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第二話
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妹が、不安そうな表情で話しかけてくる。
「いったいあれなんなの、お兄ちゃん」
「じいさんと親父と母さんが白い餅に襲われたんだ」
「ええ、じゃあ……あの白いのは?」
「あれに触れると餅にされてしまうんだ」
「じゃあ、母さんたちは……」
「とにかく、ここを一旦離れるぞ」
「う……うん……」
俺は、手に持っていた靴を履く。妹が靴を履いた後、妹の手をしっかり握りしめ、走り出した。行先はまだ決めていないが、町のあちこちで悲鳴が上がっているのが聞こえてくる。おそらく、他の家でも同じようなことが起きているに違いない。だとすれば、他の家に助けを求めるのは危険だ。
「お兄ちゃん……あれ……」
ふと、妹が上空を指差した。その指差した方向を見上げると、遥か上空に巨大な鏡餅のような物体が浮いている。そして、その物体から小さな鏡餅が雪のように振っていた。
「なんだよ……あれ……」
「まって、お兄ちゃん」
妹は、胸のポケットから、スマホを取り出した。
「スマホ! 何かわかるか?」
「ちょっと見てみる」
この時ばかりは、スマホをいつも肌身離さず持ち歩いている妹に感謝したい気分だ。
「お兄ちゃん……多分あれ、宇宙人だよ」
「宇宙人……まさか、あの餅がか?」
「ほら、これ……」
妹は、ニュースのサイトを見せてくれた。上空に浮かぶ巨大な鏡餅の写真付きで記事が掲載されていた。どうやらメディアは、あれを未確認飛行物体と認識しているらしい。まだ、被害状況などは記載されてはいないようだ。じゃあ、あの餅たちは、やはり餅型の宇宙人なのだろうか。
大した情報もないので、なるべく人の少ない場所へと避難することにした。近くに公園跡地がある。そこなら今の時間は誰もいないはずだ。俺は再び妹の手を握り、走り出した。
しばらく走り、公園に着く。公園には、錆びた遊具が設置されている。至る所にロープが張られてあり、立ち入り禁止の看板が立てられていた。
俺は妹を連れて、壊れたドームの中に避難する。
「お兄ちゃん……寒い……」妹は、寒そうに震えながら体を丸めていた。さすがにこの寒さの中でパジャマ姿はきつい。俺は来ていたジャンパーを脱ぎ、妹の背中にかけてあげた。すると、「お兄ちゃんのジャンパー暖かい」と、嬉しそうに声を上げながらジャンパーにくるまった。俺は走って体が温まっているせいか、今のところジャージ姿でも平気なようだ。
ふと、ドームの中で木刀を見つけた。おそらく、夜にこの公園に集まる危ない人たちが忘れていったものだろう。だが、こんな時はこういった武器があると心強い。俺は、木刀を入手した。
一応安全を確保した。だが、このままこの場所に待機しているわけにもいかない。今やれること。それは、妹のスマホを使って助けを呼ぶことだ。一度、警察へ電話をかけてみることにする。
「小粒、スマホ借りるぞ」妹にスマホを手渡してもらい、すぐに警察へ電話した。だが、電話は一向につながらない。
「駄目か……なら、こっちはどうだ!」
続いて消防にも電話する。だが、それもつながらない。どうやら、回線がパンクしているようだ。無理もない、俺たちと同じことを考える人たちは大勢いるはずだ。これは災害と変わらない状況と言っていいだろう。つながらなくて当然だ。
いい案が出るまで、妹と二人で待機する。たまに公園の外を白い餅人間が歩いているのが見える。さすがにこちらには気づかないようだ。襲ってこないことを祈るばかりだ。
「お兄ちゃん」妹が、涙目で話しかけてきた。俺は、「どうした、怖くなったのか?」と、心配して声をかける。
「違う……トイレ行きたい」
「トイレ? 小の方か?」と聞くと、小粒は「うん」と、軽くうなずく。
「公園のトイレでいいね」
「うん」
ゆっくりと公園の公衆トイレへ向かう。今は周囲に餅人間の気配はないので大丈夫そうだ。俺はすぐに妹をトイレへ連れていき、木刀を強く握りしめて周囲を見張る。用の済んだ妹がトイレから出てくると、ホッとした様子で「ありがとう」とお礼を言った。
その時だ! 妹の後ろから、白い影が迫ってきた。それは、犬のような餅だった。
──まさか、人間以外にも侵食していたのか!
俺はすぐさま妹をかばうように、白い餅犬の前に立ちはだかった。そして、妹を狙って高くジャンプた餅犬を木刀で真っ二つに切り裂いた。
「やったか!」
の、はずだった。真っ二つに切り裂いた餅犬は液状化し、くっついて元通りになり妹を襲う。
──木刀では太刀打ちでないのか……。
妹は、悲鳴を上げる間もなく、餅犬にすっぽりと、食われるように侵食された。
「こ……小粒……」
俺は唇をかみしめた。家族も救えない、妹も救えない。これじゃあおそらく、自分も救えない。そう思った瞬間、俺は木刀を投げ捨てその場から逃げていた。
「いったいあれなんなの、お兄ちゃん」
「じいさんと親父と母さんが白い餅に襲われたんだ」
「ええ、じゃあ……あの白いのは?」
「あれに触れると餅にされてしまうんだ」
「じゃあ、母さんたちは……」
「とにかく、ここを一旦離れるぞ」
「う……うん……」
俺は、手に持っていた靴を履く。妹が靴を履いた後、妹の手をしっかり握りしめ、走り出した。行先はまだ決めていないが、町のあちこちで悲鳴が上がっているのが聞こえてくる。おそらく、他の家でも同じようなことが起きているに違いない。だとすれば、他の家に助けを求めるのは危険だ。
「お兄ちゃん……あれ……」
ふと、妹が上空を指差した。その指差した方向を見上げると、遥か上空に巨大な鏡餅のような物体が浮いている。そして、その物体から小さな鏡餅が雪のように振っていた。
「なんだよ……あれ……」
「まって、お兄ちゃん」
妹は、胸のポケットから、スマホを取り出した。
「スマホ! 何かわかるか?」
「ちょっと見てみる」
この時ばかりは、スマホをいつも肌身離さず持ち歩いている妹に感謝したい気分だ。
「お兄ちゃん……多分あれ、宇宙人だよ」
「宇宙人……まさか、あの餅がか?」
「ほら、これ……」
妹は、ニュースのサイトを見せてくれた。上空に浮かぶ巨大な鏡餅の写真付きで記事が掲載されていた。どうやらメディアは、あれを未確認飛行物体と認識しているらしい。まだ、被害状況などは記載されてはいないようだ。じゃあ、あの餅たちは、やはり餅型の宇宙人なのだろうか。
大した情報もないので、なるべく人の少ない場所へと避難することにした。近くに公園跡地がある。そこなら今の時間は誰もいないはずだ。俺は再び妹の手を握り、走り出した。
しばらく走り、公園に着く。公園には、錆びた遊具が設置されている。至る所にロープが張られてあり、立ち入り禁止の看板が立てられていた。
俺は妹を連れて、壊れたドームの中に避難する。
「お兄ちゃん……寒い……」妹は、寒そうに震えながら体を丸めていた。さすがにこの寒さの中でパジャマ姿はきつい。俺は来ていたジャンパーを脱ぎ、妹の背中にかけてあげた。すると、「お兄ちゃんのジャンパー暖かい」と、嬉しそうに声を上げながらジャンパーにくるまった。俺は走って体が温まっているせいか、今のところジャージ姿でも平気なようだ。
ふと、ドームの中で木刀を見つけた。おそらく、夜にこの公園に集まる危ない人たちが忘れていったものだろう。だが、こんな時はこういった武器があると心強い。俺は、木刀を入手した。
一応安全を確保した。だが、このままこの場所に待機しているわけにもいかない。今やれること。それは、妹のスマホを使って助けを呼ぶことだ。一度、警察へ電話をかけてみることにする。
「小粒、スマホ借りるぞ」妹にスマホを手渡してもらい、すぐに警察へ電話した。だが、電話は一向につながらない。
「駄目か……なら、こっちはどうだ!」
続いて消防にも電話する。だが、それもつながらない。どうやら、回線がパンクしているようだ。無理もない、俺たちと同じことを考える人たちは大勢いるはずだ。これは災害と変わらない状況と言っていいだろう。つながらなくて当然だ。
いい案が出るまで、妹と二人で待機する。たまに公園の外を白い餅人間が歩いているのが見える。さすがにこちらには気づかないようだ。襲ってこないことを祈るばかりだ。
「お兄ちゃん」妹が、涙目で話しかけてきた。俺は、「どうした、怖くなったのか?」と、心配して声をかける。
「違う……トイレ行きたい」
「トイレ? 小の方か?」と聞くと、小粒は「うん」と、軽くうなずく。
「公園のトイレでいいね」
「うん」
ゆっくりと公園の公衆トイレへ向かう。今は周囲に餅人間の気配はないので大丈夫そうだ。俺はすぐに妹をトイレへ連れていき、木刀を強く握りしめて周囲を見張る。用の済んだ妹がトイレから出てくると、ホッとした様子で「ありがとう」とお礼を言った。
その時だ! 妹の後ろから、白い影が迫ってきた。それは、犬のような餅だった。
──まさか、人間以外にも侵食していたのか!
俺はすぐさま妹をかばうように、白い餅犬の前に立ちはだかった。そして、妹を狙って高くジャンプた餅犬を木刀で真っ二つに切り裂いた。
「やったか!」
の、はずだった。真っ二つに切り裂いた餅犬は液状化し、くっついて元通りになり妹を襲う。
──木刀では太刀打ちでないのか……。
妹は、悲鳴を上げる間もなく、餅犬にすっぽりと、食われるように侵食された。
「こ……小粒……」
俺は唇をかみしめた。家族も救えない、妹も救えない。これじゃあおそらく、自分も救えない。そう思った瞬間、俺は木刀を投げ捨てその場から逃げていた。
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