VR花子さんの怪

マイきぃ

文字の大きさ
上 下
6 / 16
第一部 VR花子さんの怪

第五話 取り憑かれたアバターの話

しおりを挟む
 ハムッチュの話が始まった。

「こんにちは! ハムッチュです!
 実は、このハムッチュは二代目だったんだよ。初代はね、このウサギちゃん」

 いきなり別なアバターを読み込むハムッチュ。変身したのはウサギのぬいぐるみアバターだ。ハムスターもかわいいけど、これもなんとなくかわいい。

「このアバター、昔は壊れてたんだよ。首がね、変に曲がっちゃうんだ。直すの面倒だったからハムスターのアバターに変えたんだよ。これが壊れてたときの様子ね」

 スクリーンショットの画像が視界に映し出される。今変身しているハムッチュのウサギアバターだ。ただ、首が折れたように横向きに曲がっている。かわいいけど……怖い。VR花子さんとはまた別の怖さだ。

「もう、お化けだよねこれ。だから一度封印したんだ。でも、学校のワールドでかくれんぼして遊んでた時に友達をびっくりさせるのに一度使ったんだよ。
 その時はね、トイレに隠れてたんだ。便器に重なるようにしてね。なんだかトイレの花子さんになった気分ってその時は冗談で思ってたよ。
 しばらくして友達がトイレに入ってくるんだけど……まあ、普通に見つかるよね。それで見つかった時に急に飛び出して友達をびっくりさせようと思ったわけね。
 友達がトイレの扉を開けた瞬間、ピョコっと飛び出して曲がった首を揺らして脅かしてあげたんだ。すると友達が突然『いやあああああああああ!』って、大げさに驚いて逃げたから、ちょっとやりすぎたかなって思ったの。
 そんなに怖かったかな~ってトイレの出口の側にあるミラーをのぞいで自分の姿を確認してみたら……ミラーに映った姿が首の折れたVR花子さんになってたんだよぉ……その日は怖くなってメタバースからログアウトしちゃいました」

 別に怖そうなそぶりも無く、テヘっとした様子でハムスターのアバターに戻るハムッチュ。
 それにしても、初代がウサギアバターだった……と、いうことは……。
 今はハムスターなのでハムッチュというのは分かる。ウサギアバターのときは、ウサピョンとかいう名前だったのだろうか……と、そんなどうでもよい推測はさておいて、ハムッチュの話は続く。

「次の日もう一度ウサギちゃんアバターを確認してみたら、VR花子さんの姿じゃなくて、ウサギちゃんアバターに戻ってたので一安心。でも、なぜか首がまっすぐ元通りになってて……かわいいうさぎちゃんアバターになってたんだよ。もしかして、VR花子さんがアバター直してくれたのかな……って思いました。案外悪い霊じゃないのかも……おしまい」

 ハムッチュの話が終わり住職が挨拶をする。

「ハムッチュさん、ありがとうございましたぁ! それでは今の話についての視聴者コメントを見てみたいと思います」


──動画のコメントボード──

……
……
アバターは呪われてしまった。
VR花子になった時のスクショ見たかったね。
……
リアルは何事も無かったのかな?
……


 さてと、検証だ。

 今回のケースはメタバース内だけの出来事とみていい気がするのだけど、アバターの件はちょっと気になる。
 アバターは編集しないと直せない。編集はリアルにするものだ。したがってこの事象はリアルな事象……と、いえなくもない。

 それにしても、もしアバターを修正することがVR花子さんにできるのだとすれば……VR花子さんは、実は超高度AIでした……という可能性も出てくるだろう。ずっと霊だ霊だと騒いでいるから本質的なものが見えなくなっていたのかもしれない。
 もしそれが霊だというのなら、自分だったら電子精霊と呼称するね。

 最後に……やはりというべきか、トイレが関わっている。そうなると、自分の事象はかなりレアケースとなる。トイレじゃないVR花子さんが現れた! ……と、なってしまう。VR花子さんの偽物と言われてもおかしくはない。まあ、その時は……偽物がいたっていいじゃないかと開き直ろう。

 コメントが流れ終え、住職とハムッチュが会話する。

「いやぁ、大変でしたねぇ。もしかして、リアルに鏡を見たら、自分が花子さんになってた! なんてことは?」
「それはない!」
「ですよね。それではろうそくの火をお願いしまぁす」

 ハムッチュは住職にそういわれるとろうそくを吹く動作をする。ろうそくの火がまた一つ消えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巨象に刃向かう者たち

つっちーfrom千葉
ミステリー
 インターネット黎明期、多くのライターに夢を与えた、とあるサイトの管理人へ感謝を込めて書きます。資産を持たぬ便利屋の私は、叔母へ金の融通を申し入れるが、拒絶され、縁を感じてシティバンクに向かうも、禿げた行員に挙動を疑われ追い出される。仕方なく、無一文で便利屋を始めると、すぐに怪しい来客が訪れ、あの有名アイドルチェリー・アパッチのためにひと肌脱いでくれと頼まれる。失敗したら命もきわどくなる、いかがわしい話だが、取りあえず乗ってみることに……。この先、どうなる……。 お笑いミステリーです。よろしくお願いいたします。

メタバース魔界の入口

静輝 陽(しずき☼よう)
ミステリー
引っ越した借家で見つけた写真の少年に、真犯人探しを頼まれる。 写真はメタバース魔界の入口であり、変異する画像は引き込まれた者の少年の頃の顔であった。 魔界に消えた者を引き戻すため、闘いの火蓋が切られた。

蠱惑Ⅱ

壺の蓋政五郎
ミステリー
人は歩いていると邪悪な壁に入ってしまう時がある。その壁は透明なカーテンで仕切られている。勢いのある時は壁を弾き迷うことはない。しかし弱っている時、また嘘を吐いた時、憎しみを表に出した時、その壁に迷い込む。蠱惑の続編で不思議な短編集です。

あいご警察

なのと
ミステリー
ー近年、日本では動物虐待の事件の増加により【動物愛護課】を設立する。ー タフなのが唯一の取り柄 21歳の警察官、雨宮 隼斗 彼は動物が特別好きな訳でもないのに、何故か動物愛護課へ異動となってしまう。だが、彼は彼なりに努力を重ね事件を解決していく… 雨宮 隼斗の運命は少しずつ、だが着々と変わっていく。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...