24 / 32
にゃんこ島なのニャ
第24話 洞窟なのニャ
しおりを挟む
引き戸を開けると、こたつに入ってはんてんを着ている曾祖母の姿がありました。
ルーペでスマートフォンをのぞきながら考え込んでいます。
「糸ばっちゃ! ほれ、きたぞ」
「なんだ、繭ばっちゃ。お、おお、まさか……わしを迎えに来たのか、明美」
「違うじゃろ、ほのかじゃ」
「お、おお、そうじゃった。ちょっと近寄ってくれんか」
糸おばあさんは、視力が悪いようで、わたしを認識できていないようです。
ゆっくりと糸おばあさんに近づきます。
「ほのかです。お久しぶりです、糸おばあさん」
「おお、ほのかか、ずいぶん大きくなったの~。で、今日は何しに来たんじゃ」
「あの……倒れたって聞いたから……」
「倒れた? ああ~たしかに転んだ。玄関先で転んだのじゃよ。その後大騒ぎになってな、今はこの通り、ピンピンじゃよ」
「…………」
糸のおばあさんは、すごく元気そうでした。
「繭おばあちゃん……これは……」
「あの後、もう一度電話したのじゃよ。そしたら、電話がつながらなくての。ほのかの携帯番号もしらんし……」
「ん~それならしょうがないか」
電話がつながらなかったということは、父が電話に出なかったということです。
おそらく、わたしが出かけたのをいいことに、店を閉めて銀の玉を弾きに行ってしまったのでしょう。
今度、釘を刺しておきたいと思います。
とにかく、元気であればそれに越したことはありません。ですが、何だか心配した分だけ損した感じになってしまいました。
それにしても、スマートホンをいじって、いったい何をしているのでしょうか。
ちょっとだけ聞いてみました。
「スマホなんていじって、何してるの」
「この……「天の園」っていうところで買い物したいんじゃが」
そのウェブサイトをよく見ると、「ログインする」という表示が出たままでした。
ログインしてから買い物をするウェブサイトのようです。
「アカウント持ってるの、おばあちゃん」
「ふむ、作ってないぞい」
「それ、アカウント作らないと……」
「アカつくれば良いのじゃな……」
「…………そうです……」
「支払いは、カードか何かを使うのじゃな」
「いろいろ選択できると思いますが……」
糸おばあさんの年齢は、すでに90歳を過ぎていますが、同年代の方と同じレベルの会話で通じてしまいました。
なので、教えるのも簡単でした。
これなら、まだまだボケる心配はなさそうです。
その後、この島の猫のことや、母のことをいろいろと聞かされました。
猫神の巫女のことは、よくわからないとのことでしたが、猫神はいるそうです。
期待していた情報は得ることができませんでしたが、母の昔のことが、少しだけわかっただけでもよしとします。
そんなこんなで、今夜は予定通り曾祖母の家に泊まって行くことになりました。
──そして、真夜中……。
おばあさんたちが寝静まったころのことでした。
──チリン……。
小さな鈴の音が聞こえました。
(タマ、戻ってきたのかな。場所がわからなくてうろついているのかも……)
わたしは、おばあさんたちを起こさないように、家の外へでました。
──チリン……チリン……。
タマの姿はありませんが、鈴の音だけが聞こえます。まるで呼んでいるかのように遠ざかっていきます。
わたしは、玄関に置いてあった懐中電灯を手にして、その鈴の音を追ってみました。
幽霊などは、あまり気になりませんが、やはり夜の山中は薄気味悪いです。
けれども、一向に、その鈴の音は近づきません。タマの声も聞こえません。
他に聞こえるのは、落ち葉を踏むわたしの足音ぐらいです。
(まるで、狐か狸に馬鹿にされているような気分……)
「そうだ、GPS……」
わたしは、スマホを手にして専用のアプリを起動しました。
まず、自分の位置が表示されます。位置は、ほぼ島の中央でした。
そして、タマに着けてあるGPSの位置情報を表示します。
──その時でした。
突然、足元が崩れました。
坂を滑るように落ちていきます。
「キャアアアッ! なにこれえええぇぇぇ!」
気が付くと、洞窟のような場所にいました。
落とした懐中電灯が、洞窟内部の岩壁を照らしています。
「ここは……洞窟?」
懐中電灯を拾い上げ、落ちてきた場所を探します。
落ち葉に覆われた急な坂を滑り落ちたような気がしたのですが、その形跡がある場所が見当たりません。
「どうしよう……出口がわからない……」
少しだけ、恐怖しました。もしかしたら、このままここに閉じ込められてしまうかもしれません。
そんなことを考えていた矢先、懐中電灯までが消えてしまいました。
──真っ暗です。
人生とは、なんて理不尽なものなのでしょうか。弱り目にたたり目です。
こんなときは、風を頼りに出口を探すのがセオリーと聞きましたが、ほとんど無風状態です。
風をどうやって感じていいのかわかりません。
ため息をつきながら、しばらくその場で動かないでいると、目が慣れてきたのか、うっすらと洞窟内部が見えるようになってきました。
そのおかげで、だいぶ気分が落ち着きました。
その後、次第に周囲がよく見えるようになってきました。
もしかすると、これは目が慣れてきたわけではないようです。
前方に怪しげな光があります。
それはポツポツと増えていきます。
その光は、行燈の光でした。
いったい誰が明かりを灯しているのでしょうか。
洞窟の先に、和室のようなものが見えてきました。
畳の上に酒瓶が転がっています。市販されているものです。
(こんなところに誰が住んでいるのだろう……)
靴を脱いで、畳の上を歩きます。
先へ進むと、豪華な透けたカーテンが引かれていました。
そのカーテンの奥には赤いシーツで覆われたふわふわなベッド……そのベッドの上には……
人間と同じぐらいの大きさの黒い猫がいました。
その猫はベッドに横たわり、キセルでタバコを吹かしながらこちらを見ていました。
ルーペでスマートフォンをのぞきながら考え込んでいます。
「糸ばっちゃ! ほれ、きたぞ」
「なんだ、繭ばっちゃ。お、おお、まさか……わしを迎えに来たのか、明美」
「違うじゃろ、ほのかじゃ」
「お、おお、そうじゃった。ちょっと近寄ってくれんか」
糸おばあさんは、視力が悪いようで、わたしを認識できていないようです。
ゆっくりと糸おばあさんに近づきます。
「ほのかです。お久しぶりです、糸おばあさん」
「おお、ほのかか、ずいぶん大きくなったの~。で、今日は何しに来たんじゃ」
「あの……倒れたって聞いたから……」
「倒れた? ああ~たしかに転んだ。玄関先で転んだのじゃよ。その後大騒ぎになってな、今はこの通り、ピンピンじゃよ」
「…………」
糸のおばあさんは、すごく元気そうでした。
「繭おばあちゃん……これは……」
「あの後、もう一度電話したのじゃよ。そしたら、電話がつながらなくての。ほのかの携帯番号もしらんし……」
「ん~それならしょうがないか」
電話がつながらなかったということは、父が電話に出なかったということです。
おそらく、わたしが出かけたのをいいことに、店を閉めて銀の玉を弾きに行ってしまったのでしょう。
今度、釘を刺しておきたいと思います。
とにかく、元気であればそれに越したことはありません。ですが、何だか心配した分だけ損した感じになってしまいました。
それにしても、スマートホンをいじって、いったい何をしているのでしょうか。
ちょっとだけ聞いてみました。
「スマホなんていじって、何してるの」
「この……「天の園」っていうところで買い物したいんじゃが」
そのウェブサイトをよく見ると、「ログインする」という表示が出たままでした。
ログインしてから買い物をするウェブサイトのようです。
「アカウント持ってるの、おばあちゃん」
「ふむ、作ってないぞい」
「それ、アカウント作らないと……」
「アカつくれば良いのじゃな……」
「…………そうです……」
「支払いは、カードか何かを使うのじゃな」
「いろいろ選択できると思いますが……」
糸おばあさんの年齢は、すでに90歳を過ぎていますが、同年代の方と同じレベルの会話で通じてしまいました。
なので、教えるのも簡単でした。
これなら、まだまだボケる心配はなさそうです。
その後、この島の猫のことや、母のことをいろいろと聞かされました。
猫神の巫女のことは、よくわからないとのことでしたが、猫神はいるそうです。
期待していた情報は得ることができませんでしたが、母の昔のことが、少しだけわかっただけでもよしとします。
そんなこんなで、今夜は予定通り曾祖母の家に泊まって行くことになりました。
──そして、真夜中……。
おばあさんたちが寝静まったころのことでした。
──チリン……。
小さな鈴の音が聞こえました。
(タマ、戻ってきたのかな。場所がわからなくてうろついているのかも……)
わたしは、おばあさんたちを起こさないように、家の外へでました。
──チリン……チリン……。
タマの姿はありませんが、鈴の音だけが聞こえます。まるで呼んでいるかのように遠ざかっていきます。
わたしは、玄関に置いてあった懐中電灯を手にして、その鈴の音を追ってみました。
幽霊などは、あまり気になりませんが、やはり夜の山中は薄気味悪いです。
けれども、一向に、その鈴の音は近づきません。タマの声も聞こえません。
他に聞こえるのは、落ち葉を踏むわたしの足音ぐらいです。
(まるで、狐か狸に馬鹿にされているような気分……)
「そうだ、GPS……」
わたしは、スマホを手にして専用のアプリを起動しました。
まず、自分の位置が表示されます。位置は、ほぼ島の中央でした。
そして、タマに着けてあるGPSの位置情報を表示します。
──その時でした。
突然、足元が崩れました。
坂を滑るように落ちていきます。
「キャアアアッ! なにこれえええぇぇぇ!」
気が付くと、洞窟のような場所にいました。
落とした懐中電灯が、洞窟内部の岩壁を照らしています。
「ここは……洞窟?」
懐中電灯を拾い上げ、落ちてきた場所を探します。
落ち葉に覆われた急な坂を滑り落ちたような気がしたのですが、その形跡がある場所が見当たりません。
「どうしよう……出口がわからない……」
少しだけ、恐怖しました。もしかしたら、このままここに閉じ込められてしまうかもしれません。
そんなことを考えていた矢先、懐中電灯までが消えてしまいました。
──真っ暗です。
人生とは、なんて理不尽なものなのでしょうか。弱り目にたたり目です。
こんなときは、風を頼りに出口を探すのがセオリーと聞きましたが、ほとんど無風状態です。
風をどうやって感じていいのかわかりません。
ため息をつきながら、しばらくその場で動かないでいると、目が慣れてきたのか、うっすらと洞窟内部が見えるようになってきました。
そのおかげで、だいぶ気分が落ち着きました。
その後、次第に周囲がよく見えるようになってきました。
もしかすると、これは目が慣れてきたわけではないようです。
前方に怪しげな光があります。
それはポツポツと増えていきます。
その光は、行燈の光でした。
いったい誰が明かりを灯しているのでしょうか。
洞窟の先に、和室のようなものが見えてきました。
畳の上に酒瓶が転がっています。市販されているものです。
(こんなところに誰が住んでいるのだろう……)
靴を脱いで、畳の上を歩きます。
先へ進むと、豪華な透けたカーテンが引かれていました。
そのカーテンの奥には赤いシーツで覆われたふわふわなベッド……そのベッドの上には……
人間と同じぐらいの大きさの黒い猫がいました。
その猫はベッドに横たわり、キセルでタバコを吹かしながらこちらを見ていました。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

ニンジャマスター・ダイヤ
竹井ゴールド
キャラ文芸
沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。
大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。
沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。
朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語
六倍酢
ファンタジー
ある朝、ギルドが崩壊していた。
ギルド戦での敗北から3日、アドラーの所属するギルドは崩壊した。
ごたごたの中で団長に就任したアドラーは、ギルドの再建を団の守り神から頼まれる。
団長になったアドラーは自分の力に気付く。
彼のスキルの本質は『指揮下の者だけ能力を倍増させる』ものだった。
守り神の猫娘、居場所のない混血エルフ、引きこもりの魔女、生まれたての竜姫、加勢するかつての仲間。
変わり者ばかりが集まるギルドは、何時しか大陸最強の戦闘集団になる。
その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー
ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
T-4ブルーインパルスとして生を受けた#725は専任整備士の青井翼に恋をした。彼の手の温もりが好き、その手が私に愛を教えてくれた。その手の温もりが私を人にした。
機械にだって心がある。引退を迎えて初めて知る青井への想い。
#725が引退した理由は作者の勝手な想像であり、退役後の扱いも全てフィクションです。
その後の二人で整備員を束ねている坂東三佐は、鏡野ゆう様の「今日も青空、イルカ日和」に出ておられます。お名前お借りしました。ご許可いただきありがとうございました。
※小説化になろうにも投稿しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

仲町通りのアトリエ書房 -水彩絵師と白うさぎ付き-
橘花やよい
キャラ文芸
スランプ中の絵描き・絵莉が引っ越してきたのは、喋る白うさぎのいる長野の書店「兎ノ書房」。
心を癒し、夢と向き合い、人と繋がる、じんわりする物語。
pixivで連載していた小説を改稿して更新しています。
「第7回ほっこり・じんわり大賞」大賞をいただきました。


夢の中でもう一人のオレに丸投げされたがそこは宇宙生物の撃退に刀が重宝されている平行世界だった
竹井ゴールド
キャラ文芸
オレこと柊(ひいらぎ)誠(まこと)は夢の中でもう一人のオレに泣き付かれて、余りの泣き言にうんざりして同意するとーー
平行世界のオレと入れ替わってしまった。
平行世界は宇宙より外敵宇宙生物、通称、コスモアネモニー(宇宙イソギンチャク)が跋扈する世界で、その対策として日本刀が重宝されており、剣道の実力、今(いま)総司のオレにとってはかなり楽しい世界だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる