Re:鮫人間

マイきぃ

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本編

第七話 落とし穴

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 ──そして────
 ────目が覚めた──

 もちろん、俺も京谷も生きている。
 そして、奴がでてくる条件もわかった。

 おそらく、血の臭いだ。
 京谷が襲われたのは、車の修理中に手の甲を擦りむいたせいだ。
 その臭いがやつを呼び寄せた。

 だから今度は、エンスト後にかならず軍手をはめさせれば、大丈夫なはずだ。
 もし、俺の考えが当たっていれば、奴はもうでてこない。
 これでやっと、魔の林道を抜けられる。

 残る問題は……少女から受け取ったこのリングと、髪飾りの件だ。
 もう少し詳しい情報が欲しいが、あれっ切り少女は姿を見せない。
 ひとまず、ここを突破した後で考えよう。

「おい隆司、もうすぐ林道だ。窓閉めとけ。蚊が入る」
「ああ、そうだな」

 車のドアに付いているハンドルを回し、窓を閉めた。

 リングを確認する。黒く変色したのは7つ。
 ということは、時間が7回巻き戻ったということだ。
 7回目なら、ラッキーセブンだ。
 ようやくツキが回ってきたようだ。

 しばらくして、林道に入る。わだちがひどく、荒れ地のような道だ。
 車は上下左右に激しく揺れ、頭が天井にぶつかり舌をかみそうになる。

 だが、もう慣れた。そして、これで終わりにする。
 早く民宿に行って、部長たちの顔が見たい。
 もちろん、棗にも会いたい。

(あれ……どうしてそんなこと考えるんだ……俺と棗はそんな関係じゃ……)

 突然、棗に会いたいという衝動に駆られた。
 どうしてかはわからない。
 もしかすると、無意識で棗のことを好きになっていたのかもしれない。

 基本的にはスタイルも頭も標準以上だ。
 少し、大人しすぎるが、趣味のこととなると、ものすごくはしゃいだりもする。
 そんなところがかわいいのかもしれない。

 だが、急に意識し始めてしまったのは確かだ。
 人間というのは、つくづくわからないものだ。

 その後、車は予定通りエンストする。

「あーもう……エンストかよっ!」
「厳しいな……ほら、軍手だ」
「ああ、ありがとよ」
 俺は今回、後ろの座席の籠の中から、作業用の軍手を確保しておいた。
 なので、すぐに渡すことができた。
 思惑通り、京谷は軍手を真っ先にハメる。これで、血を流すことはないだろう。

 京谷は車のボンネットを開け、黙々と修理を始める。
 プラグコードを外し、プラグレンチで点火プラグを引っこ抜く。
「あ~あ、プラグがかぶっちまってるよ……ハハハ、しょうがねえな」
 京谷は、故障の原因がわかって嬉しそうにしている。
 安心した京谷は、胸のポケットからタバコを取り出した。

「ちょっと一服するか……」
「俺も、コーヒーを一服する」
「タバコも一服してみるか? コーヒーの後の煙草はうまいぞ」
「いいや、俺は吸わない派なんだ」
「ま、無理にとは言わねえけどな」

 京谷は近くにあった石段を上り、広い所で煙を吹かし始めた。
 俺もその後に続き、缶コーヒーを飲みながら京谷の後ろを歩く。もちろん、風上だ。

「隆司、蔵があるぜ。ずいぶんボロボロだな」
「ああ、そうだな」



 ここはもう何もない場所だ。
 だが、気をつけるに越したことはない。
 今は、うまく事が進むのを祈るばかりだ。

 蔵の中に入る。
 そこには、おなじみの神棚が置かれていた。そして、その神棚に…………



 一番最初のイメージとそっくりな像が置かれていた。
 鮫に人間の体が刺さった像だ。

 それを見た瞬間、急に悪寒が走った。
 もちろん、血を流していない今なら、襲われる心配はない。
 そして、遭遇もしていない。

 大丈夫。ただ、像が置いてあるだけだ。
 気にすることはない。
 俺はそう、心の中に言い聞かせた。

 しばらくして、京谷は金の像を持ち上げ、それを弄り始めた。
「これ見ろよ……金の像だぜ。しかも、頭が鮫で体が人間だ」
「ん、あまり触らない方がいいぞ」
「大丈夫さ……あれ、鮫が回った。おい見ろよ。鮫の向きが変わったぞ」
「な……何してんだよ」

 金の像の鮫の向きが、前後逆になった。

「どうせこれ、安物だろ」
「いや、そういう問題じゃねえよ……」
「まさかお前……祟りなんか気にしてんじゃないだろうな」
「気分的に嫌なんだよ」
「へいへい。元に戻しておきますよ…………あれ…………この…………」

 京谷は一生懸命像を元に戻そうとする。
 だが、無理に動かしたせいか、何かが砕ける音がした。その瞬間、金の像の鮫と体は分離した。

「あ……やっちゃった……」

 その時だ。
 蔵が突然揺れ始める。

「な、なんだ……何が起こった」
 京谷は慌てて像を置いた。
 すると、床が二つに割れ、床に穴が空き、大きな口を開けた。
 俺と京谷は、その穴に落下する。

「「うあああああああ!」」

 落下時間が長い。深い穴なのだろうか。
 次の瞬間、足元から冷たい感触が伝わる。
 それは、水だった。
 激しい水しぶきの音とともに水の中へダイブする。

 ひとまず上を目指して泳ぎ、水面から顔を出して、呼吸をした。
 だが、それと同時に吐き気が催してきた。
 吸った空気が、強烈に生臭かったのだ。

 そして、この時俺は確信した。
 奴がいることを。

「京谷、無事か? おい、京谷……返事しろ!」

 …………。

 返事がない……。

──ウーマー! ウーマー! ゴーチーソーウー!──

 代わりに低いかすれ声と、咀嚼の音だけが辺りに響いていた。

「マジで……やめて……お願い……だから……」



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