューターに奇怪な現象が多発するようになった。アクセスすると『ワタシハココニイル』等の不気味なメッセージが度々出るようになったそうだ。ウイルス感染も疑われたが、その形跡も無く原因はわからない。結局、疑似量子コンピュータは廃棄され、今は新しい疑似量子コンピューターを利用しているらしい。けれど、新しい疑似量子コンピューターでもそのメッセージは発生した。

 そのおかげで、実は女性研究員の魂がそこに存在して疑似量子コンピューターに何らかの作用を起こしてるのではないか、女性研究員は疑似量子コンピューターに取り込まれてしまったのでは……等、様々な説が蔓延した。

 そんなことがあってから、VR花子さんの噂を耳にするようになり、今起こっているVR花子さんの事象は、疑似量子コンピューターから拡散した女性研究員の魂の残滓なのでは……と、私はこういう風に結論付けた。何故VR花子さんとこの話を紐付けたかって……それは、勘としか言いようがない。強いて理由を上げるなら……自殺した女性研究員の名前が……『花子』っていうんだよぉぉぉぉ……以上。

 あ……それと、もしメタバースト3Xを使ってVR花子さんを見た人でシステムバージョン3.01まま自動更新されてない方いましたら、ご連絡ください。できればそのメタバースト3Xを貸していただけるとありがたいです。調査目的です……よろしくお願いします」

 ファントム・アイの話が終わった。住職が挨拶をする。

「ファントム・アイさん、ありがとうございましたぁ! それでは今の話についての視聴者コメントを見てみたいと思います」


──動画のコメントボード──

……
……
さすがです! ファントム・アイさん!
VR花子さんは量子コンピューターが母体でしたか。
実在の花子が乗り移ったんですね。
VR花子さんの拡散。
ワタシハココニイル
……
……


 検証……といっても、新しい情報ばかりだ。このファントム・アイの流す情報はかなり的を射ている事が多く定評がある。けれど、今回の話は無理がありすぎる。
 前半の女性研究員のミステリーもそうだが、その話とVR花子さんを無理やりくっつけている気がしてならない。まあ、こじつけは後付けでなんとでもなるが、ファントム・アイがこんな話をするとは思わなかった……非常に残念だ。

 ただ、目的があるのだとすれば後半のメタバーストX3のシステムバージョンの話だ。

 おそらく、通常使用しているなら今頃システムバージョンは3.03になっているはずだ。メタバースト3Xのシステムバージョンはデフォルトで自動更新。余計な設定をしていなければ、ネットに接続した時にアップデートされる。
 なので、システムバージョン3.01を使用している人がいる可能性は間違いなく低い。探すのは非常に難しいだろう。

 けれど、その条件をクリアするものを持っている人物がいる。それは……自分だ。
 自分はVR花子さんを見た後、新しいメタバーストX3に買い替えた。理由は予備が欲しかったのもあるが、VR花子さんの事象がそれを後押しした次第だ。今は古いメタバースト3Xの使用をためらっているため、その機器でネットにアクセスしていない。新しいのを使っているからね。
 なので、VR花子さん発生時のシステムバージョン3.01のメタバースト3Xが保管されているのだ。

 ファントム・アイの提示した条件はクリアしている。けれど、迂闊に貸し出すのはやめた方がいいだろう。プライバシーや大事なデータも入っているからね。

 コメントが流れ終え、住職とファントム・アイが会話する。

「大変な事実を聞かされた気分です。でも、どうしてこんな話を知っているんですか?」
「身バレしたくないのであまり言いたくはないですが……メタバース・ワークスに繋がりのある企業に属しているとだけ言っておきますよ」
「ありがとうございました。それではろうそくの火をお願いしまぁす」

 ファントム・アイは住職にそういわれるとろうそくを吹く動作をする。ろうそくの火がまた一つ消えた。
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