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家出猫探しなのニャ
第11話 報酬なのニャ
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2匹の猫は、わたしたちに気づいて振り返ります。
『サクラ、逃げるぞ』
『う……うん……』
「ちょっとまって!」
2匹の猫たちの動きが止まります。
『な……話せるのか……』
「はい。なぜかは知らないけど、わたしは話せる人間です。あなたがギンね。そして、そっちがサクラ」
すると、サクラは恥ずかしそうに答えました。
『はい……わたしがサクラです』
『見逃してくれないか。おれたちは、ここを出たいんだ』
ギンは、真剣な目で、サクラをかばおうとします。
──やはり、駆け落ちですか……。
「話を聞かせてください。それから考えます(もちろん、考えは決まっていますが)」
『なら、話は早い! このサクラは、飼い主が見捨てたんだ』
「見捨てた?」
いったいどういう事でしょう。飼い主は富松めぐみ。捜索依頼に50万の大金をポンと出すような人です。
見捨てるということはないと思いたいですが、もし、その50万が富松めぐみにとって、ただのはした金だったとすれば、その可能性も否定できません。
サクラが、恐る恐る話し始めました。
『わ……わたしが……話すね……。最初のころは、わたしはマスターに普通にかわいがられてたんだけど、最近うちにやってきた犬のチワワの「クッキー」がマスターに気に入られて、それから相手にされなくなっちゃったの』
「チワワ……ですか。それはそれとして、サクラちゃんの生活は大丈夫だったのかな?」
『餌はもらえるんだけど……家にずっと閉じ込められて……マスターはクッキーと遊んでばかり……わたし、忘れられちゃったのかも……』
「なるほど。続けて」
(最近ですか……なら、一時的なものかもしれません。そうあってほしいですけど……)
『はい。そんな時、家の窓越しにギンに出会い。外の世界へ行きたくて、窓から飛び出したんです』
『サクラはここにいてはいけない! おれたちの一生は短いんだ。もっと外の世界を見て回ったっていいはずだ!』
急にギンが熱く語り始めました。
たしかに、猫の一生は人間より短いです。時間は大切にしなければなりません。
けれども、飛び出したところで野良猫と飼い猫では、住む世界が違います。
お姫様をスラム街で生活させるようなものです。
そんなリスクを、このギンはわかっているのでしょうか。
『その時、おれはサクラを守ると誓った。そして、おれたちはこの地を出て、猫の楽園「キャットアイランド」を目指すことにしたんだ。この長い橋を渡りきれば、楽園だ!』
「キャットアイランド? (もしかして、人工島のこと?)」
このポートライナーの先には、人工島があります。
おそらく、その島のことでしょう。
一時期、猫の繁殖によって島民が苦情を出していたことがありました。
今は、あまり聞かれなくなりましたが……楽園といえる場所なのでしょうか。
今度は、その話を聞いていたレンが口をはさみました。ギンと言い合いになります。
『「キャットアイランド」が猫の楽園? ばか言っちゃいけないぜ。それは昔の話さ』
『昔の話? なぜそんなことがわかる』
『おれは昔、そこにいたからさ』
──初耳です。
『たしかに昔、そこは楽園だったぜい。しかし、猫は増えすぎ、縄張り争いが激化したんだぜい。その後、タマとトラと出会い、地獄のような日々を生き延び、ここへとたどり着いたんだぜい』
タマ、トラ、レンは、同じところで育った。ということなのでしょうか。
『そんなばかな! ずっとおれは楽園と信じてここまでやってきたんだ! いや、そうでなくてはならない!』
『おれも、そんな生き方は嫌いじゃないぜい。でも、お前だけならそれもいい。サクラはどうするんだぜい』
『サクラ……』
『わたし……な、なんでもします……つらい事でも乗り越えます』
『レディー。そんな生易しいものじゃないぜい』
ギンは考え込んでいます。レンの一言が効いたようです。
『サクラ……おれは、ちょっと調子に乗りすぎたのかもしれない』
『そんな……ギンさん……』
どうやら、説得できたようです。
『わかった。考えなしに動いたおれが間違っていた。けど、これからサクラはどうすればいいんだ? もちろん、いい案はあるんだろうな』
「そのことなんだけど、一度、富松めぐみさんの所へもどってほしいの。(もちろん、報酬はもらわないとね)もし、それでも駄目なようなら、抜け出しても構わないです。その時は、わたしの所で条件付きで保護してあげます」
『そうか……その条件付きってのは気になるが、信用していいんだな』
『大丈夫だぜい。うちのマスターは信用していいと思うぜい』
『恩に着る』
こうしてわたしは、サクラを保護し、タマたちと合流して自宅へと帰宅するのでした。
「ただいま~」
機嫌よくあいさつをします。すると、父がお出迎えです。
「おかえり~ほのか。ちょうど良かった。富松さんがいらっしゃってる」
「富松さん? こっちも、ちょうど良かったかも」
残りの30万ゲットです。依頼達成です。
「かわいいわね~ロズちゃん。あ~かわいいかわいい」
『ああ、やめて、やめてぇ~』
ロズが、富松めぐみにほおずりされています。
接客ご苦労様です。
わたしは、サクラを依頼主へと差し出します。
「見つけましたよ。富松さん」
「あ、あら……見つけちゃったの。早いわね……じゃあこれ、30万」
富松めぐみは、懐からお金を取り出します。依頼料の20万とは、また厚みが違います。
「あ、ありがとうございます!」
念願の達成報酬をいただきました。
でも、なんだかそっけない態度でした。
まるで見つけてこなかった方がよかったみたいです。
それでも、サクラを軽く抱えてほおずりしながら、喜んでいました。
ちょっとニヤニヤしているのが気になりますが……。
その後、富松めぐみは、ロズを大事になでながら、うれしそうに話しかけてきました。
「ねえ、ほのかさん。相談があるんだけど」
「何でしょう(またお金がもらえる話でしょうか)」
「このロズちゃん。わたしに50万で譲ってくれないかしら。なんなら、このサクラもつけるわよ」
富松めぐみの懐から、またも分厚い札束が出てきました。
新品の札束です。ものすごいオーラを感じます。
──ロズが……50万!?
『サクラ、逃げるぞ』
『う……うん……』
「ちょっとまって!」
2匹の猫たちの動きが止まります。
『な……話せるのか……』
「はい。なぜかは知らないけど、わたしは話せる人間です。あなたがギンね。そして、そっちがサクラ」
すると、サクラは恥ずかしそうに答えました。
『はい……わたしがサクラです』
『見逃してくれないか。おれたちは、ここを出たいんだ』
ギンは、真剣な目で、サクラをかばおうとします。
──やはり、駆け落ちですか……。
「話を聞かせてください。それから考えます(もちろん、考えは決まっていますが)」
『なら、話は早い! このサクラは、飼い主が見捨てたんだ』
「見捨てた?」
いったいどういう事でしょう。飼い主は富松めぐみ。捜索依頼に50万の大金をポンと出すような人です。
見捨てるということはないと思いたいですが、もし、その50万が富松めぐみにとって、ただのはした金だったとすれば、その可能性も否定できません。
サクラが、恐る恐る話し始めました。
『わ……わたしが……話すね……。最初のころは、わたしはマスターに普通にかわいがられてたんだけど、最近うちにやってきた犬のチワワの「クッキー」がマスターに気に入られて、それから相手にされなくなっちゃったの』
「チワワ……ですか。それはそれとして、サクラちゃんの生活は大丈夫だったのかな?」
『餌はもらえるんだけど……家にずっと閉じ込められて……マスターはクッキーと遊んでばかり……わたし、忘れられちゃったのかも……』
「なるほど。続けて」
(最近ですか……なら、一時的なものかもしれません。そうあってほしいですけど……)
『はい。そんな時、家の窓越しにギンに出会い。外の世界へ行きたくて、窓から飛び出したんです』
『サクラはここにいてはいけない! おれたちの一生は短いんだ。もっと外の世界を見て回ったっていいはずだ!』
急にギンが熱く語り始めました。
たしかに、猫の一生は人間より短いです。時間は大切にしなければなりません。
けれども、飛び出したところで野良猫と飼い猫では、住む世界が違います。
お姫様をスラム街で生活させるようなものです。
そんなリスクを、このギンはわかっているのでしょうか。
『その時、おれはサクラを守ると誓った。そして、おれたちはこの地を出て、猫の楽園「キャットアイランド」を目指すことにしたんだ。この長い橋を渡りきれば、楽園だ!』
「キャットアイランド? (もしかして、人工島のこと?)」
このポートライナーの先には、人工島があります。
おそらく、その島のことでしょう。
一時期、猫の繁殖によって島民が苦情を出していたことがありました。
今は、あまり聞かれなくなりましたが……楽園といえる場所なのでしょうか。
今度は、その話を聞いていたレンが口をはさみました。ギンと言い合いになります。
『「キャットアイランド」が猫の楽園? ばか言っちゃいけないぜ。それは昔の話さ』
『昔の話? なぜそんなことがわかる』
『おれは昔、そこにいたからさ』
──初耳です。
『たしかに昔、そこは楽園だったぜい。しかし、猫は増えすぎ、縄張り争いが激化したんだぜい。その後、タマとトラと出会い、地獄のような日々を生き延び、ここへとたどり着いたんだぜい』
タマ、トラ、レンは、同じところで育った。ということなのでしょうか。
『そんなばかな! ずっとおれは楽園と信じてここまでやってきたんだ! いや、そうでなくてはならない!』
『おれも、そんな生き方は嫌いじゃないぜい。でも、お前だけならそれもいい。サクラはどうするんだぜい』
『サクラ……』
『わたし……な、なんでもします……つらい事でも乗り越えます』
『レディー。そんな生易しいものじゃないぜい』
ギンは考え込んでいます。レンの一言が効いたようです。
『サクラ……おれは、ちょっと調子に乗りすぎたのかもしれない』
『そんな……ギンさん……』
どうやら、説得できたようです。
『わかった。考えなしに動いたおれが間違っていた。けど、これからサクラはどうすればいいんだ? もちろん、いい案はあるんだろうな』
「そのことなんだけど、一度、富松めぐみさんの所へもどってほしいの。(もちろん、報酬はもらわないとね)もし、それでも駄目なようなら、抜け出しても構わないです。その時は、わたしの所で条件付きで保護してあげます」
『そうか……その条件付きってのは気になるが、信用していいんだな』
『大丈夫だぜい。うちのマスターは信用していいと思うぜい』
『恩に着る』
こうしてわたしは、サクラを保護し、タマたちと合流して自宅へと帰宅するのでした。
「ただいま~」
機嫌よくあいさつをします。すると、父がお出迎えです。
「おかえり~ほのか。ちょうど良かった。富松さんがいらっしゃってる」
「富松さん? こっちも、ちょうど良かったかも」
残りの30万ゲットです。依頼達成です。
「かわいいわね~ロズちゃん。あ~かわいいかわいい」
『ああ、やめて、やめてぇ~』
ロズが、富松めぐみにほおずりされています。
接客ご苦労様です。
わたしは、サクラを依頼主へと差し出します。
「見つけましたよ。富松さん」
「あ、あら……見つけちゃったの。早いわね……じゃあこれ、30万」
富松めぐみは、懐からお金を取り出します。依頼料の20万とは、また厚みが違います。
「あ、ありがとうございます!」
念願の達成報酬をいただきました。
でも、なんだかそっけない態度でした。
まるで見つけてこなかった方がよかったみたいです。
それでも、サクラを軽く抱えてほおずりしながら、喜んでいました。
ちょっとニヤニヤしているのが気になりますが……。
その後、富松めぐみは、ロズを大事になでながら、うれしそうに話しかけてきました。
「ねえ、ほのかさん。相談があるんだけど」
「何でしょう(またお金がもらえる話でしょうか)」
「このロズちゃん。わたしに50万で譲ってくれないかしら。なんなら、このサクラもつけるわよ」
富松めぐみの懐から、またも分厚い札束が出てきました。
新品の札束です。ものすごいオーラを感じます。
──ロズが……50万!?
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