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家出猫探しなのニャ
第10話 手掛かりなのニャ
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タマに案内をしてもらい、この地域のボスの所へ向かいました。
向かった先は、ほとんど人けのない廃墟のビルでした。俗に言う廃ビルです。
入口の割れたガラスに気をつけながら、中へと入ります。
中はちょっと臭いますが、まだ新しさを感じる建物です。
『ダイ、顔を見せるのニャ』
タマが、声をかけると、なにやらビルのあちこちで猫の声が聞こえてきました。
なにやら妙な視線を感じます。
『早く来るのニャ。ぼくのマスターが会いたがってるニャ』
タマがせかすと、廊下の奥から大きな黒猫がゆっくりと歩いてきました。
かなり筋肉質で、左目に傷を負っているようです。
その後ろから、茶色の猫が2匹ついてきます。
『タマさん。そうせかさないでくれ。その人間は大丈夫なのか?』
黒猫が声を上げました。
どうやら、わたしが警戒されていたようです。
なので、一言あいさつをしてみます。
「あの、始めまして。ほのかといいます。折り入って聞きたいことがあるのですが……ここのボスさんでいいのですよね」
『こ、こいつは驚いた! おれたちと話せるのか!』
黒猫は、びっくりして目を見開きました。
驚くのも無理もありません。
普通は人間と話すことなどできるわけがないのですから。
『おれは、ここのボスをやっているダイというものだ。今は、タマさん率いる「月の旅団」の傘下になったのだが……』
「月の旅団?」
『ぼくらのチーム名なのニャ』
タマは、自信満々に言いました。
と、いうことは、タマたちがこの地域の実権を握ったということなのでしょうか。
それにしても、「月の旅団」とは……猫にしてはセンスのあるグループ名です。
「じゃあ、一つ聞きたいのだけど、この猫……どこに行ったかしらない?」
わたしは、ダイに写真を見せました。
『ああ、この猫だ。さっきもタマさんに聞かれたが、ギンっていうさすらい猫と一緒だったな』
「その猫たち、どこへ行ったかわからないかな」
『あっしにはちょっと……おいシャモ、ベン、何か知らねえか?』
ダイの後ろにちょこんと座っている茶色の猫が、答えます。
『たしか……西へ行くとか』
『海がどうとか……』
『ったく……使えねえなぁおまえらは』
『『す、すいませんボス!』』
茶色の猫たちは、必死で思い出していましたが、どうやらそれ以上のことはわからないようでした。
キーワードは、西と海。西の海を目指しているのでしょうか。
どうせ猫の事ですから、そんなに複雑な事ではないと思います。ですが、油断は禁物です。
「じゃあ、ゆっくりと西へ向かって探してみましょうか。タマたちは、引き続き捜索をお願い」
『わかったのニャ』
そのあとわたしは、ダイにお礼をいって立ち去ろうとしました。
するとダイは、わたしの足元に近づいて話しかけてきます。
『あの、タマのマスターさん。よければ、うちの仲間も手伝いますよ』
「本当? お願いしてもいいかな」
『ええ、どうせ暇してるんで。タマさんとこの餌……食べちまったし……その分は働かねえと……』
少し、負い目を感じていたようです。
ですが、猫にしてはとても良い心がけです。
その精神に免じて猫缶を少し分けてあげることにしました。
『こ、こんなにたくさん……いいんですかい』
「仲間と分けてね」
『ありがたく、いただいておきます。仲間も喜ぶっす』
こうしてわたしは、ビルを離れ、レンと一緒に猫探しに戻りました。
タマたちには引き続き、ダイたちと一緒に付近の捜索をしてもらうことにします。
西に向かって埠頭沿いの道を歩きます。
広い駐車場や倉庫があるだけで辺りは殺風景でした。
たまに釣りをしている人を見かけるので、彼らが捨てていった魚が餌になるぐらいでしょう。
倉庫の警備員が、こちらへ向かって歩いてきました。
ちょっと声をかけてみます。
「あの、すいません。猫を探してるんですけど、この猫、見ませんでした?」
「猫? ん~どれどれ」
警備員は立ち止まり、わたしの出した写真を眺めます。
「ああ、もしかすると最近見たかもしれないね。今は見かけないけど。たしかもう一匹、灰色の猫も一緒にいたよ」
「その猫、どこへ行ったかわかりますか?」
「そこまではちょっとね~。ごめんね~」
「いえ、ありがとうございました」
情報は正しかったようです。
一緒にいた灰色の猫というのが、おそらくギンで間違いありません。
銀と灰色は、似たような色なので、そこからギンと名付けられた可能性があります。
わたしたちは、西へゆっくりと進みました。
方向は合っています。あとはどこに潜伏しているかです。
倉庫の裏、建物の影、自動販売機の側、野良猫のいそうな場所を探します。
それにしてもやっかいです。サクラだけなら、そんなに行動範囲は広がらないはずだったのですが、野良猫と一緒に行動するとなると、行動範囲は広がります。
さすらい猫というぐらいですから、いろいろな場所を旅しているのでしょう。なので、余計厄介です。
ギンは、サクラを連れて駆け落ちでもしたのでしょうか。猫のくせに生意気です。
しばらく歩くと、ポートライナーの駅が見えてきました。
「もうこんな所まで……今日は無理かな」
もう、夕方です。暗くなる前には撤収したいと思います。
『夕日がきれいだぜい。こんなときは、たそがれていたい気分だぜい』
「たそがれるのもいいけど、そろそろ撤収しないとね。タマたちとも合流しなきゃ」
『ほほお、他にもたそがれてるやつらがいるぜい。熱く夢を語ってるぜい』
「他にも? そんな感傷にひたる猫もいたりするのね」
──猫? まさか……。
「レン。その猫はどこにいるの?」
『こっちだぜい』
レンは走り出しました。
わたしは、レンの後を追って、突堤へと向かいます。
それにしても、猫たちは耳が良いのでしょうか。トラのときもそうでした。(そのかわり鼻はそんなに利きませんが……)
突堤の角まで行くと、そこには白と銀色の猫が2匹ならんで座っていました。
白い猫には独特のピンクの鼻。写真のサクラと一致します。
──見つけました──家出猫です。
向かった先は、ほとんど人けのない廃墟のビルでした。俗に言う廃ビルです。
入口の割れたガラスに気をつけながら、中へと入ります。
中はちょっと臭いますが、まだ新しさを感じる建物です。
『ダイ、顔を見せるのニャ』
タマが、声をかけると、なにやらビルのあちこちで猫の声が聞こえてきました。
なにやら妙な視線を感じます。
『早く来るのニャ。ぼくのマスターが会いたがってるニャ』
タマがせかすと、廊下の奥から大きな黒猫がゆっくりと歩いてきました。
かなり筋肉質で、左目に傷を負っているようです。
その後ろから、茶色の猫が2匹ついてきます。
『タマさん。そうせかさないでくれ。その人間は大丈夫なのか?』
黒猫が声を上げました。
どうやら、わたしが警戒されていたようです。
なので、一言あいさつをしてみます。
「あの、始めまして。ほのかといいます。折り入って聞きたいことがあるのですが……ここのボスさんでいいのですよね」
『こ、こいつは驚いた! おれたちと話せるのか!』
黒猫は、びっくりして目を見開きました。
驚くのも無理もありません。
普通は人間と話すことなどできるわけがないのですから。
『おれは、ここのボスをやっているダイというものだ。今は、タマさん率いる「月の旅団」の傘下になったのだが……』
「月の旅団?」
『ぼくらのチーム名なのニャ』
タマは、自信満々に言いました。
と、いうことは、タマたちがこの地域の実権を握ったということなのでしょうか。
それにしても、「月の旅団」とは……猫にしてはセンスのあるグループ名です。
「じゃあ、一つ聞きたいのだけど、この猫……どこに行ったかしらない?」
わたしは、ダイに写真を見せました。
『ああ、この猫だ。さっきもタマさんに聞かれたが、ギンっていうさすらい猫と一緒だったな』
「その猫たち、どこへ行ったかわからないかな」
『あっしにはちょっと……おいシャモ、ベン、何か知らねえか?』
ダイの後ろにちょこんと座っている茶色の猫が、答えます。
『たしか……西へ行くとか』
『海がどうとか……』
『ったく……使えねえなぁおまえらは』
『『す、すいませんボス!』』
茶色の猫たちは、必死で思い出していましたが、どうやらそれ以上のことはわからないようでした。
キーワードは、西と海。西の海を目指しているのでしょうか。
どうせ猫の事ですから、そんなに複雑な事ではないと思います。ですが、油断は禁物です。
「じゃあ、ゆっくりと西へ向かって探してみましょうか。タマたちは、引き続き捜索をお願い」
『わかったのニャ』
そのあとわたしは、ダイにお礼をいって立ち去ろうとしました。
するとダイは、わたしの足元に近づいて話しかけてきます。
『あの、タマのマスターさん。よければ、うちの仲間も手伝いますよ』
「本当? お願いしてもいいかな」
『ええ、どうせ暇してるんで。タマさんとこの餌……食べちまったし……その分は働かねえと……』
少し、負い目を感じていたようです。
ですが、猫にしてはとても良い心がけです。
その精神に免じて猫缶を少し分けてあげることにしました。
『こ、こんなにたくさん……いいんですかい』
「仲間と分けてね」
『ありがたく、いただいておきます。仲間も喜ぶっす』
こうしてわたしは、ビルを離れ、レンと一緒に猫探しに戻りました。
タマたちには引き続き、ダイたちと一緒に付近の捜索をしてもらうことにします。
西に向かって埠頭沿いの道を歩きます。
広い駐車場や倉庫があるだけで辺りは殺風景でした。
たまに釣りをしている人を見かけるので、彼らが捨てていった魚が餌になるぐらいでしょう。
倉庫の警備員が、こちらへ向かって歩いてきました。
ちょっと声をかけてみます。
「あの、すいません。猫を探してるんですけど、この猫、見ませんでした?」
「猫? ん~どれどれ」
警備員は立ち止まり、わたしの出した写真を眺めます。
「ああ、もしかすると最近見たかもしれないね。今は見かけないけど。たしかもう一匹、灰色の猫も一緒にいたよ」
「その猫、どこへ行ったかわかりますか?」
「そこまではちょっとね~。ごめんね~」
「いえ、ありがとうございました」
情報は正しかったようです。
一緒にいた灰色の猫というのが、おそらくギンで間違いありません。
銀と灰色は、似たような色なので、そこからギンと名付けられた可能性があります。
わたしたちは、西へゆっくりと進みました。
方向は合っています。あとはどこに潜伏しているかです。
倉庫の裏、建物の影、自動販売機の側、野良猫のいそうな場所を探します。
それにしてもやっかいです。サクラだけなら、そんなに行動範囲は広がらないはずだったのですが、野良猫と一緒に行動するとなると、行動範囲は広がります。
さすらい猫というぐらいですから、いろいろな場所を旅しているのでしょう。なので、余計厄介です。
ギンは、サクラを連れて駆け落ちでもしたのでしょうか。猫のくせに生意気です。
しばらく歩くと、ポートライナーの駅が見えてきました。
「もうこんな所まで……今日は無理かな」
もう、夕方です。暗くなる前には撤収したいと思います。
『夕日がきれいだぜい。こんなときは、たそがれていたい気分だぜい』
「たそがれるのもいいけど、そろそろ撤収しないとね。タマたちとも合流しなきゃ」
『ほほお、他にもたそがれてるやつらがいるぜい。熱く夢を語ってるぜい』
「他にも? そんな感傷にひたる猫もいたりするのね」
──猫? まさか……。
「レン。その猫はどこにいるの?」
『こっちだぜい』
レンは走り出しました。
わたしは、レンの後を追って、突堤へと向かいます。
それにしても、猫たちは耳が良いのでしょうか。トラのときもそうでした。(そのかわり鼻はそんなに利きませんが……)
突堤の角まで行くと、そこには白と銀色の猫が2匹ならんで座っていました。
白い猫には独特のピンクの鼻。写真のサクラと一致します。
──見つけました──家出猫です。
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