もし猫カフェのスタッフが猫と会話することができたら

マイきぃ

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9匹の猫なのニャ

第18話 お注射なのニャ

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 11月に入りました。樹木の葉も色を変え始め、少し肌寒いです。

 今日もお店を開け、お客様を待ちます。
 にゃんこショーをやった日から一週間ぐらいは、お客様が少し増えたのですが、それ以降はいつもと一緒です。
 やはり、わたしには集客の才能はないのでしょうか。ため息が出ます。
 でも、あまり気にしないことにします。

 そういえば、やりたいことがあったのを思い出しました。
 昔から料理が好きだった私は、よくナポリタンを作っていました。
 トマトソースをふんだんに使って、ヘルシーかつ豪快なナポリタンが大好きでした。

 小さめの短冊に切った、ベーコン、玉ねぎ、ピーマン、ニンジン。
 塩コショウでバター炒め。
 パスタを入れてケチャップで色をつけて、出来上がったらオリーブオイルをサラっとかけて出来上がり。
 ベーコンのうまみが炸裂し、玉ねぎと人参の甘みが味をまろやかにし、ピーマンの苦みが大人の味を引き出します。

 しかし、ナポリタンは不思議な食べ物です。
 ナポリタンなのにイタリア料理ではありません。
 なぜか、日本人が作ってしまったのですから驚きです。

 食べるときはもちろん、粉チーズとタバスコをふんだんに使うことによって、最高の味になります。
 一口食べたらもう止まりません。

 本当は、それを作りたくて調理師の資格を取ったのですが、有効活用していません。欲を出して安易に猫カフェに手を出してしまったせいかもしれません。
 わたしの本当にやりたかったこと。それは、おいしいナポリタンのある喫茶店です。
 一時の感情で、別なことをしてしまいましたが、まだ修正可能です。
 幸い、うちのお店は普通の喫茶店スペースがあるので、猫カフェと一緒でも衛生的に問題ありません。
 早く、料理を作ってお客様に出してみたいです。
 この暇な時期を利用して、少しでもナポリタンの研究をしておこうと思います。

 最近、町では、マスクをつけている人が増えてきました。なにやら、インフルエンザが流行の兆しを見せ始めているとかいないとか。
 サンドイッチの食材を買いに行くと、買い物客は、ほぼマスク一色です。人混みは注意しないといけません。風邪は引きたくないですからね。

 それと……

 インフルエンザで思い出しました。
 猫たちに予防接種をしなければいけません。
 病気にかかったら大変です。もしもお客様に感染するような病気だったらそれこそ大変です。
 だから、前もって防ぐのです。

「みんな、集合~」
『『何ニャ? 何ニャ?』』

 何も知らない猫たちが集まってきました。

「今日は、みんなでお出かけします」
『どこにいくのニャ?』
「楽しい所です」
『楽しみなのニャ』

 タマは、何の疑いもしませんでした。
 猫たちは、きっとわたしを信じてついてきてくれるでしょう。

「帰ったら、高級猫缶出すわね」
『はいなのニャ!』

『お出かけの後に高級猫缶だと……』
『おいしいもの食べれるニャ~』
『何か、ありそうな気がしますね』
『今日も、ロックな一日になりそうな予感がするぜい』
『…………』

 サクラが、何か気付いたそぶりで震えていました。
 どうやら、勘がいいようです。おそらく、予防接種を受けたことがあるのでしょう。
 なので、ちょっと釘を刺しておきます。

「サクラちゃん。これは、内緒にしておいてね」
『は……はい……』

 サクラは、素直で良い子でした。
 さあ、出発です。

 一時間ほど歩いて市街地を抜け、駅から北上して山林地帯に入ります。
 舗装された坂道を上ると、途中にロッジのような建物を見つけました。目的地です。
 そこは、最近建てられたもので、父の友人が院長を務めている動物病院です。

 しゃれたロッジの扉を開け、中に入って受付に行きます。

「こんにちは、どうしました?」
「今日予約した、三日月です」
「はい。……確認しました。では、こちらでおまちください」
 受付の獣看護師さんが、待合室へと案内してくれました。
 わたしは猫たちを連れて、待合室に入ります。

 待合室で座っていた別のお客が獣看護師に案内され、犬を連れて奥の部屋へと行きます。
 犬は、茶色のフワフワなトイプードルでした。飼い主に甘えています。
 その後、扉が閉まり、姿が見えなくなりました。

 わたしは、猫たちを行儀よく、順番に椅子の上に座らせます。
 先ほどの獣看護師が戻ってきました。獣看護師は、この猫の規律ある光景を見て驚きます。

「へえ~慣れてるわね~。騒ぐ子が多いのに」
「いえいえ、わたしの家は猫カフェなので……」
「あら、ぜひ行ってみたいわね」
「どうぞ、来てください。歓迎しますよ」

 あまり根拠がありませんが、そういう事にしておきます。
 大人しいのは良いことです。
 もし、この猫たちが騒いだり逃走したりしたとしても、もう待合室の入り口のドアは開きません。
 袋の鼠……いや、袋の猫です。注射を受けなければ出られません。

『うめき声が聞こえるのニャ……』
『なにか、恐ろしいものでもいるのか』
『た……食べられちゃうのかニャ~』
『鼻を突く臭いがするですニャ』
『みんな、どうした? 明るくいこうぜい』
『…………』

 どうやら、猫たちは異変に気付いたようです。
 うめき声を上げたのは、さっきのトイプードルでしょう。
 奥の扉の向こうから聞こえる幸せそうな犬の鳴き声は、突然、悲鳴に変わります。
 さすがに犬の言葉はわかりませんが、雰囲気は伝わります。

 奥の扉が開きます。

「じゃあタマちゃん。どうぞ」

 順番がきました。タマは、獣看護師に抱えられ、優しくなでられながら扉の奥へといざなわれます。

『い、いってくるのニャ!』

 そして、扉が閉まりました。
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