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9匹の猫なのニャ
第19話 恩猫神社なのニャ
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獣看護師は、タマの体をなでています。
タマは、猫なで声で喜んでいます。
「はい、大丈夫ですよ~」
『なでられて気持ちいいのニャ~』
その後、アフロヘアでサングラスをかけた、どう見てもどこかのダンサーにしか見えない獣医の先生が現れました。
……父の友人と聞いていましたが……わたしは、ちょっとだけ父の友人関係に不安を感じました。
獣医は、注射針を持って、タマの後ろからゆっくりと近付きます。
後ろ足をさっと抑え、電光石火で注射針を刺しました。
『ンニャアアアアアアアアアアアア!』
病院中に、タマの声が響き渡りました。
まるで、断末魔の叫びです。
「あ、ちょっと痛かったかな……よしよし、そこで休んでていいよ」
獣医は、タマの頭を褒めるようになでました。
お注射完了です。
『ぼく……どうなっちゃうのニャ?』
「あとでおいしい高級猫缶食べさせてあげるからね」
『ふ……不安なのニャ~』
初めての注射です。でも、よく頑張りました。
タマの注射が終わったので、次の猫を呼びに行きます。
扉を開けると……
椅子に座っていた残りの猫たちは、こちらにお尻を向けてうずくまり、ガタガタと震えていました。
先ほどのタマの叫び声で恐怖を感じたのでしょうか。
これが本当の頭隠して尻隠さずです。今なら簡単に注射が打てるかもしれません。
そんなこんなで、他の猫たちも恐怖を味わいながら、無事、予防接種の儀式を通過しました。
院長にあいさつをして、ロッジの病院を出ます。
今日は、約束通り、猫たちに高級猫缶を振る舞うつもりです。
路地を下りていくと、一台の車が上ってきます。
リムジンです。狭い道をゆっくりと走っています。
道幅がぎりぎりです。どうやってすれ違ったりUターンするのでしょうか。
すれ違いざまに、中に乗っている人の顔をのぞいてみました。
すると、見覚えのある顔がありました。
富松あかねです。
猫たちと一緒でした。そして、後ろの座席に、大きなカプセルのようなものが乗っていました。
いったい、何の道具なのでしょう。
そのとき、富松あかねの言っていた言葉を思い出しました。
「恩猫神社……」
この先に、猫を祭った神社があります。
昔、一度だけ母と一緒に見に行った記憶がありました。
母はその時、ここの神社の話をしていたような気がします。
内容は……
《
猫を拾った少女がいました。
その少女は猫が大好きだったので家で飼うことに決めました。
ある日、隣に住んでいたおばあさんが言いました。
「猫を外へ出すな! うちの畑を荒らしてるのはお前の猫だろ」と。
その少女は謝りました。そして、猫を家から出さないようにして飼うことにしました。
ある時、少女は家の戸を開けっ放しにしていました。
すると、少女の猫は、開けっ放しの戸から飛び出しました。
すぐに帰ってくるだろうと思い、少女は戸を開けて待っていました。
ですが、帰ってくる気配がありません。
日が暮れる頃でした。猫が帰ってきました。
けれども様子が変です。よたよたと歩いています。
少女は、慌てて猫に駆け寄りました。
よく見ると、少女の猫は、自慢の髭を切られて苦しそうに泡を吹いていました……
》
その後の話はよく思い出せませんが、おそらくその猫は、隣のおばあさんに毒殺されてしまったのでしょう。そのかわいそうな猫の魂を祭った場所のように聞かされていた気がします。
母はそう言っていましたが、父は、粗末に扱われ、悲惨な死を遂げてしまった猫にたたられないように供養するための場所だとも言っていました。
一説によれば、恩猫神社は、怨猫神社と言われていたともいいます。
怨念という言葉を嫌った誰かが、名前を変えたとか。
どれが正しいのかは別として、きちんと祭られているのであれば、安心です。
だから、そのお礼として願いを叶えてくれるのだと思います。
なぜ、9匹集めなければならないのかはわかりませんが、今のわたしだと、6匹しかいないので、3匹足りないことになります。
したがって、わたしは願いを叶えることができません。
適当に見つけても良いのでしょうか。
────そうであれば、ココアとウメと……もう1匹はギンが帰ってくれば……もしくは、東の縄張りにいたダイでも……
こればかりは、試してみなければわかりません。
(わたしも、9匹そろえようかな……)
それにしても、あの大きなカプセルがいったい何なのかが気になります。
わたしは、富松あかねに見つからない様に、猫たちを連れてゆっくり走る車の後を追いました。
──数分後。
恩猫神社につきました。小さな社を中心として、それを取り囲むように樹木が乱立しています。
その樹木をつないで社を囲むようにしめ縄が張られていました。
枯れたふさふさした雑草が、風で揺れています。手入れはされていません。
所々に積まれた石がありますが、おそらく、猫の墓でしょう。
なんだか、この場所は空気が重苦しいです。怨念のようなものを感じます。
恩猫神社に着くと、リムジンから、三人の黒スーツの男が降りてきました。そして、後ろの座席からカプセルを出しました。
カプセルは、結構大きいです。人が一人入れるぐらいの大きさがあります。
そして、ゆっくりと富松あかねが車から降りました。続いて、猫たちも降りてきます。富松あかねに最初に会った時に目にした猫たちです。
数は、9匹いました。一匹増えたようです。
よく見ると、その一匹は、わたしたちがよく知っている猫…………
銀色に光る毛並みを持つコラット。さすらい猫のギンでした。
タマは、猫なで声で喜んでいます。
「はい、大丈夫ですよ~」
『なでられて気持ちいいのニャ~』
その後、アフロヘアでサングラスをかけた、どう見てもどこかのダンサーにしか見えない獣医の先生が現れました。
……父の友人と聞いていましたが……わたしは、ちょっとだけ父の友人関係に不安を感じました。
獣医は、注射針を持って、タマの後ろからゆっくりと近付きます。
後ろ足をさっと抑え、電光石火で注射針を刺しました。
『ンニャアアアアアアアアアアアア!』
病院中に、タマの声が響き渡りました。
まるで、断末魔の叫びです。
「あ、ちょっと痛かったかな……よしよし、そこで休んでていいよ」
獣医は、タマの頭を褒めるようになでました。
お注射完了です。
『ぼく……どうなっちゃうのニャ?』
「あとでおいしい高級猫缶食べさせてあげるからね」
『ふ……不安なのニャ~』
初めての注射です。でも、よく頑張りました。
タマの注射が終わったので、次の猫を呼びに行きます。
扉を開けると……
椅子に座っていた残りの猫たちは、こちらにお尻を向けてうずくまり、ガタガタと震えていました。
先ほどのタマの叫び声で恐怖を感じたのでしょうか。
これが本当の頭隠して尻隠さずです。今なら簡単に注射が打てるかもしれません。
そんなこんなで、他の猫たちも恐怖を味わいながら、無事、予防接種の儀式を通過しました。
院長にあいさつをして、ロッジの病院を出ます。
今日は、約束通り、猫たちに高級猫缶を振る舞うつもりです。
路地を下りていくと、一台の車が上ってきます。
リムジンです。狭い道をゆっくりと走っています。
道幅がぎりぎりです。どうやってすれ違ったりUターンするのでしょうか。
すれ違いざまに、中に乗っている人の顔をのぞいてみました。
すると、見覚えのある顔がありました。
富松あかねです。
猫たちと一緒でした。そして、後ろの座席に、大きなカプセルのようなものが乗っていました。
いったい、何の道具なのでしょう。
そのとき、富松あかねの言っていた言葉を思い出しました。
「恩猫神社……」
この先に、猫を祭った神社があります。
昔、一度だけ母と一緒に見に行った記憶がありました。
母はその時、ここの神社の話をしていたような気がします。
内容は……
《
猫を拾った少女がいました。
その少女は猫が大好きだったので家で飼うことに決めました。
ある日、隣に住んでいたおばあさんが言いました。
「猫を外へ出すな! うちの畑を荒らしてるのはお前の猫だろ」と。
その少女は謝りました。そして、猫を家から出さないようにして飼うことにしました。
ある時、少女は家の戸を開けっ放しにしていました。
すると、少女の猫は、開けっ放しの戸から飛び出しました。
すぐに帰ってくるだろうと思い、少女は戸を開けて待っていました。
ですが、帰ってくる気配がありません。
日が暮れる頃でした。猫が帰ってきました。
けれども様子が変です。よたよたと歩いています。
少女は、慌てて猫に駆け寄りました。
よく見ると、少女の猫は、自慢の髭を切られて苦しそうに泡を吹いていました……
》
その後の話はよく思い出せませんが、おそらくその猫は、隣のおばあさんに毒殺されてしまったのでしょう。そのかわいそうな猫の魂を祭った場所のように聞かされていた気がします。
母はそう言っていましたが、父は、粗末に扱われ、悲惨な死を遂げてしまった猫にたたられないように供養するための場所だとも言っていました。
一説によれば、恩猫神社は、怨猫神社と言われていたともいいます。
怨念という言葉を嫌った誰かが、名前を変えたとか。
どれが正しいのかは別として、きちんと祭られているのであれば、安心です。
だから、そのお礼として願いを叶えてくれるのだと思います。
なぜ、9匹集めなければならないのかはわかりませんが、今のわたしだと、6匹しかいないので、3匹足りないことになります。
したがって、わたしは願いを叶えることができません。
適当に見つけても良いのでしょうか。
────そうであれば、ココアとウメと……もう1匹はギンが帰ってくれば……もしくは、東の縄張りにいたダイでも……
こればかりは、試してみなければわかりません。
(わたしも、9匹そろえようかな……)
それにしても、あの大きなカプセルがいったい何なのかが気になります。
わたしは、富松あかねに見つからない様に、猫たちを連れてゆっくり走る車の後を追いました。
──数分後。
恩猫神社につきました。小さな社を中心として、それを取り囲むように樹木が乱立しています。
その樹木をつないで社を囲むようにしめ縄が張られていました。
枯れたふさふさした雑草が、風で揺れています。手入れはされていません。
所々に積まれた石がありますが、おそらく、猫の墓でしょう。
なんだか、この場所は空気が重苦しいです。怨念のようなものを感じます。
恩猫神社に着くと、リムジンから、三人の黒スーツの男が降りてきました。そして、後ろの座席からカプセルを出しました。
カプセルは、結構大きいです。人が一人入れるぐらいの大きさがあります。
そして、ゆっくりと富松あかねが車から降りました。続いて、猫たちも降りてきます。富松あかねに最初に会った時に目にした猫たちです。
数は、9匹いました。一匹増えたようです。
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