もし猫カフェのスタッフが猫と会話することができたら

マイきぃ

文字の大きさ
上 下
20 / 32
9匹の猫なのニャ

第20話 願いが叶うのニャ

しおりを挟む
 なぜ富松あかねのところにギンがいるのでしょうか。
 ギンの姿をみたサクラが、驚いて声を出してしまいました。

『ギン……さん?』
『その声は、もしかして……サクラか? それに……』

「あら、あなたたちは、チープな猫カフェの……」

 富松あかねがこちらに気づきました。

「チープな猫カフェじゃありません! 猫カフェ「キャットムーン」です!」

 ちょっとだけ、富松あかねの言葉に腹が立ったので、怒鳴ってしまいました。
 ついでなので、ギンのことを問いただします。

「どうしてあなたがギンと一緒にいるの?」
「あら、このコラットのことかしら。これは、あなたのものなのかしら……?」
「そ、それは……」
「だったら、あなたに何も言われる筋合いはないはずよ」
「たしかに……そうだけど……」

 彼女に正論を叩き付けられてしまいました。言い返せません。

 そんなわたしに、ギンは話しかけてきます。

『ほのかさん。その節は世話になった。こうしてまた会ったのは何かの縁だと思う。だが、今、おれは、わけあって彼女の手伝いをしている』
「そういうことなら……仕方ないか……」

『ギンさん……』

 サクラは落ち込んでしまいました。

 ここは見守るしかなさそうです。
 事情はわかりませんが、これがギンの意思ならば仕方のないことです。

 それより、あの大きなカプセルが気になります。
 わたしは、黒服の男たちのすきを突いて、カプセルを確認しました。
 カプセルの上部は、ガラス張りでした。中をのぞくと、酸素マスクをつけている一人の少年の姿がありました。

「こら、近づくな」
「キャッ」

 黒服の男たちに邪魔されました。
 これ以上は近づけさせてくれないようです。

「その少年は……」
「あなたには、関係ないですわ。ただ、わたしは願いを叶えるだけですの。ホ~ッホッホ~」

 相変わらずの高笑いです。
 願いとは、この少年の病気を治すとか、そういったものなのでしょうか。
 だとすれば、富松あかねは悪い人ではないのかもしれません。

 彼女の猫たちは、社を囲むように並びます。
 カプセルは社の前へ、黒服の男たちが運びます。
 その後、カプセルの手前で富松あかねがひざまずき、祈りをささげました。

「今一度、高天原よりご降臨くださいませ、やおろよずの猫神様。啓示の通り、徳を積んだ猫を9匹そろえました。わたしのお願いを、どうか聞き届けてください」

 富松あかねがそう祈ると、周囲の空気が変わりました。
 いままでの重い空気は、さらに重くなり、どす黒いオーラのようなものが辺りを包み込み始めました。邪悪な気配がします。
 ですが、今は事の成り行きを静観するしかありません。

 しばらくすると、声が聞こえてきました。

『ふ……ふはははは……良くぞ綺麗な魂の猫を9匹集めた。そして、憑代よりしろまで用意してくれるとは……』

 すると、その声に富松あかねが答えます。

「猫神……様……来てくださったのですね……願い、叶えてもらえるのでしょうか」
『その猫たちの魂とひき換えだ』
「……魂? 以前はそんなことはおっしゃらなかったはず……猫たちの徳を集めるだけじゃなかったのですか」
『そう言っておったか……ふはははは』

 笑い声とともに、社を取り囲むような竜巻が起こりました。
 富松あかねは、慌てふためいています。

「な……何を……」
『お前に力を与えて正解だった……最高の魂だ……じゃあ、願いを叶えてやる』
「ええ、それでは話が違いますわ……」

 社の周りにいた猫たちは、吸い寄せられるように社に近づいていきます。そして、その場でパタっと倒れました。
 その後、少年の入っているカプセルから火花が飛び散り、ゆっくりとカプセルが開きます。

 少年が目覚めました。
 少年は体を起こし、体を軽く動かしています。

「なまじ、生きている分、死体と違って肉体の腐敗を気にすることもない。よい憑代よりしろだ」
「誠一郎? 違う……まさか……」
「この体に意識は戻っただろう。わたしの意識がな……ふはははは……」
「どうしてこんな……」

 少年の体から、黒いオーラが噴き出てきました。富松あかねと、三人の黒服の男は、そのオーラに包み込まれ、その場に倒れてしまいました。

 どうやら、少年の意識は回復したようですが、この様子だと、悪いものにでも体を乗っ取られたとしか思えない状況です。

「救急車……でいいのかな」

 これは、緊急事態です。
 何が起こったかはわかりませんが、今、何かできるのはわたしだけです。
 すぐにスマホを出して、救急車を呼びます。

「そこにもいたか!」

 少年がこちらに気がつきました。

『こっちにくるのニャ』
『ほのかはおれが守る』
『壁になるのニャ~』
『マスターに手出しはさせないですニャ』
『これはちょっと、感じ悪いのだぜい』
『……ギンを……いったいどうしたの……』

 猫たちは、わたしをかばうかのように少年の目の前に立ちふさがりました。

「ふん、こざかしい! 怠惰な猫どもめ! 人間に飼い慣らされ、誇りを失った獣はわたしの餌となるがよい」

 黒いオーラが猫たちに襲いかかります。
 猫たちが危ないです!

 わたしは思わず……

「ダメええええええ~~~~!」

 と、大声で叫んでしまいました。

 その時でした。
 黒いオーラは、まるでわたしの声に吹き飛ばされたかのように、消失しました。

「おまえ……まさか……「猫神の巫女」か!」

 少年はそう言ってわたしをにらみつけた後、この場をすぐに立ち去りました。
 ともあれ、わたしの猫たちは無事でした。

「猫神の……巫女って……何?」

 なんだか、謎が増えてしまいました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢
ファンタジー
ある朝、ギルドが崩壊していた。 ギルド戦での敗北から3日、アドラーの所属するギルドは崩壊した。 ごたごたの中で団長に就任したアドラーは、ギルドの再建を団の守り神から頼まれる。 団長になったアドラーは自分の力に気付く。 彼のスキルの本質は『指揮下の者だけ能力を倍増させる』ものだった。 守り神の猫娘、居場所のない混血エルフ、引きこもりの魔女、生まれたての竜姫、加勢するかつての仲間。 変わり者ばかりが集まるギルドは、何時しか大陸最強の戦闘集団になる。

その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー

ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
T-4ブルーインパルスとして生を受けた#725は専任整備士の青井翼に恋をした。彼の手の温もりが好き、その手が私に愛を教えてくれた。その手の温もりが私を人にした。 機械にだって心がある。引退を迎えて初めて知る青井への想い。 #725が引退した理由は作者の勝手な想像であり、退役後の扱いも全てフィクションです。 その後の二人で整備員を束ねている坂東三佐は、鏡野ゆう様の「今日も青空、イルカ日和」に出ておられます。お名前お借りしました。ご許可いただきありがとうございました。 ※小説化になろうにも投稿しております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

仲町通りのアトリエ書房 -水彩絵師と白うさぎ付き-

橘花やよい
キャラ文芸
スランプ中の絵描き・絵莉が引っ越してきたのは、喋る白うさぎのいる長野の書店「兎ノ書房」。 心を癒し、夢と向き合い、人と繋がる、じんわりする物語。 pixivで連載していた小説を改稿して更新しています。 「第7回ほっこり・じんわり大賞」大賞をいただきました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夢の中でもう一人のオレに丸投げされたがそこは宇宙生物の撃退に刀が重宝されている平行世界だった

竹井ゴールド
キャラ文芸
 オレこと柊(ひいらぎ)誠(まこと)は夢の中でもう一人のオレに泣き付かれて、余りの泣き言にうんざりして同意するとーー  平行世界のオレと入れ替わってしまった。  平行世界は宇宙より外敵宇宙生物、通称、コスモアネモニー(宇宙イソギンチャク)が跋扈する世界で、その対策として日本刀が重宝されており、剣道の実力、今(いま)総司のオレにとってはかなり楽しい世界だった。

処理中です...