もし猫カフェのスタッフが猫と会話することができたら

マイきぃ

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猫神の巫女なのニャ

第31話 浄化なのニャ

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 猫の手のプレスは、わたしを無慈悲に襲いました。

 ──ドスン!

「猫神の巫女、討ち取ったあああ!」

 シロは、勝利の雄叫びを上げていました。
 ですが、その声を聞いているわたしは……無事、健在、無傷でした。

 わたしの体は、横になって倒れていました。体全体を柔らかいものが圧迫してくる感触があります。少し、生暖かいです。
(このブヨブヨしたものは……肉球!?)

 おそらく「ニャンコスタンプ」の攻撃をよけようとしたとき、足がもつれて転んだのでしょう。
 そのとき、ちょうど猫の手プレスの肉球と肉球の間に体がはまるような形になったので、潰されずに済んだのです。
 運が良かったとしか言いようがありません。

 霧のように「にゃんこスタンプ」が消失していきます。
 シロは、勝利に酔いしれて油断しています。
 わたしの持っているメガホンは、黄色一色に染まります。

 ────チャンスです────

 体を起こし、メガホンを構え、大きく息を吸い込みます。
 そして、メガホンを口元に当て、呪文を唱えます。

「ニャニャ……(あれ……鼻が……)……ニャックチュン!」

 鼻がムズムズしてしまい、呪文を唱える途中でくしゃみをしてしまいました。
 ですが、メガホンは光り輝き、効果を発動したようです。
(これでも……大丈夫なのか……な……)

「な……なぜ平気なんだ!」

 シロはわたしに気付き、驚いた表情で叫びます。
 ですが、時すでに遅し。
 メガホンから笛付のジェット風船の音のようなものが鳴ります。
 それとともに、虹色の光のシャワーが噴き出し、その光がシロを覆ってダメージを与えていきます。

「うわあああ! なんだこれはああああ!」

 シロの憑依している富松誠一郎の体から、黒いオーラが飛び散り、猫又と化した体が元に戻っていきます。どうやら効果は抜群のようです。

「タマ……始めからこれ使っておけばよかったね」
『気が付かなかったのニャ。しょうがないニャ』

 こればっかりはぶっつけ本番だったので、仕方がないです。

 黒いオーラは、悲鳴を上げながら散っていきます。
 まるで恨みで作られた炎のように。
 富松誠一郎の体から黒いオーラは全て吐き出され、彼はゆっくりと倒れました。
 すべての黒いオーラを出し尽くしたようです。

『やったニャか?』
「タマ……それはフラグ……」

 次の瞬間、富松誠一郎はゆっくりと体を起こしました。
 そして、わたしに目線を向けます。

「ほら、まだやってなかったじゃない」
『まずいのニャ。力を使い果たしたのニャ。もうすぐ時間切れなのニャ!』
「え……ええ~!」

 大変な事になりました。
 ただでさえ限界ぎりぎりの戦いを強いられているのに、能力なしで戦うなんて……無理です。無茶です。無謀です。

「タマ……何か武器は」
『出したら変身が解けるのニャ』

 武器を出したりスキルを使用すると、制限時間が短くなる仕様だったみたいです。
 世の中、うまくできているなと、わたしは素直に感心しました。

 シロが近づいてきます。
 そして、わたしのすぐ側まできました。
 もうだめです。

 次の瞬間、シロは体を低くして正座をしました。
 そして、土下座の体制に入りました。
 何かのスキルが発動するのでしょうか。

(え……土下座……?)

 ちょっとだけ冷静になりました。
 よく見ると、シロには戦う意思がないように見えます。
 わたしは慌てた自分を落ち着かせ、シロの様子を伺いました。

 シロは、下を向いた状態で話しかけてきます。

「わたしが猫神のシロです。といっても、猫神だなんてわたしが名乗るのはちょっとおこがましいですけど。さっきの黒いのは、悪霊の塊です。悪霊だけを浄化してくださり、ありがとうございます」

 富松誠一郎の中にいるシロは、ちょっと田舎の女性のような話し方をしていました。
 この話が本当であれば、わたしが戦っていたのは、シロに取り付いた悪霊という事になります。

「じゃあ、シロは、悪霊に取り付かれていただけなの?」
「面目ないです。猫神が悪霊に取り付かれたなんて……前代未聞です。本当は、人間にちょっといたずらするつもりで悪事を働いていたんです。その時、どこからか現れた悪霊が心の隙間に入ったんです。……すぐに気付いていれば……その悪霊がどんどん大きくなって、魂を乗っ取られました」

 シロの説明が続きます。

「じゃあ、人間に復讐していたというのは……」
「悪霊がわたしの心を利用してやったこです。利用されたわたしも悪いんですけどね」

 こればかりは、シロにしかわからないことです。
 もし、これを猫神のクロが知っていれば、どうにかなったかもしれません。

「本当は、ここで朽ち果てる運命だったのかもしれません。でも、こうして魂が残っている。これは、罪を償うしか……」
「でも、あなたには直接の罪はないはず」

「直接の罪はなくても、わたしの招いたことなんです。これは神としての不祥事です。悪霊に取り付かれる神など、存在してはならないのです。だから、わたしは猫神の地位を捨てようと思います」
「そう……よくはわからないけど、それが神の判断なら、わたしは何も言えないわ」

 この辺の事情には、干渉することはできません。

「最初の罪滅ぼしとして、せめて、この少年だけでも……この子の意識を中継して外に出してやれば……それがわたしの……」

 シロは、目をつぶってブツブツと何かを唱えていました。

「にゃんこおにゃんこねこにゃんこ、にゃんこおにゃんこねこにゃんこ、にゃんこおにゃんこねこにゃんこ……」

 しばらく呪文を唱えると、富松誠一郎の体はビクンとジャーキングしたように痙攣しました。
 そして、辺りをキョロキョロと見渡し始めます。

「あれ……ここはどこ……そうだ。猫は……あれ、大きな猫……いや、違う……。ねえ、そこのコスプレしたお姉さん。猫知りませんか? ぽっちゃりとしたかわいい猫」

「(まさか……)もしかして、富松誠一郎くん?」
「はい、そうですけど……あなたは?」

 おそらくシロは、昏睡状態になっていた富松誠一郎の体に何かをしたようです。
 何をしたかはわかりませんが、これが罪滅ぼしの一環なのでしょう。
 ですが、もしこのまま消えてしまったのであれば、勝手すぎるのではないか。
 そう、わたしは感じました。

「わたしは三日月……(あれ……なんだか眠い……)ほの……か……」

 突然わたしは脱力感に襲われました。
 それに任せて体をその場で寝かせてしまいました。

 その後、変身が解けてタマが姿を現します。
 タマは、「ニャアニャア」と鳴きながら、倒れたわたしの耳を甘がみしていました。
 なんだか眠くて、とても気持ちがいいです。
 意識が遠のきます。
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