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本編
第一話 謎の死
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──そして────
────目が覚めた──
「あれ……俺……今……寝てたのか……」
嫌な夢だった。よく思い出せないが、とてつもなく嫌な死に方をした。
生々しい感触が残っている。だが、夢は夢だ。
それはともあれ、俺たちは、潮風が心地よい孤島に来ていた。
暑い日差しの照る夏の午後。
車の助手席から、海の景色を眺め、その景色の美しさに感動する。
「おい隆司、もうすぐ林道だ。窓閉めとけ。蚊が入る」
「ああ、そうだな」
俺は、水島隆司。二流の大学の二年生だ。
車を運転しているのは、俺の友人、杉本京谷。
ちょっと髪の毛を金髪に染めてるチャラいやつだが、根はいいやつだ。
ドアに付いているハンドルを回し、窓を閉める。
京谷の運転している車はかなり古い軽自動車だ。しかも狭い。
いくら貧乏大学生とはいえ、古い車はどうかと思う。古いといっても別にレアな車ではなく、一般的な車だ。どこもかしこもガタがきているのですぐに修理するようになる。安物買いの銭失いとはよく言ったものだ。特に車に関してはそれが十分に当てはまる。
だが京谷は、「この車は速い」と自慢している。よほど気に入っているようだ。なので、そのことには触れないでおくことにした。
俺たちは、オカルト研究会に所属している。
今回は、陸に上がった人魚の伝説の調査のため、この孤島に足を踏み入れたわけだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
人間と人魚。
愛し合う二人。
陸と海との境界は近いようであまりにも遠い。
それでも、人間は意を決して人魚の血を飲み海に飛び込んだ。
けれども、人間は海で生きることが難しかった。
環境に適さず、無理をした人間は帰らぬ人となる。
だが、二人の愛は実っていた。
人魚に宿った子種は……人魚と人間の血を持つハーフの女児を産んだ。
女児は人間に拾われ、この地で人間として今もなお生き続ける。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
どこにでもあるような話だが、この孤島にそんな伝説があることを知ったのは、つい最近のことだ。
今、向かっているのは、この林道の先にある廃村。その近くに一か所だけ営業している民宿がある。今日はそこへ向かう予定だ。
調査と称してはいるが、実際は旅行がしたいだけ。普段は、何もしないオカルト研究会だが、こういうときだけは集まりがいい。
ここへやってきたのは俺たち二人の他に部長を含めた5人。合計7人だ。
他のメンバーは、すでに民宿に着いている。
実は、京谷と俺は完全に遅刻している。
原因は、京谷の車の故障。そのせいでフェリーに乗る時間が遅れたのだ。
無理に車で行く必要はなかったんじゃないかとつくづく思う。
俺たちの乗る車は、しばらくして林道に入る。わだちがひどく、荒れ地のような道だ。
車は上下左右に激しく揺れ、頭が天井にぶつかり舌をかみそうになる。
そんなひどい走行が祟ったのか、車は突然止まった。またどこか故障したのだろう。こんな車でわだちの深い道を走破しようとすること自体に無理がある。
京谷は、あまりの悔しさに悲鳴を上げるように叫んだ。
「あーもう……エンストかよっ!」
「厳しいな……やっぱり、歩いて行った方がよかったんじゃないか」
「あーいらいらしてきた」
京谷は車から飛び出し、後部のドアを開けて工具を取り出した。
車のこととなると京谷はムキになる。この時だけは、触らぬ神に祟りなしだ。
その後、京谷は車のボンネットを開け、黙々と修理を始める。
慣れた手つきでプラグコードを外し、プラグレンチで点火プラグを引っこ抜く。
「あ~あ、プラグがかぶっちまってるよ……ハハハ、しょうがねえな」
京谷は、故障の原因がわかって嬉しそうにしている。
もし、原因がわからなかったら、もっと荒れていただろう。
京谷は、胸のポケットからタバコを取り出した。
「ちょっと一服するか……」
「ここで吸うなよ。俺はタバコが嫌いだからな」
「わかってるよ! 上で吸ってくる」
京谷は近くにあった石段を上り、広い所で煙を吹かし始めた。
俺は車に寄りかかり、缶コーヒーを飲む。
しばらくすると、京谷がせかすような声で、俺を呼んだ。
「おい、隆司! ちょっと来てくれ。ここに蔵みたいのがある」
「蔵?」
「なんか、お宝あるかもな」
「おいおい」
山賊みたいなことはやめさせようと、石段を上り、小さな広場の先にある蔵へと足を運ぶ。
蔵は、外壁が傷んでいる。すぐにつぶれそうだ。
俺は、ゆっくりと空いている扉から中を覗くするとそこには奇妙な形をした金の像が飾ってある神棚があった。
それ以外は瓦礫の山だ。ところどころ崩れた木材が散乱している。
京谷は、像を見て嬉しそうに話す。
「きたか、隆司。これ見ろよ……金の像だぜ。しかも、頭が鮫で体が人間だ」
「それ、神棚に祀ってあるんじゃないのか?」
「こんな蔵みたいなところに置かれているんだぜ、別に祀られてるってわけじゃないだろ」
「まあ……な……でも、お前それ、持って帰るつもりじゃないだろうな」
「いくらなんでも、これはちょっとな……あ、あれ」
京谷は金の像を軽く持ち上げた。すると、金の像の鮫の部分が胴体から落ちて壊れてしまった。
「いや、俺は軽く触っただけだ。たぶん、最初から壊れてたんだよ」
「本当か?」
「ほら、この割れたとこを見てみろよ。黒く汚れてるぜ」
「ああ、そうだな。なら、元に戻るはずだな」
俺は、鮫の部分を拾い、うまく胴体に乗せて元の位置に戻した。
その時、カチッと何かがハマる音が聞こえた。胴体と鮫がきちんとハマったのだろうか。
それはさておき、何かに祟られてとばっちりを受けたら大変だ。京谷に釘をさす。
「たしかに、壊れていたのかもしれない。あまり変なものに触れるなよ。祟られたら大変だ」
「お前、祟りなんか信じてんのか? そんなのないって絶対」
「まあ、これでも一応オカ研だからな」
「うっ、確かに……」
「とりあえず、早く車直して、先を急ごう」
「わかった」
俺たちは蔵を出た。
京谷は、車に戻ると点火プラグを掃除を始めた。
俺は、近くの石段に座って、京谷の修理を見守りながら二本目の缶コーヒーを飲み始める。
しばらくして、空気が重苦しくなった。
それと、何だか生臭い。
「京谷、なんか、変な臭いしないか?」
「別に、オイルとガソリンの臭いしかしないぜ」
「ああ、悪い。作業続けてくれ(なんだ、俺の鼻がおかしくなったのか!?)」
俺は一度、その場を少し離れた。
だが、その臭いはどんどん強くなっていく。
魚の腐敗臭と血生臭さが混ざった、生臭さのオンパレードだ。
「マジで臭っ!」
さすがに臭い。すぐに持っていたハンカチで鼻をふさぐ。
……その時、事件は起こった。
京谷から目を離したのは一瞬だった。
次に京谷に目を向けた時には、京谷の首から上が消えていたのだ。
俺は、京谷の変わり果てた姿を見て、恐怖する。
京谷は、エンジンルームを抱えるように倒れ、首からは大量の血を流し、車のエンジンを赤く染めていた。
「おい……うそだろ……なんだよこれ……」
声が震えた。普通の日常が、非日常に変わった瞬間だった。
一体何が起きたのだろうか。
だが、恐怖のあまり、思考が停止する。
目の前の光景を、現実として認識する機能が働かない。
「なあ……」
俺はとっさに叫んだ。
「きょうやああああああああ!」
俺は、おそるおそる京谷に近づく。
ゆっくりと、足音を立てないように。
その時だ。
──クワセロ──
かすれたような低い声が聞こえる。
──モット……クワセロ──
「だ……誰かいるのか?」
ふと、我に返る。
脳が思考を始めた。
誰かがいる。
その誰かが……京谷を殺した。
とっさに頭がそう判断した。
判断力の戻った俺は、足を止め、周囲を警戒する。
相変わらず生臭い。さらに、京谷の血の臭いも混ざって吐きそうなほどだ。
首を落としたということは、相手は武器を持っている。大きな斧、もしくは刀、あの短時間で首を落とすことのできる代物だ。それ以外に考えられない。
俺たちを狙った目的は、なぜ京谷が狙われた? そんなこと、心当たりがあるわけがない。
俺は地面に転がっている京谷の使っていたレンチを拾う。
パイプのような短い金属だが、持っているだけで心が落ち着く。
そのままゆっくりと車の反対側へと移動する。だが、そこには誰もいなかった。
それでもまだ、気配がする。嫌な臭い。それと、どこからともなく聞こえてくる怪しい息遣い。
俺は、つばを飲み込んだ。
その瞬間……。
視界が暗くなった。
首元に一瞬強烈な痛みが走る。その後、首から下の感覚がなくなった。
意識が遠のく。
────目が覚めた──
「あれ……俺……今……寝てたのか……」
嫌な夢だった。よく思い出せないが、とてつもなく嫌な死に方をした。
生々しい感触が残っている。だが、夢は夢だ。
それはともあれ、俺たちは、潮風が心地よい孤島に来ていた。
暑い日差しの照る夏の午後。
車の助手席から、海の景色を眺め、その景色の美しさに感動する。
「おい隆司、もうすぐ林道だ。窓閉めとけ。蚊が入る」
「ああ、そうだな」
俺は、水島隆司。二流の大学の二年生だ。
車を運転しているのは、俺の友人、杉本京谷。
ちょっと髪の毛を金髪に染めてるチャラいやつだが、根はいいやつだ。
ドアに付いているハンドルを回し、窓を閉める。
京谷の運転している車はかなり古い軽自動車だ。しかも狭い。
いくら貧乏大学生とはいえ、古い車はどうかと思う。古いといっても別にレアな車ではなく、一般的な車だ。どこもかしこもガタがきているのですぐに修理するようになる。安物買いの銭失いとはよく言ったものだ。特に車に関してはそれが十分に当てはまる。
だが京谷は、「この車は速い」と自慢している。よほど気に入っているようだ。なので、そのことには触れないでおくことにした。
俺たちは、オカルト研究会に所属している。
今回は、陸に上がった人魚の伝説の調査のため、この孤島に足を踏み入れたわけだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
人間と人魚。
愛し合う二人。
陸と海との境界は近いようであまりにも遠い。
それでも、人間は意を決して人魚の血を飲み海に飛び込んだ。
けれども、人間は海で生きることが難しかった。
環境に適さず、無理をした人間は帰らぬ人となる。
だが、二人の愛は実っていた。
人魚に宿った子種は……人魚と人間の血を持つハーフの女児を産んだ。
女児は人間に拾われ、この地で人間として今もなお生き続ける。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
どこにでもあるような話だが、この孤島にそんな伝説があることを知ったのは、つい最近のことだ。
今、向かっているのは、この林道の先にある廃村。その近くに一か所だけ営業している民宿がある。今日はそこへ向かう予定だ。
調査と称してはいるが、実際は旅行がしたいだけ。普段は、何もしないオカルト研究会だが、こういうときだけは集まりがいい。
ここへやってきたのは俺たち二人の他に部長を含めた5人。合計7人だ。
他のメンバーは、すでに民宿に着いている。
実は、京谷と俺は完全に遅刻している。
原因は、京谷の車の故障。そのせいでフェリーに乗る時間が遅れたのだ。
無理に車で行く必要はなかったんじゃないかとつくづく思う。
俺たちの乗る車は、しばらくして林道に入る。わだちがひどく、荒れ地のような道だ。
車は上下左右に激しく揺れ、頭が天井にぶつかり舌をかみそうになる。
そんなひどい走行が祟ったのか、車は突然止まった。またどこか故障したのだろう。こんな車でわだちの深い道を走破しようとすること自体に無理がある。
京谷は、あまりの悔しさに悲鳴を上げるように叫んだ。
「あーもう……エンストかよっ!」
「厳しいな……やっぱり、歩いて行った方がよかったんじゃないか」
「あーいらいらしてきた」
京谷は車から飛び出し、後部のドアを開けて工具を取り出した。
車のこととなると京谷はムキになる。この時だけは、触らぬ神に祟りなしだ。
その後、京谷は車のボンネットを開け、黙々と修理を始める。
慣れた手つきでプラグコードを外し、プラグレンチで点火プラグを引っこ抜く。
「あ~あ、プラグがかぶっちまってるよ……ハハハ、しょうがねえな」
京谷は、故障の原因がわかって嬉しそうにしている。
もし、原因がわからなかったら、もっと荒れていただろう。
京谷は、胸のポケットからタバコを取り出した。
「ちょっと一服するか……」
「ここで吸うなよ。俺はタバコが嫌いだからな」
「わかってるよ! 上で吸ってくる」
京谷は近くにあった石段を上り、広い所で煙を吹かし始めた。
俺は車に寄りかかり、缶コーヒーを飲む。
しばらくすると、京谷がせかすような声で、俺を呼んだ。
「おい、隆司! ちょっと来てくれ。ここに蔵みたいのがある」
「蔵?」
「なんか、お宝あるかもな」
「おいおい」
山賊みたいなことはやめさせようと、石段を上り、小さな広場の先にある蔵へと足を運ぶ。
蔵は、外壁が傷んでいる。すぐにつぶれそうだ。
俺は、ゆっくりと空いている扉から中を覗くするとそこには奇妙な形をした金の像が飾ってある神棚があった。
それ以外は瓦礫の山だ。ところどころ崩れた木材が散乱している。
京谷は、像を見て嬉しそうに話す。
「きたか、隆司。これ見ろよ……金の像だぜ。しかも、頭が鮫で体が人間だ」
「それ、神棚に祀ってあるんじゃないのか?」
「こんな蔵みたいなところに置かれているんだぜ、別に祀られてるってわけじゃないだろ」
「まあ……な……でも、お前それ、持って帰るつもりじゃないだろうな」
「いくらなんでも、これはちょっとな……あ、あれ」
京谷は金の像を軽く持ち上げた。すると、金の像の鮫の部分が胴体から落ちて壊れてしまった。
「いや、俺は軽く触っただけだ。たぶん、最初から壊れてたんだよ」
「本当か?」
「ほら、この割れたとこを見てみろよ。黒く汚れてるぜ」
「ああ、そうだな。なら、元に戻るはずだな」
俺は、鮫の部分を拾い、うまく胴体に乗せて元の位置に戻した。
その時、カチッと何かがハマる音が聞こえた。胴体と鮫がきちんとハマったのだろうか。
それはさておき、何かに祟られてとばっちりを受けたら大変だ。京谷に釘をさす。
「たしかに、壊れていたのかもしれない。あまり変なものに触れるなよ。祟られたら大変だ」
「お前、祟りなんか信じてんのか? そんなのないって絶対」
「まあ、これでも一応オカ研だからな」
「うっ、確かに……」
「とりあえず、早く車直して、先を急ごう」
「わかった」
俺たちは蔵を出た。
京谷は、車に戻ると点火プラグを掃除を始めた。
俺は、近くの石段に座って、京谷の修理を見守りながら二本目の缶コーヒーを飲み始める。
しばらくして、空気が重苦しくなった。
それと、何だか生臭い。
「京谷、なんか、変な臭いしないか?」
「別に、オイルとガソリンの臭いしかしないぜ」
「ああ、悪い。作業続けてくれ(なんだ、俺の鼻がおかしくなったのか!?)」
俺は一度、その場を少し離れた。
だが、その臭いはどんどん強くなっていく。
魚の腐敗臭と血生臭さが混ざった、生臭さのオンパレードだ。
「マジで臭っ!」
さすがに臭い。すぐに持っていたハンカチで鼻をふさぐ。
……その時、事件は起こった。
京谷から目を離したのは一瞬だった。
次に京谷に目を向けた時には、京谷の首から上が消えていたのだ。
俺は、京谷の変わり果てた姿を見て、恐怖する。
京谷は、エンジンルームを抱えるように倒れ、首からは大量の血を流し、車のエンジンを赤く染めていた。
「おい……うそだろ……なんだよこれ……」
声が震えた。普通の日常が、非日常に変わった瞬間だった。
一体何が起きたのだろうか。
だが、恐怖のあまり、思考が停止する。
目の前の光景を、現実として認識する機能が働かない。
「なあ……」
俺はとっさに叫んだ。
「きょうやああああああああ!」
俺は、おそるおそる京谷に近づく。
ゆっくりと、足音を立てないように。
その時だ。
──クワセロ──
かすれたような低い声が聞こえる。
──モット……クワセロ──
「だ……誰かいるのか?」
ふと、我に返る。
脳が思考を始めた。
誰かがいる。
その誰かが……京谷を殺した。
とっさに頭がそう判断した。
判断力の戻った俺は、足を止め、周囲を警戒する。
相変わらず生臭い。さらに、京谷の血の臭いも混ざって吐きそうなほどだ。
首を落としたということは、相手は武器を持っている。大きな斧、もしくは刀、あの短時間で首を落とすことのできる代物だ。それ以外に考えられない。
俺たちを狙った目的は、なぜ京谷が狙われた? そんなこと、心当たりがあるわけがない。
俺は地面に転がっている京谷の使っていたレンチを拾う。
パイプのような短い金属だが、持っているだけで心が落ち着く。
そのままゆっくりと車の反対側へと移動する。だが、そこには誰もいなかった。
それでもまだ、気配がする。嫌な臭い。それと、どこからともなく聞こえてくる怪しい息遣い。
俺は、つばを飲み込んだ。
その瞬間……。
視界が暗くなった。
首元に一瞬強烈な痛みが走る。その後、首から下の感覚がなくなった。
意識が遠のく。
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