もし猫カフェのスタッフが猫と会話することができたら

マイきぃ

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にゃんこ島なのニャ

第24話 洞窟なのニャ

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 引き戸を開けると、こたつに入ってはんてんを着ている曾祖母の姿がありました。
 ルーペでスマートフォンをのぞきながら考え込んでいます。

「糸ばっちゃ! ほれ、きたぞ」
「なんだ、繭ばっちゃ。お、おお、まさか……わしを迎えに来たのか、明美」
「違うじゃろ、ほのかじゃ」
「お、おお、そうじゃった。ちょっと近寄ってくれんか」

 糸おばあさんは、視力が悪いようで、わたしを認識できていないようです。
 ゆっくりと糸おばあさんに近づきます。

「ほのかです。お久しぶりです、糸おばあさん」
「おお、ほのかか、ずいぶん大きくなったの~。で、今日は何しに来たんじゃ」
「あの……倒れたって聞いたから……」
「倒れた? ああ~たしかに転んだ。玄関先で転んだのじゃよ。その後大騒ぎになってな、今はこの通り、ピンピンじゃよ」
「…………」

 糸のおばあさんは、すごく元気そうでした。

「繭おばあちゃん……これは……」
「あの後、もう一度電話したのじゃよ。そしたら、電話がつながらなくての。ほのかの携帯番号もしらんし……」
「ん~それならしょうがないか」

 電話がつながらなかったということは、父が電話に出なかったということです。
 おそらく、わたしが出かけたのをいいことに、店を閉めて銀の玉を弾きに行ってしまったのでしょう。
 今度、釘を刺しておきたいと思います。

 とにかく、元気であればそれに越したことはありません。ですが、何だか心配した分だけ損した感じになってしまいました。

 それにしても、スマートホンをいじって、いったい何をしているのでしょうか。
 ちょっとだけ聞いてみました。
 
「スマホなんていじって、何してるの」
「この……「天の園」っていうところで買い物したいんじゃが」

 そのウェブサイトをよく見ると、「ログインする」という表示が出たままでした。
 ログインしてから買い物をするウェブサイトのようです。

「アカウント持ってるの、おばあちゃん」
「ふむ、作ってないぞい」
「それ、アカウント作らないと……」
「アカつくれば良いのじゃな……」
「…………そうです……」
「支払いは、カードか何かを使うのじゃな」
「いろいろ選択できると思いますが……」

 糸おばあさんの年齢は、すでに90歳を過ぎていますが、同年代の方と同じレベルの会話で通じてしまいました。
 なので、教えるのも簡単でした。
 これなら、まだまだボケる心配はなさそうです。

 その後、この島の猫のことや、母のことをいろいろと聞かされました。
 猫神の巫女のことは、よくわからないとのことでしたが、猫神はいるそうです。
 期待していた情報は得ることができませんでしたが、母の昔のことが、少しだけわかっただけでもよしとします。
 そんなこんなで、今夜は予定通り曾祖母の家に泊まって行くことになりました。

 ──そして、真夜中……。

 おばあさんたちが寝静まったころのことでした。

 ──チリン……。

 小さな鈴の音が聞こえました。

(タマ、戻ってきたのかな。場所がわからなくてうろついているのかも……)

 わたしは、おばあさんたちを起こさないように、家の外へでました。

 ──チリン……チリン……。

 タマの姿はありませんが、鈴の音だけが聞こえます。まるで呼んでいるかのように遠ざかっていきます。

 わたしは、玄関に置いてあった懐中電灯を手にして、その鈴の音を追ってみました。
 幽霊などは、あまり気になりませんが、やはり夜の山中は薄気味悪いです。
 けれども、一向に、その鈴の音は近づきません。タマの声も聞こえません。
 他に聞こえるのは、落ち葉を踏むわたしの足音ぐらいです。

(まるで、狐か狸に馬鹿にされているような気分……)
「そうだ、GPS……」

 わたしは、スマホを手にして専用のアプリを起動しました。
 まず、自分の位置が表示されます。位置は、ほぼ島の中央でした。
 そして、タマに着けてあるGPSの位置情報を表示します。

 ──その時でした。
 突然、足元が崩れました。

 坂を滑るように落ちていきます。

「キャアアアッ! なにこれえええぇぇぇ!」

 気が付くと、洞窟のような場所にいました。
 落とした懐中電灯が、洞窟内部の岩壁を照らしています。

「ここは……洞窟?」

 懐中電灯を拾い上げ、落ちてきた場所を探します。
 落ち葉に覆われた急な坂を滑り落ちたような気がしたのですが、その形跡がある場所が見当たりません。

「どうしよう……出口がわからない……」

 少しだけ、恐怖しました。もしかしたら、このままここに閉じ込められてしまうかもしれません。
 そんなことを考えていた矢先、懐中電灯までが消えてしまいました。

 ──真っ暗です。

 人生とは、なんて理不尽なものなのでしょうか。弱り目にたたり目です。
 こんなときは、風を頼りに出口を探すのがセオリーと聞きましたが、ほとんど無風状態です。
 風をどうやって感じていいのかわかりません。

 ため息をつきながら、しばらくその場で動かないでいると、目が慣れてきたのか、うっすらと洞窟内部が見えるようになってきました。
 そのおかげで、だいぶ気分が落ち着きました。

 その後、次第に周囲がよく見えるようになってきました。
 もしかすると、これは目が慣れてきたわけではないようです。

 前方に怪しげな光があります。
 それはポツポツと増えていきます。
 その光は、行燈の光でした。
 いったい誰が明かりを灯しているのでしょうか。

 洞窟の先に、和室のようなものが見えてきました。
 畳の上に酒瓶が転がっています。市販されているものです。

(こんなところに誰が住んでいるのだろう……)

 靴を脱いで、畳の上を歩きます。
 先へ進むと、豪華な透けたカーテンが引かれていました。

 そのカーテンの奥には赤いシーツで覆われたふわふわなベッド……そのベッドの上には……

 人間と同じぐらいの大きさの黒い猫がいました。
 その猫はベッドに横たわり、キセルでタバコを吹かしながらこちらを見ていました。
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