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猫神の巫女なのニャ
第32話 猫生活なのニャ
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目が覚めると、わたしは豪華な天蓋付のベッドで寝ていました。
「ここは……」
「気がつきましたわね。ここはわたしの家の寝室ですわ。うちのヘリで救助に行きましたの。無事でよかったですわ」
側にいたのは富松あかねでした。それと、もう一人、富松誠一郎もそのとなりにいました。
どうやら、富松あかねの屋敷で寝かされていたようです。
体は、どこも痛いところもなく、健康そのものでした。
感謝しなければなりません。
「そうだったの……あ、ありがとう……」
すると富松誠一郎が、はきはきとした口調で語ります。
「あの……コスプレのお姉さん。助けてくれてありがとうございました。ぼくはこれから病院にいかなければならないので。あと、シロという猫がありがとうと言っていました」
「シロ……シロがありがとうって言ったの?」
シロという言葉が気になりました。
わたしの記憶通りなら、シロは、富松誠一郎の体の中にいるはずです。
「え……ぼく、何かいいました?」
「? (あれ……今確かに……)」
富松誠一郎は、とぼけていました。
というよりも、自分の発した言葉を認識していないようです。
シロが富松誠一郎の意識に干渉した可能性があります。
シロなりのお礼のつもりだったのでしょう。
「……いいえ、なんでもないです」
「そうですか……じゃあ、ぼくはこれで」
富松誠一郎は、お辞儀をして部屋を出ました。
とても行儀の良い少年です。
「わ、わたしからも礼を言うわ……弟を救ってくれて、ありがとう。それと、猫たちも無事、意識を取り戻しましたわ。どうしてか、「ニャアニャア」としか、言葉を話さなくなってしまいましたけど……」
富松あかねは、そう話をすると、少し涙目になりました。
「ニャアニャア? (あれ……そういえば……)」
気を失う前聞いたタマの鳴き声。それは、普通の猫の声だったような気がしました。
「ねえ、タマはどこ?」
「連れてきていますわ」
富松あかねの後ろに、タマとギンがいました。
ギンは、富松あかねの側でチョコンと座っています。
タマは、わたしに気付くとベッドに上がってきました。顔をわたしの腕にこすり付けながら猫なで声を上げています。
「タマ? あれ……普通の猫の鳴き声にしか聞こえない……」
「どうやら、わたしたちは猫と会話ができなくなったらしいですわ」
「そう……なの……」
今まで、会話できることが当然だと思っていたわたしは、困惑しました。
本当なら、ここで「タマ、きょうはお手柄です。家に帰ったら、みんなで高級猫缶パーティーです」と、タマは『うれしいのニャ! 頑張ったかいがあったのニャ!』
こんな会話ができるものと思っていました。
ですが、「ニャアニャア」と、ただ、わたしの側で甘えているだけなのです。
「うそ、だよね……タマ。何か言ってよ。ねえ、タマ。返事してよ。冗談でしょ……タマ」
「ニャアニャア」
「どうして普通の猫のふりをしているの……わたしのこと、嫌いなの?」
「ニャアニャア」
「お願いだから……」
「ニャア~」
なぜか、わたしの目に涙があふれ出てきました。
ただ、猫と会話ができなくなっただけです。
猫はニャアニャアと鳴くものなのです。
今までが異常だったのです。
それなのに……。
どうして……。
こんなにも悲しいのでしょうか……。
気が付くと、わたしはタマを抱えて子供みたいに泣きじゃくっていました。
──その後。
今日はクリスマスイブです。
うちの猫たちは、ギンも加わり9匹のスタッフがそろいました。
家の前で拾った「タマ」「トラ」「ボブ」「ロズ」「レン」
そして、富松家からの家で猫「サクラ」
さすらい猫の「ギン」
そしてゲストの「ココア」「ウメ」
お客の入りは相変わらずですが、猫たちは、今日も元気にモフられ、遊ばれ、餌をしっかりと食べています。
ボブは、キャトスペースへの通路をふさいだまま動きません。
「あーほらボブ、そこにいると邪魔だから洗面器の中に入ってて!」
わたしのいう事など、全く聞いていません。
これは誰かに踏まれるまで動かないでしょう。
「ほら、トラ。降りて接客しなさい」
棚の上にいるトラは、捕まえて下ろそうとすると、さらに高い段に逃げていきます。
「レンも、ラジオにくっついてないで、接客! タマとロズを見習いなさい!」
ラジオのスイッチを切ると、「ニャ~ニャ~」と、不満そうに声を出しはじめます。
しょせんは猫です。
命令しても、どうにもなりません。
猫は、自由で気ままで身勝手な生き物です。
言葉は話せなくなりましたが、以前よりも、猫のことがわかってきたような気がします。
猫も、ちゃんと考えて鳴き声や仕草で、コミュニケーションを取るのです。
きっと猫たちは……
『おなかすいたニャ』
『クリスマス、それは、食えるのか?』
『高級猫缶の日なのニャ~』
『プレゼントが楽しみですニャ』
『今日はサンタと踊り明かすぜい』
こんなことを話しているに違いありません。
さあ、のんびりしてはいられません。
本当の猫生活は、これから始まるのです。
いつか、幸運の招き猫になってくれますように……。
~猫神の巫女~ END
「ここは……」
「気がつきましたわね。ここはわたしの家の寝室ですわ。うちのヘリで救助に行きましたの。無事でよかったですわ」
側にいたのは富松あかねでした。それと、もう一人、富松誠一郎もそのとなりにいました。
どうやら、富松あかねの屋敷で寝かされていたようです。
体は、どこも痛いところもなく、健康そのものでした。
感謝しなければなりません。
「そうだったの……あ、ありがとう……」
すると富松誠一郎が、はきはきとした口調で語ります。
「あの……コスプレのお姉さん。助けてくれてありがとうございました。ぼくはこれから病院にいかなければならないので。あと、シロという猫がありがとうと言っていました」
「シロ……シロがありがとうって言ったの?」
シロという言葉が気になりました。
わたしの記憶通りなら、シロは、富松誠一郎の体の中にいるはずです。
「え……ぼく、何かいいました?」
「? (あれ……今確かに……)」
富松誠一郎は、とぼけていました。
というよりも、自分の発した言葉を認識していないようです。
シロが富松誠一郎の意識に干渉した可能性があります。
シロなりのお礼のつもりだったのでしょう。
「……いいえ、なんでもないです」
「そうですか……じゃあ、ぼくはこれで」
富松誠一郎は、お辞儀をして部屋を出ました。
とても行儀の良い少年です。
「わ、わたしからも礼を言うわ……弟を救ってくれて、ありがとう。それと、猫たちも無事、意識を取り戻しましたわ。どうしてか、「ニャアニャア」としか、言葉を話さなくなってしまいましたけど……」
富松あかねは、そう話をすると、少し涙目になりました。
「ニャアニャア? (あれ……そういえば……)」
気を失う前聞いたタマの鳴き声。それは、普通の猫の声だったような気がしました。
「ねえ、タマはどこ?」
「連れてきていますわ」
富松あかねの後ろに、タマとギンがいました。
ギンは、富松あかねの側でチョコンと座っています。
タマは、わたしに気付くとベッドに上がってきました。顔をわたしの腕にこすり付けながら猫なで声を上げています。
「タマ? あれ……普通の猫の鳴き声にしか聞こえない……」
「どうやら、わたしたちは猫と会話ができなくなったらしいですわ」
「そう……なの……」
今まで、会話できることが当然だと思っていたわたしは、困惑しました。
本当なら、ここで「タマ、きょうはお手柄です。家に帰ったら、みんなで高級猫缶パーティーです」と、タマは『うれしいのニャ! 頑張ったかいがあったのニャ!』
こんな会話ができるものと思っていました。
ですが、「ニャアニャア」と、ただ、わたしの側で甘えているだけなのです。
「うそ、だよね……タマ。何か言ってよ。ねえ、タマ。返事してよ。冗談でしょ……タマ」
「ニャアニャア」
「どうして普通の猫のふりをしているの……わたしのこと、嫌いなの?」
「ニャアニャア」
「お願いだから……」
「ニャア~」
なぜか、わたしの目に涙があふれ出てきました。
ただ、猫と会話ができなくなっただけです。
猫はニャアニャアと鳴くものなのです。
今までが異常だったのです。
それなのに……。
どうして……。
こんなにも悲しいのでしょうか……。
気が付くと、わたしはタマを抱えて子供みたいに泣きじゃくっていました。
──その後。
今日はクリスマスイブです。
うちの猫たちは、ギンも加わり9匹のスタッフがそろいました。
家の前で拾った「タマ」「トラ」「ボブ」「ロズ」「レン」
そして、富松家からの家で猫「サクラ」
さすらい猫の「ギン」
そしてゲストの「ココア」「ウメ」
お客の入りは相変わらずですが、猫たちは、今日も元気にモフられ、遊ばれ、餌をしっかりと食べています。
ボブは、キャトスペースへの通路をふさいだまま動きません。
「あーほらボブ、そこにいると邪魔だから洗面器の中に入ってて!」
わたしのいう事など、全く聞いていません。
これは誰かに踏まれるまで動かないでしょう。
「ほら、トラ。降りて接客しなさい」
棚の上にいるトラは、捕まえて下ろそうとすると、さらに高い段に逃げていきます。
「レンも、ラジオにくっついてないで、接客! タマとロズを見習いなさい!」
ラジオのスイッチを切ると、「ニャ~ニャ~」と、不満そうに声を出しはじめます。
しょせんは猫です。
命令しても、どうにもなりません。
猫は、自由で気ままで身勝手な生き物です。
言葉は話せなくなりましたが、以前よりも、猫のことがわかってきたような気がします。
猫も、ちゃんと考えて鳴き声や仕草で、コミュニケーションを取るのです。
きっと猫たちは……
『おなかすいたニャ』
『クリスマス、それは、食えるのか?』
『高級猫缶の日なのニャ~』
『プレゼントが楽しみですニャ』
『今日はサンタと踊り明かすぜい』
こんなことを話しているに違いありません。
さあ、のんびりしてはいられません。
本当の猫生活は、これから始まるのです。
いつか、幸運の招き猫になってくれますように……。
~猫神の巫女~ END
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