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本編
第二十四話 少女……再び……
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軽トラックに乗っているのは、作業服を着た眼鏡姿の中年の男だった。
作業服の中にスーツを着込んでいる。この暑い日にそこまで着込んでいるのは何か不自然だ。
棗は、軽トラックのドアを開け、ゆっくと車を降りた。軽く挨拶をしてドアを閉める。
作業服の男は、ドアが閉まったことを確認すると、車を駐車場の方へと移動する。
「ごめん、道に迷って……そしたら、あのおじさんが民宿まで乗せてくれた」
「そうか……道に迷ったのか……ごめん、俺が先にいってしまったばっかりに」
俺は、棗にそれとなく謝る。とにかく、無事でよかった。
軽トラックに乗っていた作業服の男は、車を駐車場に止めると、民宿へ向かって歩いてきた。それと同時に女将が、民宿の玄関から出てくる。
女将は、作業服の男を見ると、手を大きく振って声を上げた。
「ああ、支配人! ちょうどいいところへ。 どうやら、お客さん方が連続殺人鬼を見たようなんですよ」
「連続殺人鬼? まさか……そんな凶悪なやつなのか?」
「さあ、どうなんでしょうねぇ……」
「あ、ああ……そうか……。本当に物騒だな」
部長が作業服の男に声をかけた。
「あなたが……ここの民宿の支配人ですか?」
「ああ、そうですよ」
「私、このメンバー、オカルト研究会の部長をしています、藤崎香奈江です。あの、うちのメンバーがご迷惑をおかけしました。お詫びとお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」
部長は、軽く一礼をした。
「いえ、たまたま通りかかって……用事があったのでね。ついでですよ……ついで」
「あの、本当にありがとうございました」
また、一礼する棗。
一見普通のやさしそうなおじさんに見えるが、嫌な予感でいっぱいになる。この民宿の支配人という時点でかなりやばい奴な気がしてならない。
やはり、奴も緑色の液体のような化け物なのだろうか。もしくは、屋根裏のパソコンにあったメモを書いた張本人……いずれにせよ、警戒はするべきだ。
それに、今回は、誰も死んでいない。できればこのまま明日を迎えたい。そして、全員無事な姿でこの島を出たい。
しばらくして、夕食の時間がやってきた。
全員で円卓を囲み、鮫の姿煮を食す。
俺は気分が悪いと言って、口をつけずにその場をやり過ごす。
だが、今回は誰も眠気を催さなかったようだ。だが安心はできない。
次に露天風呂に入る。
人数がいるため、男女別々で入ることになった。
京谷は露天風呂をのぞきに行きたくてうずうずしていたが、そこを副部長が無理やりカードゲームに誘い、気を散らす。
時間は過ぎ去り、女性陣が風呂から戻った後、俺と京谷と副部長で露天風呂へと赴いた。
「いい湯だな、隆司」
「あ、ああ……そうだな」
「この湯も格別だ。もう少し広いといいのだが……」
何も起きない。やはり、人数が多いので警戒しているのだろうか。それならそれで、こちらとしては好都合だ。
露天風呂で温まった後、部屋に戻る。部屋の中は肌寒い。長テーブルの上に置かれたクーラーリモコンの設定温度は20度だった。
温度設定を24度ぐらいに修正し、柱にかけておいた上着を羽織って布団の中へもぐりこむ。
女性陣は、すでに布団に入って眠ってしまっているようだ。
普通ならここで京谷が寝ている雫と萌々香にちょっかいを出すのだが、今日はそういう気分ではないらしい。
俺の流した連続殺人鬼の話のせいで、少しだけ空気が違う。皆、神経を尖らせている。
もちろん、そうしてくれた方がありがたい。この民宿も、危険ゾーンに変わりないのだから。
「なんだよ、もう寝たのかよ~。ま~しょうがないか。こんなところじゃ遊べるところもないしな~」
「まあ、そういうな。こんなところに民宿があるだけましだと思うしかない」
京谷が布団の上に胡坐をかいてグチをこぼす。それを、副部長の仁人がなだめる。
一応、明日は早くここを出る予定だ。今のうちに寝ておかなければならないのだが……。
「じゃあ、明かり……消しますよ」
「ああ、小さいのだけつけておいてくれ」
「はい」
小さい電球だけを灯して部屋を暗くした。
……寝てはいけない。寝てしまえば同じことの繰り返しになってしまう。俺だけでも起きていれば、何かあった場合、すぐに全員を叩き起こすことができる。
俺は布団にくるまりながら、目を電球に向けて起き続けた。
しばらくして、部屋の時計が2時を超えた。
いい加減眠い。逆らえないほどの眠気が襲ってくる。
寝てしまいたい。だが、寝ればまた……。
その時、二階へ上る足音をかすかに聞いた。
今までの眠気が嘘のように吹っ飛ぶ。
足音が近づく。引き戸の前で止まると、サーっと音を立てて引き戸が開いた。
俺は布団をかぶりつつ、引き戸のほうに目を向ける。
そこで目にしたのは…………
背中に甲羅、皿が載せられたような髪型、緑色の肌、黄色のくちばし…………。
どこからどう見ても河童だった。
「まさか……こいつだったのか!」
その姿を見た瞬間、緑色のチェーンソー男を思い出した。
ぼんやりとしていた記憶が鮮明になる。こいつがオカ研のみんなを使って実験していた張本人で間違いないだろう。
河童は12ミリメートルほどの太さのロープを持っていた。
俺はすぐに布団から抜け出し、大声を上げた。
「皆! 起きろ! 」
「なんだ……起きていたのか……じゃあ仕方がないな……」
河童は低い声で話すと、指をパチッ鳴らした。それと同時に、布団で寝ていたオカ研メンバー全員がムクっと起きだした。
いいタイミングで起きてくれた。これで、何とかなる…………はずだった。
部屋の明かりをつける。すると、オカ研メンバー全員の肌の色が緑色になっているのが見えた。
死んだような目をしてこちらを見ている。嫌な予感を通り越して絶望を覚えた瞬間だった。
「なんだ……これ……いったい、どういうことだ!?」
突然、オカ研メンバーたちの体は液状化を始めた。顔の形がゾンビのように崩れ始める。
俺は、寝ていなかったはずだ。いつ、全員が女将に体を乗っ取られたのだろうか。
まさか、ここへ来る前にすでに…………。
それと、ここの支配人……なぜか、この河童のような気がしてならない。
液状化したオカ研メンバーは、手をつないでまるで逃げ道をふさぐように俺を取り囲む。
どうやら、また死ななきゃならないようだ。
河童は、逃げ場を失った俺を、持っていたロープでグルグル巻きにする。
……抵抗は無意味……俺は心身喪失したまま、河童にいいようにされていた。
「実験台だ。おとなしくしておけよ」
「…………」
河童は、民宿を出て俺の体を駐車場に止めてあった軽トラに運ぶ。
荷台には棺桶のような箱が乗せられていた。人が二人ほど入れるような大きさだ。
「さあ、乗れ」
「うっ」
俺は頭を車の入り口の枠に打ち付けた。そのショックで、少し鼻血が流れたような気がした。
その時だ。急に軽トラの荷台にある大きな箱が突然ガタガタと音を立て、はじけるように箱が壊れる。すると、そこから黒光りする体と、赤く光る眼、鋭い牙を輝かせた恐怖の元凶が現れたのだった。
「鮫……人間……!?」
── 血イイイイィィィィ!──
鮫人間は、車を降りてドアの側に立ちふさがる。
「く、くそう!」
その瞬間、河童は俺の体から手を放し、走り出した。
どうやら、俺をエサにして逃げるつもりのようだ。
だが、まるで動くものに反応したかのように、鮫人間は河童を物凄い勢いで追い立てる。動けない俺を見て、俺はいつでも食えると判断したのだろうか。
逃げる河童を執拗に追いかける鮫人間。
河童の逃走劇は、長くは続かなかった。
地上を泳ぐように走り抜ける鮫人間。あっという間に河童に追いつき、頭からかぶりつく。
「ぎゃああああああああ」
──ウウウウメエエエ!──
恐ろしい叫び声がこだまする。
河童を食した後、おそらくこちらへ向かってくるだろう。
気が付くと、俺の目の前に黒髪の少女が立っていた。
「ロープ……ほどく……」
少女は何か光るようなものを持っていた。ナイフか何かだろう。その光るもので俺を縛っているロープを切り裂く。
そのおかげで、自由に動けるようになった。
「君はいったい……」
「そのポケットにある髪飾りで、鮫人間を刺して!」
「ポケット?」
俺は羽織っていた上着を触る。ポケットの中にあった髪飾りを少女に見せた。
「これは……君のものなのか?」
そう尋ね、髪飾りを渡そうとすると、少女は首を横に振って話す。
「私にそれを使うことはできない。だから、あなたに頼んだ。どうか、私の父を救ってほしい」
「父……救う……?」
この子の父も、鮫人間に食われたのだろうか……だから、その仇を取って父を成仏させて欲しい……そういうことなのだろうか……。
「これを、奴に刺せばいいんだな」
「はい……私では、効果がない……」
やはり、少女の力では無理ということなのだろう。
だが、普通の人間と鮫人間には、物凄い力の差がある。少女が俺になったところで、その差は埋まらない。だとすれば、この髪飾りに何か毒のようなものが仕掛けてあるのだろうか。
「なあ、この髪飾り……何でできているんだ? 毒でも塗ってあるのか?」
「人魚の骨……」
「人……魚……!?」
貝殻は、普通の貝殻だ。飾りは真珠と鱗。すると、この二股かんざしが骨である可能性が高い。
ということは、やはりこの髪飾りも何らかの力が宿っていると考えるべきだろう。
少女はその後、煙のようにその場から消えてしまった。
河童を完食した鮫人間は、視線をこちらに向け、物凄い勢いで走り始める。
鮫人間に髪飾りを突き立てる……そんなことが本当にできるのだろうか……。
作業服の中にスーツを着込んでいる。この暑い日にそこまで着込んでいるのは何か不自然だ。
棗は、軽トラックのドアを開け、ゆっくと車を降りた。軽く挨拶をしてドアを閉める。
作業服の男は、ドアが閉まったことを確認すると、車を駐車場の方へと移動する。
「ごめん、道に迷って……そしたら、あのおじさんが民宿まで乗せてくれた」
「そうか……道に迷ったのか……ごめん、俺が先にいってしまったばっかりに」
俺は、棗にそれとなく謝る。とにかく、無事でよかった。
軽トラックに乗っていた作業服の男は、車を駐車場に止めると、民宿へ向かって歩いてきた。それと同時に女将が、民宿の玄関から出てくる。
女将は、作業服の男を見ると、手を大きく振って声を上げた。
「ああ、支配人! ちょうどいいところへ。 どうやら、お客さん方が連続殺人鬼を見たようなんですよ」
「連続殺人鬼? まさか……そんな凶悪なやつなのか?」
「さあ、どうなんでしょうねぇ……」
「あ、ああ……そうか……。本当に物騒だな」
部長が作業服の男に声をかけた。
「あなたが……ここの民宿の支配人ですか?」
「ああ、そうですよ」
「私、このメンバー、オカルト研究会の部長をしています、藤崎香奈江です。あの、うちのメンバーがご迷惑をおかけしました。お詫びとお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」
部長は、軽く一礼をした。
「いえ、たまたま通りかかって……用事があったのでね。ついでですよ……ついで」
「あの、本当にありがとうございました」
また、一礼する棗。
一見普通のやさしそうなおじさんに見えるが、嫌な予感でいっぱいになる。この民宿の支配人という時点でかなりやばい奴な気がしてならない。
やはり、奴も緑色の液体のような化け物なのだろうか。もしくは、屋根裏のパソコンにあったメモを書いた張本人……いずれにせよ、警戒はするべきだ。
それに、今回は、誰も死んでいない。できればこのまま明日を迎えたい。そして、全員無事な姿でこの島を出たい。
しばらくして、夕食の時間がやってきた。
全員で円卓を囲み、鮫の姿煮を食す。
俺は気分が悪いと言って、口をつけずにその場をやり過ごす。
だが、今回は誰も眠気を催さなかったようだ。だが安心はできない。
次に露天風呂に入る。
人数がいるため、男女別々で入ることになった。
京谷は露天風呂をのぞきに行きたくてうずうずしていたが、そこを副部長が無理やりカードゲームに誘い、気を散らす。
時間は過ぎ去り、女性陣が風呂から戻った後、俺と京谷と副部長で露天風呂へと赴いた。
「いい湯だな、隆司」
「あ、ああ……そうだな」
「この湯も格別だ。もう少し広いといいのだが……」
何も起きない。やはり、人数が多いので警戒しているのだろうか。それならそれで、こちらとしては好都合だ。
露天風呂で温まった後、部屋に戻る。部屋の中は肌寒い。長テーブルの上に置かれたクーラーリモコンの設定温度は20度だった。
温度設定を24度ぐらいに修正し、柱にかけておいた上着を羽織って布団の中へもぐりこむ。
女性陣は、すでに布団に入って眠ってしまっているようだ。
普通ならここで京谷が寝ている雫と萌々香にちょっかいを出すのだが、今日はそういう気分ではないらしい。
俺の流した連続殺人鬼の話のせいで、少しだけ空気が違う。皆、神経を尖らせている。
もちろん、そうしてくれた方がありがたい。この民宿も、危険ゾーンに変わりないのだから。
「なんだよ、もう寝たのかよ~。ま~しょうがないか。こんなところじゃ遊べるところもないしな~」
「まあ、そういうな。こんなところに民宿があるだけましだと思うしかない」
京谷が布団の上に胡坐をかいてグチをこぼす。それを、副部長の仁人がなだめる。
一応、明日は早くここを出る予定だ。今のうちに寝ておかなければならないのだが……。
「じゃあ、明かり……消しますよ」
「ああ、小さいのだけつけておいてくれ」
「はい」
小さい電球だけを灯して部屋を暗くした。
……寝てはいけない。寝てしまえば同じことの繰り返しになってしまう。俺だけでも起きていれば、何かあった場合、すぐに全員を叩き起こすことができる。
俺は布団にくるまりながら、目を電球に向けて起き続けた。
しばらくして、部屋の時計が2時を超えた。
いい加減眠い。逆らえないほどの眠気が襲ってくる。
寝てしまいたい。だが、寝ればまた……。
その時、二階へ上る足音をかすかに聞いた。
今までの眠気が嘘のように吹っ飛ぶ。
足音が近づく。引き戸の前で止まると、サーっと音を立てて引き戸が開いた。
俺は布団をかぶりつつ、引き戸のほうに目を向ける。
そこで目にしたのは…………
背中に甲羅、皿が載せられたような髪型、緑色の肌、黄色のくちばし…………。
どこからどう見ても河童だった。
「まさか……こいつだったのか!」
その姿を見た瞬間、緑色のチェーンソー男を思い出した。
ぼんやりとしていた記憶が鮮明になる。こいつがオカ研のみんなを使って実験していた張本人で間違いないだろう。
河童は12ミリメートルほどの太さのロープを持っていた。
俺はすぐに布団から抜け出し、大声を上げた。
「皆! 起きろ! 」
「なんだ……起きていたのか……じゃあ仕方がないな……」
河童は低い声で話すと、指をパチッ鳴らした。それと同時に、布団で寝ていたオカ研メンバー全員がムクっと起きだした。
いいタイミングで起きてくれた。これで、何とかなる…………はずだった。
部屋の明かりをつける。すると、オカ研メンバー全員の肌の色が緑色になっているのが見えた。
死んだような目をしてこちらを見ている。嫌な予感を通り越して絶望を覚えた瞬間だった。
「なんだ……これ……いったい、どういうことだ!?」
突然、オカ研メンバーたちの体は液状化を始めた。顔の形がゾンビのように崩れ始める。
俺は、寝ていなかったはずだ。いつ、全員が女将に体を乗っ取られたのだろうか。
まさか、ここへ来る前にすでに…………。
それと、ここの支配人……なぜか、この河童のような気がしてならない。
液状化したオカ研メンバーは、手をつないでまるで逃げ道をふさぐように俺を取り囲む。
どうやら、また死ななきゃならないようだ。
河童は、逃げ場を失った俺を、持っていたロープでグルグル巻きにする。
……抵抗は無意味……俺は心身喪失したまま、河童にいいようにされていた。
「実験台だ。おとなしくしておけよ」
「…………」
河童は、民宿を出て俺の体を駐車場に止めてあった軽トラに運ぶ。
荷台には棺桶のような箱が乗せられていた。人が二人ほど入れるような大きさだ。
「さあ、乗れ」
「うっ」
俺は頭を車の入り口の枠に打ち付けた。そのショックで、少し鼻血が流れたような気がした。
その時だ。急に軽トラの荷台にある大きな箱が突然ガタガタと音を立て、はじけるように箱が壊れる。すると、そこから黒光りする体と、赤く光る眼、鋭い牙を輝かせた恐怖の元凶が現れたのだった。
「鮫……人間……!?」
── 血イイイイィィィィ!──
鮫人間は、車を降りてドアの側に立ちふさがる。
「く、くそう!」
その瞬間、河童は俺の体から手を放し、走り出した。
どうやら、俺をエサにして逃げるつもりのようだ。
だが、まるで動くものに反応したかのように、鮫人間は河童を物凄い勢いで追い立てる。動けない俺を見て、俺はいつでも食えると判断したのだろうか。
逃げる河童を執拗に追いかける鮫人間。
河童の逃走劇は、長くは続かなかった。
地上を泳ぐように走り抜ける鮫人間。あっという間に河童に追いつき、頭からかぶりつく。
「ぎゃああああああああ」
──ウウウウメエエエ!──
恐ろしい叫び声がこだまする。
河童を食した後、おそらくこちらへ向かってくるだろう。
気が付くと、俺の目の前に黒髪の少女が立っていた。
「ロープ……ほどく……」
少女は何か光るようなものを持っていた。ナイフか何かだろう。その光るもので俺を縛っているロープを切り裂く。
そのおかげで、自由に動けるようになった。
「君はいったい……」
「そのポケットにある髪飾りで、鮫人間を刺して!」
「ポケット?」
俺は羽織っていた上着を触る。ポケットの中にあった髪飾りを少女に見せた。
「これは……君のものなのか?」
そう尋ね、髪飾りを渡そうとすると、少女は首を横に振って話す。
「私にそれを使うことはできない。だから、あなたに頼んだ。どうか、私の父を救ってほしい」
「父……救う……?」
この子の父も、鮫人間に食われたのだろうか……だから、その仇を取って父を成仏させて欲しい……そういうことなのだろうか……。
「これを、奴に刺せばいいんだな」
「はい……私では、効果がない……」
やはり、少女の力では無理ということなのだろう。
だが、普通の人間と鮫人間には、物凄い力の差がある。少女が俺になったところで、その差は埋まらない。だとすれば、この髪飾りに何か毒のようなものが仕掛けてあるのだろうか。
「なあ、この髪飾り……何でできているんだ? 毒でも塗ってあるのか?」
「人魚の骨……」
「人……魚……!?」
貝殻は、普通の貝殻だ。飾りは真珠と鱗。すると、この二股かんざしが骨である可能性が高い。
ということは、やはりこの髪飾りも何らかの力が宿っていると考えるべきだろう。
少女はその後、煙のようにその場から消えてしまった。
河童を完食した鮫人間は、視線をこちらに向け、物凄い勢いで走り始める。
鮫人間に髪飾りを突き立てる……そんなことが本当にできるのだろうか……。
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