もし猫カフェのスタッフが猫と会話することができたら

マイきぃ

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にゃんこ島なのニャ

第26話 巫女なのニャ

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「あの方とは、「蚕影こかげ 明美」様のことです」
「明美!?(まさか、お母さんの名前!?)」

 ミケの言葉を聞いた瞬間、なくしたパズルのピースが見つかった時のような気持ちに包まれました。
 母から聞いた神社の話。それはおそらく、神戸の恩猫神社のことではなく、この島での出来事だったのです。
 それならば、この猫神の話は納得できます。
 わたしに猫神の巫女の血が混ざっている理由になります。

「まさか……あの少女の娘だったの? 猫神の巫女は、当時は結構いたからねぇ~わたしが力を与えたからなのだけど」

 猫神は、びっくりした様子でわたしを見ていました。

 複雑な気分です。
 もし、この猫神が力を与えていなければ、母はおそらく、病気で死ななくて済んだのかもしれません。
 猫のために寿命を犠牲にしてしまうなど、もってのほかです。
 それでも……

「母はその時、自分の意志で力を欲したのですか?」
「そうね……その通り。けれど、その時は、力が反発するなんて、知らなかったことなの」
「力のことは問題じゃないんです。母が、後悔していなければ、それでいいんです。もし、猫を助けられなければ、母は後悔したでしょうから……」

 ……わたしは母の意思を尊重したい。

「その時の少女は、助けた猫にこう言ったわ。「死ななくてよかった。まだ、生きれるのに」と。小さいころは、感情に流されやすいから、それで満足かもしれないけど、後々後悔することになったでしょう」

 猫神といえども、やっぱりただの猫です。
 何もわかっていません。
 ちょっとだけムカつきました。

「それは、母を侮辱することになります。母は一度もそんなことで愚痴を言いませんでした。自分の運命を、素直に受け入れていましたから」

「じゃあ、あなただったら受け入れられる? そして、助けることができる?」
「わたしは、そうなるとわかっているなら、絶対にしない。でも……絶対方法を見つけて見せる。必ずいい方法があるはず」

「人間は本当にわがままねぇ。たしかに猫より寿命が長いのだから、時間が許す限り動くことはできるけど……でも、おそらくそのギンって子や、その他の猫たちに時間はないわ。どうするつもり?」
「それは……」

「しょせん、人間にとって、猫はただの猫にしかすぎないのだから、当然よね。もし、方法が見つからなくても、ごめんなさいで済むことよ」
「そんなことは……」
「あなたは猫を、家畜みたいなものとしか見ていない。違う?」
「わ……わたしは……」

 わたしは、唇をかみしめました。
 確かに、そういう時期もありました。でも、猫カフェの猫たちと話して触れ合ってるうちに、生きている者同士の絆を今はつかんでいます。
 たとれそれが家畜だとしても、命は命です。
 粗末に扱っていいはずありません。

 それに、人間は人間、猫は猫。同じ生き物ではないのです。
 だから、考え方も付き合い方も違って当然なのです。だから、お互いを別なものとちゃんと認識したうえで、付き合うことが大事だと思っています。

 ですが、それを言ったところで、相手は猫の神様です。
 わたしとは全く違う生き物(種族)です。
 猫神相手では水掛け論になるだけ……そんな気がして、言葉を返すのをやめました。

 わたしと猫神のやり取りを見ていたミケが、困った様子で口を挟みました。

「あの、クロ様……あまりいじめないでください……」
「そうね……悪かったわ。わたしの不手際もあったことだし」

 すると、意気消沈したのか、酔いがさめたのかはわかりませんが、猫神も話すのを中断しました。
 そして、ミケがわたしに話しかけてきます。

「こんな事態を招いたのは、全てわたしの責任なのです。わたしが人間をよく見ていれば、うかつな行動をしなければ、こんな事態にはなりませんでした。だから……」

 その次にくる言葉が、なんとなくわかってしまいました。

「だから、わたしに奉仕したい。もし、そのつもりなら、それはしなくてもいいです」
「でも……」

「わたしも一応猫又がどういう存在なのかは知っています。22年と2か月生きて、猫又になったのでしょ。それは、拾った命を大事に生きたことの証。母は喜ぶはず。それに、それに対してわたしが何か言うのは筋違い。あなたはもう、とっくに恩返しをしているわ」

「本当に……」
「本当です。だから、気にすることはないです」

 すると、ミケは、目をうるうるさせながら、わたしにお礼を言いました。

「あ……ありがとうございます……お嬢様……」
「それと、わたしはお嬢様じゃなくて、ほのかといいます」
「わかりました、ほのか様」
「様は……(まあいいか)」

 とにかく、納得してもらえてよかったです。
 これ以上、重い感情を押し付けられるのはご免こうむります。

 話が終わると、猫神が、待ってましたとばかりに口を出してきました。

「話はまとまったようね。実はね、その猫たちを助ける方法はあるの」
「ええ、あったのですか?」

 あったのなら、今までの会話はいったい……単なる暇つぶしだったのでしょうか……。

「ただし、チャンスは一度きり。ミケ、例のものを用意して」
「はい、クロ様」

 ミケは、猫神の指示を受け、祭壇のある部屋へと行きました。
 そして、祭壇の引き出しを開け、金色に光るものを取り出しました。
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