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猫神の巫女なのニャ
第28話 富松邸なのニャ
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にゃんこ島から自宅に戻った翌朝、わたしは富松あかねに連絡を取りました。
事情を話すと、しぶしぶと、弟、富松誠一郎を拘束している場所へ行くことを承諾してくれました。
わたしは、お店のカウンターの側で手袋とフード付きのコートを装備します。
これから向かうのは、富松家の本邸です。
わたしが店を出ようとすると、うちのお店の猫スタッフたちは、わたしに軽く言葉をかけてくれました。
『ほのか、む、無理はするな』
『お土産まってるニャ~』
『お店の方は任せてくださいですニャ』
『今日は、いい日だぜい』
『ギンさんを、よろしく頼みます』
なぜか最後の戦いにでも行くような気分です。
でも、あながち間違ってはいないような気がします。
「じゃあ、行ってくるわね」
『行ってくるのニャ!』
わたしは、タマを懐に入れて家を出発しました。
商店街は、クリスマスの装いで大賑わい。
いつ雪が降ってきてもおかしくない寒さですが、タマをカイロ代わりにしているので、暖かいです。
富松家の本邸は六甲山のふもとの山林を切り開いて作られた大きな屋敷です。
そして、そこは富松グループ総帥、富松家当主、「富松 総一郎」の家でもあります。
経済専門誌などで、一応顔は知っていますが、とても怖そうな人です。
一時間ほど歩いて、目的地に着きました。
日本庭園のある広い屋敷です。庭には松が何本も植えられています。
門先で立っていると、かわいい和風メイドがお迎えにやってきました。
「三日月ほのか様ですね。こちらに案内しまーす」
そのメイドはそう言うと、わたしの手を強引に引っ張ります。
「ちょ……急がないで……(まるで、連行されている気分……)」
石畳の小道を進み、階段を上ります。すると、すこし広い庭に出ました。
そして、目の前には洋風モダンな別邸が見えます。
その別邸の入り口に、富松あかねの姿はありました。あきれ顔でこちらを見ています。
「あかね様! お友達をお連れしました」
和風メイドがそう言うと、顔を真赤にして富松あかねが怒ります。
「きゃ……客人と呼びなさい! 鈴子!」
「ご、ごめんなひゃいっ……」
和風メイドは謝ると、頭を抱えてニヤニヤしながらその場から退散しました。
「遅かったですわね、まちくたびれましたわ」
富松あかねの口調はいつもと変わりませんが、目は、来てくれてありがとうと言っている気がしました。
これが俗に言うツンデレなのかと、わたしは理解しました。
「こちらですわ」
わたしは、富松あかねに案内され、屋敷の裏手に回りました。
すると、自走式地下駐車場の入り口のようなものが見えてきました。
「この駐車場の地下倉庫に弟を……拘束しているわ」
「早く、いきましょう」
「ええ……」
スロープを下りていきます。
駐車場には、黒塗りの高級車が数台。
そして、ベン○、フェラ○リ、ポ○シェ、ランボ○ギーニ、その他、よく知らない形の車が止めてありました。
ピカピカの状態で置いてあります。おそらく、コレクションにでもしているのでしょう。
地下三階まで降りると、奥にシャッターの下りている倉庫のような場所がありました。
その右側にある扉から、中に入ります。
富松あかねが、その扉を開けようとしたその時でした。
急に扉が開き、お坊さんのような格好をした中年の男が、悪魔でも見たような形相で飛び出してきました。
「ば、化け物だああああ!」
男は、叫びながら通路を逃げるように走っていきました。
あのお坊さんは、除霊をしに来ていたのでしょうか。
もう一人、扉からゆっくりと出てくる人がいました。
「ふん……有名な除霊師のくせして……」
その人は、富松めぐみでした。
富松あかねの後ろに隠れようとしましたが、それより先に目が合ってしまい、蛇に睨まれた蛙のようにわたしは硬直してしまいました。
わたしに気づいた富松めぐみは、歯をギラつかせて話しかけてきます。
「あら、あなた、ここへ何しにきたのかしら。ああ、その懐にかかえている猫ちゃんを、わたしにプレゼントしてくれるのかしら?」
「ぜ……絶対嫌です!」
タマの身震いが、わたしの肌に伝わってきました。
富松めぐみの物欲オーラが、タマを直撃したのでしょう。
タマは、富松めぐみと必死に目を合わせないようにしています。
「せっかく誠一郎が意識を取り戻したのに、正気に戻らないのは、きっと猫のせいよ。その猫を家誠一郎に差し出せば、きっと良くなるはず……」
「お……お母様! やめてください! みっともない!」
富松めぐみの言葉を聞いて、富松あかねは表情を暗くします。
それに気づいたのか、富松めぐみは自分の頭を左手で軽く抑え、冷静になろうとしていました。
「まあ、いいわ。あとでロズちゃんのところに顔を出してあげないとね」
富松めぐみは、わたしにそう言い残してゆっくりとその場を立ち去りました。
『ロズをまだ狙っているのかニャ?』
「そうみたい……」
わたしは、深呼吸をして気合を入れます。
これから先、何があるかわかりません。
今一度、富松あかねに確認を取ります。
「あかねさん、よく聞いてください。ぶっつけ本番なので、必ず成功するとは限りません。もし成功して、猫たちが復活し、弟さんから悪霊を追い出すことができても昏睡状態から回復する前に戻るかもしれません」
「それはわかっていますわ。それでも、悪霊などに弟の体をいいようにされているほうが、我慢ならないですわ」
富松あかねも覚悟はできていたようです。
「じゃあ、行きましょう」
「そうですわね」
わたしたちは、扉の奥へと進みました。
事情を話すと、しぶしぶと、弟、富松誠一郎を拘束している場所へ行くことを承諾してくれました。
わたしは、お店のカウンターの側で手袋とフード付きのコートを装備します。
これから向かうのは、富松家の本邸です。
わたしが店を出ようとすると、うちのお店の猫スタッフたちは、わたしに軽く言葉をかけてくれました。
『ほのか、む、無理はするな』
『お土産まってるニャ~』
『お店の方は任せてくださいですニャ』
『今日は、いい日だぜい』
『ギンさんを、よろしく頼みます』
なぜか最後の戦いにでも行くような気分です。
でも、あながち間違ってはいないような気がします。
「じゃあ、行ってくるわね」
『行ってくるのニャ!』
わたしは、タマを懐に入れて家を出発しました。
商店街は、クリスマスの装いで大賑わい。
いつ雪が降ってきてもおかしくない寒さですが、タマをカイロ代わりにしているので、暖かいです。
富松家の本邸は六甲山のふもとの山林を切り開いて作られた大きな屋敷です。
そして、そこは富松グループ総帥、富松家当主、「富松 総一郎」の家でもあります。
経済専門誌などで、一応顔は知っていますが、とても怖そうな人です。
一時間ほど歩いて、目的地に着きました。
日本庭園のある広い屋敷です。庭には松が何本も植えられています。
門先で立っていると、かわいい和風メイドがお迎えにやってきました。
「三日月ほのか様ですね。こちらに案内しまーす」
そのメイドはそう言うと、わたしの手を強引に引っ張ります。
「ちょ……急がないで……(まるで、連行されている気分……)」
石畳の小道を進み、階段を上ります。すると、すこし広い庭に出ました。
そして、目の前には洋風モダンな別邸が見えます。
その別邸の入り口に、富松あかねの姿はありました。あきれ顔でこちらを見ています。
「あかね様! お友達をお連れしました」
和風メイドがそう言うと、顔を真赤にして富松あかねが怒ります。
「きゃ……客人と呼びなさい! 鈴子!」
「ご、ごめんなひゃいっ……」
和風メイドは謝ると、頭を抱えてニヤニヤしながらその場から退散しました。
「遅かったですわね、まちくたびれましたわ」
富松あかねの口調はいつもと変わりませんが、目は、来てくれてありがとうと言っている気がしました。
これが俗に言うツンデレなのかと、わたしは理解しました。
「こちらですわ」
わたしは、富松あかねに案内され、屋敷の裏手に回りました。
すると、自走式地下駐車場の入り口のようなものが見えてきました。
「この駐車場の地下倉庫に弟を……拘束しているわ」
「早く、いきましょう」
「ええ……」
スロープを下りていきます。
駐車場には、黒塗りの高級車が数台。
そして、ベン○、フェラ○リ、ポ○シェ、ランボ○ギーニ、その他、よく知らない形の車が止めてありました。
ピカピカの状態で置いてあります。おそらく、コレクションにでもしているのでしょう。
地下三階まで降りると、奥にシャッターの下りている倉庫のような場所がありました。
その右側にある扉から、中に入ります。
富松あかねが、その扉を開けようとしたその時でした。
急に扉が開き、お坊さんのような格好をした中年の男が、悪魔でも見たような形相で飛び出してきました。
「ば、化け物だああああ!」
男は、叫びながら通路を逃げるように走っていきました。
あのお坊さんは、除霊をしに来ていたのでしょうか。
もう一人、扉からゆっくりと出てくる人がいました。
「ふん……有名な除霊師のくせして……」
その人は、富松めぐみでした。
富松あかねの後ろに隠れようとしましたが、それより先に目が合ってしまい、蛇に睨まれた蛙のようにわたしは硬直してしまいました。
わたしに気づいた富松めぐみは、歯をギラつかせて話しかけてきます。
「あら、あなた、ここへ何しにきたのかしら。ああ、その懐にかかえている猫ちゃんを、わたしにプレゼントしてくれるのかしら?」
「ぜ……絶対嫌です!」
タマの身震いが、わたしの肌に伝わってきました。
富松めぐみの物欲オーラが、タマを直撃したのでしょう。
タマは、富松めぐみと必死に目を合わせないようにしています。
「せっかく誠一郎が意識を取り戻したのに、正気に戻らないのは、きっと猫のせいよ。その猫を家誠一郎に差し出せば、きっと良くなるはず……」
「お……お母様! やめてください! みっともない!」
富松めぐみの言葉を聞いて、富松あかねは表情を暗くします。
それに気づいたのか、富松めぐみは自分の頭を左手で軽く抑え、冷静になろうとしていました。
「まあ、いいわ。あとでロズちゃんのところに顔を出してあげないとね」
富松めぐみは、わたしにそう言い残してゆっくりとその場を立ち去りました。
『ロズをまだ狙っているのかニャ?』
「そうみたい……」
わたしは、深呼吸をして気合を入れます。
これから先、何があるかわかりません。
今一度、富松あかねに確認を取ります。
「あかねさん、よく聞いてください。ぶっつけ本番なので、必ず成功するとは限りません。もし成功して、猫たちが復活し、弟さんから悪霊を追い出すことができても昏睡状態から回復する前に戻るかもしれません」
「それはわかっていますわ。それでも、悪霊などに弟の体をいいようにされているほうが、我慢ならないですわ」
富松あかねも覚悟はできていたようです。
「じゃあ、行きましょう」
「そうですわね」
わたしたちは、扉の奥へと進みました。
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