VR花子さんの怪

マイきぃ

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第一部 VR花子さんの怪

第一話 メタバースで百物語イベント

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──自宅アパート内──

 夕食を終えた自分はVRゴーグルのメタバースト3Xを装着する。
 電源をONにしてアプリを起動し、神宮寺のワールドへ入室。
 ワールドは、現実の日本時間と連動している。今の時間は21時。辺りは暗く、満月の光が夜道を照らしている。神宮寺は霊的に清められたような安心感のある作りだ。

 22時にイベントに出る予定があるのだけど、まだ時間がある。それまでメタバーストの歴史を軽く振り返ってみることにする。

 初代メタバーストは記憶容量が小さく、VRが見れる程度のものだった。簡単なゲームはできるが単体では重いゲームは動かない。
 そして時代はメタバースト2。ここにきて容量と処理速度が上がった(それでもまだ物足りない部分はあるが……)。これを機にメタバースブームが到来する。
 何年かしてメタバースト2がVRユーザーにほぼいきわたった頃、メタバースト2の弱点だった部分を全てクリアした上位版のメタバースト3Xが販売された。
 メタバースト3XはVR(仮想現実)、さらにはAR(拡張現実)やMR(複合現実)を盛り込んだシステムとなる。メタバーストシリーズの完成形といってもいいだろう。

 コアなVRユーザーは即メタバースト3Xに乗り換え始める。もちろん自分もそのうちの一人だ。もちろんメタバースト2も現役稼働中だが、それが全てメタバースト3Xに置き換わる日もそう遠くないだろう。

 それはさておき、今日のイベントのことなのだが……。
 簡単に言えば、ある共通の事象を経験している人、もしくはその事象の情報を持っている人たちだけで行われる百物語形式の座談会だ。
 ある共通の事象……それは最近噂になっているVR花子さん関連の事象のことを指す。
 VR花子さんの噂とは、その人にだけ見える不気味なアバター、そして、それを見た後におこる不可解な出来事。つまりVRの仕様にはない出来事やありえない話を指している。もはや、概念といっていい。つまり、それっぽい話がVR花子さんの噂となるのだ。
 最終的には座談会での話の共通事項やあらゆる可能性を見出し、VR花子さんの正体に迫る。これが今回のイベントの趣旨だ。

 この噂が広まり始めたのはメタバースト3Xが発売され、それの不具合修正のための第一回システムアップデートがあった後だ。
 同時にメタバースト2のシステムアップデートもあり、こちらでも噂が出るようになったという。
 これは一般的な推測だが、そのシステムアップデートこそがこの噂に関係しているのではないか……とのことだ。的を射ている気はするが、あくまで推測だ。まだ、それだけでは説明もつかない事象もあるのだから……。

 一応、自分はこのイベントの参加者の一人だ。たまたま見ていたSNSにイベントの告知を見つけて迷わず参加した次第だ。参加した理由については事象の経験者ということもあるが……他にどんな事象があるのかを知りたい……これが本音だろう。共通点が見つかれば、この現象の正体がわかるかもしれないという期待もある。正体がわかったからといって、どうということもないが、そこはほら……ロマンということでいいんじゃないかな。

 神宮寺の門へ足を運ぶと狐姿の巫女さん二人がお出迎え。ちっこくてかわいいスタッフさんだ。耳がかわいい……あと尻尾も……。おっと、かわいい耳をなでなでしたいが、今日はそれが目的じゃないからね……我慢する自分。

「ようこそいらっしゃいました~」
「こちらへどうぞ~」

 ……とかわいい声を上げ、二人の狐巫女はサイバーチックなワープホールを出現させる。このワープホールを使うと、このワールド内で普段行けない場所へ飛ぶことができる。早速ワープホールへと飛び込み、神宮寺内部へと転移した。

 視界は一瞬で切り替わる。障子戸に囲まれた20畳程の薄暗い部屋。円状に並べて置かれた座布団とろうそく。金の曼荼羅が描かれた天井。……そして、怪しい雰囲気の風の音。百物語会場としては最適な環境だ。

 しばらくすると、「よ~う~こ~そ~いらっしゃ~い~ま~し~た~」と、どこからともなく声が聞こえてきた。自然に近い音声合成の男性ボイスだ。
 けれども、前方には誰もいない。なので後ろを振り向いて確認する。するとそこには……顔を懐中電灯で照らした住職が怪しげな表情で立っていた。
 しばらく見つめあった後、自分はここで何かが足りないことに気づいた。それに気づいた自分は「うわあああっ! びっくりしたぁ!」と、わざとらしく声を上げる。そう……ここで足りなかったのはリアクションだ。

「あとからジワっときましたねぇ~びっくりさせてごめんなさいねぇ~。私今回司会進行を務めます住職です。どうぞ、よろしくお願いいたします」
 別に、そういうわけでもないのだけど……ああ、やっぱりちょっと冷めてるなぁ……自分。
「あ、ども。よろしくお願いします」
「それでは開いている席にお座りくださぁい」
 ……と、席の方向へ手を差し伸べ案内する住職。 姿は坊さんなのだが仕草はどこぞの執事だ。まあ、姿と中身が合わないのは珍しくはないのだけど……。

 席に着いた自分は座布団にポインタを合わせてコントローラーのトリガーを引いた。すると体は座布団の上へと移動し、下半身が正座の状態に固定される。動くのは上半身だけ。もちろん、リアルの下半身は固定されないから足の痺れを気にする必要はない。


 その後、続々とゲストが転送されてくる。司会はゲストのスポーンポイントの後ろで待機し、自分の時と同じように懐中電灯で顔を照らして挨拶をする。それに対するゲストのリアクションは様々だ。本当に驚いたり、逃げたり、攻撃? したりと……これは見てるとコントのようで面白い。住職はそれを楽しんでいる。
 おそらく住職は人を驚かせるのが好きなのだろう。きっとこの部屋にもなんらかの仕掛けを用意しているに違いない。今度は残念なリアクションにならないように、面白いリアクションでも考えておくことにしよう。

 用意されていた席はすべて埋まった。ゲストは10人。イベント「VR花子さんの怪」の始まりだ。
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