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第一部 VR花子さんの怪
第十話 ウニアバターの話
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アラフォースさんの話が始まった。
「どうも、アラフォースです。先に言っておきますが、私が使っているVR機器はメタバースト2です。純正の拡張パッケージでメタバースト3X相当に拡張してあるタイプですね。
では、私が経験した事象をお話します。
その日はフレンドたちとFPSをしていました。銃撃戦で相手を倒していくシューティングです。教会にある金庫を守る側と攻める側にチームがわかれて戦います。
私はその日の最終戦、チームを外れてゴーストとして参戦しました。ゴーストはプレイとは関係ない観戦者的なもので、研究やプレイを録画するときに使えるモードです。毎回一人チームを外れて録画するのですが……今回は私が最終戦だったわけです。
開始とともに動画の撮影を始めました。その時、目の前に煙が出現しました。いきなりスモークグレネードでも焚かれたかと思い消えるのを待ちました。すると煙は徐々に人型になって、黒髪黒目の少女に変身したんです。
もちろん知らないアバターです。しかも、今いるワールドは鍵付きでパスワードを知らなければ入れません。なので、始めはハッキングされたのかと思いました。
けれども、しばらく前にVR花子さんの話を聞かされていた私は、その話と一致した見た目の少女をVR花子さんと認識しました。
このあと、現実に何かが起こりそうな予感がして警戒しましたが、何も起きませんでした。目の前にいる黒髪黒目の少女は困り顔でこちらを見て、その後すぐに消えました。いったいなんだったんだ? ……と、気分を切り替えて撮影を始めます。その時でした。
プレイヤーたちのアバターがおかしくなったのです! 全てのアタバーの表面がウニのように尖りうごめき、まるでエイリアンたちが戦っている……そんな光景を目の当たりにしました。
VR花子さんの出現に続いてこの異常な状況……私のVR機器はウイルスにでも感染したのでしょうか……。
一応戦闘が終わるまで撮影をしました。これがその時の動画です」
動画が視界に映し出される。映像のスタート位置は十字架の置かれた教会の懺悔室。しばらくそこに待機した後、裏へまわり、梯子を上って教会の鐘の屋根上へと移動。そこから見えるプレイヤー同士の戦いは、どう見てもウニが何かを飛ばして戦っているようにしか見えない。ちょっと笑える光景だ。
それはいいとして、話だと撮影開始直後にVR花子さんとの遭遇があるはずなのだがその映像はない。これはどういうことなのだろうか。
「見てわかる通り、ウニが戦っているように見えます。それもありますが、撮影開始直後に現れた筈のVR花子さんが録画されていないんです。最初の懺悔室にいた筈なんですが……最初から映っていなかったと言われればそれまでなのですけど、確かに映っていたんです……。
そのあと仲間に『ウイルスにでも感染したんじゃないか』と心配され、一応チェックしました。結果は検出無しです。いったいあれは何だったのでしょうか……ただのバグだったらいいのですけど……私の話は以上です」
アラフォースの話が終わった。住職が挨拶をする。
「アラフォースさん、ありがとうございましたぁ! それでは今の話についての視聴者コメントを見てみたいと思います」
──動画のコメントボード──
……
……
懺悔が足りない。
これ、ウニバグだよね。
修正されたんじゃないの?
更新で直る。
VR花子さんはバグじゃないよ。
VR花子さんの呪いです。
……
……
話を検証してみることにする。
まず、メタバースト2拡張パッケージの説明。これはメタバースト3Xの生産が決まっていない頃に出回っていたものだ。あまりにも拡張パッケージの売れ行きが良かったため、全ての機能を搭載したメタバースト3が生産されたわけだ。
コメントボードにあるウニバグだが、これは拡張仕様のメタバースト2拡張パッケージ初期のシステムバグだ。バグが発生したシステムバージョンは2.9.1。内容は特定のワールド内に流動性のあるジオメトリをもつアバターが一人でもいると、ウニバグが起こるらしい。詳しいことはわからないが、これはたしかシステムバージョンを更新するだけで直るはずだ。メタバースト3Xの場合、この手の更新は自動でしてくれるのだけど拡張パッケージの場合は手動で更新しなければならない。その為、忘れてしまう人も多いので注意が必要だ。
けれど、ここでVR花子さんを見たという証言もある。まあ、こっちが本命だけど……。
出現理由は青い薔薇の時同様、このバグが起こることを伝えるために出てきたのか、それとも単なる気まぐれか……残念ながら話としては中途半端なのでこれ以上のことはわからない。
コメントボードにはトラブルシューティングのようなコメントが流れていた。アラフォースがそれに納得したころ、住職が言葉を添える。
「どうやらこれ、ウニバグらしいですね。私もこれ聞いたことありますよぉ」
「バグは更新してなかったのが原因だったのですね……じゃあ、あのVR花子さんはいったい……」
「VR花子さんについては、何事もなくてよかったですねぇ~と申し上げておきます。それではろうそくの火をお願いしまぁす」
アラフォースは住職にそういわれるとろうそくを吹く動作をする。ろうそくの火がまた一つ消えた。
「どうも、アラフォースです。先に言っておきますが、私が使っているVR機器はメタバースト2です。純正の拡張パッケージでメタバースト3X相当に拡張してあるタイプですね。
では、私が経験した事象をお話します。
その日はフレンドたちとFPSをしていました。銃撃戦で相手を倒していくシューティングです。教会にある金庫を守る側と攻める側にチームがわかれて戦います。
私はその日の最終戦、チームを外れてゴーストとして参戦しました。ゴーストはプレイとは関係ない観戦者的なもので、研究やプレイを録画するときに使えるモードです。毎回一人チームを外れて録画するのですが……今回は私が最終戦だったわけです。
開始とともに動画の撮影を始めました。その時、目の前に煙が出現しました。いきなりスモークグレネードでも焚かれたかと思い消えるのを待ちました。すると煙は徐々に人型になって、黒髪黒目の少女に変身したんです。
もちろん知らないアバターです。しかも、今いるワールドは鍵付きでパスワードを知らなければ入れません。なので、始めはハッキングされたのかと思いました。
けれども、しばらく前にVR花子さんの話を聞かされていた私は、その話と一致した見た目の少女をVR花子さんと認識しました。
このあと、現実に何かが起こりそうな予感がして警戒しましたが、何も起きませんでした。目の前にいる黒髪黒目の少女は困り顔でこちらを見て、その後すぐに消えました。いったいなんだったんだ? ……と、気分を切り替えて撮影を始めます。その時でした。
プレイヤーたちのアバターがおかしくなったのです! 全てのアタバーの表面がウニのように尖りうごめき、まるでエイリアンたちが戦っている……そんな光景を目の当たりにしました。
VR花子さんの出現に続いてこの異常な状況……私のVR機器はウイルスにでも感染したのでしょうか……。
一応戦闘が終わるまで撮影をしました。これがその時の動画です」
動画が視界に映し出される。映像のスタート位置は十字架の置かれた教会の懺悔室。しばらくそこに待機した後、裏へまわり、梯子を上って教会の鐘の屋根上へと移動。そこから見えるプレイヤー同士の戦いは、どう見てもウニが何かを飛ばして戦っているようにしか見えない。ちょっと笑える光景だ。
それはいいとして、話だと撮影開始直後にVR花子さんとの遭遇があるはずなのだがその映像はない。これはどういうことなのだろうか。
「見てわかる通り、ウニが戦っているように見えます。それもありますが、撮影開始直後に現れた筈のVR花子さんが録画されていないんです。最初の懺悔室にいた筈なんですが……最初から映っていなかったと言われればそれまでなのですけど、確かに映っていたんです……。
そのあと仲間に『ウイルスにでも感染したんじゃないか』と心配され、一応チェックしました。結果は検出無しです。いったいあれは何だったのでしょうか……ただのバグだったらいいのですけど……私の話は以上です」
アラフォースの話が終わった。住職が挨拶をする。
「アラフォースさん、ありがとうございましたぁ! それでは今の話についての視聴者コメントを見てみたいと思います」
──動画のコメントボード──
……
……
懺悔が足りない。
これ、ウニバグだよね。
修正されたんじゃないの?
更新で直る。
VR花子さんはバグじゃないよ。
VR花子さんの呪いです。
……
……
話を検証してみることにする。
まず、メタバースト2拡張パッケージの説明。これはメタバースト3Xの生産が決まっていない頃に出回っていたものだ。あまりにも拡張パッケージの売れ行きが良かったため、全ての機能を搭載したメタバースト3が生産されたわけだ。
コメントボードにあるウニバグだが、これは拡張仕様のメタバースト2拡張パッケージ初期のシステムバグだ。バグが発生したシステムバージョンは2.9.1。内容は特定のワールド内に流動性のあるジオメトリをもつアバターが一人でもいると、ウニバグが起こるらしい。詳しいことはわからないが、これはたしかシステムバージョンを更新するだけで直るはずだ。メタバースト3Xの場合、この手の更新は自動でしてくれるのだけど拡張パッケージの場合は手動で更新しなければならない。その為、忘れてしまう人も多いので注意が必要だ。
けれど、ここでVR花子さんを見たという証言もある。まあ、こっちが本命だけど……。
出現理由は青い薔薇の時同様、このバグが起こることを伝えるために出てきたのか、それとも単なる気まぐれか……残念ながら話としては中途半端なのでこれ以上のことはわからない。
コメントボードにはトラブルシューティングのようなコメントが流れていた。アラフォースがそれに納得したころ、住職が言葉を添える。
「どうやらこれ、ウニバグらしいですね。私もこれ聞いたことありますよぉ」
「バグは更新してなかったのが原因だったのですね……じゃあ、あのVR花子さんはいったい……」
「VR花子さんについては、何事もなくてよかったですねぇ~と申し上げておきます。それではろうそくの火をお願いしまぁす」
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