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第2章 依頼をこなそう
第9話 灼熱の黒い炎
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薄暗く、狭い通路を走り抜け、最上階への階段を上る。禍々しく重苦しい空気をかき分け、最上階の部屋に辿り着いた。ボス部屋と言わんばかりの豪華な扉が目の前に立ちはだかる。俺は、ゆっくりとその扉を開けた。
声が聞こえてくる。
「ひっひっひ、良くぞここまで辿り着いた。冒険者よ!」
暗い部屋の中央で、魔法陣がうっすらと光っていた。そして、そのまた中央に紫のフードを被った人影があった。
「お前が魔女か!」俺は、奴を怒鳴りつけた。
だが、その声をいなすように、魔女は覇気を出す。
「さあ、久しぶりの舞踏会……楽しませておくれ」
暗い部屋が突然、遊園地のメリーゴーランドのような景色に変わる。魔女が動く。空中を飛びながら俺との間合いを詰めてくる。魔女が近づくと、異様な熱気が周囲を包み込む。そして、動きを止めたと思えば、魔女は悪魔のような形相で俺に微笑んだ。
──その瞬間、光が俺の右腕を貫いた。
「これでお前の右腕は封じた! これでお前は剣を使えなくなった」
右腕がピクリとも動かない。どうやら石化してしまったようだ。
「くそっ、まだ左腕がぁ!」
「甘いな若僧!」
魔女は鎖のような物を伸ばた。その鎖は俺の左腕に巻き付く。
「しまった!」
「どうやらここまでのようだな!」
魔女はゆっくりと俺に近づいてきた。もう、俺に逃げる術はない。
「深淵の炎に焼かれて朽ちろ、愚かなる冒険者よ!」
魔女の腕から黒い炎が噴き出る。そしてその炎が俺に襲いかかる。
「うわあああぁぁぁ!」
体を灼熱の黒い炎が包みこむ! そして……。
…………。
──俺は目を覚ました──
小鳥の鳴き声が聞こえる。ちょっと豪華な寝室の窓、そこから差し込む光の輝きは、俺の顔を照らし、頬を火照らせていた。
額が少し汗ばんでいた。少し暑苦しい。俺は体を起こそうとした。するとどうだろう、両腕を全く動かすことができない。足や首は動く、一体俺の体に何が起こっているのだろう……。
なぜ動けないのか、確認してみた。すると、右腕をメイデンが、左腕をファリスがしっかりホールドしたまま、すやすやと寝ていた。
「あれ、なんでこの2人が俺の部屋に?」
二人は別の部屋で寝ていたはずだ。それに、俺の記憶はしっかりしている。とりあえず、その事について考えるのをやめ、つかまれている腕を抜くことにした。
腕はビクともしない。ただ、腕に胸の感触が伝わってくるだけだった。このまま幸せを感じて二度寝してもよかったのだが、2人の体温と直射日光で体が温められ、とにかく暑い。喉も乾いているので、このままいけば確実に熱中症になる。
しょうがないので、ホールドの甘いファリスの方を先に外すことにした。ゆっくりと、腕を捻りながら抜く…………左腕を救出した。
次に右腕だが、メイデンに肩関節から肘、手首まで極められていて動かせない。無理に抜こうとすると、余計関節が極まってしまいそうだ。
どうしようかと考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「ミツユスキーです、入りますよ」
それは天の助けだった。
「おや、お楽しみの所でしたか」
ミツユスキーは、俺と2人がベットで寝てる所を見て申し訳なさそうに部屋を出ていこうとする。
「ちょ、まった! これなんとかしてくれ」
慌ててミツユスキーを引きとめ、この状況を見てもらった。
「じゃあ、ちょっと見せてください」
俺は、これ以上動くことができない。うかつに動けば確実に右腕は持っていかれる、そんな状況だ。かといって、すやすや寝てるのを起こすのも、なぜか気が引ける。
「見事に極まってますね。これは無理に抜けようとするとダメです。体と一緒に腕を半回転させてください」
俺は、ミツユスキーに言われたとおり、でんぐり返しをするように動いてみた。すると、腕はスッポリとホールドから外れて楽に動くようになった。すかさずメイデンから腕を引き抜く。
「あ、抜けた! 助かっ……」
その瞬間、メイデンの腕が俺の腕に伸び、関節を取ろうとする。
「やばっ!」
俺は、転がるようにベッドを飛び降りた。危なかった。メイデンは、無意識で関節技をかけることができるほどに、訓練されているいようだ。これからは、注意しないといけない。
攻撃目標を失ったメイデンは、となりで寝ていたファリスにターゲットを切り替え、タコのように絡みついていく。俺は、その鮮やかな関節技の応酬を、ただ、呆然と見ていた。
声が聞こえてくる。
「ひっひっひ、良くぞここまで辿り着いた。冒険者よ!」
暗い部屋の中央で、魔法陣がうっすらと光っていた。そして、そのまた中央に紫のフードを被った人影があった。
「お前が魔女か!」俺は、奴を怒鳴りつけた。
だが、その声をいなすように、魔女は覇気を出す。
「さあ、久しぶりの舞踏会……楽しませておくれ」
暗い部屋が突然、遊園地のメリーゴーランドのような景色に変わる。魔女が動く。空中を飛びながら俺との間合いを詰めてくる。魔女が近づくと、異様な熱気が周囲を包み込む。そして、動きを止めたと思えば、魔女は悪魔のような形相で俺に微笑んだ。
──その瞬間、光が俺の右腕を貫いた。
「これでお前の右腕は封じた! これでお前は剣を使えなくなった」
右腕がピクリとも動かない。どうやら石化してしまったようだ。
「くそっ、まだ左腕がぁ!」
「甘いな若僧!」
魔女は鎖のような物を伸ばた。その鎖は俺の左腕に巻き付く。
「しまった!」
「どうやらここまでのようだな!」
魔女はゆっくりと俺に近づいてきた。もう、俺に逃げる術はない。
「深淵の炎に焼かれて朽ちろ、愚かなる冒険者よ!」
魔女の腕から黒い炎が噴き出る。そしてその炎が俺に襲いかかる。
「うわあああぁぁぁ!」
体を灼熱の黒い炎が包みこむ! そして……。
…………。
──俺は目を覚ました──
小鳥の鳴き声が聞こえる。ちょっと豪華な寝室の窓、そこから差し込む光の輝きは、俺の顔を照らし、頬を火照らせていた。
額が少し汗ばんでいた。少し暑苦しい。俺は体を起こそうとした。するとどうだろう、両腕を全く動かすことができない。足や首は動く、一体俺の体に何が起こっているのだろう……。
なぜ動けないのか、確認してみた。すると、右腕をメイデンが、左腕をファリスがしっかりホールドしたまま、すやすやと寝ていた。
「あれ、なんでこの2人が俺の部屋に?」
二人は別の部屋で寝ていたはずだ。それに、俺の記憶はしっかりしている。とりあえず、その事について考えるのをやめ、つかまれている腕を抜くことにした。
腕はビクともしない。ただ、腕に胸の感触が伝わってくるだけだった。このまま幸せを感じて二度寝してもよかったのだが、2人の体温と直射日光で体が温められ、とにかく暑い。喉も乾いているので、このままいけば確実に熱中症になる。
しょうがないので、ホールドの甘いファリスの方を先に外すことにした。ゆっくりと、腕を捻りながら抜く…………左腕を救出した。
次に右腕だが、メイデンに肩関節から肘、手首まで極められていて動かせない。無理に抜こうとすると、余計関節が極まってしまいそうだ。
どうしようかと考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「ミツユスキーです、入りますよ」
それは天の助けだった。
「おや、お楽しみの所でしたか」
ミツユスキーは、俺と2人がベットで寝てる所を見て申し訳なさそうに部屋を出ていこうとする。
「ちょ、まった! これなんとかしてくれ」
慌ててミツユスキーを引きとめ、この状況を見てもらった。
「じゃあ、ちょっと見せてください」
俺は、これ以上動くことができない。うかつに動けば確実に右腕は持っていかれる、そんな状況だ。かといって、すやすや寝てるのを起こすのも、なぜか気が引ける。
「見事に極まってますね。これは無理に抜けようとするとダメです。体と一緒に腕を半回転させてください」
俺は、ミツユスキーに言われたとおり、でんぐり返しをするように動いてみた。すると、腕はスッポリとホールドから外れて楽に動くようになった。すかさずメイデンから腕を引き抜く。
「あ、抜けた! 助かっ……」
その瞬間、メイデンの腕が俺の腕に伸び、関節を取ろうとする。
「やばっ!」
俺は、転がるようにベッドを飛び降りた。危なかった。メイデンは、無意識で関節技をかけることができるほどに、訓練されているいようだ。これからは、注意しないといけない。
攻撃目標を失ったメイデンは、となりで寝ていたファリスにターゲットを切り替え、タコのように絡みついていく。俺は、その鮮やかな関節技の応酬を、ただ、呆然と見ていた。
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