Re:鮫人間

マイきぃ

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本編

第八話 自然の脅威

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 ──そして────
 ────目が覚めた──

 頭がおかしくなりそうだ。
 今回は絶対大丈夫なはずだった。

 原因は、あの蔵だ。
 つまり、蔵も危険という事だ。

 驚いたのは、あの蔵の下に水脈があり、そこに鮫人間がいたことだ。
 やはり、あの蔵は鮫人間を祀った蔵で間違いない。

 それよりも、あんなやばい化け物がいるなら、人魚伝説よりも鮫人間のほうが伝説になっているのではないか。
 もし、そうならない理由があるとすれば、目撃者が全て食べられてしまっているとしか考えられない。
 これは人魚伝説よりも、厄介な代物だ。

 それに、金の像も怪しい。
 形が変わったり、頭と体が別々になっていたり、見当たらなかったり。
 あの金の像は、俺たちが見てない時、動いている。そんな気さえしてくる。

 もう、あの蔵には京谷を行かせないし、俺も行かない。
 それなら、確実にこの林道を突破できるはずだ。

──今度こそ……──

「おい隆司、もうすぐ林道だ。窓閉めとけ。蚊が入る」
「ああ、そうだな」

 ドアに付いているハンドルを回し、窓を閉めた。

 リングはおそらく8つの鱗が黒くなっているはずだ。
 見なくてもわかる。

 そんな事よりも、ここを突破するこに俺は集中する。
 その後、車は予定通りエンストした。

「あーもう……エンストかよっ!」
「厳しいな……ほら、軍手だ」
「ああ、ありがとよ」
 もちろん、ここで軍手を渡さなかったらジエンドだ。
 問題は、この後だ。

 京谷は車のボンネットを開け、黙々と修理を始める。
 プラグコードを外し、プラグレンチで点火プラグを引っこ抜く。
「あ~あ、プラグがかぶっちまってるよ……ハハハ、しょうがねえな」
 京谷は、故障の原因がわかって嬉しそうにしている。
 安心した京谷は、胸のポケットからタバコを取り出した。

「ちょっと一服するか……」
「俺も、コーヒーを一服する」
「タバコも一服してみるか? コーヒーの後の煙草はうまいぞ」
「いいや、俺は吸わない派なんだ」
「ま、無理にとは言わねえけどな」

 京谷は近くにあった石段を上ろうとする。その先へ行かせてはいけない。
 俺はすかさず、「そっちはいかない方がいい。絶対に蚊がに刺されるぞ」と、言い放った。
「蚊か……ああ、考えただけでもぞっとするぜ」

 京谷は車の方へと戻る。
 さりげない言葉で、京谷の行動を変えることができた。
 これで、ここを突破できる……はず!

 京谷の煙草の煙が、俺の顔にかかる。
 それでも、煙草の煙ぐらい我慢してやる。

──ここを突破するためなら……──

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 しばらくして修理が終わった。

「これで良し……と……」

 京谷はボンネットを閉める。顔は汗だくだ。
 その後、運転席のドアを開け、キーを回す。

──ブルルン──

 エンジンがかかる。どうやら修理は成功したようだ。
「京谷、待たせたな。出発しようぜ」
「ああ、よかったよ、直って」
 これでやっと、この林道を突破することができる。
 ここまでの道のりは長かった。
 もう、丸一日同じことをしていた気分だ。
 脳内に、達成感という脳内物質が溢れ出す。

「ん……なんだ……蚊か……」
 京谷は、右腕の手の甲を叩く。



「あー刺されちまった。こんなに血、吸いやがって……」
「ああ、林道だからな……蚊は……」

 俺は、その瞬間、絶望にとらわれた。
 その存在が血に関係していることを、うっかり忘れていた。
 自然の脅威。



──蚊──

 奴は至る所に存在し、俺たちを狙っている。

 しかも、今の時間は蚊が活発に動き始める夕方。
 そして、こいつらの好物は血液。

 うかつだった。
 もちろん、血を吸ってる蚊を潰せば、吸った血が弾ける。
 その血はもちろん、血の臭いを発する。

 時はすでに遅し。京谷の手の甲に、血のりが付いていた。

 擦り傷ぐらいの出血でも、やつはあらわれた。
 おそらく、これも例外ではない。
 それでも…………

──例外であってほしい──

 …………そう願った。

 だが、そんな願いは届かない。
 生臭い異臭を鼻のセンサーが感知する。

「京谷! すぐアクセルだ!」
「なんだ、そんなに俺のラリーテクニックが気に入ったか?」
「違う! そうじゃない! 奴が、奴がくる!」
「奴? 誰だそれ」

 そして、道をふさぐように、鮫人間が現れた。

 


「なんだこいつ。鮫の着ぐるみなんか着やがって……」
 京谷はクラクションを鳴らす。

 遅かった。奴は俺たちを完全に捕捉した。

──チノ……ニオ……イ……ウマ……ソウ……──

 鮫人間は、車めがけて走ってくる。

「なんだこいつやべえ、体当たりする気か」
「京谷、逃げろ!」
「逃げる? どうやって?」
「ああっ」

 鮫人間はボンネットに飛び乗った。そして、車の天井をどつき始める。
 天井は、どつかれるたびに激しく潰れる。

「な……なんだこいつ! 俺の車に……」
 京谷は車のドアを開け、外に出た。
 その瞬間…………

「京谷あああああああああ!」



 鮫は、京谷に飛びつき、丸飲みにしてしまった。

──キョウハ……ゴチソウ……イッパアアアアアアイ!──

 京谷を食した鮫は、運転席側の開いたドアから中に侵入してくる。

「く……くるなあ!」

 急いで車から脱出しようとドアを開けようとした。
 だが、ボディーが激しく変形しているため、ちょっとやそっとの力では、開けることができなかった。
 もう、逃げ場がない。

 口を開けて襲ってくる鮫人間の鼻っ面を足で蹴飛ばす。
 だが、びくともしない。

 次の瞬間…………



 …………俺の足は、鋭い牙で食いちぎられた。

「いっでええええええええええええ!」

──ウッメエエエエエエエエエエ──

 そして俺は…………



 ついばまれるように体を食いちぎられていった。

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