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本編
第六話 狂気
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──そして────
────目が覚めた──
さっきまでの地獄の痛みが、嘘のように消えた。
けれども、その痛みは、まだ持続しているような感じがする。
まだ、奴は側にいて、俺を咀嚼し続けている。腕を、足を、少しづつ味わいながら、俺の体全てをいたぶりながら……。
奴は……奴は……。
「痛い……怖い……臭い……痛い……怖い……臭い……」
「おい、どうした隆司?」
「痛い……怖い……臭い……痛い……怖い……臭い……」
「隆司?」
「痛い……怖い……臭い……痛い……怖い……臭い……」
「隆司、疲れたのか? まあ、シート横にして寝てろ」
「痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い………………」
……痛いのは嫌………………。
…………怖いのは嫌…………。
………………臭いのは嫌……。
「窓閉めてくれると嬉しいんだけどな……まあ、しゃあねえか……」
「痛い……臭い……怖い……」
「いったい何があったんだよ隆司……らしくねえぜ」
「あっ……あっ……」
「そろそろ林道だ。舌かむなよ……」
「り……林道……さ……サメ……」
「どうした、寒いのか……」
「さ……サメが……」
……………………。
しばらくして、さっきまでの恐怖がようやく落ち着いてきた。
気が付くと、俺の目は涙でグシャグシャだった。
車は止まってボンネットが空いている。
おそらく、京谷がエンジンを修理している所だ。
ああ、また来る。
一時的に恐怖は止まったが。またすぐ恐怖がやってくる。
地獄とは、こういうところなのだろうか。
怖い。次にくる恐怖が怖い。
いっそのこと一瞬で死んだ方がいい。
こんな思いはもう、したくない。
「痛っ……っとっとっと」
突然、京谷の微かな悲鳴を上げた。
痛い……それは、怪我をしたという事だ。
(もし、今のが怪我で、出血しているのなら……原因は……)
俺は思わず、車を出る。そして、修理作業をしている京谷の手をつかみ、傷を確認した。
「おい、隆司。邪魔すんなよ」
「おい……これ……」
京谷の手の甲の部分にかすり傷ができていた。少しだけ血がにじんでいる。
「怪我してるぞ」
「大丈夫だってこのぐらい。怪我のうちに入らない」
「違うんだ……奴が来る! 生臭い臭いと共に!」
「生臭い?」
京谷は軽く、鼻を嗅ぐそぶりをする。
「なんだ、本当に生臭いな。何かあるのか?」
「早く車の中へ!」
ひとまず、俺は一時的に安全と思われる車の中へと避難する。
だが、京谷はなかなか来てくれない。
「何してる、早く! じゃないと!」
「あと、コードつなぐだけだ」
「だめだ! そんな時間は」
時はすでに遅かった。
奴は京谷の後ろに現れ、京谷の頭に鋭い歯でかぶりつく。
「京谷あああああああああ!」
──ウーマー! ウーマー!──
低いかすれ声で、鮫人間は喜んでいた。
そして、京谷を食べ終えた次の瞬間、俺の存在に気付き、助手席に近寄てくる。
──モット……クウ……ミンナ……タベル──
鮫人間は、そう言うと、助手席の窓ガラスをその鼻先で割り、俺の頭にかぶりつく。
(次は……軍手しなきゃな……京谷……)
もう、抵抗するはやめた。
抵抗すれば、痛みが大きくなるだけだ。
なら、いっそのこと……。
────目が覚めた──
さっきまでの地獄の痛みが、嘘のように消えた。
けれども、その痛みは、まだ持続しているような感じがする。
まだ、奴は側にいて、俺を咀嚼し続けている。腕を、足を、少しづつ味わいながら、俺の体全てをいたぶりながら……。
奴は……奴は……。
「痛い……怖い……臭い……痛い……怖い……臭い……」
「おい、どうした隆司?」
「痛い……怖い……臭い……痛い……怖い……臭い……」
「隆司?」
「痛い……怖い……臭い……痛い……怖い……臭い……」
「隆司、疲れたのか? まあ、シート横にして寝てろ」
「痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い痛い怖い臭い………………」
……痛いのは嫌………………。
…………怖いのは嫌…………。
………………臭いのは嫌……。
「窓閉めてくれると嬉しいんだけどな……まあ、しゃあねえか……」
「痛い……臭い……怖い……」
「いったい何があったんだよ隆司……らしくねえぜ」
「あっ……あっ……」
「そろそろ林道だ。舌かむなよ……」
「り……林道……さ……サメ……」
「どうした、寒いのか……」
「さ……サメが……」
……………………。
しばらくして、さっきまでの恐怖がようやく落ち着いてきた。
気が付くと、俺の目は涙でグシャグシャだった。
車は止まってボンネットが空いている。
おそらく、京谷がエンジンを修理している所だ。
ああ、また来る。
一時的に恐怖は止まったが。またすぐ恐怖がやってくる。
地獄とは、こういうところなのだろうか。
怖い。次にくる恐怖が怖い。
いっそのこと一瞬で死んだ方がいい。
こんな思いはもう、したくない。
「痛っ……っとっとっと」
突然、京谷の微かな悲鳴を上げた。
痛い……それは、怪我をしたという事だ。
(もし、今のが怪我で、出血しているのなら……原因は……)
俺は思わず、車を出る。そして、修理作業をしている京谷の手をつかみ、傷を確認した。
「おい、隆司。邪魔すんなよ」
「おい……これ……」
京谷の手の甲の部分にかすり傷ができていた。少しだけ血がにじんでいる。
「怪我してるぞ」
「大丈夫だってこのぐらい。怪我のうちに入らない」
「違うんだ……奴が来る! 生臭い臭いと共に!」
「生臭い?」
京谷は軽く、鼻を嗅ぐそぶりをする。
「なんだ、本当に生臭いな。何かあるのか?」
「早く車の中へ!」
ひとまず、俺は一時的に安全と思われる車の中へと避難する。
だが、京谷はなかなか来てくれない。
「何してる、早く! じゃないと!」
「あと、コードつなぐだけだ」
「だめだ! そんな時間は」
時はすでに遅かった。
奴は京谷の後ろに現れ、京谷の頭に鋭い歯でかぶりつく。
「京谷あああああああああ!」
──ウーマー! ウーマー!──
低いかすれ声で、鮫人間は喜んでいた。
そして、京谷を食べ終えた次の瞬間、俺の存在に気付き、助手席に近寄てくる。
──モット……クウ……ミンナ……タベル──
鮫人間は、そう言うと、助手席の窓ガラスをその鼻先で割り、俺の頭にかぶりつく。
(次は……軍手しなきゃな……京谷……)
もう、抵抗するはやめた。
抵抗すれば、痛みが大きくなるだけだ。
なら、いっそのこと……。
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