4 / 31
第四話 美しい花
しおりを挟む
エミリアの転職が終わった。
弓使いの狩人からヒーラーの回復術師への変更だ。
もともとエルフは魔力数値が高いので、回復職に向いている。
後方援護ならば、なんの危険もない。
それに、この私がついている。さらに、この私の言うことをちゃんと聞いてくれるのなら、生存率は上がるはずだ。
(前のパーティーのアリスは……出しゃばるタイプだったからな……馬が合わなかった。あいつが余計なことをしなければ、私はまだ、あのパーティーにいただろう。だが、そのおかげで今、私は自分の欲望へと足を向けることができたのだ。別の意味で感謝しなければならない)
私はエミリアと、パーティー契約をする。そして、クエストを受注した。
エミリアとの初クエストだ。
内容は、さまよいの森の深いところにあるレアな薬草探しだ。
私も何度か受けたことがあるのだが、冒険初心者にとっては、結構な難所である。
途中、怪し花が所々に存在する。その花は、人が近づくと、いきなり姿を豹変し、触手を伸ばして襲ってくるのだ。
名を、フラフラフラワーという。そのフラフラフラワーは人間を捕食するタイプの食人植物だ。
昔は、触手を叩いて簡単に倒してしまっていたのだが、どうやら私はもったいないことをしていたようだ。
私はまだ、奴に捕食されたことがないのだ。
だが、奴に捕食されるためには、触手の毒で眠らされる必要がある。
毒が回った後でゆっくり捕食するのがフラフラフラワーの食事法だ。
なので、眠ってしまっては捕食される感覚が味わえない。
そこで、エミリアの出番だ。彼女には、スリープアウトの呪文を使えるようにしておいた。
これで、捕食される瞬間、スリープアウトを発動してもらうだけで、事が済む。
計画は完璧だ。心が躍る。早く捕食されてみたい。
こうして期待を胸に、私とエミリアは、さまよいの森へと出発した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「エミリアさん……なんだか、湿度が高くて暗いです……」
「こら! エミリア! 教官と呼べと言ったはずだ!」
「はい、教官!」
ゆっくりと森を進む。フラフラフラワーは、周りに花のない場所でポツンと咲いている場合が多い。
なぜボッチを好むのかというと、比べられるのが嫌だからだそうだ。
なので、単体で生息している花は、十中八九フラフラフラワーで間違いない。
そうこうしているうちに、私はその花を見つけた。
白とピンクのかわいらしい花だ。だが近づくと、その花は凶悪な姿に変身する。
「エミリア。よく見ておけ。あれがフラフラフラワーだ。フラっと近づくと捕食されるぞ」
「そ……そうなんですかぁ……」
「今から、アレに食べられるとどうなるか教える。手筈通りに頼むぞ!」
「わかりました! 捕食される瞬間に、スリープアウトですね」
私は、フラフラフラワーに近づく。そして、奴の射程距離2メートル以内に入った。
すると、フラフラフラワーは体を裏返すように凶悪な姿を見せ、巨大化する。
「あえてくらおう! その攻撃を!」
醜い花、鋭い牙、棘のついた蔓。
フラフラフラワーが真の姿を現した。
蔓が伸びる。まず、足に蔓が絡みつく。
そしてスルスルと蔓を伸ばし、体を縛るように上へと伸びてくる。
締め付ける感触は、涎ものだ。
これを毎回切り落としていたと思うと、なんだか罪悪感を感じる。
締め付けを堪能すると、今度は蔓についている棘が伸び、体に刺さり始めた。
針でさされる、チクンといった快感がたまらない。
体のコリがほぐれていくようだ。
だがこれは、私の中に毒を注入するものだ。
私はこの毒で眠らされてしまう。
うまくエミリアが魔法を使ってくれることを祈るしかない。
意識がもうろうとしてくる。
目蓋が重い。
眠い……。
…………。
「スリープアウト」
エミリアの魔法が発動した。
その瞬間、私は目覚めた。
もう、捕食される寸前だ。
花の牙が私の体に食いついてくる。
蔓は、花の口の中へと私を押し込む。
口の中はヌルっとしてザラザラしていた。
なんて犯罪的な感触だ!
そのまま私は表現できないような、あーんな状態やこーんな状態になっていった。
まるで、天国にいる気分だ。
もうずっとこのままでいたい。
だが、そんな時間は長くは続かなかった。
「教官! しっかりしてください! 教官!」
エミリアの声が聞こえた。エミリアは、フラフラフラワーを持っていたナイフで切り裂き、中に入っていたヌルヌルでベトベトの私を引きずり出した。
「ああ……もう終わり?」
「終わりじゃないですよ……もう……心配したんですよ……」
「そっか……」
どうやら私は、酸欠で意識を失いかけていたようだ。
さすがに死んでしまっては元も子もない。
今回は、フラフラフラワーを堪能できたので良しとしよう。
こうして私とエミリアは、無事レアな薬草を採取し、街へと戻るのであった。
弓使いの狩人からヒーラーの回復術師への変更だ。
もともとエルフは魔力数値が高いので、回復職に向いている。
後方援護ならば、なんの危険もない。
それに、この私がついている。さらに、この私の言うことをちゃんと聞いてくれるのなら、生存率は上がるはずだ。
(前のパーティーのアリスは……出しゃばるタイプだったからな……馬が合わなかった。あいつが余計なことをしなければ、私はまだ、あのパーティーにいただろう。だが、そのおかげで今、私は自分の欲望へと足を向けることができたのだ。別の意味で感謝しなければならない)
私はエミリアと、パーティー契約をする。そして、クエストを受注した。
エミリアとの初クエストだ。
内容は、さまよいの森の深いところにあるレアな薬草探しだ。
私も何度か受けたことがあるのだが、冒険初心者にとっては、結構な難所である。
途中、怪し花が所々に存在する。その花は、人が近づくと、いきなり姿を豹変し、触手を伸ばして襲ってくるのだ。
名を、フラフラフラワーという。そのフラフラフラワーは人間を捕食するタイプの食人植物だ。
昔は、触手を叩いて簡単に倒してしまっていたのだが、どうやら私はもったいないことをしていたようだ。
私はまだ、奴に捕食されたことがないのだ。
だが、奴に捕食されるためには、触手の毒で眠らされる必要がある。
毒が回った後でゆっくり捕食するのがフラフラフラワーの食事法だ。
なので、眠ってしまっては捕食される感覚が味わえない。
そこで、エミリアの出番だ。彼女には、スリープアウトの呪文を使えるようにしておいた。
これで、捕食される瞬間、スリープアウトを発動してもらうだけで、事が済む。
計画は完璧だ。心が躍る。早く捕食されてみたい。
こうして期待を胸に、私とエミリアは、さまよいの森へと出発した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「エミリアさん……なんだか、湿度が高くて暗いです……」
「こら! エミリア! 教官と呼べと言ったはずだ!」
「はい、教官!」
ゆっくりと森を進む。フラフラフラワーは、周りに花のない場所でポツンと咲いている場合が多い。
なぜボッチを好むのかというと、比べられるのが嫌だからだそうだ。
なので、単体で生息している花は、十中八九フラフラフラワーで間違いない。
そうこうしているうちに、私はその花を見つけた。
白とピンクのかわいらしい花だ。だが近づくと、その花は凶悪な姿に変身する。
「エミリア。よく見ておけ。あれがフラフラフラワーだ。フラっと近づくと捕食されるぞ」
「そ……そうなんですかぁ……」
「今から、アレに食べられるとどうなるか教える。手筈通りに頼むぞ!」
「わかりました! 捕食される瞬間に、スリープアウトですね」
私は、フラフラフラワーに近づく。そして、奴の射程距離2メートル以内に入った。
すると、フラフラフラワーは体を裏返すように凶悪な姿を見せ、巨大化する。
「あえてくらおう! その攻撃を!」
醜い花、鋭い牙、棘のついた蔓。
フラフラフラワーが真の姿を現した。
蔓が伸びる。まず、足に蔓が絡みつく。
そしてスルスルと蔓を伸ばし、体を縛るように上へと伸びてくる。
締め付ける感触は、涎ものだ。
これを毎回切り落としていたと思うと、なんだか罪悪感を感じる。
締め付けを堪能すると、今度は蔓についている棘が伸び、体に刺さり始めた。
針でさされる、チクンといった快感がたまらない。
体のコリがほぐれていくようだ。
だがこれは、私の中に毒を注入するものだ。
私はこの毒で眠らされてしまう。
うまくエミリアが魔法を使ってくれることを祈るしかない。
意識がもうろうとしてくる。
目蓋が重い。
眠い……。
…………。
「スリープアウト」
エミリアの魔法が発動した。
その瞬間、私は目覚めた。
もう、捕食される寸前だ。
花の牙が私の体に食いついてくる。
蔓は、花の口の中へと私を押し込む。
口の中はヌルっとしてザラザラしていた。
なんて犯罪的な感触だ!
そのまま私は表現できないような、あーんな状態やこーんな状態になっていった。
まるで、天国にいる気分だ。
もうずっとこのままでいたい。
だが、そんな時間は長くは続かなかった。
「教官! しっかりしてください! 教官!」
エミリアの声が聞こえた。エミリアは、フラフラフラワーを持っていたナイフで切り裂き、中に入っていたヌルヌルでベトベトの私を引きずり出した。
「ああ……もう終わり?」
「終わりじゃないですよ……もう……心配したんですよ……」
「そっか……」
どうやら私は、酸欠で意識を失いかけていたようだ。
さすがに死んでしまっては元も子もない。
今回は、フラフラフラワーを堪能できたので良しとしよう。
こうして私とエミリアは、無事レアな薬草を採取し、街へと戻るのであった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる