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ショータイムなのニャ
第15話 説得なのニャ
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ボブは、洗面器の中から動こうとしません。
しょうがないので、洗面器をゆっくり倒し、外に出します。
すると、キャットスペースの角の方へと逃げて、また丸くなります。
「芸をするのは嫌なの?」
『おいらが、あんなことをやったら、きっと、足手まといになる。それで、みんなに迷惑をかけるのニャ~』
ボブは、自信のない声でつぶやいていました。
どうやら、自信を失っていたようです。
何が原因で自信を失ったのかがわかれば対処できるのですが、今のところ不明です。
わからないものは仕方ありません。
なので、丸まっているボブの背中をさすりながら励ましてみることにしました。
「迷惑をかけるかどうかなんて、やってみなくちゃわからないよ」
『おいらが失敗したら……取り返しの付かないことになるのニャ~』
ネガティブに物事を考えてしまっているようです。
たしかに、ボブは、他の猫たちより運動神経が劣ります。
それに加えて体重が7キログラムもあり、太っています。
それを自覚しているせいで、引け目を感じてしまっているのかもしれません。
説得できるかはわからないですが、話すだけ話してみようと思います。
「わたしはね、あなたたちには無理をお願いするかもしれないけれど、できないことは決してやらせたりはしません」
『本当に?』
「本当です。でもね、できることがあるのに、やらないのはもったいないと思うの。時間なんてあっという間に過ぎて、気がつけばもうお年寄り。生き物なんて、そんなもの。だからね、生きているうちに精一杯できることをするの。人生は一度きり、それは猫だって同じ」
死んだ母の言葉の受け売りです。
『できる……こと?』
「たしかにボブは、走るのは遅いし、食べてばかりだし、いいところは一つもないように思えるけど、そうじゃないの。走るのが遅くても、力はあるでしょ。それに、太っているおかげで体はふわふわだし。そのふわふわでいつもうちに来てくれたお客様を癒やしてあげてるじゃない。猫にだって得手不得手はあって当然なの。もちろんわたしにだって……あるわ」
『あるの?』
「と……ともかく。今はなんでもできるように、基礎力をしっかりつけるの。そうすれば、安心して任せられるから」
『本当に?』
「ボブならやれます」
ボブの目は、死んだ魚の目から生き生きとした目に変わりました。
励ましてみるものです。
『じゃあ、おいらも体が半分になったりくっついたり、ナイフで刺されても平気だったり、瞬間移動できたりするのかな』
「それは無理だけど、大丈夫よ(どこからそんな発想が……)」
そう言うとまた、目を輝かせ始めたボブは、しょんぼりとしてしまいました。
難しい年ごろなのでしょうか。
そういえば、公園でタマたちがおかしなことを言っていたのを思い出しました。
今、ボブが話したことは、それと似ているような気がします。
いったいこれは……。
………………………………!
……心当たりを見つけました。
「ちょっと待ってね」
『はいにゃ~』
わたしは、奥の階段を上って部屋に戻りました。
そして、すぐに昨日見ていた「にゃんこ大サーカス」のDVDをデッキに入れて再生し、最後の特典映像を視聴し始めます。
『どうしたんですか、マスター』
まだ眠そうな顔のサクラが、わたしの布団からひょこっと出てきました。
音を立ててしまったので、寝ている所を起こしてしまったようです。
今回、サクラはショーには出せません。なので、自宅待機です。
まだ、体が小さいこともありますし、お店の仕事は、まだ覚えることが沢山あります。
仕事をしっかりこなせないうちに人気が出てしまっては、大変です。
「サクラも見る?」
『はい、見てみたいです』
わたしは、サクラと一緒に特典映像の猫のマジックショーを見ました。
そこでは、猫がギロチンにかけられたり、胴体が真っ二つになって、またくっついたり、猫が入った箱にナイフをいっぱい刺されたり、厳重に縛られた猫が、箱詰めされたあげく爆破され、瞬間移動で助かったりという、派手なマジックショーでした。
『これ……ちょっと怖い……』
サクラは、それを見て怖がってしまいました。
「これは、トリックだから、本当に体が切断されたり、串刺しになったりはしてないのよ」
『そ……そうなんだ……よかった……』
トリックのことを教えてあげると、サクラは安心しました。
──やはり、これを見たから……。
猫たちにトラウマを植え付けたのは、他でもないこのわたしでした。
注意が足りなかったようです。
ですが、わたしの話を聞いていなかった猫たちも悪いです。
そうです、わたしだけが悪いわけではありません。
なので、わたしのミスはなかったことにします。
キャットスペースにいるボブに、もう一度話しかけてみました。
「ボブ、DVDの最後の方にあったショーはやらないから安心してね」
『そ、そうなんだ……良かった! おいら、頑張れる気がするニャ~!』
ボブは、今の一言でやる気を取り戻したようです。
気が付けば、簡単な事でした。
ですが、その些細なことに気付かなければ、大きな誤解を生んだままになっていたかもしれません。
無事、ボブを公園に連れてくることができました。
これで、演技の練習ができます。
各自、役割を決め、動きを教えたら、あとは反復練習です。
「わたしも、鍛えなくっちゃ……」
一応、わたしもとっておきの技を考えました。
その技は、簡単にできますが、その代償として筋力を必要とします。
ちょっと二の腕が太くなりそうで怖いのですが、筋力が欲しいので、腕立てや懸垂をして力をつけることにしました。
そんなこんなで朝の特訓は続き、一週間後、公演準備が整いました。
会場は、駅付近にある早苗のバイトしているペットショップの駐車場です。
さあ、始めましょう。猫と人間の華麗なる幻想!
しょうがないので、洗面器をゆっくり倒し、外に出します。
すると、キャットスペースの角の方へと逃げて、また丸くなります。
「芸をするのは嫌なの?」
『おいらが、あんなことをやったら、きっと、足手まといになる。それで、みんなに迷惑をかけるのニャ~』
ボブは、自信のない声でつぶやいていました。
どうやら、自信を失っていたようです。
何が原因で自信を失ったのかがわかれば対処できるのですが、今のところ不明です。
わからないものは仕方ありません。
なので、丸まっているボブの背中をさすりながら励ましてみることにしました。
「迷惑をかけるかどうかなんて、やってみなくちゃわからないよ」
『おいらが失敗したら……取り返しの付かないことになるのニャ~』
ネガティブに物事を考えてしまっているようです。
たしかに、ボブは、他の猫たちより運動神経が劣ります。
それに加えて体重が7キログラムもあり、太っています。
それを自覚しているせいで、引け目を感じてしまっているのかもしれません。
説得できるかはわからないですが、話すだけ話してみようと思います。
「わたしはね、あなたたちには無理をお願いするかもしれないけれど、できないことは決してやらせたりはしません」
『本当に?』
「本当です。でもね、できることがあるのに、やらないのはもったいないと思うの。時間なんてあっという間に過ぎて、気がつけばもうお年寄り。生き物なんて、そんなもの。だからね、生きているうちに精一杯できることをするの。人生は一度きり、それは猫だって同じ」
死んだ母の言葉の受け売りです。
『できる……こと?』
「たしかにボブは、走るのは遅いし、食べてばかりだし、いいところは一つもないように思えるけど、そうじゃないの。走るのが遅くても、力はあるでしょ。それに、太っているおかげで体はふわふわだし。そのふわふわでいつもうちに来てくれたお客様を癒やしてあげてるじゃない。猫にだって得手不得手はあって当然なの。もちろんわたしにだって……あるわ」
『あるの?』
「と……ともかく。今はなんでもできるように、基礎力をしっかりつけるの。そうすれば、安心して任せられるから」
『本当に?』
「ボブならやれます」
ボブの目は、死んだ魚の目から生き生きとした目に変わりました。
励ましてみるものです。
『じゃあ、おいらも体が半分になったりくっついたり、ナイフで刺されても平気だったり、瞬間移動できたりするのかな』
「それは無理だけど、大丈夫よ(どこからそんな発想が……)」
そう言うとまた、目を輝かせ始めたボブは、しょんぼりとしてしまいました。
難しい年ごろなのでしょうか。
そういえば、公園でタマたちがおかしなことを言っていたのを思い出しました。
今、ボブが話したことは、それと似ているような気がします。
いったいこれは……。
………………………………!
……心当たりを見つけました。
「ちょっと待ってね」
『はいにゃ~』
わたしは、奥の階段を上って部屋に戻りました。
そして、すぐに昨日見ていた「にゃんこ大サーカス」のDVDをデッキに入れて再生し、最後の特典映像を視聴し始めます。
『どうしたんですか、マスター』
まだ眠そうな顔のサクラが、わたしの布団からひょこっと出てきました。
音を立ててしまったので、寝ている所を起こしてしまったようです。
今回、サクラはショーには出せません。なので、自宅待機です。
まだ、体が小さいこともありますし、お店の仕事は、まだ覚えることが沢山あります。
仕事をしっかりこなせないうちに人気が出てしまっては、大変です。
「サクラも見る?」
『はい、見てみたいです』
わたしは、サクラと一緒に特典映像の猫のマジックショーを見ました。
そこでは、猫がギロチンにかけられたり、胴体が真っ二つになって、またくっついたり、猫が入った箱にナイフをいっぱい刺されたり、厳重に縛られた猫が、箱詰めされたあげく爆破され、瞬間移動で助かったりという、派手なマジックショーでした。
『これ……ちょっと怖い……』
サクラは、それを見て怖がってしまいました。
「これは、トリックだから、本当に体が切断されたり、串刺しになったりはしてないのよ」
『そ……そうなんだ……よかった……』
トリックのことを教えてあげると、サクラは安心しました。
──やはり、これを見たから……。
猫たちにトラウマを植え付けたのは、他でもないこのわたしでした。
注意が足りなかったようです。
ですが、わたしの話を聞いていなかった猫たちも悪いです。
そうです、わたしだけが悪いわけではありません。
なので、わたしのミスはなかったことにします。
キャットスペースにいるボブに、もう一度話しかけてみました。
「ボブ、DVDの最後の方にあったショーはやらないから安心してね」
『そ、そうなんだ……良かった! おいら、頑張れる気がするニャ~!』
ボブは、今の一言でやる気を取り戻したようです。
気が付けば、簡単な事でした。
ですが、その些細なことに気付かなければ、大きな誤解を生んだままになっていたかもしれません。
無事、ボブを公園に連れてくることができました。
これで、演技の練習ができます。
各自、役割を決め、動きを教えたら、あとは反復練習です。
「わたしも、鍛えなくっちゃ……」
一応、わたしもとっておきの技を考えました。
その技は、簡単にできますが、その代償として筋力を必要とします。
ちょっと二の腕が太くなりそうで怖いのですが、筋力が欲しいので、腕立てや懸垂をして力をつけることにしました。
そんなこんなで朝の特訓は続き、一週間後、公演準備が整いました。
会場は、駅付近にある早苗のバイトしているペットショップの駐車場です。
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