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第二十八話 空中要塞
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私は、ユダ・ブルータス側の自国兵と対峙していた。
「私は、クッコ・ローゼ。姫騎士の称号を持つこの国の姫だ。これは何の真似だ!」
兵たちは、ただ、黙ったままこちらを見ているだけだ。おそらく命令待ちの状態だろう。こちらの問いに答えようともせず、異を唱えるわけでもない。これでは、ただの人形と同じだ。
「主! 空を見てください! 巨大な魔力反応があります!」
後ろからシグルドの声がした。一度振り向いてシグルドの存在を確認した後、シグルドの指差す空を眺めた。
すると、雲の上に、何か巨大なものが浮いていた。
どうやら、空中要塞のようだ。黒い足が四本あり、蜘蛛のような形をしている。中央は、玉ねぎ屋根のついたドーム状になっており、悪趣味な砲台と旗を掲げていた。
突然、砲台が激しい光を放った。膨大な魔力は、砲台で凝縮されていくのがわかる。このエネルギー量は、町を一つ破壊する量に匹敵する。
私は嫌な予感を感じ取り、すぐにエリザを大声で呼んだ。
「エリザ! 出ろ!」
「何事ですの? 仕方ありませんわね」
エリザは、黄金の女体像の後頭部のハッチを開け、肩を伝って出てきた。
私はとっさにエリザのところへ向かう。
しゃがんでいる女体像の背中を伝って駆け上がり、エリザのところへたどり着いた私は、エリザをお姫様抱っこで抱え上げ、力任せに飛んだ。
「クッコさん。私がそんなに好きなのですか……いけませんわ……女同士なのに……」
エリザが顔を赤らめる。だが、それにかまってはいられない。
それと同時に、空中要塞のチャージされた砲撃が城に向けて放たれた。
この瞬間、私はエリザを放り投げた。
「ああれええええ……」
「エリザ! それは任せた!」
エリザと空中要塞の光線のように放射された砲撃が空中で衝突。もちろん、この砲撃が魔力によるものであれば、エリザの体質が相殺するはずだ。
「な……この光は……ひゃいんっ!」
砲撃の光は、大の字になって飛んでいるエリザの体を直撃すると、蒸発するように消失。
「ああ、私の魔力が物凄い勢いで削られていきますわ~」
光はやがて弱まり、威力を失っていった。私は落下するエリザのもとへと走り、もう一度抱えるようにキャッチする。
エリザのおかげで窮地をしのぐことができた。
エリザは、私の腕の中でいじけたように話しかけてくる。
「ふう……クッコさん……いきなり投げるなんて……ひどいですわ……でも、今ので魔力がスッカラカンになりましたわ。こんなの初めてですわ……」
「そうか……なら今日はマナバーンしなくても大丈夫そうだな」
どうやら、私もまだ皮肉を言う元気はあるようだ。
それにしても、エリザが今成しえた功績は勲章ものだ。
今の一撃が普通に放たれたら、結界は破壊されるどころか、この城、いや町ごと火の海だった。
こればかりは、私が攻撃を受けることができたとしても、被害を止めることは叶わない。
エリザを腕から降ろすと、彼女は体についた埃でも払うかのようなしぐさで、私に質問を投げかける。
「それにしても、あれはいったいなんですの?」
「あれはおそらく、エムジー国で作られた戦略兵器だ」
「戦略兵器……ああ、なんてことですの……私の魔力が残っていたら、黄金の女体像で戦えましたのに……おかげで女体像の召喚が維持できず、消えてしまいますわ……」
後方でしゃがんで静止している黄金の女体像は、光を乱反射させながら消失していく最中だった。
「とっさのことで済まないと思っている……協力感謝する」
「まあ、しょうがないですわね……でも、貸しが一つできましたわ」
「なあに……また、すぐに返すさ」
その時、ユダ・ブルータス側の自国兵が進軍を始めた。
この5万の兵力が最後の塔を攻撃すれば、結界は破られ、城は落ちる。なので、戦わざるを得ない。
それにしても、今の攻撃を受け止めることができなければ、自分たちも死に絶えていたはずだ。それでもまだ、奴に従うのは、おそらくオークの時のように何らかの方法で洗脳を行っているからだろう。でも、ユダ・ブルータスはなぜ味方にした自国兵もろとも狙ってきたのだろうか…………。
──しまった……そういうことか!──
話は簡単だった。ユダ・ブルータスは、最初からエムジー国側の人間だったなら、この説明がつく。長い間、この国に浸透し、軍事力を任せられるほどの信頼を得てから裏切る。
それならば、最小限の被害で国が取れる。エムジー国のような小国が今まで勝利してこれたのは、この長い年月をかけた計画によるもの……。
だとすれば…………我々は奴らを侮りすぎていたようだ。
おそらく、ユダ・ブルータスはあの戦列には加わってはいない。きっと、あの空中要塞に奴はいるはず。
そして、この自国兵の進軍は、おそらく攻撃が失敗した時のための時間稼ぎ。
どちらにしろ、奴らは我々を生かすつもりなどないらしい。
あの空中要塞がまた力を蓄える前に、なんとか落とす方法を考えねば……。
「私は、クッコ・ローゼ。姫騎士の称号を持つこの国の姫だ。これは何の真似だ!」
兵たちは、ただ、黙ったままこちらを見ているだけだ。おそらく命令待ちの状態だろう。こちらの問いに答えようともせず、異を唱えるわけでもない。これでは、ただの人形と同じだ。
「主! 空を見てください! 巨大な魔力反応があります!」
後ろからシグルドの声がした。一度振り向いてシグルドの存在を確認した後、シグルドの指差す空を眺めた。
すると、雲の上に、何か巨大なものが浮いていた。
どうやら、空中要塞のようだ。黒い足が四本あり、蜘蛛のような形をしている。中央は、玉ねぎ屋根のついたドーム状になっており、悪趣味な砲台と旗を掲げていた。
突然、砲台が激しい光を放った。膨大な魔力は、砲台で凝縮されていくのがわかる。このエネルギー量は、町を一つ破壊する量に匹敵する。
私は嫌な予感を感じ取り、すぐにエリザを大声で呼んだ。
「エリザ! 出ろ!」
「何事ですの? 仕方ありませんわね」
エリザは、黄金の女体像の後頭部のハッチを開け、肩を伝って出てきた。
私はとっさにエリザのところへ向かう。
しゃがんでいる女体像の背中を伝って駆け上がり、エリザのところへたどり着いた私は、エリザをお姫様抱っこで抱え上げ、力任せに飛んだ。
「クッコさん。私がそんなに好きなのですか……いけませんわ……女同士なのに……」
エリザが顔を赤らめる。だが、それにかまってはいられない。
それと同時に、空中要塞のチャージされた砲撃が城に向けて放たれた。
この瞬間、私はエリザを放り投げた。
「ああれええええ……」
「エリザ! それは任せた!」
エリザと空中要塞の光線のように放射された砲撃が空中で衝突。もちろん、この砲撃が魔力によるものであれば、エリザの体質が相殺するはずだ。
「な……この光は……ひゃいんっ!」
砲撃の光は、大の字になって飛んでいるエリザの体を直撃すると、蒸発するように消失。
「ああ、私の魔力が物凄い勢いで削られていきますわ~」
光はやがて弱まり、威力を失っていった。私は落下するエリザのもとへと走り、もう一度抱えるようにキャッチする。
エリザのおかげで窮地をしのぐことができた。
エリザは、私の腕の中でいじけたように話しかけてくる。
「ふう……クッコさん……いきなり投げるなんて……ひどいですわ……でも、今ので魔力がスッカラカンになりましたわ。こんなの初めてですわ……」
「そうか……なら今日はマナバーンしなくても大丈夫そうだな」
どうやら、私もまだ皮肉を言う元気はあるようだ。
それにしても、エリザが今成しえた功績は勲章ものだ。
今の一撃が普通に放たれたら、結界は破壊されるどころか、この城、いや町ごと火の海だった。
こればかりは、私が攻撃を受けることができたとしても、被害を止めることは叶わない。
エリザを腕から降ろすと、彼女は体についた埃でも払うかのようなしぐさで、私に質問を投げかける。
「それにしても、あれはいったいなんですの?」
「あれはおそらく、エムジー国で作られた戦略兵器だ」
「戦略兵器……ああ、なんてことですの……私の魔力が残っていたら、黄金の女体像で戦えましたのに……おかげで女体像の召喚が維持できず、消えてしまいますわ……」
後方でしゃがんで静止している黄金の女体像は、光を乱反射させながら消失していく最中だった。
「とっさのことで済まないと思っている……協力感謝する」
「まあ、しょうがないですわね……でも、貸しが一つできましたわ」
「なあに……また、すぐに返すさ」
その時、ユダ・ブルータス側の自国兵が進軍を始めた。
この5万の兵力が最後の塔を攻撃すれば、結界は破られ、城は落ちる。なので、戦わざるを得ない。
それにしても、今の攻撃を受け止めることができなければ、自分たちも死に絶えていたはずだ。それでもまだ、奴に従うのは、おそらくオークの時のように何らかの方法で洗脳を行っているからだろう。でも、ユダ・ブルータスはなぜ味方にした自国兵もろとも狙ってきたのだろうか…………。
──しまった……そういうことか!──
話は簡単だった。ユダ・ブルータスは、最初からエムジー国側の人間だったなら、この説明がつく。長い間、この国に浸透し、軍事力を任せられるほどの信頼を得てから裏切る。
それならば、最小限の被害で国が取れる。エムジー国のような小国が今まで勝利してこれたのは、この長い年月をかけた計画によるもの……。
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おそらく、ユダ・ブルータスはあの戦列には加わってはいない。きっと、あの空中要塞に奴はいるはず。
そして、この自国兵の進軍は、おそらく攻撃が失敗した時のための時間稼ぎ。
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