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タライ 八個目
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────7月22日(土曜日) 午後8時58分
タライが、頭上にあるのではないか。今度のターゲットは自分なのではないか。そんな考えが、僕の頭をよぎっていた。
──考えてはいけない、早く、家に帰ろう……。
僕は何も考えずに、真っ暗な夜の歩道を走った。
────7月22日(土曜日) 午後9時7分
やっと家についた。僕は、息を切らせながら、玄関のドアを開けた。
「ハァ……ハァ……ただいま」
「あ、お兄ちゃん、おかえりー。どうしたのそんなに生き切らせて……マラソンでもしてきたの?」
妹の正美だ。パジャマ姿でお出迎えだった。タオルを頭にかぶせている。体は湯気立っていて、ほんのりと石鹸の香りがする。風呂上りのようだ。僕は、妹のかわいい姿を見て我に返った。
「亜人ゲッターのチャージが終わったから、すこし散歩してた。亜人探してたら、つい遅くなっちゃって急いで帰ってきたんだよ」
適当に、息切れしている理由を考えた。
「ふーん。ゲームもほどほどにしないとだめだよー。冷蔵庫にジュースあるからね。飲んでいい行ってお母さんが言ってた」
「ああ、そうか……ありがとう」
よくできた妹だ。
「そういえばお兄ちゃん。あのお笑い番組やってないね。放送終了しちゃったのかな……私あの『異世界転生ズ』わりと好きなんだけど。あぶないどかーん異世界転生?」
「ま、正美!?」
──異世界転生の言葉を聞いた瞬間、背中に悪寒が走った。次の瞬間、僕は妹の正美の頭を、かばうようにして抱きしめていた。
…………。
「お兄ちゃん……」
「あ……あれ……」
タライは落ちてこない。いや、なぜ落ちてくると思ったんだろう……異世界転生の言葉に敏感になっているのか……。
「お兄ちゃんは、ロリコンっと……メモメモ」
「だあー! 違う! 違う! ごめん、マジでごめん!」
「もーしっかりしてよねお兄ちゃん。何か悩みごとがあるなら、言ってね。私でよければ聞いてあげるから」
妹は、僕の頭を撫でて慰めてくれた。
「いや……本当にスマン……でもありがとう……」
本当によくできた妹だ。
僕は階段を上り、二階の部屋に戻った。
────7月25日(火曜日) 午後6時35分
コンビニで『黄金のタライ』を目撃してから、約三日が過ぎた。あのスマホを持った柄の悪い人は無事だったんだろうか……。
この三日間、色々と調べてみたが、ニュース番組や新聞の記事には、なっていないようだった。それとも、地方だと、あまり取り上げられないのだろうか……。
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「ああ、そうか……ありがとう」
よくできた妹だ。
「そういえばお兄ちゃん。あのお笑い番組やってないね。放送終了しちゃったのかな……私あの『異世界転生ズ』わりと好きなんだけど。あぶないどかーん異世界転生?」
「ま、正美!?」
──異世界転生の言葉を聞いた瞬間、背中に悪寒が走った。次の瞬間、僕は妹の正美の頭を、かばうようにして抱きしめていた。
…………。
「お兄ちゃん……」
「あ……あれ……」
タライは落ちてこない。いや、なぜ落ちてくると思ったんだろう……異世界転生の言葉に敏感になっているのか……。
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「だあー! 違う! 違う! ごめん、マジでごめん!」
「もーしっかりしてよねお兄ちゃん。何か悩みごとがあるなら、言ってね。私でよければ聞いてあげるから」
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