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第一章

1 ど田舎の惨劇

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 その学生はいたって普通の高校生である。
 彼の名は『中村 士郎』 
 成績も普通、容姿も普通、家柄も普通な高校二年生。
 普通がよく似合う人間である。

 今は二学期の初頭。まだ夏の暑さが残っており、快適とはいい難い日々が続いている。

 学校が終わり、士郎は近くの駅へと向かう。
 駅近辺の町並みは活気があふれている。ちょっとした銀座通りだ。
 田舎だが、この辺は人口の多い町なので、さまざまな店舗が集中していて活気がある。小さな地方都市といったところだ。

 士郎は表通りから駅への近道の裏路地にはいった。
 軽自動車がギリギリで通れるぐらいの道幅がある。エアコンの室外機がところどころに置かれており、全て稼働しているのでその路地だけ異常な暑さになっている。暑い時期は誰も使わない近道である。
 いつもは誰もいないはずの裏路地に、禍々しいフードをかぶった占い師が座っていた。

 士郎はそこをよけて通ろうとした。すると占い師が突然声をかけてきた。
「学生さん、あたしが見えるかぃ。珍しいこともあるもんだねぇ。」
 占い師が士郎に顔を向けた。顔は若いのに声が年寄りの婆さんのような声だった。
 士郎はその声にびっくりして……。
「ひぃ、なんですか……」
 声が裏返ってしまった。

「あんた死相がでてるよ、ひっひっひ」
 士郎はゆっくりと現在置かれてる状況を確認し、正気を取り戻した。
「あぁそうですか、そうやって何か売りつけるつもりでもお金なんて持ってませんからね」
 士郎は、何かしら因縁をつけて物を買わせる類の輩だと思い、占い師を警戒した。
「もったいない命だねぇ、まだ若いのに、ひっひっひ」
 士郎は占い師に興味を失い、その場を離れようとした。

 突然占い師は立ち上がり手のひらを士郎に向けた。士郎の体が突然動かなくなる。
「だから、もったいないっていってるんじゃよ、ひっひっひ」
 士郎は体が動かないことに恐怖した。体調不良、金縛り、そういった類の物ではない事はあきらかだ。そういったことが現実で起こっている。
「な、なにを……」
 占い師は禍々しい妖気のような物を放ちながら、持っていたポーチから小瓶のついたネックレスを取り出した。それを体の動かない士郎に取り付けた。
「それはお守りみたいなもんさぁ。つけといて損はないよぉ、ひっひっひ」
 士郎は体が動かないことよりも、そのどさくさで何かを勝手に体につけている占い師の行動に対して怒りを覚え、思わず叫んだ。
「押し売り反対!」
 小瓶のネックレスをつけられると、士郎の体は動くようになった。体が開放された安心感から、ゆっくりと呼吸を整えていた。

「それはだたでいいよぉ、ひっひっひ」
 占い師は満足そうな笑みを浮かべている。
「ただより怖いものはないって偉い人は言ってたぞ」
 士郎はつけられたネックレスをはずそうとした。だが、いくら外そうとしても外すことが出来ない。力をいれて引きちぎろうとしたが、それでも外せなかった。
「なんだこれ、呪いのネックレスか!くそ、はずれねぇ!」
「そのうち外れるから大丈夫だよぉ、ひっひっひ」

「家に帰ったらペンチでぶちきってやる」
 士郎はそう捨て台詞を吐いて、すぐにその場を立ち去った。
「ひっひっひ、お気をつけてぇ、ひっひっひ」
 占い師は立ち去る士郎を確認して、その場からゆっくり消失した。

 士郎は駅についた。改札を抜け、ホームで電車を待つ。
 電車を待つ人の多くはスマホという近代的な通信機器をいじり倒している。電車が駅に入る。士郎は飛び乗った。

 ひとつ駅を過ぎると賑やかな町は跡形もなく消え、のどかな田園風景が現われる。ど田舎である。
 三つ目の駅で士郎は降りる。あとは家まで帰るだけである。
 あたりは薄暗く、道路だけが整備されている何もない川沿いを一人で歩いて帰る。

  その時、歩道を散歩していた老人の子供が、転がったボールを追いかけて飛び出した。そこへ、大型トラックが猛スピードで突っ込んできた。士郎はその子供を助けようと道路に飛び出す。子供は士郎に押されて歩道に戻ることができた。だが、士郎は靴紐に足を取られ、走ってきたトラックを避けることができなかった。

 士郎は、トラックに跳ねられ、川まで跳ね飛ばされた。ゆっくりと士郎の体は川に流されていく。

 …………。

 しばらくして、士郎の死体に突然異変が起こった。
 士郎の死体の首にあるネックレスの小瓶が突然光りだした。
 その光は士郎の体を飲み込み、光が消えると同時に士郎の死体を飲み込んで消えてしまった。
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