上 下
25 / 41
第二章

1-14 白とローブと雪原と

しおりを挟む
 メイは飛行魔法を使用し、線路の上ギリギリをありえない速度で飛ぶ。
 力の限り速度を振り絞っても、普通に飛んだら高速魔導列車の速度には追いつけない。地面すれすれを飛んで地面効果と魔法効果の相乗効果で、速度を上げていた。

 急な旋回はできなくなるが、高速で走る列車の為の線路の上なので旋回の必要性はなかった。だが、集中力が切れて下にブレでもしたら、そのまま地面に激突し、ダメージを負うことにもなりかねない。そんなリスクをはらんでいた。

 メイの、シロとの契約の絆の感覚は、シロの生命力が低下している為、弱々しいが、その感覚はシロが生きているサインにもなっていた。だが、ピンチにはかわりない。
 メイにとってのシロは、家族も同然である。
 油断して命を落としそうになった所を、シロに救われた。
 さらにシロを危険に晒したこともあった。それでもついてきてくれた。そんなシロが今、ピンチである。
 必ず、助けなければならない。と、メイは、死力を尽くすのであった。

 メイは、雪原地帯に入る。雪はまだ小降りだ。
 線路の上は除雪されていた。これは列車が通過した事を意味する。まだ線路の上には、雪はそんなに積もっていない。

 メイと高速魔導列車との距離は縮まる。雪原地帯を走る列車は、最高速度を出せない。雪をかきながら走行するからだ。

 メイの視界が悪くなる。周りの積雪量も多く、雪が吹雪き始めた。
 白いローブのメイは、雪景色と同化する。
 白い、ずっと続く雪景色を眺めながらメイは線路を高速で辿る。長い道を進む。
 そして……高速魔導列車はメイの視界に入った。

 メイは上昇する。そして、高速魔導列車の上空へと移動する。
 そして、呪文を唱えた。
「オブジェクトマーキング──シロ──」
 メイの視界に文字が現れる。見ている列車のコンテナにEのマークが付く。そして、先頭から五両目の貨物車両にFの文字を発見する。
「見つけた……」

 メイがそのFのコンテナに降下しようと思った瞬間、列車の後方が光った。その光を浴びた瞬間、メイの飛行効果が解除された。メイはバランスを失い、強風に煽られ墜落する。
 メイは、地面に激突する寸前で飛行魔法を回復することができた。だが、高速魔導列車との距離が空いてしまう。
 そして高速魔導列車の最後尾の車両から、レーザー銃のような物が伸びてきた。

 ──高速魔導列車 二両目 普通列車内──

 この高速魔導列車は、現在17両編成になっていた。
 一両目は先頭車両、二両目は普通車両、3~16両目は貨物車両、最後尾は戦闘車両となっていた。

 普通車両で、なにやら慌しく動きがあった。
「ドグマ博士、戦闘車両が魔法を感知して迎撃体制に入っています。あと、涎が出てます。うとうとして寝ないで下さい」
 眼鏡をかけた博士の助手、クリスティーナは、魔導コントロールシステムで列車の状態をモニタリングしていた。

「ねーこの列車、面白いね、最後尾なのに先頭(戦闘)車両。キャハハ!」
 緑の髪のエルフ、ラジカルは、つまらないギャグを飛ばした。列車の中で暇をもてあましているようだった。

 ドグマ博士は眠い目を擦っていた。
「なにかいたら、ラジカルのレーザーがパパッとやってくれるから大丈夫だ」
 ドグマ博士はそういうと、いびきをかいて寝てしまった。

「何かあったら困るんで、研究所本部に魔波陸通信システムで連絡だけいれておきます。それと、ドグマ博士。いびきうるさいです。呼吸しないで下さい」
 クリスティーナは通信機を操作した。

 魔波陸通信システムとは、魔の波動を陸を通じて送信し、相手先のシステムと交信するシステムである。
 原型で普通に通信できる魔波通信システムというのがあったのだが、魔波は、空気中を進もうとすると、大きな抵抗を受け、距離が出なかった。その為、地上を介するシステムに変更し、今の魔波陸通信システムになったのである。

「うるさいハエが飛んでます。いかがいたしますか」
 クリスティーナの通信はレイヤに繋がった。
「落として、いいんじゃないかな。判断は任せるよ」
「分かりました。そのように」

 ──帝都西門区公園前──

 フィオラとハムオは公園に帰っていた。そして、この公園を合流地点に決めていたアナも、公園でカエルの置物の首を転がしながら休憩していた。
 セバスも合流して公園で休んでいる。メイとシロの安否を気遣っていた。

 フィオラは事の詳細をアナとセバスに話す。
「とにかく、メイちゃん、シロを追って北に飛んでいってしまったにゃ~」
「そうだったんですか、無事、見つかるといいのですが……」
 セバスはあまり浮かない表情だった。

 アナは、カエルの置物の頭をゴロゴロしながら、落ち込んでいた。
「セバス……大丈夫だよね……シロ……」
「シロ様ならきっと……大丈夫ですよ……」
 セバスはアナをなだめた。

 一瞬、アナの後方の空間がすこし歪む。

 灰色の髪、灰色の肌、尖った耳を持ち、スチームパンクな服を着た、美人のダークエルフがその空間の歪みから突然現れた。アナはまだ後ろに気がついていない。
「あら、こんな所に緑の髪のエルフがいるなんて……珍しいわねー」
 そして、その美人のダークエルフはゲス顔をする。
「なーんてね、いるのは知っててここにきたんだけどねー。後をつけてましたー」

「誰にゃ!」
 フィオラは毛を逆立てて身構える。危険を感じたようだ。

「知りたい~?じゃ、おしえてあげようか。私はサナ・デルタ。人さらいよ。よろしくねぇ」
 そのゲス顔の美女は『サナ・デルタ』と名乗った。
「じゃあ、このエルフの子、貰っていくわね。いい素材になるわ」
 アナは動けなかった。動こうとしていたのだが、何らかの力が働いて動くことが出来なかった。
 サナはアナの首の後ろを手刀で殴り、気絶させた。そしてくの字に折れ曲がるアナの体を腕で抱えこんだ。

「お待ちください、そこのお嬢さん、あまり手荒なマネはしたくないので、その子を放して下さいませんか」
 セバスは構えてサナに近づく。

「手荒なマネってどんなマネー、気になるなー、でも御免ねー。私急いでるから」
 サラはアナを担いだまま、その場から消えた。
 アナは簡単にさらわれてしまった。

 フィオラも、ハムオも、そしてセバスも、何もすることができなかった……。
「ねえ、これ……どうなってるにゃ……消えたにゃ……気配もないにゃ……」
「これ、魔法やないで……なんちゅーか、別の力やった……」
「くっ……私がついていながら……なんたる失態……」
 セバスは膝をついて悔しがった。その一瞬の出来事は、セバスの理解を超えていた。たとえ魔法で姿を消せたとしても、二人もいっしょに消すには時間がかかる。そんな時間をセバスは与えるわけはない。
 セバスは、未知の領域に対しての無力感を味わうしかなかった……。

 アナの消えた後には、置物のカエルの頭が転がっているだけだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

この度めでたく番が現れまして離婚しました。

あかね
恋愛
番の習性がある獣人と契約婚をしていた鈴音(すずね)は、ある日離婚を申し渡される。番が現れたから離婚。予定通りである。しかし、そのまま叩き出されるには問題がある。旦那様、ちゃんと払うもん払ってください! そういったら現れたのは旦那様ではなく、離婚弁護士で。よし、搾れるだけ絞ってやる!と闘志に燃える鈴音と猫の話。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

処理中です...