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はじめてのモフモフ
第1話 柔人、女神にモフモフ
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残暑も終わり、嫌な暑さも感じないその日の夕方。終業のチャイムが鳴ると同時に僕は下校し、近道混じりで帰り道を急いで走っていた。
「あ~早く帰ってモフモフ~したい~っ!」
今日は、僕の14歳の誕生日。その日に合わせて、おふくろがペットを飼うようなことを言っていた。おそらく、モフモフのペットだ。どんなモフモフなんだろう……すごく楽しみだ。もう、早く帰ってモフモフしたい気持ちでいっぱいだ。
前にテレビでキツネのシッポのモフモフを見たおふくろは、「あのモフモフ、素敵だわ」なんてことを言っていた。おそらくキツネだろう。結局のところ、おふくろは、僕の誕生日をダシにして自分の好きなペットを飼っているだけなのである。
──それでも、僕もモフモフできるから、一石二鳥なんだけどね。
家には2匹のペットがいる。どちらもモフモフ系のポメラニアンとチンチラだ。2匹とも最高の毛並みにしているので、モフモフのしがいがある。2匹同時にモフると、とても幸せな気分になる。
その2匹も僕の誕生日をダシにして飼われたものだ。2匹とも、最初はモフモフされるのを嫌がっていたけど、しばらくするとモフモフしても暴れなくなった。モフモフ用に調教してしまったようでなんだか後ろめたいが、その分極上のエサを与えているので良しとしよう。
僕は、近道の路地を抜け大通りに出て、家を目指してダッシュした。その時、道路側にサッカーボールぐらいの白いモフモフを視界に捉えた。
「どこかで見たような……たしか……あれは……アンゴラウサギ!」
アンゴラウサギ。それは、トルコのアンゴラ地方で生まれ、改良に改良を重ねて作られた品種。 まさにモフモフのために作られたサラブレッド! 全身白い毛で覆われ、ふわふわと揺れ動く姿は、正しく生きるぬいぐるみ!
──かわいい! 絶対モフモフしたい!
その時、耳を突くような女性の叫び声が聞こえた。
「キャーッ! だれかー! 私のウサギちゃんをオォォ!」
叫び声を上げたのは水色の袖フリルワンピースを着て帽子をかぶった散歩中の婦人だった。彼女は、アンゴラウサギを見て慌てていた。このウサギの飼い主なのだろうか。
「お願い……誰か……助けてあげてぇ!」
婦人は、泣き崩れるように声を上げた。僕はその声を聞いて我に返った。道路を大型トラックがこちらへ向かって走ってきていた。トラックは、エンジンを吹かしながら轟音を立て、アンゴラウサギに向かって走ってくる。運転手はモフモフをゴミだと思っているのだろうか、止まる気配が全くない。
「あぶない!」
それを見て、とっさに体が反応してしまった僕は、反射的に道路に飛び出していた。そして、モフモフをすぐに抱えて────モフモフ(手にモフモフの感触が伝わる)
「この肌触り……愛がある! 専用のシャンプーでキレイに洗浄した毛をドライヤーで丁寧に乾かし、これまた丁寧にブラッシングしたようなふわふわ感……(モフモフに顔を埋める)こんなの、モフるしかないじゃないか! モフモフ…………モフモフ……」
────ハッ! しまった!
我に返った僕は、アンゴラウサギを放り投げた。道路の反対側にいた婦人はアンゴラウサギをキャッチした。
「ああ、マリちゃん、無事でよかった」
それを見てホッとした僕は、次の瞬間クラクションの音と共にトラックに跳ねられ…………多分死んだ。
────こんなことなら、もっとモフっとけばよかった……。
僕の意識は、ここで途切れた。
気が付くと、僕は真っ白な世界のモフモフな地面に転がっていた。
「このモフモフな床は……天国か……も、モフらなきゃ……」
どうせ、死んだのなら、もうモフりたい放題だ。僕はこの地面で永遠にモフり続けるんだ。
「いいえ、ここは次元の狭間ですよ、池波柔人!」
モフモフな地面をモフっていると、かわいい女の声が僕の名前を呼び捨てするのが聞こえた。
「だれだ? 次元の狭間って何だ?」
僕は、声を荒立てた。すると光の粒子のようなものが僕の目の前に集まり、一つの姿を形成した。
「私は女神、九尾の女神よ!」
その姿は、モッフモフな耳とモッフモフな尻尾を9本もつけた、フッサフサでかわいい巫女服姿の狐っ娘だった。彼女は、九尾の女神と名乗り、ドヤ顔で僕を見ていた。
「ああ、女神様って本当にいたんですね!」
「もちろんですとも!」
僕の視界は、女神の黄金でモッフモフな9本の尻尾をロックした。あのふんわりとしたモフモフを9本も持っているなんて……犯罪だ! もう、我慢できないっ!
「ありがとう女神様! 極上のモッフモフ~!」
モッフモフでフッサフサな尻尾に、僕は思いっきり飛びついた。
「な……なにを」
「もっふもふー! もっふもふー!」
僕はモフった。9本の尻尾を腕で鷲掴みにして、力いっぱいモフった。全身を9本の尻尾の中に埋めて本能の赴くままにモフり続けた! これぞ、至福の時! ほのかな暖かさとフローラルの香り、そして、モフモフが全身に行き渡る!
「もっふもふー! もっふもふー!」
「や、やめるのですよぉ……いや、やめてぇ……」
──もう、女神の嫌がる声なんて届かない! もっと、もっとだ! こんなチャンス、二度とない!
「もっふもふー! もっふもふー! ああ! 最高だあ!」
「こんなことしちゃ、い……いけないんですよぉ……ハフゥ!」
──まさに、モフモフの女神! 僕のためだけに存在しているようなモフモフだ!
「もっふもふー! もっふもふー!」
「やめ……ふ……ふにぃ~」
狐っ娘の女神は、モフモフショックで倒れた。それと同時に、僕は尻尾から顔をだした。
「ンハッ! モフモフチャージ────完了!」
──こんなモフモフは初めてだ。まるでモフモフしてくださいというような毛並みだった! 最高に心地いい! もう死んでもいい! いや、死んでるけど……。
「モフモフ~さ~い~こ~う~! あれ、女神様、どうしたの?」
九尾の女神は、その場で倒れて力尽き、グッタリとしていた。
「なんかもう……どうでもいいですぅ……あなたは、モフモフの異世界行き決定ですぅ……」
そう言って女神は、胸元から幣(お祓い棒)を取り出し、振りかざした。周囲に魔法陣のようなものが3つ出現し、さらにその魔法陣を繋ぐようにトライアングルが出現した。そのトライアングルの中心から眩しい光が放たれる。
「もう……そこで思う存分モフモフしてきなさい! もう私……お嫁にいけない……ううっ」
僕は、その光を全身に浴びた。
「えっ、そこってどこ? 僕これからどうなっちゃうの?」
「うるさーい! せっかく手違いでウサギさんの身代わりになったあなたを生き返らせてやろうと思ったのに……もう……知らない!」
「え……身代わりって……何の話……」
さっきまで視界に入っていた狐っ娘やフワフワの地面は、少しずつ消え始め、やがて何も見えなくなり真っ白になった。その後、辺りは暗くなり、体がふわっと無重力のような状態になった。どこかへ落ちているのだろうか、まるで闇に吸い込まれるような、そんな感覚だった。
「うわああああああ~!」
僕の意識はここで途切れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
*1 【モフモフショック】 モフモフされすぎ(しすぎ)てハッピー状態になる。
「あ~早く帰ってモフモフ~したい~っ!」
今日は、僕の14歳の誕生日。その日に合わせて、おふくろがペットを飼うようなことを言っていた。おそらく、モフモフのペットだ。どんなモフモフなんだろう……すごく楽しみだ。もう、早く帰ってモフモフしたい気持ちでいっぱいだ。
前にテレビでキツネのシッポのモフモフを見たおふくろは、「あのモフモフ、素敵だわ」なんてことを言っていた。おそらくキツネだろう。結局のところ、おふくろは、僕の誕生日をダシにして自分の好きなペットを飼っているだけなのである。
──それでも、僕もモフモフできるから、一石二鳥なんだけどね。
家には2匹のペットがいる。どちらもモフモフ系のポメラニアンとチンチラだ。2匹とも最高の毛並みにしているので、モフモフのしがいがある。2匹同時にモフると、とても幸せな気分になる。
その2匹も僕の誕生日をダシにして飼われたものだ。2匹とも、最初はモフモフされるのを嫌がっていたけど、しばらくするとモフモフしても暴れなくなった。モフモフ用に調教してしまったようでなんだか後ろめたいが、その分極上のエサを与えているので良しとしよう。
僕は、近道の路地を抜け大通りに出て、家を目指してダッシュした。その時、道路側にサッカーボールぐらいの白いモフモフを視界に捉えた。
「どこかで見たような……たしか……あれは……アンゴラウサギ!」
アンゴラウサギ。それは、トルコのアンゴラ地方で生まれ、改良に改良を重ねて作られた品種。 まさにモフモフのために作られたサラブレッド! 全身白い毛で覆われ、ふわふわと揺れ動く姿は、正しく生きるぬいぐるみ!
──かわいい! 絶対モフモフしたい!
その時、耳を突くような女性の叫び声が聞こえた。
「キャーッ! だれかー! 私のウサギちゃんをオォォ!」
叫び声を上げたのは水色の袖フリルワンピースを着て帽子をかぶった散歩中の婦人だった。彼女は、アンゴラウサギを見て慌てていた。このウサギの飼い主なのだろうか。
「お願い……誰か……助けてあげてぇ!」
婦人は、泣き崩れるように声を上げた。僕はその声を聞いて我に返った。道路を大型トラックがこちらへ向かって走ってきていた。トラックは、エンジンを吹かしながら轟音を立て、アンゴラウサギに向かって走ってくる。運転手はモフモフをゴミだと思っているのだろうか、止まる気配が全くない。
「あぶない!」
それを見て、とっさに体が反応してしまった僕は、反射的に道路に飛び出していた。そして、モフモフをすぐに抱えて────モフモフ(手にモフモフの感触が伝わる)
「この肌触り……愛がある! 専用のシャンプーでキレイに洗浄した毛をドライヤーで丁寧に乾かし、これまた丁寧にブラッシングしたようなふわふわ感……(モフモフに顔を埋める)こんなの、モフるしかないじゃないか! モフモフ…………モフモフ……」
────ハッ! しまった!
我に返った僕は、アンゴラウサギを放り投げた。道路の反対側にいた婦人はアンゴラウサギをキャッチした。
「ああ、マリちゃん、無事でよかった」
それを見てホッとした僕は、次の瞬間クラクションの音と共にトラックに跳ねられ…………多分死んだ。
────こんなことなら、もっとモフっとけばよかった……。
僕の意識は、ここで途切れた。
気が付くと、僕は真っ白な世界のモフモフな地面に転がっていた。
「このモフモフな床は……天国か……も、モフらなきゃ……」
どうせ、死んだのなら、もうモフりたい放題だ。僕はこの地面で永遠にモフり続けるんだ。
「いいえ、ここは次元の狭間ですよ、池波柔人!」
モフモフな地面をモフっていると、かわいい女の声が僕の名前を呼び捨てするのが聞こえた。
「だれだ? 次元の狭間って何だ?」
僕は、声を荒立てた。すると光の粒子のようなものが僕の目の前に集まり、一つの姿を形成した。
「私は女神、九尾の女神よ!」
その姿は、モッフモフな耳とモッフモフな尻尾を9本もつけた、フッサフサでかわいい巫女服姿の狐っ娘だった。彼女は、九尾の女神と名乗り、ドヤ顔で僕を見ていた。
「ああ、女神様って本当にいたんですね!」
「もちろんですとも!」
僕の視界は、女神の黄金でモッフモフな9本の尻尾をロックした。あのふんわりとしたモフモフを9本も持っているなんて……犯罪だ! もう、我慢できないっ!
「ありがとう女神様! 極上のモッフモフ~!」
モッフモフでフッサフサな尻尾に、僕は思いっきり飛びついた。
「な……なにを」
「もっふもふー! もっふもふー!」
僕はモフった。9本の尻尾を腕で鷲掴みにして、力いっぱいモフった。全身を9本の尻尾の中に埋めて本能の赴くままにモフり続けた! これぞ、至福の時! ほのかな暖かさとフローラルの香り、そして、モフモフが全身に行き渡る!
「もっふもふー! もっふもふー!」
「や、やめるのですよぉ……いや、やめてぇ……」
──もう、女神の嫌がる声なんて届かない! もっと、もっとだ! こんなチャンス、二度とない!
「もっふもふー! もっふもふー! ああ! 最高だあ!」
「こんなことしちゃ、い……いけないんですよぉ……ハフゥ!」
──まさに、モフモフの女神! 僕のためだけに存在しているようなモフモフだ!
「もっふもふー! もっふもふー!」
「やめ……ふ……ふにぃ~」
狐っ娘の女神は、モフモフショックで倒れた。それと同時に、僕は尻尾から顔をだした。
「ンハッ! モフモフチャージ────完了!」
──こんなモフモフは初めてだ。まるでモフモフしてくださいというような毛並みだった! 最高に心地いい! もう死んでもいい! いや、死んでるけど……。
「モフモフ~さ~い~こ~う~! あれ、女神様、どうしたの?」
九尾の女神は、その場で倒れて力尽き、グッタリとしていた。
「なんかもう……どうでもいいですぅ……あなたは、モフモフの異世界行き決定ですぅ……」
そう言って女神は、胸元から幣(お祓い棒)を取り出し、振りかざした。周囲に魔法陣のようなものが3つ出現し、さらにその魔法陣を繋ぐようにトライアングルが出現した。そのトライアングルの中心から眩しい光が放たれる。
「もう……そこで思う存分モフモフしてきなさい! もう私……お嫁にいけない……ううっ」
僕は、その光を全身に浴びた。
「えっ、そこってどこ? 僕これからどうなっちゃうの?」
「うるさーい! せっかく手違いでウサギさんの身代わりになったあなたを生き返らせてやろうと思ったのに……もう……知らない!」
「え……身代わりって……何の話……」
さっきまで視界に入っていた狐っ娘やフワフワの地面は、少しずつ消え始め、やがて何も見えなくなり真っ白になった。その後、辺りは暗くなり、体がふわっと無重力のような状態になった。どこかへ落ちているのだろうか、まるで闇に吸い込まれるような、そんな感覚だった。
「うわああああああ~!」
僕の意識はここで途切れた。
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