Re:鮫人間

マイきぃ

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本編

第四話 正体

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──そして────
────目が覚めた──

 俺は、車の助手席に乗っていた。
 車は動いている。そして、京谷も生きている。

 もう、さっきまでのことは夢じゃない。
 完全に記憶に残っている。

「おい隆司、もうすぐ林道だ。窓しめとけ。蚊が入る」
「あ……ああ……」

 ドアに付いているハンドルを回し、窓を閉めた。

 ふと、左腕のジャラジャラが気になった。
 少女からもらった腕輪である。
 それを見た俺は、気になる言葉を思い出した。

(そういえば、黒くなるとかどうとか、言ってたような……)

 一応、腕輪を確認してみた。



 すると、鱗が4枚ほど、黒く変色しているのがわかった。
(おかしい……この腕輪を貰った時、黒くなった鱗は2枚。明らかに増えている……まさか)

 一瞬、ある考えが浮かんだ。
 これは、勝手な想像だが、このリングは、持ってる人間が死んだとき、時間を巻き戻すアイテムだ。
 自然に考えれば、それが妥当だ。
 そして、死んだときに、鱗が一つ黒くなる。
 つまり、この鱗の数が俺の死ねる数だ。

 だが、あやふやな記憶のものもある。
 蔵にあった金の像が鮫の頭をした人間だった時の前後のことは、よく覚えていない。

 もし、次に死ぬようなことがあれば、それがはっきりする。
 だが、あの嫌な感覚は、もうごめんだ。
 さらさら死ぬつもりはない。


 ふと、ある名案を思い付いた。
 死んだ原因を突き止められる方法だ。

 万が一死んでも、この腕輪があればもう一度やり直せる。
 うまく京谷を説得できればいいのだが……。

 いや、そもそも次はあるのだろうか。
 それも過信は禁物だ。
 もし、俺の想像が間違っていたら、死んでそのままお陀仏の可能性だってある。


 しばらくして、林道に入る。わだちがひどく、荒れ地のような道だ。
 車は上下左右に激しく揺れ、頭が天井にぶつかり舌をかみそうになる。

 その後、予定通り、車はエンストを起こした。

「あーもう……エンストかよっ!」
「プラグ、かぶったんじゃないか?」
「あーいらいらしてきた」

 京谷は車から飛び出し、後部のドアを開けて工具を取り出した。
 その後、車のボンネットを開け、黙々と修理を始める。

「あ~あ、プラグがかぶっちまってるよ……ハハハ、しょうがねえな。隆司の言った通りだ」
 京谷は、故障の原因がわかって嬉しそうにしている。
 安心した京谷は、胸のポケットからタバコを取り出した。

「ちょっと一服するか……」
「京谷、ちょっといいか?」
「なんだ、隆司。一本吸いたくなったか?」
 京谷は、煙草の箱を指ではじいて中身を押し出し、俺に差し出す。
 もちろん、タバコを吸わない俺は、それを突き返す。
「いや、そうじゃない。もし、作業中に生臭い臭いを感じたら、急いで車の中に入ってくれ」
「何か、あるのか?」
「頼む、騙されたと思って」
「なんだ……ま~さ~か~、イカ臭いんじゃないだろうな」
「馬鹿、そんなんじゃねえよ。魚の腐った臭いだ」
「…………わかった。おまえがそこまで言うなら、そうしておくよ」

 すんなりと了解を得られた。これで、助かる確率が上がったはずだ。
 そして、俺たちを殺した犯人を見つけることができる。

 前と同じように蔵を確認する。前回同様、蔵の中には神棚しかなかった。
 あの金の像はどこへ行ってしまったのだろうか。
 中学生の少女も見当たらない。前回と、何かが変わったということなのだろうか。

 そして、問題の時が近付いてきた。
 京谷が修理を始める。そして、生臭い臭いが鼻を突く。

「京谷、車の中にこい」
 臭いを確認した俺は、すぐに京谷に声をかける。

「ああ、もうちょっと……」
「早く……!」

 俺はすぐに車の助手席に入った。

「まあ、あとはプラグコードをつなぐだけなんだけどな……」
「いいから早く!」
「あいよ」

 京谷はゆっくりと運転席側のドアを開けた。
 その時だ。車の前方10メートルぐらいのところに、やつは姿を現した。

 どこかで見たことのある形。それは、神棚にあった鮫の置物を思い出させる。
 俺は、それを見て口走った……。
「鮫人間……」



 京谷がようやく車の中に入る。

「で……中に入ったけど……」
「前……見ろ……京谷……」
「ん? 前? ……!! な、なんだあれ……鮫? 着ぐるみか?」

 鮫人間は、地面を蹴り、ものすごい速度で近づき、車に体当たりをしてきた。
 その後、エンジンルームに何度も何度も頭を打ち付け、牙をむき出しにして車を揺らす。

「おい……冗談じゃねえぞ……俺の車……壊れちまう……」
「き……着ぐるみじゃない……本物だ!」
 人間が着ぐるみを着て暴れている……そんなレベルじゃなかった。
 その力は、人間のものじゃない。鮫人間の一撃は、今にも車がどこかへ吹っ飛ばされそうな、そんな威力だ。

──グーーーワーーーゼーーーロオオオオオオオ!──
 ついに開いていたボンネットが吹っ飛ばされた。
 鮫人間は、エンジンのうえに立ち、軽自動車の天井をつつき始める。
 天井はものすごい打撃音を立てながら、潰れ始める。

「なんだよ……俺の車……ふざけんなよ……」
「これ、マジでやばい」
「隆司……逃げよう」
「ああ。じゃあいっせいのでドアを開けよう……いっせいのっ!」
 俺と京谷は、車のドアを開け、一気に走った。
 後ろを振り向かず、力いっぱい走った。

 もうどのぐらい走っただろうか、もうすぐ森林を抜ける。
 後ろからついてきている足音は、京谷だ。

 ちょっとだけホッとした俺は、後ろを振り向いた。
 だが……着いてきていたのは京谷ではなかった。
 ついてきていたのは、鮫人間だったのだ。

 京谷は、鮫人間の口の中にいた。
 鮫人間は、京谷を頭からほおばり、咀嚼しながら走っていたのだ。
 おそらくもう、京谷は……。

──ウーーーメーーー! ウーーーメーーー!──

 鮫人間は、歓喜の声を上げる。

──オーーーマーーーエーーーモーーー! クーーーウーーー!──

 鮫人間は止まらない。
 俺はまた、全速力で走り出す。
 けれども、一度止まったせいか、なかなか走り出せない。

 それでも力を振り絞って、鮫人間から逃げようと力を入れた。
 だが、筋肉が悲鳴を上げる。その瞬間、足がつり、激痛が走る。
「うあっ!」

 その痛みに耐えられず、俺は、地面を転がるように転んでしまった。
 それを見た鮫人間は、走るのをやめ、ゆっくりと歩きながら上を向いて京谷を飲み込んだ。

 俺は、無念のあまり、声を荒げる。

「きょ……京谷ああああ!」
──ウーーーメーーー! ウーーーメーーー!──
 それに呼応するように、鮫人間は叫ぶ。

 そして鮫人間は、転んだ俺の前で無数の尖った牙のある大きな口を開け…………
「や……やめろおおおおおおおおお!」

 …………俺の体に頭から咬みついた。
 その後、かすれた低い声で、俺をくわえながら雄たけびを上げる。

──イーーーターーーダーーーキーーーマーーーーーース!──



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