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第二章
1-7 無知と無策と慢心と
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シロ達は館に戻った。
メイとシロは、魔導研究所での作戦失敗後、ひどく落ち込んでいた。
シロは、今回の失敗の件を深く考えていた。
普通に作戦を準備して、普通にこなした。そして普通に終わるはずだった。多少のイレギュラーも想定した。だが、前回メイが倒れたときに思い知ったじゃないか……。
『普通』は通用しない事を……。
相手は普通である訳がない。今相手にしているやつらは自分にとっては未知なのだ。そんな相手を普通にあしらうことなど到底できるはずがない。生還できた事が奇跡だったのだ。
シロは自身の無知と無策と慢心を自戒した。
一方、メイも失敗の件を深刻に考えていた。
戦いにおいては油断も隙もないはずだった。にも関わらず、シロを心配させ、人間化させて危険に晒してしまった事。自分の魔法は絶対だと考え、過信してしまった事。
メイはそれらを反省し、自分の力の無さを受け入れた。もっと強い存在でありたい、と、そう願うのであった。
魔導研究所ノーム奪還作戦失敗から、一週間が経過した。だが、時間が経過したにも関わらず、この事件はどこかの賊の犯行、ということになっていた。
おそらく、進入してきた賊が、漆黒の猫だと確認されていなかったのだろう。
漆黒の猫は、出現する度に毎回二桁の人的被害を出していたが、今回はそれ以下だった為、普通の賊と思われたのだろう。怪我人が二人しかいなかった事が幸いした。精神被害はカウントされてはいなかったようだ。
それでも帝都内は、漆黒の猫だけは表立って動ける状態では無かった。まだレイヤの動向がつかめていないからだ。
ノームを失った帝都は防衛機構を失った……はずだったのだが、ノームがいなくなった二日後には、とっくに帝都の防衛機構が復活していたのである。
それを確認をしたのはアナだった。
エルフの勘なのかは分からないが、魔法発動の条件が整っているかどうかが分かるらしい。
アナは作戦失敗後の帝都の様子を見るために、いつものようにオリーブベリージャムを城内に卸しに行っていた。その時に分かったのだろう。
防衛機構が復活したということは、ノームがまたカプセルに入れられた、もしくは別の『何か』が代役を務めているのか。シロはその『何か』を確認するために、もう一度研究所にネズミの姿で潜入していた。
シロは魔導研究所の最下層の台座に辿り着く。台座の上には、カプセルの代わりに禍々しい魔鉱石を接続した動力源のような大きな機械が置いてあった。
──これがノームの代わりをしているのか……。
シロはこの機械を軽くスケッチして研究所を出た。アナと合流し、館への帰路につく。
迷いの森の中で、唯一目印となる大きな木がある。
そこに辿り着くとアナは、
「シロ、休もー」
アナは木の根元に座り、休憩を取とった。
シロも、アナの肩の上で休ませてもらっている。
シロとアナは、仕事の帰りに、この木の根元で必ず休憩を取っていた。
暫くすると、ウサギ、リス、いたち、小鹿など、いろいろな小動物が集まってくる。動物達もアナのマネをして休憩をしているのだ。
アナはその動物達を見て無邪気に笑顔を見せていた。
シロはその光景を見て、アナは動物に好かれやすい体質なんだなーと、ぼーっとしながら考えていた。
──でも、なぜ精霊ペットがいないんだろう……。
シロはハッと口にチャックをし、意思疎通のないことに気が付いてほっとする。ぼーっとしているとたまに考えを言葉にしてしまう癖がついてしまったようだ。
今度、それとなく聞いてみよう。と、シロは思うのであった。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
シロは休憩中、いろいろと、この世界のことについて考え始めた。
まず、シロのいた現実の世界との相違点についてだ。
動物、植物。これは、ほぼ同じだった。ただし、それにプラスして、知らない動物、植物も生息していた。
次にインフラ設備だ。一つは電気が魔力に置き換えられている点が非常に目立つ。研究所のレーザーを見た後では、電気も存在するんじゃないかと思うぐらいなのだが、多分そこだけ特別だったのか。
水は、井戸から汲み上げられていて、井戸が無いところは魔法により水を生成していた。
トイレは用を足すと魔法により分解され、肥料として利用できるようになっていた。
次は建築様式だ。立派な住居の殆どは中世ヨーロッパ系のレンガ造りだ。他では現代建築の様相も伺えた。お店は日本の商店街、一般住居などはアメリカの住宅街を思い出させる。これに関しては同じだ。
そして様々な人種の存在。人間、エルフ、亜人、ダークエルフ?もしかすると小人や巨人、コブリン、ドラゴンなどが存在するかもしれない。
メイの服がドラゴンの皮を使っていたとなると、ドラゴンはほぼ確実にいるだろう。
これらの種族は、自分の世界には空想上では在るが、実際には存在はしない。
相違点は分かる範囲でこのぐらいだが、この世界には、まだ『別の何か』の存在がある気がしてならない。
研究所に来たダークエルフの女性が、魔法じゃなく超能力を使った事。そして、自分を異世界人だと言った事。これはおそらくこの世界に『別の何か』の干渉があることを示している可能性がある。ということ。
シロは最後に思う。
『普通』を超えたいなら、冒険してでも『別の何か』の情報は必要不可欠じゃないか、と……。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
「そろそろ帰ろー」
アナは休憩の終わりを告げた。
休憩を終えたアナとシロはゆっくり迷いの森を歩き、館へと向かった。
──迷いの森の館──
メイは庭で高級そうな黒い書物を読んでいた。上級黒魔法指南書である。その本は家に代々伝わる家宝であり、いつもは鍵付きのブックケースに入れられている大事な本だ。
「相手の突進を……そらす技……身動きが取れないときに……最低限……」
その本には体術なども記載されていた。メイは何度も読み上げて勉強をしていた。
シロとアナが帰ってきた。館の門を開けてメイの所へ駆け寄った。
「メイお嬢様!ただいまー!シロがね、研究所の中調べたんだよ」
アナはシロを手に乗せてメイに手渡した。
「お帰りなさい……シロ……何かわかった……?」
メイは返事をして、シロを庭にあるテーブルに置いた。
──ノームは、いなかった。代わりにこんな物が置いてあった。
シロはリュックから小さなメモを取り出した。
メイは、メモを目を凝らして眺めた。
「魔鉱石……圧縮された物ね……それとこの機械は……きっと……魔法サーキット……」
──魔法サーキット?
「魔法を生成する機械……魔鉱石の力で……魔法を生成できる……多分ノームの結界魔法を……生成してる……」
──ノームがいなくても結界は作動してるのか。じゃあ、ノームは別の何かに使われようとしているのか……。
メイはちょっとだけ口を噤んだ。ノームのさらわれた後を想像すると心苦しかった。彼女はそれを、まだ自分のせいだと思っていた。
シロはちょっとだけ地雷を踏んだ気分だった。
「そういえば……セバスが……渡したい物があるって……」
──セバスが? なんだろう……。
夕食の時間が来た。
いつものようにテーブルにアナが食事を並べ、全員がテーブルに着く。
「食事の前に、よろしいですかな」
セバスは紙袋からガラスケースに入った一角獣の人形を出した。
「シロ様の頑張りにふさわしいかと、エンシェント級のレアアイテムを、思い切って落札しました」
──あまり、いい結果は出せてないんだけど……。
シロは自分を謙遜していた。だが、一角獣の人形は、シロを誘うように輝きを放っていた。
シロはセバスのほうを見る。セバスはニコっとした。
「触れてみてください、シロ様」
シロはケースを開け、人形に触れる。するとその一角獣は光り輝き粒子となってシロの体に入っていく。
──これ、どうすれば……。
「多分……鎧を……イメージ……」
メイがイメージを教えた。シロはそのとおりにイメージをする。
シロの体に白い光が絡みつく。そして、その光は鎧を形成しはじめる。
白く輝くフルアーマー、そして長い角の付いた鎧になった。
「シロー! かっこいい! 一角ネズミだ!」
アナが目を輝かせて喜んだ。
その輝く一角獣の鎧をまとったネズミは、神聖な覇気をまとっていた。
シロは一角獣の鎧を手に入れた。
シロはテーブルを走り回る。
──なんだこれ、体が軽い……。力があふれてくる。
鎧を装着したシロは通常の十倍の力を得ていた。力を制御できていないのか、テーブルを蹴る足が少し滑る。
「それでこそ、メイ様のマスコットです」
セバスがシロを称賛する。
メイは少し不満そうな顔をしてセバスを見る。そして、
「シロは……私の……相棒……フフッ」
メイは笑顔でシロを見て相棒と認定したのであった。
──お、俺、相棒でいいの? メイ! 有り難う!
シロはマスコットから相棒に昇格した。
シロは嬉しくなって、ついハイジャンプしてしまった。
力強いジャンプで、シロの体はロケットの様に飛んでいく。
だが、シロのジャンプ力は通常の十倍。天井までジャンプする。角が天井に突き刺さった。
──調子に……乗りすぎま……すた……。
今日も迷いの森の館は平和だった。
メイとシロは、魔導研究所での作戦失敗後、ひどく落ち込んでいた。
シロは、今回の失敗の件を深く考えていた。
普通に作戦を準備して、普通にこなした。そして普通に終わるはずだった。多少のイレギュラーも想定した。だが、前回メイが倒れたときに思い知ったじゃないか……。
『普通』は通用しない事を……。
相手は普通である訳がない。今相手にしているやつらは自分にとっては未知なのだ。そんな相手を普通にあしらうことなど到底できるはずがない。生還できた事が奇跡だったのだ。
シロは自身の無知と無策と慢心を自戒した。
一方、メイも失敗の件を深刻に考えていた。
戦いにおいては油断も隙もないはずだった。にも関わらず、シロを心配させ、人間化させて危険に晒してしまった事。自分の魔法は絶対だと考え、過信してしまった事。
メイはそれらを反省し、自分の力の無さを受け入れた。もっと強い存在でありたい、と、そう願うのであった。
魔導研究所ノーム奪還作戦失敗から、一週間が経過した。だが、時間が経過したにも関わらず、この事件はどこかの賊の犯行、ということになっていた。
おそらく、進入してきた賊が、漆黒の猫だと確認されていなかったのだろう。
漆黒の猫は、出現する度に毎回二桁の人的被害を出していたが、今回はそれ以下だった為、普通の賊と思われたのだろう。怪我人が二人しかいなかった事が幸いした。精神被害はカウントされてはいなかったようだ。
それでも帝都内は、漆黒の猫だけは表立って動ける状態では無かった。まだレイヤの動向がつかめていないからだ。
ノームを失った帝都は防衛機構を失った……はずだったのだが、ノームがいなくなった二日後には、とっくに帝都の防衛機構が復活していたのである。
それを確認をしたのはアナだった。
エルフの勘なのかは分からないが、魔法発動の条件が整っているかどうかが分かるらしい。
アナは作戦失敗後の帝都の様子を見るために、いつものようにオリーブベリージャムを城内に卸しに行っていた。その時に分かったのだろう。
防衛機構が復活したということは、ノームがまたカプセルに入れられた、もしくは別の『何か』が代役を務めているのか。シロはその『何か』を確認するために、もう一度研究所にネズミの姿で潜入していた。
シロは魔導研究所の最下層の台座に辿り着く。台座の上には、カプセルの代わりに禍々しい魔鉱石を接続した動力源のような大きな機械が置いてあった。
──これがノームの代わりをしているのか……。
シロはこの機械を軽くスケッチして研究所を出た。アナと合流し、館への帰路につく。
迷いの森の中で、唯一目印となる大きな木がある。
そこに辿り着くとアナは、
「シロ、休もー」
アナは木の根元に座り、休憩を取とった。
シロも、アナの肩の上で休ませてもらっている。
シロとアナは、仕事の帰りに、この木の根元で必ず休憩を取っていた。
暫くすると、ウサギ、リス、いたち、小鹿など、いろいろな小動物が集まってくる。動物達もアナのマネをして休憩をしているのだ。
アナはその動物達を見て無邪気に笑顔を見せていた。
シロはその光景を見て、アナは動物に好かれやすい体質なんだなーと、ぼーっとしながら考えていた。
──でも、なぜ精霊ペットがいないんだろう……。
シロはハッと口にチャックをし、意思疎通のないことに気が付いてほっとする。ぼーっとしているとたまに考えを言葉にしてしまう癖がついてしまったようだ。
今度、それとなく聞いてみよう。と、シロは思うのであった。
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シロは休憩中、いろいろと、この世界のことについて考え始めた。
まず、シロのいた現実の世界との相違点についてだ。
動物、植物。これは、ほぼ同じだった。ただし、それにプラスして、知らない動物、植物も生息していた。
次にインフラ設備だ。一つは電気が魔力に置き換えられている点が非常に目立つ。研究所のレーザーを見た後では、電気も存在するんじゃないかと思うぐらいなのだが、多分そこだけ特別だったのか。
水は、井戸から汲み上げられていて、井戸が無いところは魔法により水を生成していた。
トイレは用を足すと魔法により分解され、肥料として利用できるようになっていた。
次は建築様式だ。立派な住居の殆どは中世ヨーロッパ系のレンガ造りだ。他では現代建築の様相も伺えた。お店は日本の商店街、一般住居などはアメリカの住宅街を思い出させる。これに関しては同じだ。
そして様々な人種の存在。人間、エルフ、亜人、ダークエルフ?もしかすると小人や巨人、コブリン、ドラゴンなどが存在するかもしれない。
メイの服がドラゴンの皮を使っていたとなると、ドラゴンはほぼ確実にいるだろう。
これらの種族は、自分の世界には空想上では在るが、実際には存在はしない。
相違点は分かる範囲でこのぐらいだが、この世界には、まだ『別の何か』の存在がある気がしてならない。
研究所に来たダークエルフの女性が、魔法じゃなく超能力を使った事。そして、自分を異世界人だと言った事。これはおそらくこの世界に『別の何か』の干渉があることを示している可能性がある。ということ。
シロは最後に思う。
『普通』を超えたいなら、冒険してでも『別の何か』の情報は必要不可欠じゃないか、と……。
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休憩を終えたアナとシロはゆっくり迷いの森を歩き、館へと向かった。
──迷いの森の館──
メイは庭で高級そうな黒い書物を読んでいた。上級黒魔法指南書である。その本は家に代々伝わる家宝であり、いつもは鍵付きのブックケースに入れられている大事な本だ。
「相手の突進を……そらす技……身動きが取れないときに……最低限……」
その本には体術なども記載されていた。メイは何度も読み上げて勉強をしていた。
シロとアナが帰ってきた。館の門を開けてメイの所へ駆け寄った。
「メイお嬢様!ただいまー!シロがね、研究所の中調べたんだよ」
アナはシロを手に乗せてメイに手渡した。
「お帰りなさい……シロ……何かわかった……?」
メイは返事をして、シロを庭にあるテーブルに置いた。
──ノームは、いなかった。代わりにこんな物が置いてあった。
シロはリュックから小さなメモを取り出した。
メイは、メモを目を凝らして眺めた。
「魔鉱石……圧縮された物ね……それとこの機械は……きっと……魔法サーキット……」
──魔法サーキット?
「魔法を生成する機械……魔鉱石の力で……魔法を生成できる……多分ノームの結界魔法を……生成してる……」
──ノームがいなくても結界は作動してるのか。じゃあ、ノームは別の何かに使われようとしているのか……。
メイはちょっとだけ口を噤んだ。ノームのさらわれた後を想像すると心苦しかった。彼女はそれを、まだ自分のせいだと思っていた。
シロはちょっとだけ地雷を踏んだ気分だった。
「そういえば……セバスが……渡したい物があるって……」
──セバスが? なんだろう……。
夕食の時間が来た。
いつものようにテーブルにアナが食事を並べ、全員がテーブルに着く。
「食事の前に、よろしいですかな」
セバスは紙袋からガラスケースに入った一角獣の人形を出した。
「シロ様の頑張りにふさわしいかと、エンシェント級のレアアイテムを、思い切って落札しました」
──あまり、いい結果は出せてないんだけど……。
シロは自分を謙遜していた。だが、一角獣の人形は、シロを誘うように輝きを放っていた。
シロはセバスのほうを見る。セバスはニコっとした。
「触れてみてください、シロ様」
シロはケースを開け、人形に触れる。するとその一角獣は光り輝き粒子となってシロの体に入っていく。
──これ、どうすれば……。
「多分……鎧を……イメージ……」
メイがイメージを教えた。シロはそのとおりにイメージをする。
シロの体に白い光が絡みつく。そして、その光は鎧を形成しはじめる。
白く輝くフルアーマー、そして長い角の付いた鎧になった。
「シロー! かっこいい! 一角ネズミだ!」
アナが目を輝かせて喜んだ。
その輝く一角獣の鎧をまとったネズミは、神聖な覇気をまとっていた。
シロは一角獣の鎧を手に入れた。
シロはテーブルを走り回る。
──なんだこれ、体が軽い……。力があふれてくる。
鎧を装着したシロは通常の十倍の力を得ていた。力を制御できていないのか、テーブルを蹴る足が少し滑る。
「それでこそ、メイ様のマスコットです」
セバスがシロを称賛する。
メイは少し不満そうな顔をしてセバスを見る。そして、
「シロは……私の……相棒……フフッ」
メイは笑顔でシロを見て相棒と認定したのであった。
──お、俺、相棒でいいの? メイ! 有り難う!
シロはマスコットから相棒に昇格した。
シロは嬉しくなって、ついハイジャンプしてしまった。
力強いジャンプで、シロの体はロケットの様に飛んでいく。
だが、シロのジャンプ力は通常の十倍。天井までジャンプする。角が天井に突き刺さった。
──調子に……乗りすぎま……すた……。
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